第33話 歩む先
森を抜けた先、小さな野営地に焚き火の灯りが揺れていた。
夜明け前の静寂の中、オレンジの炎がパチパチと薪を焦がす音だけが、微かに耳をくすぐる。
焚き火のそばで、リリィは膝を抱えたまま、じっとレイの横顔を見つめていた。
火の明かりが彼の頬を淡く照らし、その瞳に揺れる光を映し出している。
どこか遠く、決して届かないものを見ているような、そんな瞳だった。
「ねえ、レイ」
呼びかける声に、レイは炎の奥を見つめたまま、瞼を細める。
無言のまま、火の粉が宙に舞った。
彼の指先が、薪の温もりに反応するようにわずかに動く。
「これから、何するの?」
リリィの声はやわらかく、それでいて何かを試すような響きを帯びていた。
まるで、その答えで彼の在り方を測ろうとしているようだった。
しばらくの沈黙ののち、レイが短く言葉を返す。
「……潰すべきものがあるなら潰す……それだけだ」
言葉には迷いはなかったが、どこか誤魔化すような硬さがあった。
言葉の奥に沈んでいる感情が、今にも顔を覗かせそうで――けれど、それでも言葉にはならなかった。
リリィは視線を火に落とし、少し微笑む。
「ふうん。じゃあ、それって……あんたが決めるの?それとも――」
意味深に言葉を切り、口元に小さな笑みを浮かべる。
「あたしが決めちゃおうか?」
レイは小さく息を吐き、瞼を伏せたまま、わずかに呟く。
「……勝手にしろ」
その一言に、リリィはふっと笑いを漏らした。
焚き火の炎に混じるその笑い声は、夜の静けさに溶けていく。
「ふふっ。あんたって、ほんと不器用だよね」
炎がわずかに揺れ、風が草を撫でる音が沈黙の間を埋める。
その時間の中で、彼女はさらに言葉を続けた。
「ねえ、レイ。あたし、ずっと思ってたんだけど……あんたって、何かを『守る』ために戦ってるわけじゃないよね?」
レイは何も言わなかった。だが、それを否定する様子もない。
「復讐でも、正義でもない。ただ……壊して歩いてるだけ……違う?」
その言葉に、レイは少しだけ視線を逸らし、再び焚き火に戻す。
「……何も考えてない。考えたところで、変わらない」
「そっか。でも、それってちょっと寂しくない?」
リリィの声には、今までよりも少しだけ優しさが滲んでいた。
彼の中にある、空白のような部分にそっと触れようとするように。
そして彼女は立ち上がり、焚き火に背を向けた。
「でもまあ……そういうあんたを見てるのも、悪くないかなって思えてきたわ」
レイは何も返さなかった。
だが、火を見つめるその瞳の奥に、ほんのわずかに揺れる影があった。
名もなき想いが、その静かな目に潜んでいた。
空はゆっくりと群青から薄桃色に染まり始め、周囲の木々が朝の輪郭を取り戻していく。
夜が終わり、朝が訪れようとしていた。
「行こっか……どうせ、壊して、潰すものなんてすぐに見つかるでしょ?」
リリィの言葉に、レイは静かに立ち上がる。
その動きは変わらず静かで冷静だが、どこかに微かに宿った決意のようなものがあった。
「……ああ」
朝焼けの中、二人の影が並び、森の中へと歩き出す。
その背中には、まだ夜の名残が揺れていた。
何が待つか分からない旅路――空虚かもしれない。孤独かもしれない。
けれど、今はもうレイの隣に、誰かがいる。
沈黙の中に、わずかな希望と、言葉にならない絆が、確かに息づいていた。
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