第04話 魔力ゼロの意味
重たい空気が、レイの胸を締め付ける。
夜の王都を離れ、森の入り口にたどり着いた頃には、彼の足はふらつき、肩で息をしていた。
全身の力が抜け、膝が震えている。
だが、倒れはしなかった――崩れ落ちそうな身体を、意地だけで支えていたのである。
足元の枯葉が擦れ、微かな音を立てるたびに、心臓が締め付けられるように痛んだ。
夜気に触れた肌は冷たく、指先は痺れ、手足の感覚が薄れていく。
それでも、レイは歩を止めなかった。止まったら、全てが終わる気がした。
(――どうして、あんな結果になったんだろう……どうして、自分だけが……)
――そして、なぜ、あの時だけ、石盤が淡く光を放ったのか。
頭の奥で、あの日の審問の光景が繰り返される。
審問官の冷たい声、嘲る貴族たちのざわめき、セシリアの冷えた視線、そして妹エルナの罵声――すべてが、耳の奥で反響し、心を蝕む毒のように染み込んでいく。
あの冷たい目、歪んだ笑み、無力感に打ちのめされたあの日が、まざまざと蘇った。
「無能」
「恥さらし」
「王国の穀潰し」
――繰り返し浴びせられた言葉が、心の中で膨れ上がり、のたうつような痛みを伴って胸を締めつけた。
だが、その中で、ふとした違和感が、胸の奥で微かに疼いている。
あの時、魔力量を測る石盤が、確かに一瞬だけ光った。
見間違いではない――確かに、あの冷たい石の上に、淡い光が浮かんでいた。
それはほんの刹那の出来事で、他の誰も気づかなかったようだが、レイの瞳には確かに映っていた。
その光は、まるで自分に語りかけてくるように、かすかに瞬いていた。
――ゼロ、ではなかった?本当に、俺は無能なのか?
疑問が胸をかき乱していく。
もしあれが幻でなければ、あの光が意味するものは何なのか。
なぜ審問官は、あの光を無視したのか。
王国は何を隠しているのか?
「……あれは……一体……?」
震える声が夜の空気に溶ける。
森の奥からは、遠く獣の吠える声が響いているのが聞こえた。
生ぬるい風が枯葉を揺らし、木々の枝が軋む音が耳をかすめ、恐怖が足元から這い上がり、寒さが骨の髄にまで染み渡った。
だが、レイは一歩、また一歩と、足を前に出した。
誰にも頼れない、帰る場所もないこの世界で、ただひとり、足を踏み出すしかなかった。
「俺が……無能だと?笑わせるな……何も持っていないなら、奪い取ってでも手に入れてやる、絶対に、俺はあきらめないッ!」
怒りと悔しさ、そしてほんの僅かな疑念が、胸の奥で渦巻き、膨れ上がる。
それはまるで暗闇の中で揺れる小さな炎のように、消えそうで消えない光だった。
王国が隠した真実。
自分だけが見た光。
無能と決めつけられた自分の中に、何かがあるのではないかという予感が、心をざわつかせた。
「――俺は、まだ終わっちゃいない、絶対に……」
その言葉を夜に吐き出し、レイは森の奥へと消えていく。
木々のざわめきが、彼の決意を祝福するように、微かに揺れていた。
葉擦れの音が彼の背を押すように響き、夜の空には白い月が、ひっそりと、けれど確かに、彼の歩みを見下ろしていた。
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