倦怠感
リン視点
ーーー私の身体は殿下に抱かれて以来、
おかしくなりはじめたーー
そう、思ったのは、つい最近のことだった。
最初に抱かれたのは、ずいぶん前である。
抱かれた後というのは、腰が重く、動けないことを意味する。
そして、快楽に反応し始める・・快楽におぼれるようになった
という変化も、そうだといえるだろう。
だが、そういう、一時一時の身体の変化と気分というものではなかった。
あえていうなら、それがずっと続いて、だんだんと削がれていく感覚だろうか。
ひとつ思い当たるのは、未来を視る事。
それを、抱かれてなおもやり続けていること。
これが、大きなことだった。
彼が私を婚約者にした理由は、未来を見る力。
だから、私は彼に与えられている価値の義務を、果たさなければならない。
ーー未来を、見つめ続け、伝えること。
しかし、そろそろ限界なのだろうな・・と、自分でも感づき始めた。
「リンさま、お食事の時間です」
「はぃ・・」
侍女に用意されるはいいが、まったく食べる気が起きない。
食欲がないのだ。
「・・めしあがらないのですか?」
「・・すみま、せん。
きょうは、・・いい、です」
侍女の方に、頭を下げながらそう申し出る。
「わかりました。
顔色が悪いようですし、お休みになっていてくださいね」
身体は未来というまだ起こりもしてないそれを見て
大きな負担がかかっていた。
それが、抱かれて、純潔を奪われて、
無限に近かったその超能力が、枯渇してきている。
限りあるものになっている・・いや、
身体にかかる負担が増えているのに、
見える内容は薄く、時間もごくわずかに減っている。
「はぃ・・」
聞こえないのではないかというくらい小さい声で返事をした後、
私は、椅子から立ち上がった。
くらっ・・
「--っ」
そのときにも軽くめまいが起きる。
慌てて、椅子のふちを握って、めまいをやり過ごす。
やはり、・・身体はもう限界なのだ。
今日もまた、彼が来るだろう。
そのときもおそらく、未来を予知し、抱かれるだろう。
きっと、それが私の最後だ。
そんな気がした。
未来を予知し、余韻を感じる暇もなく抱かれる日々を過ごしていたから
きっと、身体のだるさや不調なのことに気づけなかったのだと、思う。
カチャカチャ
と、食器の重ねる音がして、侍女がそれらを片付けていく。
すべておぼんにそれらを乗せ、
でていったあとだった・・
「で、殿下!?
今、リンさまは・・不調で・・」
侍女が意表をつかれたように上げる声と、
ガチャリッ
「・・?」
怪訝な眼差しを侍女に向けたまま、
入ってくる殿下。
私はハッとして、椅子から離れ、頭を下げる。
「今日も、ですか?」
「?
あ、あぁ。頼む。」
そう、頷かれ、私は意を決して、椅子に座りなおし、
目を閉じた。
殿下は私と距離を少し開け、たたずんでいる。
「--!」
ふわっと、髪が舞い上がり、力を解放した。
カッっと、目を見開き、映像をみた。
そして・・こえがきこえる。
それはーーー
【ーーおい、みつけたぞ!
これならすぐにもっていける。多少は騒がれるが】
宝珠を厳重に警備していた兵士が倒れているところに
いうのは、二人の黒い影。
かすれながらも、その風景が見えた。
【あぁ、騒がれるぐらいならいい。
それよりも、これとついになるあの巫女はどうだろうか?】
その言葉が直接私に響いた。
一瞬、私が攫われる光景と、鎖でつながれた私が目に映った。
ズキンッ!!
頭を割らんばかりの激しい痛みが襲った。
一瞬、頭が何も考えられず、真っ暗になる。
「ぅ”ぅう!!”」
グラッ
一瞬、映像が揺らぎ、
座っている椅子から崩れ落ちそうになった。
ぐる・・っ”
視界が歪み、身体から力が抜ける。
「リン・・!!」
倒れこんだ私を、腕で抱きとめて、床に下ろしたのは殿下、・・だった。
「ぅ”・・で、でん、・か・・っ”」
これだけは・・いわなきゃ・・”
かすれていく意識の中、
未来の映像が、こま回しのようにつながれていく。
それは、敵が宝珠を盗みまでの経緯。
ーーーー
【ーー敵の首を狙え】
【おぉ!・・--】
ガッ、ガッ・・ガッ!
瞬きすらも終らないまま敵は、
兵士たちの首を一瞬にして打撃し、気絶させて、
厳重な罠や仕掛けを走り抜けていく。
【ーーやっぱ、多いな】
【そりゃあそうだろう、
なんたって、巫女が傍にいるんだからなーー】
-------ー
「リン!?おい、リン! リンッ!!
おいっ!大丈夫か!!」
一瞬、映像が途切れ、揺さぶられた。
顔を上に向かされ、懸命に呼びかける殿下。
「で、・んか”・・っ”ーーカハッ”」
うっと、のどまで何かが押し寄せた。
たまらず、それを吐き出す。
ピシャッ・・”
自分の手が真っ赤に染まる。
それは・・血だった。
ゥヴァアアアンッンッ””
黒いオーラのようなものが私から出てくる。
「リン!?お前ッ・・!!」
「でん・・か・・ぅっ”
ほう、じゅ、が・・”」
必死に、鉄の味がする口から伝えようとした。
黒いそれは私を蝕もうと、包もうと、ぐぐっと圧迫してきた。
それは、私を焦られせる。
はやく、・・・は、やく・・っ””
「ぅばっーーわれ・・”・・ゲホッ、ゴホッ”!」
ぐらぐらと、視界もゆがみ、身体は倦怠感どころではなく、
そこにしっかりいるのかも分からないくらい、
ぐるぐると回っている感覚がした。
「リン・・!!
もう・・いい!もう、やめろ!!」
「・・?げほ・・ごほっ」
吐いて少しはましになったのか意識がぼんやりとしていく。
かすれた意識の中、そしてゆがんだ視野の中、
突然、悲鳴のように私にやめろと叫ぶ彼が・・目の前にいた・・
黒い霧が彼を他へ追いやろうとしていたが、
彼は私を、はな、さない・・
「頼むから・・!リン!!」
でも・・、宝珠が・・たいへんなこと、に・・
「で・・んか”--っ””
で、も”ほう、じゅが・・・っっぅ”」
「リンーー!!」
私が言葉を出せば出すほど、
身体は黒いそれに蝕まれていくように、
黒に染まっていく。
意識が・・真っ暗闇に突き落とされる感覚さえ、・・したーーっ
ガンッ
「--ぅう”!!」
と、頭の中で起きた痛みに、映像はその衝撃によって
殿下が何するまもなく、
暗闇に、私の意識は落された。
しばらく投稿していなかったので、
長いです。
ーーついに!ついに!リンが、倒れたーー!