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追放されてから十年、いつの間にか世界最強の魔術師になっていた件について  作者: 桜塚あお華
第05章 偽りの英雄譚

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第43話 終幕に燃ゆるもの

 朝焼けの光が、ゆっくりと町の廃墟を照らし始めていた。

 崩れた教会の尖塔。

 焼けた石畳。

 黒焦げの神殿と、沈黙した人々の記憶。

 すべてが静かに、終わろうとしていた。

 レイ=グランは、旅の支度を整え、町の外れにある小さな門へと向かっていた。

 その足取りは、何かを振り払うように静かで、強かった。

 そして、門の前――そこに一人の男が立っていた。


「……行くのか」

「ああ」

「そうか……」


 数日前にあった男は相変わらず変わらない顔をしている。

 グレイは、静かに息を吐きながら、しっかりとレイに目を向けていた。

 そのままグレイは一歩、静かに近づく。


「……お前に伝えねばならんことがある。セシリア様のことだ」

「……セシリア?」


 レイの瞳が微かに揺れる。

 その名を、彼はもう何度も夢に見ていた――だが、現実として耳にするのは半年ぶりだった。


「王国が崩壊した夜……セシリア様は生き延びているまでは知っていたのだが、精神は限界だったらしい。父である王を自らの手で――殺した」


 短く、鋭く告げられたその言葉に、レイは一瞬だけ目を伏せる。


「……」

「そしてそのまま、姿を消した。ただ一つ、城を出るときに、血まみれの姿で笑ってこう言ったそうだ――」


 グレイは、どこか空を見上げるように目を細める。


「『――レイに、会いに行ってくるわ』とな」


 しばしの沈黙が流れる。

 レイはそれを遮るように、短く息を吐いた。


「……狂ったのか?」

「さぁ、それはわかららない……ただ、王国が滅びる姿を見て、正気を保てなかったのかもしれない……」

「……」


 レイは別れる際に、彼女の姿を見なかった。

 縋りつくように、泣き叫び、まるで悲劇のヒロインのような彼女の姿を、レイは見る事もしなかった。

 もう、レイが知っている『彼女セシリア』ではなかったからである。

 グレイは視線を戻し、さらに告げる。


「最近、ある村で得体の知れぬ信仰が流行っている。『救いの少女』と呼ばれる存在を中心とした異端の教えだ。その中心に、金髪で緋の瞳をした、奇妙な微笑を浮かべた女性がいた――という噂を、私は聞いた」


 レイの目が鋭くなる。


「……セシリアだな」


「ああ。おそらくは、な。お前がこれから向かう道に、またセシリア様が現れるかもしれない……だが――」


 グレイは、ゆっくりと一歩退きながら言った。


「向かってくるのなら、立ち向かうだけ。それが今のお前だろう」


 その言葉に、レイは静かに頷いた。


「……そうする。どこまでも、な」


 グレイは無言で背を向け、町の影の中に溶けていった。


   ▽


 門をくぐった先で、リリィが待っていた。


「やっと来た。遅かったじゃない」


 レイは小さく肩をすくめる。


「少し話をしていただけだ」

「ふーん……何か言われたの?」

「……セシリアが動いているらしい」


 リリィの目がわずかに揺れた。


「……あの悲劇のヒロインぶった女が?」

「たぶん、次は敵になるだろうな」

「何かあったか知らないけど……そっか。いいよ。あんたが立ち向かうって決めたなら、あたしはその背中、守るだけだし」


 その言葉に、レイは短く頷くと、歩き出した。

 だが、数歩の後、リリィが不意に声をかける。


「ねぇ、レイ。次は……どこに行くの?」


 その問いに、レイは立ち止まり、少しだけ振り返る。


「……俺の故郷に行く」


 その言葉に、リリィははっきりと息を呑んだ。


「――レイの村?」


 レイは答えず、ただ前を向いたまま、歩みを再開した。

 リリィも、すぐにその後を追いかける。

 朝焼けの中、ふたりの影が並んで伸びていく。


 そして――次に彼らが向かうのは、かつて『追放』された少年が、もう一度踏みしめる『始まりの地』。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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