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吸血鬼は如何なる夢をみるのか  作者: しゅうぉん
第1章 事故と転生と
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目覚めと少女と

「…ここ、どこ?」


 ようやく回復した目に飛び込んできたのは、見覚えのない部屋だった。ゆっくりと部屋を見渡す。

 窓のない四方の壁には松明が掲げられ、室内をぼんやりと照らしている。正面には重厚な両開きの扉。その手前には少女と思しき人が倒れている。

 白い布が敷かれた箱の縁に手をかけて立ち上がる。

 身体は特に違和感もなく、怪我をしている様子もない。手を動かしてみるが、問題はないようだ。

 足元には長さ30cm、太さ5cmほどの銀色の杭のようなものが転がっている。


(ここは…病院じゃない…?)


 ふと自分の身体を見る。足元まである髪の毛は身体覆うように伸びている。また、目線の高さが違うことに気付く。さらには自分が衣服を着ていないことにも。


「おぉ!?素っ裸じゃん!」


 思わずしゃがみこみ両手で自分の肩を抱く。

 視線を上げると目の前に少女が倒れている。イケナイ事でもやっていたのかと自問するが、そんな記憶もなく、ただ座り込むだけだ。


「確か…間宮さんと一緒に帰ることになって、ダンプに轢かれて…そんで真っ暗になって…」


 呟きながら記憶を整理する。まだちょっと混乱しているようだけど、自我は保てているし、おかしくなったような感じもない。服を着てない事を除けば比較的まともな状態だ。


(間宮さん、大丈夫かなぁ…あの状況なら多分ぶつかってはいないはず…)


 あれこれ考えているうちに少しは冷静になってきた。振り返り、箱の中から布を取り出す。


「破いても怒られない…よな?」


 布を半分に破り腰に巻く。上半身には残り袈裟懸けにし、右脇でしっかり結ぶ。さらに腰巻きの裾から細く長く破りとり、髪を後ろでまとめる。


「そして…この人は一体…?」


 ゆっくりと少女に近づく。1mほど距離を取って立ち止まり、観察してみる。

 服装は見たこともないような格好だ。手足には金属製の防具ような物を装着している。体つきは華奢、手荒に扱えば折れてしまいそうだ。

 腰まであろうかという髪は銀色で松明の明かりを反射している。肌は白く、透き通るようだ。そして、その横顔には見覚えがあった。

 一緒に事故に巻き込まれた少女、後輩の間宮琴子とそっくりなのだ。


「何の冗談だよ…」


 自分が思うより早く零れる言葉。まるでドッキリのようなたちの悪い冗談に思えてならない。


(でも、あの事故が夢とかだなんて思えないし…)


 衝突の瞬間を思いだし、身震いする。あの生々しい感覚が夢だったとは考えにくい。確かに自分はダンプに轢かれたのだ。そして死んだはずなのだ。あの状況と状態で助かったならばそれこそ奇跡だ。

 事故の瞬間から今の状況は繋がらない。繋ぎようがない。だが、自分は生きてここにいる。左胸に手を当てれば心臓は動いているのがわかる。

 夢ではないと確信している自分が不思議でならない。


「この子は何か知っているのかな…」


 一瞬、起こそうかと思ったが、それはせず自然に起きるのを待つことにした。胸が上下してるあたりから察して気絶してるだけだろう。

 その彼女の前に小さな手鏡が落ちていることに気付く。質素で飾り気のない手鏡。そっと拾い上げ、何気なく自分の顔を映す。


「誰だよこれ…」


 確かに自分に鏡を向けている。だがそこに映るのは自分の認識している緒川真樹ではなく、年の頃にして20歳前後の非常に整った顔立ちの別人だ。

 瞳は血のように紅く、若干タレ気味の目元と相まってどちらかと言えば女性に近い顔だ。


「僕は…男だよ…なぁ…」


 世の中には両性具有なんて存在もいる、とはどこかのウェブサイトでみ見た記憶はあるが、一瞬その可能性を脳内に巡らせた自分が恥ずかしくなった。然り気無く布越しに触って確認してみるが、何の変哲もない男の身体だ。顔立ちが女性に近いだけ。


「…ん…」


 少女が身動ぎする。とっさに鏡を置いて立ち上がり後退る。まだ焦点があってないのか、顔を起こした少女はぼんやりと僕を見ている。

 間宮さんに瓜二つだと改めて思う。銀髪と紫の瞳以外は写真を撮したようにそのままだからだ。


「や、やぁ」


 思いきって声をかける。

 やがて彼女の表情はひきつり、尻餅をついた姿勢で扉に背中を預ける。口をパクパクさせて紫の瞳を見開いている。

 何もしてないのに、とは思うものの、目覚める前の記憶がない以上取り繕いようがない。思わず右手で顔を覆う。


「〈不死の王〉…!」


 声までも間宮さんと同じ。生き写しというのがぴったりだ。

 そしてその単語には聞き覚えがある。確かゲームの中ボスくらいで、ヴァンパイアとかの親玉だったはずだ。


「えーっと…」


 右手で頬をかきながら言葉を探していると、少女がさらに続ける。


「…わ、私が封印を解いてしまったようだな…さぁ、殺すなり隷属させるなり好きにするがいい!」


 毅然とこちらを睨むが、足は生まれたての小鹿よろしく、ガクガクと震え、顔色は真っ青である。


「隷属?殺す?」


 物騒な物言いに疑問符が再び頭の上に浮かぶのを想像しながら少女を見て話しかける。


「…なぁ、ここは何処なんだい?そして君は一体?」


「な、何を言っている!?貴様は〈不死の王〉だろう!もう殺せ!生かしておく意味もないだろう!」


 答えになっていうえに殺せという少女。なんなんだよ…と考えた瞬間にふと思い出す。ラノベで異世界に転生するという内容の作品があったことを。

 確かにその手のラノベも読んだことはある。確か世を儚んで自殺した主人公が異世界に転生、勇者として生きていくという荒唐無稽なファンタジー作品だ。

 まさか僕が…?そう考えもないこともないが、現状からはそう判断できる情報もない。情報源といえば…目の前で怯えながら喚く少女だけだ。


(うーん、ちょっと可哀想だけど、この状況を利用させてもらうか。どのみちまともに取り合ってくれそうにもないし)


