気がつくと、僕は女子トイレにいた。
初投稿の小説が、こんなアホな内容ですみません(汗)。
下品さは極力抑えてるので、下ネタ嫌いな方もぜひ。
よろしくお願いします。
気がつくと、僕は女子トイレにいた。
そこが女子トイレだと判ったのは、男子トイレで用を足すアレが無かったからだ。
洋式の便座に座って寝ていた僕は、ガラス窓から指す日差しで目覚めた。そして個室のドアを開けると、そこにはあるはずのアレが無かったのだ。
……って、えええええええ!!
なんで? なんで僕が女子トイレに?!
念のため言っとくと、僕は痴漢じゃない。気がついたらここにいたんだ。
そもそも記憶が残ってるのは、どっから?
腕時計によれば、今は土曜の朝七時。休日の朝早くから、わざわざ公衆トイレを使いに行くとは考えにくい。ということは、僕は一晩このトイレで過ごしたのか?
じゃあ、そもそも昨晩は何してた?
確か、バーで飲んでた気がする。昼間は体調不良で寝込んでたんだけど、午後になって回復してきたんだ。で、ヒマを持て余したから飲みに行くかと思ったら、よりにもよってその日は金曜日。明日が休みだと思えば、そりゃあ飲みに飲んで酔いも回る。一人で飲んでたから、酔い潰れた僕を家まで送ってくれる人はいなかった、はず。
つまり、こういうことだ。昨日僕は、酔い潰れたまま一人で町を歩いてしまった。酒をたらふく飲んだ後は、トイレに行きたくなるのは当然だろう。酔いで前後不覚になっていた僕は、男子か女子かも確認する余裕もないまま、トイレに入って用を足した。そしてそのまま、朝まで眠ってしまった……と、いうわけだ。
我ながら、名推理。ツッコミ所なんか全然ない、完璧な推理。真実はいつも一つ! などと某少年探偵のような名セリフを決めたくなってしまう。
……だからって、何? 何の解決にもなってない! 真実がどうあれ、こんなの見つかったら痴漢扱だろ! 理由なんて誰がマトモに聞くんだよ!?
こうしちゃいられない。誰かに見つからないように脱出しないと。周りに誰かの気配はしないか?
……やけに静かだ。いや、誰かの声が聞こえた。このカン高い声は……子ども?
窓から外をそっと覗くと、五メートルぐらい先に、五歳ぐらいの女の子がいた。女の子はブランコに乗って、自分の母親らしき女性に話しかけていた。
どうやら、ここは公園のトイレらしい。遊んでる親子が少ないのは、ほとんどの親は寝てる土曜朝七時だからだろう。
唯一いる親子は遊ぶのに夢中になってる。そもそもこの距離じゃ、僕がトイレから出たところで気づかないだろう。
……よし! 今がチャンスだ!
僕はダッシュで女子トイレから出ようとした。
◆
気がつくと、私は男子トイレにいた。
そこが男子トイレだと判ったのは、女子トイレには無いアレがあったから。
洋式の便座に座って寝ていた私は、ガラス窓から指す日差しで目覚めた。そして個室のドアを開けると、そこにはありえないアレがあったんだ。
……って、ありえないのは私の方でしょ!!
なんで? なんで私が男子トイレに?!
念のため言っとくと、私に変な趣味はない。っていうか見たくもない、男がトイレしてるところなんて。
……男って人前でトイレするんだ。アレが個室の外にあるってことは、そういうことだよね。だったら、ここから脱出しようとドア開けた瞬間、してる最中の男性と鉢合わせ、男の人のアレをモロに見て……ヤバイヤバイ、そんな状況絶対イヤだ! 慎重に脱出しないと!
逆だったら、こんな心配もないのかなあ。私が男で、女子トイレにいたら、いくら何でもトイレしてるところに出くわすことはないし。
……いや、そっちの方が危険か。ダイレクトなショックはなくても、あっちは犯罪者扱いされるからねー。
っていうか、そんな人いるの? 男で女子トイレに入っちゃうような人。まあ、女で男子トイレに入ってる私がいるんだから、十分ありえるけど。
まさか、今、あっちの女子トイレにいるってことはないよね……?
