表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/74

第49話 沈黙の祠、その深奥

 異形の魔物が倒れ、黒い瘴気が空へと溶けていった後、しばしの静寂が辺りを包んでいた。

 倒壊しかけた祠の奥、魔物が現れた裂け目の先には、古びた階段が隠れていた。草に埋もれ、石は半ば崩れている。

 だが確かに、その先には『何か』が続いている。


「……まるで、最初から見つけられるのを待っていたみたいね」

 

 リリィが静かに呟いた。

 レイは無言でうなずくと、足元の魔力の流れを見つめながら一歩を踏み出す。

 

「この下に、答えがある。……行くぞ」

「ええ、もちろん」


 階段を降りるごとに、空気は冷たくなっていく。

 灯りもない、閉ざされた地下。

 けれど二人は魔術の光を灯しながら、確かな足取りで進んでいった。

 やがて、朽ちた扉が現れ、重い石の扉には、封印の紋が刻まれている――が、すでにそれはひび割れ、力を失っていた。


 「これ……もともとは、何かを『閉じ込める』ためのものだったはずよね」


 リリィが扉に手をかざす。微かに、残滓が指先を撫でた。

 レイはその中心に指を当て、そっと囁くように言った。


「封じられし理を視よ、解を以て記憶を断ち切れ──識解ディスペル・グリフ


 光が脈打ち、扉が軋むようにゆっくりと開いていく。

 中に広がっていたのは──儀式場。

 いや、正確にはその『残骸』だった。

 円形の魔術陣、崩れた台座、中央には、血のような黒い染みと、焼け焦げた本の破片が転がっている。


「……これは……」


 リリィが言葉を失った。息が自然と浅くなる。

 レイは中心に歩み寄り、跪いた。

 地に触れた指先から、微かに残る魔力の痕を探る。


 「……人為的な『召喚』……対象は、魔族……いや、『異界因子』そのものか」

 「つまり、ここで何か――呼んだってこと?」


 「そうだ――そして、制御できなかった」


 レイの声は低く、明瞭だった。

 この村がかつて襲われた理由。その一端が、今、姿を見せたのだ。


「封印が解けたんじゃない。『あの時』からずっと、くすぶり続けてた。俺たちが来たことで、再び目を覚ましただけだ」


 リリィは膝をつき、黒い染みを見つめた。


「それにしても……誰が? どうして、こんな村で?」


 レイは沈黙したまま、焼け焦げた書の欠片を手に取る。

 そこにはかすかに、『王国魔導院』の紋章が残っていた。


 「……王国の研究機関だ。恐らく……『実験場』として、この村を使った」


 言葉が喉の奥で苦く留まる。

 自身の過去が、また新たな形で傷を抉ってくる。

 締め付けられるような痛みが、自分自身の胸に襲い掛かってきているのがわかった。


 「……レイ」


 リリィがそっと隣に寄る。

 彼女の瞳には、怒りでも、哀れみでもなく、ただ静かな決意が宿っていた。


「私は、あんたの全部を知りたいって思ってる。だから……どんな過去でも、一緒に受け止めるわ」


 レイの指が、書の断片をそっと地に戻す。

 その背に、微かな、けれど確かな呼吸が宿っていた。


「……ここが始まりだ。すべての元凶を――追う」


 そう言って彼は立ち上がり、地下からの階段を見上げた。

 昇るべき空はまだ遠く、外の空気すら届かない。

 けれど、その一歩が、確かに彼の『過去』を終わらせるための歩みだった。



読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!

ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