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第46話 封印の中心、目覚めの声


 日が傾き、村の廃墟に長く影が落ちる。

 レイとリリィは、崩れた家々の間を抜けて、かつて村の中心にあったという旧祈祷所の跡地へと辿り着いていた。


「これ……?」


 祈祷所だった場所は、今や半ば地面に埋もれ、ただの石積みに見えた。

 だが、レイがかがんで、地面に手を当てると――土の中に確かな『魔力の流れ』が残っていた。


「結界の『根』が、ここにある」


 レイの声は低く、しかし確信に満ちていた。


「生きてるの?」

「正確には……眠っている、だな。けど、それももう長くはもたない」


 その瞬間だった――地面の奥から、ぶつぶつと泡立つような音が響く。

 魔力の気配がぶわりと吹き出し、空気が歪み、石積みの中心――今は朽ちた台座のような構造物の周囲に、淡い紋様が浮かび上がった。


「レイ、これ……」


 リリィが息を呑む。

 彼女の足元にも、まるで生き物のように光る術式の線が広がっていた。


「動いた……リリィ、お前がさっき『記憶』に触れたせいだな」

「まさか……私が?え、これ、私のせい!?」


 レイは小さく頷いた。


「この結界は、『血』と『記憶』を鍵にしてる……多分、俺の血筋、あるいはこの土地で何かを想った『誰か』の記憶が触媒になって、封印が目を覚ましはじめてる」

「え、な、なんかごめん……」


 リリィは思わず後ずさったが、レイが手を伸ばして支えた。


「大丈夫。お前のせいじゃない。むしろ……これで、真実に近づける」


 レイがその言葉を言ったその瞬間、風が逆巻いた。

 結界の中心――台座の奥深くから、低く、唸るような音が鳴った。


「……これは」


 台座の石が一部崩れ、地下へと続く階段のような暗い穴が姿を現す。


「レイ、下に何が……?」


 レイの顔が険しくなる。


「……村を滅ぼしたモノか、それとも――」


 そう口にした直後だった。


 ――ズズッ……ズ、ズ……


 地下から、這い出すような音が響いた。

 獣とも人ともつかぬ、ただ黒い『何か』が、穴の奥からゆっくりと姿を現しはじめる。


「来る……」

「うわ、なんか嫌な感じ……」


 レイが拳を握りしめた瞬間、空気が変わった。


 足元に黒い紋章が浮かび上がり、まるで地面そのものが彼の意思に反応するかのように魔力がうねり始める。

 リリィもまた、一歩前に出て、両腕を広げるように構えた。

 彼女の周囲には、淡く青白い風のエーテルが巻き上がっていた。


 地下の闇――祈祷所跡から現れたそれは、確かに『人の形』をしていた。


 だが、節くれだった骨が皮膚を突き破り、片腕は地面に引きずるほど長く伸びている。

 歪んだ顔には目がなく、ぽっかりと空いた眼窩の奥にだけ、血のような赤い光がゆらゆらと灯っていた。


「……昔、こんな奴が村を襲ったの?」


 リリィが呟く。

 レイは魔力の奔流を腕に集中させながら、低く答えた。


「いや……これは今、生まれた奴だ。俺たちが結界を揺るがせたせいで、封印の中から、呼び起こされたんだ」

「つまり、私たちが引き金を引いたってこと?」

「違うな。これは、いずれ誰かが踏み込んだ時に動き出すように……仕込まれていた。これはただの封印じゃない。『罠』だ」


 その言葉に、リリィの目が鋭く光る。


「じゃあ、これは……敵ってことね」

「そういう事になるな」


 その瞬間、魔物が咆哮を上げた。

 音というより、圧力に近い。

 空間そのものが軋み、建物の残骸が震え、天を裂くような衝撃波が周囲を駆け抜けた。

 レイの足元に走る魔力が、漆黒の影となって地面から飛び出す。

 槍のような、翼のような、形容しがたい『黒い何か』が彼の周囲に現れ、それはまるで意思を持って動く獣のように魔物へと襲いかかった。

 レイの詠唱と同時に、黒影が魔物の腕に喰らいつく。

 骨が砕け、皮膚が裂け、魔物が苦悶のうめき声を上げて後退する。


「リリィ、後ろだ。別の気配が、三体……いや、もっと来てる!」


 レイの声に応えるように、リリィは空気を圧縮させ、一気に爆ぜさせる。

 風の刃が飛び、崩れた祠の奥から現れた異形たちを一掃した――かに見えたが、煙の向こうにまた別の影が蠢いていた。


「こっちも来てるわ……っ、これは……!」


 リリィの顔が緊張に強ばる。

 普通の魔物じゃない。

 出てくるのは変質した『存在』、封印の魔力と混じり合って歪められた人間のような『何か』

 レイは唇を噛む。


「これは、魔物じゃない、造られた『何か』だ……」

「作られた何かって……なによ!?」

「知らん」


 過去が、記憶が、ただの記録として眠っていたのではない。

 その呪いは、今も生きている。

 生きて、再び牙を剥こうとしている。


「……だったら――」


 レイは左手を突き出した。

 空中に禍々しい術式が描かれる。

 それは剣でも槍でもない、存在そのものを抉る呪詛の魔術


「《断界・虚雷陣》……!」


 重力を裂くような轟音と共に、大地に幾何学的な雷陣が奔る。

 黒紫の雷撃が無数に炸裂し、空気すら灼き焦がしていく。

 その中心にいた魔物たちは、悲鳴すら上げる間もなく飲み込まれ、灰となった。

 レイの胸元のローブが風圧でめくれ、魔力の余波が吹き抜ける。


 ──この村は、まだ終わっていない。

 ──ここにあるのは、終わったはずの過去ではない。始まる未来の『呪い』だ。


 レイの瞳が、紅の魔力でかすかに染まる。


「……過去を断ち切るには――今、戦うしかない」


 リリィが彼の隣に立つ。

 その背中を見て、レイはもう一度、黒い魔力を呼び起こした。

 風が巻き起こり、雷鳴がこだまし、闇を裂く戦いが、再び幕を開ける。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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