「…くくっ、殺すなどいつでもできる。だが我も目覚めたばかり。身体も思うようにならぬ。記憶も所々抜けておるでな」


 出来るだけ威圧するように言葉を選びつつ答える余裕を持たせる。また気絶されては意味がない。


「そこで、だ。貴様が何者かは知らぬが…取引といこうではないか」


「取引だと…?」


 怯えながらも立ち上がり、いつの間にか拾った小剣を構える少女。


「そう、取引だ。我は貴様に質問をし、それに答える。さすれば生かして帰してやろう。交渉の余地はないがな。応じなければ…その素っ首をはねるだけのこと」


 スッと右手を彼女に向ける。少女は身体を強張らせながら考え込む。

 怖がらせていることに若干の罪悪感を感じながら続ける。


「返答や如何に」


「…いいだろう〈不死の王〉、取引に応じよう」


 良かった、応じてくれなければどうしようかと思っていたとこだ。

 箱に腰かけて彼女を見る。


「嘘は通じぬ。心して答えよ」


 無論、そんなことはない。少しでも確実な情報がほしいだけなのだ。


「まずはここがどこで、貴様は何者か、だ。」


「…ここは貴様の屋敷跡の地下、私は…ここを調査のため訪れた者だ」


「名乗るがよい」


「…ライプニッツ・アルテム、魔王直轄七軍の長、魔族だ」


 見た目は間宮さんだけど、やっぱり違うんだな。

 魔王直轄?魔族?嘘や冗談ではないみたいだし、ここは異世界なのか。僕の妄想じゃぁ…ないよな。


「ではライプニッツ・アルテム、魔王は何を望んでいる」


「…世の覇権を。現魔王は手始めにこのアルツブルグ地方への侵攻を考えている。」


 普通にRPGの魔王してるんだな。ん?現魔王は?世襲制なのか?


「…我が封印されてからどのくらいたつ?封印したのは何者だ」


「約5年だ。封印したのはおそらく人間だろう。復活するとは思わなかったが」


「なるほどな…」


 とりあえず分かったのは、今の僕は封印から復活した〈不死の王〉だということ、魔王がこの地域、アルツブルグを制圧下に置こうとしていること、彼女はライプニッツ・アルテムという魔王直轄の魔族だということ、くらいか。聞いたこともない地名や固有名詞からすると、本格的に異世界らしい。

 何故僕がここにいるのかとは聞けないな。彼女にもわからないだろう。外に出て情報を集めたほうがいいだろうか。


「ふむ、そうか」


 まだ彼女は怯えたままだ。怖がる間宮さんも可愛いもんだ。…間宮さんじゃないけど。


「さぁ、問いには答えたぞ!解放してくれるのだろうな!」


 そうだ、約束通り帰らせてあげなきゃいけない。

 でも強気な間宮さん…もといライプニッツも可愛いなぁ。ちょっとからかってみようかな。


「はて、そんな約束した覚えはないが。約定を記した書面でもあるのか?」


「なっ!?」


 言うなり立ち上がり、彼女に向き直る。ライプニッツはさらに身体を強張らせ、驚愕と恐怖をその綺麗な顔に浮かべている。


「ひ、卑怯者!!」


「何とでも言うがいい!我は〈不死の王〉!何者にも縛られぬ!」


 そう言って手を広げ、ゆっくりと彼女に向かって歩み寄る。下がれない彼女は扉に張り付くように僕から離れようとする。


「死にたいか?楽には死ねぬよ…我の前に立ったが最後だ」


「ひっ…!」


 自分でとてつもなく悪い顔をしているのを自覚しながら歩く。あと二歩。

 ライプニッツは恐怖でひきつり、膝は今にも崩れ落ちそうなほどだ。


「さぁ、その生き血を我に捧げよ!長年の乾き、今こそ満たさん!」


 思いっきり飛びかかる素振りを見せる。


「―――――!」


 こんなものかな?と思い寸前で動きを止める。

 次の瞬間。

 ペタン、と呆けた顔で彼女は座り込んでしまった。やり過ぎたかな…?

 やがて彼女の両目に大粒の涙が浮かぶ。あっという間にポロポロと流れ落ち、顔はクシャクシャになる。

 やべー!やり過ぎた!


「…う…うわあぁあぁぁぁぁ…ああぁあぁぁぁ…」


「あ、あの…」


 脅かすどころか思いっきり泣かせてしまった…オロオロしながら彼女を見ると、座り込んだ辺りが少し濡れている…。


 …ダメだ…思いっきりやらかした…。






連休が終り、仕事も始まることから更新ペースは格段に落ちます…。

( ノД`)…


のんびり読んでいただけたら幸いです。

お気に入り登録してくれた方、読んでくれている方、ありがとうございます。

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