第2話その4
夢と現実の狭間で苦しみ、呻く二葉を、優三は寝ずに看病した。
暴れる二葉を抱きしめて、なだめ、押さえつけ、涙をぬぐってやった。
この先も、二葉は様々な悪夢を見続ける。親友を人質にとられている限り、逃れられない運命に翻弄されるのだ。
(もしかしたら、この子はこのまま精神を患っていたほうが幸せなのではないか?)
潤一は二葉を殺せと言うだろうが、基がそれを受け入れるとは思えない。基なら、潤一や美鈴の目を盗んで二葉を生かしておくことぐらい出来そうな気がする。二葉はこのまま、自分に課せられた使命も、親友のこともすべて忘れて、夢の中で一生を終えたほうがいいのではないだろうか。
と、そのとき突然、ドアをノックする音がした。
扉が開き、基が現れた。
「優三。・・・二葉は、どうだ。」
二人は、互いに敬語を使わない。
「今、疲れきって眠ってる。きっと今もまた、悪い夢を見ているのよ。」
濡れた頬を、優三の膝の上に預けて眠る二葉の脇に、基は腰をおろした。
「優三、寝ていないんだろう?少し、代わろうか。」
「いいえ、大丈夫。・・所長こそ、寝てないでしょう?目が真っ赤よ。」
「ああ、でも・・・。」
基は、潤一の出した条件を優三に告げるべきではないと思っていた。優三がそれを知っても苦しむだけで、何も解決はしない。
「所長、私・・・このまま二葉が正常に戻らないほうがいい気がするの。」
「え?」
「正常に戻って、また、実験台を探す役目に従事するのでしょう?そのためだけに、生きるのでしょう?そんなの、酷よ。私みたいに一生を道具として生きていかねばならない二葉を、見たくない。」
「だが、二葉は楽にはならない。精神の異常は、本人が一番苦しいんだ。傍から見れば何もわけがわかってない様に見えるかもしれないが、本人はすべてわかっていて、悲しくて苦しいんだ。この子の運命は、この先、変えられるかもしれない。だが、今このまま心を放っておけば、手遅れになる。優三、頼む。このままのほうが幸せだなんて、言わないでくれ。」
「人間として生きられないのに?発信機と盗聴器に一生監視されて、自分自身の人生を歩むことが許されないのに?」
基は、深いため息をついた。
「優三。オーナーは3日間という期限をつけている。あと24時間しかないんだ。」
「・・・そんなの無理よ。」
「良くなっているのは明らかだ。優三の力を、もう少し貸してくれ。」
「駄目だったら、どうするの?」
「わからない。・・・それは、24時間後になってみなければ。」
「いっそ、すべて忘れてしまえばいいのかもしれない。過去も、現在も、すべて。」
「・・・。」
それは、優三にとってみれば何気ない一言だった。
しかし基には、重要な一言になった。