表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/74

第31話 渦巻く執念

──お前だけを見ていてほしい


 轟音が夜の静寂を切り裂いた。

 黒い雷が地を裂き、紅い炎が空を裂いた。

 瘴気のうねりが木々を震わせ、森全体がまるで生き物のように呻き始める。

 その中心にいたのは、レイとルーラ――二人だけ。

 魔力が激しく衝突し、周囲の空間は歪み、重く沈む圧が辺りを押し潰していく。


「見てよ、レイ……! リリィちゃん――ううん、あの女より、ボクを!!」


 ルーラの叫びは、怒りでも悲しみでもない。

 それは――『狂気』と言葉つけていいのかもしれない。

 瞳を見開き、赤黒い魔力が髪と身体を包み込み、地面を蹴ると、彼女の身体が宙に舞った。

 その動きは一瞬の跳躍ではない。

 闇そのものを纏った翼のように、魔力が羽ばたく。

 ルーラが右腕を大きく振り上げると、空間が裂け、雷光を孕んだ漆黒の槍が出現した。

 その魔力はまるで意志を持つかのように蠢き、森全体に不穏な響きを生む。


「レイ、こっちを見て!! 見なきゃ、殺すよ……あの女を!《黒嘆ラスト・ラメント》!!」


 叫びと同時に黒槍が雷鳴と共に突き刺さるように放たれた。

 速度は、音よりも早い。

 だがレイは、一歩も動じなかった。


 黒衣が翻る。

 足元に魔方陣が咲き、無数の光の剣が空中に浮かび上がる。

 レイは右腕を軽く振り上げ――


「《断界ドメイン・ブレイカー》」


 その一言で、光剣が一斉に飛翔。

 黒槍と交差し、数本が軌道を砕き、残りが槍を迎撃するように閃いた。

 爆音。衝撃。

 地面がえぐられ、木々が吹き飛び、煙と炎が一帯を覆う。

 その爆煙の中から、ルーラが再び姿を現した。


「くっ……くふ、やっぱり強いね、レイ……でも、まだボクの気持ち、足りなかった?」


 笑う彼女の頬には煤と傷。

 それでも瞳は喜悦に震えていた。


「ねえ、なんで……ボクだけを見てくれないの? ボクは、ずっとレイのことだけを思ってきたんだよ……っ!」


 両手を広げ、魔力がさらに膨張する。

 地面が割れ、瘴気が地の底から噴き上がるように溢れ出し、それを見たリリィがその場で息を呑む。


「……こいつ、森の結界を崩壊させる気!?」


 彼女が一歩踏み出そうとしたその瞬間――


「下がってろ、リリィ」


 レイの短くも鋭い声が彼女を止める。

 リリィは苛立ちをにじませながらも、レイの背中に込められた気迫に押され、拳を握りしめたまま後退する。


「ったく……好きにしなさいよ。死なないでよね」


 その間にも、ルーラの魔力は飽和点に達していた。

 彼女の背に漆黒の羽が出現し、空を裂くように広がる。


「見ててよ、レイ……これが、ボクの全部――愛も狂気も、憎しみも、執着も、ぜんぶ混ぜた、ボクだけの魔術だよ!!」


 空間が震える。

 ルーラが両手を広げ、低く囁くように詠唱を開始した。


「忘れられたくない……壊れたいほど、愛してる――黒嘆ラスト・ラメント!」


 瞬間、黒炎が咲き乱れた。

 夜空を裂くように、雷光とともに数十本の黒槍が空間から現出する。

 それは雷と闇の融合。怨嗟と恋慕の混ざり合った、破滅の花束。

 空が泣くように震え、槍が雨のようにレイへと降り注いだ。

 だが、レイは動かない。

 剣を静かに掲げ、呟くように詠唱する。


「斬れ、境を越えろ。全ての『定め』を裂いて――《断界ドメイン・ブレイカー》」


 静寂とともに、一閃。

 剣が動いたその瞬間、世界が『断たれた』。

 目には見えぬ斬撃が空間を切り裂き、黒槍を次々と断ち切っていく。

 風も音も、まるで届かない。

 ただ結果だけが残る鋭い一撃だった。


「――っ!?そんな……!」


 ルーラの目が見開かれる。

 空中で粉々に砕け散る黒炎の槍――断たれた瘴気の波は、音もなく霧散し、ただ白い閃光のような軌跡だけを残していた。

 レイの姿が、一歩、ルーラに近づく。


「ならば――証明してみせろ。その狂気が、生きるに値するものかどうか」


 その一言に、ルーラの顔が蕩けるように紅潮する。


「うん……そう、それでこそレイ……それでこそ、ボクのレイ……ボクだけの、レイ……!!」


 そして再び。

 轟音。閃光。炸裂する黒炎と奔る白い断界。

 魔力と魔力、想いと想いが、互いの命を削り合うようにぶつかり合う。

 夜の深淵に、狂気と純粋が混じり合った咆哮がこだました。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!

ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