銀河ステーション
次の車両で行き止まりだった。客室はボロボロで床に穴が空き座席シートが破れてる。天井に蜘蛛の巣が貼ってるし照明もホラー映画の暗さだ。ギリギリ顔が見える感じ。ロングシートしかなくて真ん中に顔色の悪いヒゲがモジャモジャのホームレスのような出立ちの男性がいた。なにかぶつぶつ言ってて怖い。
「チキショークソッタレが・・・ぜってぇゆるさねぇぞあのアマ」
窓の外は星が流れててファンタジックでロマンティックなのに、このおじさんはまったく窓の外も見ていない。心が壊れてるんだ。憎悪の念が全身から立ち上っているように見えた。近づかないほうがいい。
トウマくんはスッとわたしの前に歩み出てくれた。
「戻ろう」
「うん」
空気が悪すぎる。トウマくんはわたしなら凶悪犯でも変えられる。友だちになれるって言ったけど現実は無理なのさ。過大評価なんだよねぇ。2人で回れ右をした瞬間、アナウンスが流れた。
「コスモス〜コスモス駅〜」
列車が傾いて赤黒い星に向かって降下していく。
「降下中は席を立たないようにお願いします」
仕方なく座席に座る。紙のようなクッションだからお尻が痛い。
到着するとプシューと扉が開いて人相の悪いおじさんは立ち上がって降りて行った。
ボロボロな木造の屋根がついた無人駅で壊れた柱時計が見える。周囲は真っ黒な地面で空は赤く染まっていた。カラスが飛んでるのが見えた。家とか何にもないじゃん。全身黒ずくめの帽子を被った肌の真っ白い男が駅の椅子に座ってる。あれがガイドさん?なんかこっちみて笑ってるし。こわっ。
コスモス駅って名前の割には可愛さが全然ないダークな世界だった。絶対足を踏み入れたくない。扉が閉まって出発する。客室の上部に黒切符のかたはこの先立ち入り禁止と書いてある。多分、あのおじさんは黒切符でこの客室から出るなってことだろうね。わたしたちはもといた客室に戻る。おや?子供しかいなかったはずなのにお客さんが増えてる。骨みたいに細い青年と痩せた若い女性と小太りのおばさんだ。3人とも色白で陰鬱な表情だ。あのおじさんもそうだけどせっかくの宇宙の旅を楽しめていない。子供たちは相変わらずところせましとはしゃぎまわってる。休憩時間の教室みたいだ。お腹がグーッと鳴る。頭を使ったからだ。
「トウマくん。食堂車があるから行こ」
わたしたちは客室を移動する。高級レストランみたいな食堂車に行こうと思ったけどトウマくんが簡素な食堂車で立ち止まった。
「ボクはこの先に行けない。ねずみ色切符なんだ」
「ほんと?見せて」
トウマくんの切符はねずみ色でプリムラ駅と書いてある。
「じゃあ、ここで食べよ」
ボックスシートが空いてる。他にお客さんもいない。わたしたちはパンと飲み物をとって座席に座った。わたしはメロンパンにあんぱんにチョコレートパンに牛乳2本。トウマくんはお茶とクロワッサンだ。大人って感じ。
「それだけで足りるの?」
「ボクは省エネなんだ」
「少食だね。わたしは本気だせばもっと食べられるよ」
「元気で明るくていっぱい食べる子は好きだよ」
「わたしじゃん!」
わたしは照れ笑いする。トウマくんは顎に手をあてる。
「やっぱり自分にないものを人は求めるんだろうな」
「ぐうわかる」
わたしはもぐもぐしながら同意した。
「さっき降りたおじさん見覚えあるな。逃亡中の連続殺人犯だよ」
「まじっすか?」
「テレビで見た。指名手配のポスターも駅に貼ってある。いままで8人の女性をレイプして殺したらしい。捕まったら死刑確実だよ」
「あっぶねあぶねー。近づかなくてよかったね」
「きみはとくにね。可愛い子は狙われやすい」
「今日めっちゃほめてくれるじゃん。どうしたの?」
「このシチュエーションがそうさせるのかもね」
窓の外は星屑であふれてる。誰もいない部屋で男の子と2人っきりで向かい合ってる。なんか恋人みたいではある。少し体温が上がった。牛乳飲んで冷ます。
トウマくんが目を輝かせながら語る。
「星の牧場って小説があって、ラストはモミイチっていう青年が星の花園で死に別れた愛馬ツキスミと再会するんだ。モミイチはツキスミの背に乗せられて星の花束をたいまつのように高く掲げて星の花野をどこまでも駆けていく」
「へーっ素敵だね」
「星の花園にモミイチの友だちのジプシーたちがオーケストラとして現れてツキスミとの再会シーンで演奏してくれたりもするんだ。前半は悲しい話なんだけど最後はいままでの憂鬱が星のように爆発して読者を幻想的な世界へとワープさせてくれるような素敵な作品だよ」
「トウマくんも馬だもんね。馬になってわたしを星の花園に乗っけて行ってよ。星の花で花冠作りたいなぁ」
妄想すると胸がときめく。
「おやすい御用さ。ボクに魔法が使えたらね」
2人で見つめあって笑う。楽しくて時間が止まればいいのになって思った。
「あっ、見て!」
車両の下を流れる天の川から青い光や緑の光やピンクの光にふちどられたシャケやマスやコイが飛びあって泳いでいた。
「銀河の河に住んでる魚たちかな」
「小魚もいるよ!」
「ほんとうだ」
わたしとトウマくんは窓を開けて身を乗り出す。
「あっ、クジラだ!」
紫色のクジラが高くジャンプして銀河鉄道をまたいでまた潜って行った。30秒ぐらいで光る魚たちはすべて姿を消していた。窓を閉めて着席する。
「列車が来たからみんな驚いて飛び出したのかな」
「すごいおさかなショーだったね」
「黄緑のイルカもいたよ」
「見逃しちゃった!」
わたしたちは興奮して語り合う。他の子供たちが食堂車にはいってきた。
「席を譲ってあげよう」
「うん」
食べ終わったていたわたしたちはゴミを片付けてテーブルをふいて食堂車をあとにした。もとの列車に戻ってしばらくするとアナウンスがかかった。
「プリムラ〜プリムラ駅〜」
真っ白い星に降下していく。わたしとトウマくんは手をつなぎ座席に座っていた。子供たちにヒューヒューとからかわれたけど関係ない。
「わたしも降りていい?」
「えっ?きみはヒマワリ駅で降りるんじゃないの?さっき切符を見せてくれたじゃないか」
「うんでももうちょっと一緒にいたいなぁ」
「途中下車ってありなのかな。まあ、きみの好きなようにするといいよ。じつはボクもはなれたくないんだ」
「ふふ」
私は腕を組みトウマくんの肩に頭を預けた。




