表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/74

閑話 崩壊の果てに①【グレイ視点】


 王国が完全に崩れ落ちた日、グレイは廃墟の中心で、ただ静かに膝をついていた。


 砕けた石畳の上に座り込み、風に晒された老いた体は、もはや何かを支える力すら残してはいなかった。

 目の前に広がるのは、かつて栄華を誇った王都――自らが誇りとして仕えてきた場所の、無惨な成れの果てだった。


「……ああ、終わったのだな」


 呟きは風にかき消され、自らの耳にさえ届かない。

 ただ、口の中で言葉が崩れ落ちるように消えていくだけだった。

 記憶の中で、十年前の一場面が幾度となく再生される。

 あの名を――『レイ』と叫んだ瞬間。


 だが、彼は振り返らなかった。


 いいや、振り返る理由など、最初からなかったのだ。

 あの少年はすでに、自分たちの手の届かない存在になっていた。


「……あの時、私は――」


 喉が詰まり、言葉が途切れる。

 彼が『無能』と呼ばれ始めた時、恐怖と保身に駆られ、庇うこともできず、むしろ率先して突き放した。

 罵倒し、失望し、あまつさえ、自らもその口で“無能”と断じた。


「結局……私は、己の名誉のために、お前を切り捨てた」


 声にした瞬間、胸の奥が鈍く疼いた。

 あの夜、王宮で行われた追放の決定。

 己は、何も言わずに従った。

 反論もせず、抗議もせず――ただ、黙って見送った。


 ――そして、十年が過ぎた。


 レイは、何も言わずに戻ってきた。

 王国の崩壊と共に、その姿を現し、もはや誰も逆らえぬ力を携えて。


(あれは、もはや人ではなかった……)


 後悔すら、もはや遠い感情に思えた。

 残っているのは、深い疲労と、何もかもを失った空虚な魂だけ。


「これが……報い、というものか」


 かつて信じていたもの。

 名誉、忠誠、王、国――それら全てが、いま目の前で崩れ去った。


「私は……国のために生きてきたつもりだった。だが、違ったのだな。守っていたのは……自分の立場と、名声だけだった」


 王が沈黙し、民が絶望し、そして、誰一人、自分を顧みる者もいない。


(これが……私の選んだ結末か)

「……レイ、お前だけが、正しかったのかもしれんな」


 声にすればするほど、己の愚かさと無力が剥き出しになる。

 あの少年が、どれほどの怒りと孤独を抱えていたか――

 それを見抜けなかった自分こそが、最も罪深かったのだ。


 風が吹き抜ける瓦礫の中、彼は静かに目を伏せた。


 全てが終わった王国の亡骸の中で、ただ一人、己の罪と向き合いながら座り込む。


 ――それでも、生きている。


 誰にも必要とされず、何の役目も残されていない。

 だが、それでも、彼はまだ息をしている。


 それがグレイに与えられた、最後の罰だった。

 かつて“師”と呼ばれた者に相応しい、残酷な贖罪だと感じた。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!

ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