第43話 終幕に燃ゆるもの
朝焼けの光が、ゆっくりと町の廃墟を照らし始めていた。
崩れた教会の尖塔。
焼けた石畳。
黒焦げの神殿と、沈黙した人々の記憶。
すべてが静かに、終わろうとしていた。
レイ=グランは、旅の支度を整え、町の外れにある小さな門へと向かっていた。
その足取りは、何かを振り払うように静かで、強かった。
そして、門の前――そこに一人の男が立っていた。
「……行くのか」
「ああ」
「そうか……」
数日前にあった男は相変わらず変わらない顔をしている。
グレイは、静かに息を吐きながら、しっかりとレイに目を向けていた。
そのままグレイは一歩、静かに近づく。
「……お前に伝えねばならんことがある。セシリア様のことだ」
「……セシリア?」
レイの瞳が微かに揺れる。
その名を、彼はもう何度も夢に見ていた――だが、現実として耳にするのは半年ぶりだった。
「王国が崩壊した夜……セシリア様は生き延びているまでは知っていたのだが、精神は限界だったらしい。父である王を自らの手で――殺した」
短く、鋭く告げられたその言葉に、レイは一瞬だけ目を伏せる。
「……」
「そしてそのまま、姿を消した。ただ一つ、城を出るときに、血まみれの姿で笑ってこう言ったそうだ――」
グレイは、どこか空を見上げるように目を細める。
「『――レイに、会いに行ってくるわ』とな」
しばしの沈黙が流れる。
レイはそれを遮るように、短く息を吐いた。
「……狂ったのか?」
「さぁ、それはわかららない……ただ、王国が滅びる姿を見て、正気を保てなかったのかもしれない……」
「……」
レイは別れる際に、彼女の姿を見なかった。
縋りつくように、泣き叫び、まるで悲劇のヒロインのような彼女の姿を、レイは見る事もしなかった。
もう、レイが知っている『彼女』ではなかったからである。
グレイは視線を戻し、さらに告げる。
「最近、ある村で得体の知れぬ信仰が流行っている。『救いの少女』と呼ばれる存在を中心とした異端の教えだ。その中心に、金髪で緋の瞳をした、奇妙な微笑を浮かべた女性がいた――という噂を、私は聞いた」
レイの目が鋭くなる。
「……セシリアだな」
「ああ。おそらくは、な。お前がこれから向かう道に、またセシリア様が現れるかもしれない……だが――」
グレイは、ゆっくりと一歩退きながら言った。
「向かってくるのなら、立ち向かうだけ。それが今のお前だろう」
その言葉に、レイは静かに頷いた。
「……そうする。どこまでも、な」
グレイは無言で背を向け、町の影の中に溶けていった。
▽
門をくぐった先で、リリィが待っていた。
「やっと来た。遅かったじゃない」
レイは小さく肩をすくめる。
「少し話をしていただけだ」
「ふーん……何か言われたの?」
「……セシリアが動いているらしい」
リリィの目がわずかに揺れた。
「……あの悲劇のヒロインぶった女が?」
「たぶん、次は敵になるだろうな」
「何かあったか知らないけど……そっか。いいよ。あんたが立ち向かうって決めたなら、あたしはその背中、守るだけだし」
その言葉に、レイは短く頷くと、歩き出した。
だが、数歩の後、リリィが不意に声をかける。
「ねぇ、レイ。次は……どこに行くの?」
その問いに、レイは立ち止まり、少しだけ振り返る。
「……俺の故郷に行く」
その言葉に、リリィははっきりと息を呑んだ。
「――レイの村?」
レイは答えず、ただ前を向いたまま、歩みを再開した。
リリィも、すぐにその後を追いかける。
朝焼けの中、ふたりの影が並んで伸びていく。
そして――次に彼らが向かうのは、かつて『追放』された少年が、もう一度踏みしめる『始まりの地』。
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