とにかく、誰かに見つからないように脱出しないと。周りに誰かの気配はない?
……やけに静かね。いや、誰かの声が聞こえた。このカン高い声は……子ども?
窓から外をそっと覗くと、五メートルぐらい先に、五歳ぐらいの女の子がいた。女の子はブランコに乗って、自分の母親らしき女性に話しかけていた。
……そんなのどかな光景をゆっくり見ている暇も、私には与えられなかった。
生理的であるがゆえに切実な欲望が、私の全身を駆け巡る。
トイレ。トイレに行きたい。
いや、今トイレにいる。けど、さすがに男子トイレでしたくない! 不潔だし、プライドの問題もあるし、すぐ傍に女子トイレがあるんだから、さっさと脱出していけばいいでしょ!
遊びに夢中になっている親子がこっちに気づかないことを祈りながら、私は急いで女子トイレから出ようとした。
◆
気がつくと、僕は女子トイレにいた。
そこが女子トイレだと判ったのは、男子トイレで用を足すアレが無かったからだ。
便座に座って寝ていた僕は、ガラス窓から指す日差しで目覚めた。そして個室のドアを開けると、そこにはあるはずのアレが無かったのだ。
……って、えええええええ!!
なんで? なんでまた僕が女子トイレに?!
さっき脱出したはずなのに!?
いやまあ、そんな疑問はどうでもいい。それについて考えるのは、女子トイレから脱出した後でいっくらでもできる。
まずはこっから脱出しないと……。
コンコン。
……目の前から、死刑宣告の鐘が鳴り響いた。裁判官は鐘だけでは飽き足らず、わざわざ言葉で死刑宣告をしてくれやがった。
「すみませ~ん。早くしてもらえませんか? ウチのコが……」
「ママ~、もうガマンできないよ~」
ぎゃあああああああ!!!!!!
断末魔を思わず上げたくなった。上げたら男だって完全にバレるから、何とか飲み込んだけど。
声からするに、さっきの親子。ブランコで遊んでいたはずの彼らは、途中でトイレに行きたくなり、今まさにドアを隔てて僕の目の前にいるのだ。ドア一枚によって僕のプライバシーは守られているものの、それが無い場合の母親の反応は簡単に想像できる。子どもの安全に敏感になりがちな年頃だ、公園のトイレに潜む不審者なんか間違いなく警察に通報するだろう。
ちくしょう! なんでワザワザここのトイレなんだよ! 他に行ってくれよ!
……無理か。この近くに他にトイレはないし、このトイレの個室は二つしかない上に一個は故障中だったと、さっき脱出する時に見た気がする。
だったら、窓から逃げるか? 金田一少年は容疑者扱いされた時、トイレの窓から脱出していたはずだ。
……無理だ。明らかに小さすぎる。金田一少年なら高度なトリックを使って脱出できるかもしれんが、そんなトリック思いつく灰色の脳細胞は僕にはない。
こうなったら、強行突破しかない。
ドアを開けたらすぐに、僕はこの場から立ち去る。最悪、男だとバレるのは仕方ないにしても、一瞬で逃げれば顔は覚えられないはずだ!
むしろ、この女子トイレの間取りを利用すれば、顔を全く見られずに逃げ出すことすらできる。
さっき脱出した時に、道筋は覚えていた。この女子トイレは“¬”の形になっている。個室が並んでいる通りを五歩ぐらい進めば手洗い場に突き当たり、そこを右に曲がれば出口だ。さらに個室のドアは左向き……出口と逆方向に開くから、ドアは僕の脱出を邪魔しない。
とすると、作戦はこうだ。まず、個室のドアを少しだけ開け、親子からの視線をドアで遮りながら個室を出る。そして、ドアを勢いよく開けて親子を怯ませ、その隙に曲がり角までダッシュ。曲がり角を曲がれば、僕の姿は完全に見えなくなるはずだ!
「すみませ~ん、本当にもう限界なんですけど~!!」
「ママ~~、ママ~~!!」
タイムオーバー。もう僕に時間は残されていない。
作戦実行だ!
