魔法と魔力と柔らかな指先
遅くなって申し訳ありません、ようやく連載再開です。生温く読んで下さいね(;´д`)
「せめて人らしく歩ける物から揃えようか。靴も無いのでは辛いだろう」
「そうだね、草の上を歩いている分には良いけど…」
森の出口へ歩きながら話す僕とライム。やっぱり靴は欲しいなぁ…。
僕らは近場にある町、フリントへ向かうことにした。ライムの話ではそれほど大きな町ではないが、必要な物は揃えられるらしい。まだ明るいうちはいいけど、夜になるとさすがに寒いだろうし。
時期的にはまだ春頃のようで、アルツブルグ地方には四季があり、日本のような気候だという。
ふと木々を見てみればリスのような小動物がコッソリこっちを覗き見ていたり、鳥が毛繕いしたりと異世界ながら生態系も大きく違いがあるわけではないようだ。
「なぁ、ライム」
「なんだ?」
少し前を歩く銀髪の少女が振り返る。ポニーテールがふわりと広がり、光を含み輝く。
「こっちの世界には魔法は存在するの?」
目覚めてから聞いてみたかったこと。きっとファンタジーの異世界なら存在するであろう魔法や魔術。ラノベやお伽噺でしか耳にすることのないものだ。
もちろん、元世界では実在なんてしないし手品やまやかしの域を出ないだろう。怪しげな宗教の怪しげな儀式、実践出来たのかどうかもわからない大昔の魔術。小学校の低学年くらいまではあったら楽しいだろうなぁ、とは思ったけれど。
「無論だ。私はそれほど詳しくはないが、多種多様な魔法がある。大きなものなら天変地異を引き起こし、小さなものなら火種を付けたりと多彩だな」
やっぱり!ちょっとwktkしてる自分が恥ずかしいけど、ファンタジー好きならここは譲れない。むしろ無いとダメ。
「僕でも魔法って使えるのかな?」
最重要事項です。これで使えないなんてなったらショック死し…ないけどテンションだだ下がりだ。
「うん?恐らく使えるのではないか?目覚めた時や私を脅した時には凄まじい魔力を発していたからな」
「やったね!」
思わずガッツポーズしてしまったが、楽しみが増えた。帰るための手段にもなりかねないから必須だよなぁ。
「ただし、必ずしも使えるとは限らん。努力や修練もさることながら、これは種族や素質に大きく左右される。人間であれば簡単な魔法が使えるのは約7割、より複雑な中級以上の魔法であればその中で5割、更に上級ともなればその中で1割にも満たんだろう」
えっと…70%の半分の10%以下…大体100人いたら上級を使えるのは3人以下ってことか…。
「なかなかシビアなんだね…」
「そうだな。魔族でも上級が使えるのは約2割くらいか。あぁ、妖精族やエルフであれば3割はいるな。やつらは誰でも魔法が使える。逆にドワーフは魔法を使える者自体が少ない。バルタンはほぼ皆無だ」
人指し指を立ててレクチャーしてくれるライム。不足気味の胸を張っているが…いやいや、大事なのはそこじゃない。
やはり才能のある者は少ないんだね…ただ、比較的簡単な魔法は一般人でも習得できるらしく、使用する回数はその人の魔力量による、と。元世界のRPGと大差ないかな?込める魔力量によって効果が変わるっていうのが大きな違いだ。
「マサキ、貴様の膨大な魔力量は〈不死の王〉の肉体を持って転生したおかげだろう。また、基本は詠唱が必要だ。大規模な魔法なら魔法陣を使わねばならん。ある程度は省略化することも可能だが、かなりの修練が必要だ」
「ライムはどこまで使えるの?」
「良い機会だ。森の出口も近いことだし使えそうな魔法を教えてやろう」
ちょっぴり得意気に僕を見るライム。ドヤ顔も可愛いです、ハイ。
「魔法を発現させるにはイメージが第一だ。どんな現象を起こしたいのか、ということだな。次に詠唱だが、これはイメージを口に出し、より具体的にするための補助手段だ。それに必要な魔力を込めて発現させる。簡単に言えばこんな感じだ」
イメージ、詠唱、魔力充填、発現か…魔力充填ってどうやるんだ…?
