銀河の最果て
ヒマワリ駅はロンドンのキング・クロス駅によく似ていた。ホームに降りると人型の猫が執事服で待ってる。どこまでも猫づくしだ。銀河鉄道は汽笛を鳴らして夜空に飛んでいく。わたしは猫執事の用意してくれたミニクーパーに乗り込む。街は完全に中世ヨーロッパの街並みが再現されている。
「東には江戸時代の日本のような街もありますので好きに移住してください。気候はどこも快適で過ごしやすいです。いろんな素敵な街がありますよ」
「わたしは西洋風のほうが好きだから、ここでいいかも」
「あなたの前世はイギリス人ですからね。ヨーロッパに生まれることが多かった。あなたの前世は王族や貴族や豪商の令嬢ばかりですよ」
「そうなの?なんだかそんな気がしないでもないな」
実は現世でも名家の生まれである。基本的に行いがいいのだ。
庭付きの豪邸に到着すると猫執事が温かい牛乳をティーカップに入れて用意してくれた。クッキーもある。気が効くな。うい奴め。猫執事は神様の作った神の眷属で最上級天国に来た人間に1人1匹与えられる豪華特典だ。猫執事に銀河鉄道について質問すると、おおよそモミジちゃんの推測があたっていた。おそるべしスピリチュアルオタクである。
「日本で亡くなられた人間は日本から出発する銀河鉄道に乗ります。死者が多い時は車両が増えますし、少ない時は2両編成もあります。汽車のほかに電車とバスがあります。内装や絵画などのインテリアは車掌の趣味です」
「銀河電車、銀河バスじゃん。動物は?」
「動物専用の銀河鉄道に乗ります。稀に飼い主と同じ日に亡くなった時は同じ車両に乗ります。神の計らいです」
「わたしはもう転生しなくていいの?」
「あなたの魂はすでにレベルMAXですから転生の必要はございません。しかし望めば転生できます」
「わかった。いろいろ教えてくれてありがとう。トウマとモミジって子がここに来るのを待ちたいんだけど?」
「2人がヒマワリ駅の切符を手に入れたらすぐにお知らせしますよ。到着時刻も教えるので駅で待てます。しかし、長く待つことになりますよ」
「いいんだよ。待つのも楽しいから」
わたしはニコッと笑う。猫執事もほほえんでくれた。
「猫が苦手な人はどうしてるの?」
「犬やうさぎもいますよ。チェンジしますか?」
「まあ、飽きたらね」
「そういうかたも多いです。遠慮なく申し出てください」
「うん。言っておくけどわたし猫も大好きだよ」
「存じております。あなたは動物にも非常に優しいおかただ。あなたの現世での行いは過去世に渡りすべて網羅しております」
「げげっマニアだね」
「はい。ハルヒさまマニアです。あなたは名前の通り春の木洩れ陽のように温かくやわらかいおかた」
猫執事は愛情たっぷりの瞳でわたしを見つめた。わたしよりわたしにくわしそう。
「天国には普通の猫もいるの?」
「はい。ご用意してます。ニャアニャアン」
猫執事は入り口に向かって猫の鳴き真似をする。猫なんだけどね。しずしずと黒い子猫が入ってきた。
「かわいい」
一目惚れした。わたしの膝に乗ってくる。わたしは子猫の頭を撫でて微笑んだ。
それから何年が経過しただろう。トウマくんがようやくヒマワリ駅の切符を手に入れたというので駅に迎えに行った。しっかりおめかしする。肉体は子供の頃のままだ。望めば好きな年齢になれるけどトウマくんがわたしのことを誰かわからないといけないからずっと子供の頃の肉体のままでいた。トウマくんはおじいさんの姿だ。
「待たせたね。ハルヒさん」
わたしは腕を後ろに組んで微笑する。
「ぜんぜん待ってないよ」
「きみはあの頃のままだ。とても美しいよ」
トウマくんは懐かしそうに目を細める。あの頃の姿で正解だった。
「トウマくんも子供に戻れるよ。天国では望めば望んだものが手に入るんだ」
「そうなのか。では」
トウマくんはみるみる子供の姿になる。トウマくんは鼻をかく。
「来るのに時間かかった。いろいろあったからさ」
「うん。ぜんぶ見てた」
「視線を感じてたよ」
「だから浮気しなかったんだ」
「そうだよ。視線がなければハーレムさ」
「うそつき。そーいうタイプじゃないくせに」
「きみはなんでもお見通しだな」
わたしたちは笑いあった。
うさぎ執事の運転で豪邸に向かう。トウマくんにも執事がつくから猫執事は先に車で家に帰ってもらった。その後、わたしとトウマくんは仲良く一緒に暮らした。モミジちゃんが来たのはその100年後だ。迎えに行って豪邸に招いてあげた。子供の姿のなりかたも伝授する。
「トウマに勝ちたかったなぁ」
って悔しがるモミジちゃんに指摘する。
「一度、生まれ変わったトウマくんと浮気しようとしたよね。セーターやマフラー手袋も編んでプレゼントしてたし。モミジちゃんも生まれ変わってたけど」
「やっぱみてた?あれは偶然出会ったんだよ。前世で縁がある人とは現世でもリンクするんだよなぁ。魔が差したんだ」
モミジちゃんの性格は何度かの転生を経てきっぷのいいお姉さんに変わっていた。それもまた面白い。
「ずっとトウマくんをおかずにしてるしそれがなきゃもっとはやく来れたのにね」
「あーもうっ!恥ずい!それはなしだって!」
モミジちゃんは真っ赤になった顔を手で覆った。わたしは口に手を当てて微笑む。
「ジョーダンだよ。そんなことぐらいでマイナス査定にはならないよ」
トウマくんはメガネのブリッジを持ち上げ顔を赤くしている。
「思考まで覗くのはデリカシーがないな。ボクはモミジの思考までは覗いてない。ずっと見守ってはいたがね」
「さすがトウマ。そういうところが大好き。結婚しよ!」
トウマくんに抱きつこうとするモミジちゃんをにらむ。
「どうやら地獄を旅行したいみたいだね?」
「ジョーダン。仕返しだってば」
モミジちゃんはベーッと舌を出す。
わたしたちは子供の頃のように3人仲良くおしゃべりに花を咲かせた。
その様子を微笑ましく猫、うさぎ、犬の執事たちが見守っていた。
宮沢賢治先生の銀河鉄道の夜を下敷きにして書いたけど、ぜんぜん及ばない。宮沢賢治先生の純真無垢な魂から紡がれる完璧な世界観にはまったく届かない。言葉の美しさ、透明な純粋性、宇宙人のような発想力、読者の心をときめかす詩人ならではのワードセンス、憧れるけど手に入らないものだらけだ。作品は作者を写す鏡だから宮沢賢治先生はロマンチストで繊細な人だったと思う。ミステリアスでもある。間違いなくやさしい人だ。銀河鉄道の夜を題材にして良かったのは宮沢賢治先生のすごさを体感できたこと。奇跡の作品です。オススメ