キィ……と、僕は少しだけドアを開ける。ホッとする母親の息遣いが聞こえた気がした。その安心につけ入るように、僕はドアを勢いよく上げて驚かせる。
「「キャッ!!」」
異口同音な親子の驚きを聞きながら、僕は一目散に曲がり角へ。母親が僕に向かって文句を言う頃には、僕の姿は曲がり角に消えていた。
「ちょっと! ……ああもう、さっさと入りなさい!」
僕への文句より、子供のトイレを優先してくれたようだ。さて、僕はさっさと退散することにしよう……。
「……ママ~、これなあに?」
「……あら?」
その親子の会話は、不吉な響を伴っていた。次の瞬間、予感は確信に変わった。
「さっきの人! サイフ個室に忘れてましたよ~」
シット!! 僕は自分を心底呪った。
あのサイフはズボンの後ろポケットに入れてたはずだった。けど、酔っ払ってた僕のことだ。便座に座る時に邪魔だからって、サイフを出して適当にその辺に置いたに違いない。
あのサイフは僕の命綱だ。現金はもちろん、キャッシュカードも入ってる。アレがなければ僕の人生は終わる。
いやいや、だからといって今から戻ったら、それこそ人生終わらないか?! 顔見られて、通報されたらどうする?!
……どの道、もう終わってるか。あのキャッシュカードの番号から、僕は特定されてしまうだろう。落し物だと言えばキャッシュカードの持ち主を探すのは不自然じゃないし、落とした場所を聞かれたら女子トイレだと答えるだろう。それで僕が女子トイレに行ってたことはバレてしまう。
それだったら、まだ戻ってきて事情を説明した方がマシかもしれん。キャッシュカードなら僕の名前や住所まで特定されるだろうけど、今事情を説明したらそこまで言わずに済むかもしれない。
僅かな希望に賭け、僕は曲がり角から戻ってきた。
なんて言い訳しようか……なども考える暇もなく、母親はツカツカと歩み寄ってきて、僕にカバンを渡した。
「はい、これ」
「あ、どうもすみません」
条件反射で返答する。
「あのねえ、急かしたこっちも悪いけど、もう少し丁寧に開けてくれませんか? 娘がドアにぶつかるところでしたよ」
「すみません、急いでたもので……」
またもや条件反射で返答する。
……あれ? 普通に会話してない?
母親は僕に用が済んだのか、何事も無かったかのように踵を返し、個室の前まで戻った。娘の用が終わるのを待つのだろう。
え? なんで? 実はこの女子トイレは男が入ってもOKとか? そんなトイレ、聞いたこともないけど。
首をかしげながら回れ右をすると、そこは手洗い場。当然のように鏡がある。さっきは脱出の緊張と忙しさでまともに見ていなかったそこを、何気なく見た。
その瞬間、僕の疑問は全て氷解した。
やっぱり僕は一度、女子トイレを脱出したのだ。
けど、僕は昨日から体調不良だった。いくら回復したとはいえ、病み上がりで酒なんか飲んだら、ぶり返したっておかしくない。帰り道にトイレに行きたくなったのも、その影響だろう。
そんな体調だったら、何度もトイレに行きたくなってもおかしくない。だから僕は、女子トイレを脱出した後、再びトイレに行きたくなった。そして、男子トイレに行ったのだ。
じゃあ、何でまた女子トイレにいたのか?
それは……「自分」に合ったトイレを選んだだけなんじゃないのか。
僕が男子トイレを選んだように、「彼女」もまた女子トイレを選んだ。
僕と母親以外誰もいないはずのトイレ。なのに、僕の代わりに鏡に映っている「彼女」は、自分が男子トイレにいると判った瞬間、女子トイレに行きたくなったのだ。僕が男子トイレで用を足す前に。
その日初めて僕は、僕が二重人格という精神病の患者であり、この体が僕ではなく女性の主人格のものであることを知った。
多重人格モノが書きたい。
それが、この小説を書いたキッカケです。
元々設定として多重人格は好きで、
それを使って何か書けないかな……と考えながらトイレに行った時。
「多重人格とトイレを組み合わせて、何か書けないか?」
と閃き、この話を書いてみました。
感想など頂けると幸いです。