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カムパネルラ

わたしとモミジちゃんは高級レストランのような食堂車にいた。わたしはやけ食いでステーキからイカスミのパスタから中華丼まで食べ尽くす。お茶が好きなので飲み物はいろんな種類のお茶だ。モミジちゃんも美味しそうにカレーとタラコパスタを食べていた。

わたしはパンパンになったお腹をさする。

「泣いて食べたらスッキリしちゃった。冷静になって考えればこれって全部夢だから起きたら全部元通りなんだよ」

モミジちゃんには乗車してから起きた出来事をすべてこと細かく話していた。モミジちゃんはスプーンを口にくわえて笑顔のまま一筋の汗を流す。スプーンを口から離した。

「あのぉ、たいへん言いにくいんだけど、夢じゃないと思うんだよね。ほっぺつねっても覚めなかったんでしょ?ジョバンニはあたしだけでハルヒちゃんとトウマくんはカムパネルラなんだよ」

「なにそれ?」

「銀河鉄道の夜って知らない?」

「知ってるけど読んだことない」

「あれって銀河鉄道に乗って宇宙を2人の少年が旅する物語なんだよね」

「へーっ、わたしたちの状況と同じだね」

「それでぇ、これはホントにホントに言いにくいんだけど、銀河鉄道って死後の世界なんだわさ」

申し訳なさそうなモミジちゃんの言葉をわたしは飲み込めなかった。鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしてしまう。

「どーゆういみ?」

わたしは首を傾げてみせた。モミジちゃんは十字を切る。

「あなたはもう死んでいる」

わたしは言葉を失った。二の句が告げないとはこのことだ。

「えっ?死んでるの?」

「うん死んでる」

「うそうそ。生きてるよ!足もあるしわたしのこと見えてるでしょ?」

「幽霊に足がないっていうのは円山応挙まるやまおうきょの考えたナイスアイディアだけどホントに幽霊に足がないかどうかは謎だよね。あたしも死後の世界に来てるんだからそりゃハルヒちゃんの姿は見えるよ」

「死んだ?なんで?」

「車にひかれそうな猫の赤ちゃんを助けて大型トラックに轢かれたの。捨て猫だったんだろうね。ハルヒちゃんの後ろをつけてたみたいでそれに気づいて振り返ったら子猫が横断歩道渡ろうとしててハルヒちゃんはダッシュで助けに入って死んじゃったの。轢かれても猫の赤ちゃんは抱き抱えたままで猫は生きてたよ。全部目撃者の証言ね。子猫はハルヒちゃんで飼うってさ。名前はハルヒってつけてた。いまハルヒちゃんは世界中で神扱いされてる。捨て猫の保護をしようっていう運動も世界中で起きてる。2度とこのような悲劇が起こらないようにってさ。美少女を失うのは世界の損失だ!とかね。もう地球はお祭り騒ぎだよ」

「ちょっと待ってそんなバカな・・・」

否定したけどわたしの脳裏に昨日の記憶が一気によみがえる。ああっ!たしかにわたし死んでるわ!ショック。やっちまった。

しばらく絶句したのちわたしはグロッキー状態で口を開く。

「あのネコの赤ちゃん助かったのね。よかったわ。ふふふ」

「両親も学校中の先生も生徒もみんな泣いてたよ?なにか伝えとく?」

「ごめん。しくじった。天国で待ってる。あなたたちの人生に祝福の雨を。アーメン」

わたしは祈りのポーズをとる。

「しっかり伝えとく」

モミジちゃんは涙ぐんでる。

「モミジちゃんは死んでないの?」

「うん。寝てるだけ。夢の波長と死後の世界がリンクしたみたい。あたしハルヒちゃんとトウマくんと仲良しだったから」

「親友だよ。このセーター編んでくれたよね。トウマくんの手袋も」

モミジちゃんは裁縫が得意だ。大人しくて気が弱くていじめられっ子だったからわたしとトウマくんで守ってあげて仲良くなった。いまは裁縫の才能をみんなに認められて一目置かれてる。自信持って気も強くなった。

「あたしは寝たら現実世界に戻るパターンだよきっと」

「いいなぁ。わたしは2度と戻れない」

わたしはため息をついた。モミジちゃんが緑色の切符を持ってた。切符には駅名ではなく幻想第四次げんそうだいよじと書かれている。緑色切符だとシェフに伝えるとシェフは「緑色切符のかたはご自由にどうぞ」と言ったので高級ディナーに2人でありつけた。

「夢なのにおいしい。でも太らない。これ最高すぎ」

追加注文しているモミジちゃんに怖くて後回しにした質問を思い切って聞いてみる。

「それでなんでトウマくんは死んだの?」

「自殺だよ」

モミジちゃんはサラッと言った。わたしは人生で1番大きなショックを受けた。

「どうして?」

「中学受験に失敗したからね。お風呂場でカミソリで手首を切ったの。プライドが許さなかったんじゃない?母親に小さい頃から教育虐待されてたみたいだよ。点数悪かったら猛吹雪なのに家の外に出されたり他にもいろいろ。父親は気が弱くて母親に何も言えなかったんだって。中学生受験に失敗したら死ぬぐらいの覚悟だったんでしょ。受験に受からないと無価値な人間でクズだと洗脳されてたんだよ。ホントにかわいそう。遺書はなかったけど近所の人がいろいろテレビにばらしてた。トウマくんの件も大きな話題になって同情されてる。美少年だったからなおさらだよ。トウマくんの母親はショックで精神を病んだって話。父親は知らない」

「そうなんだ」

わたしは食べたものを全部戻しそうになっていた。枯れたはずの涙が枯れない泉のようにでてくる。トウマくんの悩みに気づいてあげられなかった自分が憎い。モミジちゃんがシェフにバスタオルを用意してもらってそれで拭いた。

「1日に2人も人気者のクラスメイトが死んだから教室はお通夜状態だよ。学校は全校生徒にカウンセリングを受けさせる準備させてる。殉死する子がでないようにね」

「それだけは絶対に防いでほしいな」

急がなくても死は確実に訪れるし自分が思っているより早いかもしれない。好きなことを見つけて情熱を持って生きて欲しい。

憂鬱を吹き飛ばせと言わんばかりにシェフがデザートを運んできてくれる。デザートは立った鳥の形をしたチョコレートだった。

がんだねこれは」

「わかるの?」

「銀河鉄道名物だよ」

「そうなんだ」

わたしは泣き疲れてたけど、デザートをしっかり食べて特等室に戻りモミジちゃんといっしょにお風呂に入った。お風呂から出たモミジちゃんはソファーでくつろぐ。

「こんなすごい部屋に泊まれることって今回の人生では絶対無理だから、泊まれてうれしいよ」

「無理じゃないでしょ?モミジちゃんの裁縫の才能があればたくさんお金が稼げて現世で豪遊できるよ。オリジナルデザインの猫のぬいぐるみも超可愛かったし」

「いや、そういう意味じゃなくて死んだ時にこの部屋に泊まるのは無理かなって」

「どういう意味かしら?」

「あくまで推測なんだけどね・・・」

モミジちゃんは銀河鉄道について自分の考察を語り始めた。



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