「では指先に火種を出して見せよう。初歩の初歩だな。素質があれば子供でもできるぞ」
そう言って右の人指し指を立てて目を閉じる。
「込める魔力は僅かでいい。指先から少し離れた位置に火種をイメージするんだ」
彼女と同じように人指し指を立てて目を閉じる。自分の指をライターに見立てればいいかな。
「そして詠唱、私の場合は『サラマンダーの舌 原初の灯火 我が指先に暫し現さん』といった具合に『何を どのくらい どこに 必要な時間』発現させたいのかイメージに沿って口に出す」
「ふむふむ…言葉は決まっていないの?」
「あくまで使用者のイメージだからな。特に決まりはないぞ。イメージと魔力充填さえ間違えなければ必ず発現する」
結構フリーダムなんだ… 出来そうな気がしてきた。
「魔力充填だが、体の中の魔力を水に見立てて必要な魔力を発現させたい場所や部位に流し込むようにすると良いだろう」
「体内の魔力…むむむ…」
「まず見せてやる。こんな感じだ」
再び目を閉じ、集中し始めるライム。
「『サラマンダーの舌 原初の力 我が指先に暫し現さん』《火種》」
ライムの詠唱の終わった瞬間に指先にライターで付けたような火が灯る。
「おぉ…!」
「イメージがしっかりしていれば手を振っても火が離れたり消えたりはしない」
ブンブンと手を振るが揺れるだけで火は消えない。魔力が酸素と可燃物を兼ねているんだろうか ?
手を近付けると熱いが、術者には影響は皆無だという。30秒程で火は消えた。
「では早速実践だ。イメージも詠唱も自分なりで構わないが、私を真似てみるがいい」
「う、うん…」
人指し指を立てて目を閉じ、頭の中で人指し指をライターに見立て、火を付ける。
「『サラマンダーの舌 原初の灯火 我が指先に暫し現さん』《火種》」
詠唱しながら体の中の魔力を指先に集めようとする。が、うまくいかない。というか魔力なんてわかんないよ…?
「魔力が全く込められていないな。僅かな魔力量とはいえこれだけ近ければ感知できるはずなんだが…まだ難しかったか?」
残念そうな表情で俺を見上げるライム。なんだか申し訳ない気持ちで一杯だ…。
「どうにも魔力っていうのがわかりにくくて」
「ふむ、もう一度やって見せよう。私の魔力を感じることができれば少しは手助けになるだろう。別に今すぐ出来なければならないわけではないからな、気楽にするといい」
そう言って彼女は僕に背中を預けてくる。うわぁ…なんだか良い匂いがする…女の子ってどこの世界でも一緒なんだな…。
「…変な事を考えていたなら丸焼きにするぞ…?」
「よろしくお願いいたします(キリッ」
バレてた!
「詠唱は省略するから魔力がどんなものか感じることだけに集中しろ。私の右肩に手を添えると良いだろう」
頷きながら手を添える。剥き出しの肩は細いながら柔らかく、体温が伝わる。僕のドギマギが伝わらなきゃ良いけど…。
「《火種》」
ライムが魔法を発現した瞬間に見えた、というか見えた気がした。彼女の体の中心から僅かだが風のようなものが吹き出し、右の人指し指へと向かっていった。
「…これが…魔力…」
「そうだ。感じ方には個人差があるがな。ではリトライだ」
再び右手を伸ばし、イメージする。すると彼女は僕の右手に手を添えた。
「私が魔力の誘導をしてみよう」
細く柔らかい指の感触にドキドキしながらも魔法に集中する。
イメージはライターじゃなくマッチの先に付いた火だ。
「『サラマンダーの舌 原初の灯火 我が指先に暫し現さん』《火種》」
詠唱を終えた瞬間、引っ張られるようにして体の中心から何かが指先へ走っていった。
直後、僕の指先に小さな火が灯る。ゆらゆらと頼りない火…これが魔法なんだ。
「…できた…!」
「できた、できたぞマサキ!」
嬉しそうに僕を見上げるライム。僕の右手を握りながらピョンピョン跳び跳ねている。その笑顔は事故の直前に間宮さんが見せたそれと一緒だった。
「これが出来ればあとは応用だ。なぁに、体は〈不死の王〉だからな、すぐに色々な魔法が使えるように…どうしたマサキ…?」
嬉しいのに…なんだろう、この感覚…ライムの笑顔の向こうに間宮さんが見えたからか…。胸が…痛い…。
「…」
「マサキ…?」
僕はライムの前で跪き、彼女の腰に抱きついていた…。
「…ごめん、少しだけ…こうしていていいかな…」
「…ああ、構わんぞ。」
ライムの返事を合図に止めどなく涙がれ出す。
久々に泣いた。声も出さずに。
ライムは、黙ったまま…恐らく間宮さんと同じ柔らかい指先で、僕の頭を撫でてくれていた。