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第23話 決着

 雷光が夜空を貫き、黒炎が砦を焼き尽くす。

 その光と音が交差するたびに、世界そのものが軋むような感覚に包まれていた。

 

 ――レイとルーラ。


 冷酷と狂気、雷と炎――二つの力が拮抗し、ぶつかり合い、砦は次第に原型を失っていく。

 爆風が吹き荒れ、石壁が砕け、瓦礫が空を舞い、リリィはやや離れた場所でその凄絶な戦いを目を細めて見つめ、セシリアは耳を塞ぎ、息を呑んだまま、ただ立ち尽くしていた。


「ふふっ……やっぱり、ボクが見込んだだけあるよ、レイ……こんなにボクを夢中にさせてくれるなんて……!」


 ルーラは笑いながら、黒炎を渦のように纏わせる。

 背中から生えたかのような黒き炎の翼が羽ばたき、空気を震わせた。


「だが、貴様の興味も執着も、俺には不要だ」


 レイの掌に雷光が凝縮され、雷が鎖のように巻き付きながらうねり――次の瞬間、雷撃が咆哮を上げ、一直線にルーラを貫こうと放たれた。


「ふふっ、そうやって、また冷たくする……でも、その瞳は知ってるよ、レイ。あのとき、ボクの力を『恐れた』目――あれからずっと、ボクはその目に取り憑かれたの!」


 ルーラが雷光を炎の盾で逸らしながら、空中で舞い、指先から炎の槍を放つ。

 無数の黒炎の矢が、雨のようにレイを取り囲みながら落下していく。


「ボクだけを見て……この世界で、ボクを止められるのはレイしかいないって、ボクは知ってる!」


 矢が落ちるよりも早く、レイの周囲に雷の防壁が展開される。

 黒い炎が防壁に弾かれ、次々に爆ぜ、砦の地面が爆音とともに崩れた。


「執着を『愛』と履き違えるな」


 レイの言葉は冷たく、鋭かった。

 その一言が、まるで刃のようにルーラの胸を刺した――が、ルーラは笑ったままだった。狂気に似た、その笑みを崩さずに。


「違う! 愛よ! 執着でも、狂気でもない――全部、ボクの中では『レイ』なんだ!レイに拒まれても、壊されても、それでもボクは、レイに触れていたい!」


 彼女が両手を広げた瞬間、砦の上空に無数の魔法陣が浮かび上がり――それらが一斉に輝き、黒い太陽のような光を放った。


「じゃあ、壊してよ! ボクごと、この国ごと、何もかも全部……! ボクの『全部』で、レイにぶつかってるんだからッ!」

「はぁ……黙れ」


 雷光が爆ぜる。

 レイの掌から、いくつもの雷槍が放たれ、魔法陣を次々に打ち砕いていく。

 ルーラの顔が一瞬だけ、怯えたように揺らぐ。


「その目……その雷、やっぱりレイは『壊し屋』だね。優しさも情も、全部捨てた目……でも、ボクは知ってる。本当は、まだ心のどこかに『何か』が残ってるって……!」

「お前の勝手な幻想を、俺に投影するな」


 レイが再び雷撃を放つ。

 その一撃は、砦の一角を吹き飛ばし、ルーラの身体を巻き込んだ。


「――がっ……は……!」


 血を吐き、崩れた石壁に叩きつけられる。

 だが、それでも彼女は笑う

 傷だらけの頬に、どこか哀しげな笑みを浮かべて。


「……やっぱり、レイがいちばん……いいね……」


 崩れた瓦礫に体を預けながら、彼女は呆けたように呟いた。

 唇から微かに血を流しながらも、視線はずっと、レイの背を追っていた。


「もっと……あなたの顔、見てたかったな……怒ってる顔も、哀しんでる顔も……好き、だったんだ……よ……」


 黒炎が消え、魔力の気配がゆっくりと薄れていく。

 ルーラの瞼が静かに閉じ、力尽きたように、その身を横たえた。

 風が吹き抜け、静寂が砦を包み、リリィがレイの隣に立ち、皮肉気に肩をすくめた。


「……ふぅん、死んじゃったのかと思った」


 砕けた石に腰を掛けるようにして、リリィが肩を揺らす。

 砦の崩落音の残響がようやく遠のき、代わりに静けさと夜風が満ち始めていた。


「急所は外した……勝手に死なれたら面倒だ」


 レイは淡々と答えたが、その言葉の奥には、どこか疲れたような陰が滲んでいた。

 ルーラの方へは一度も視線を向けず、ただ背を向けて歩き始める。


「ねえ、そのわりには……ずいぶん静かにしてたじゃない。さっき、ほんの少しだけ手が止まったでしょ?」


 リリィは歩きながら、ちらりとレイの横顔を覗き込むようにして言った。

 その視線には好奇心と皮肉、そしてわずかな優しさが混じっていた。


「気のせいだ」

「へぇ……でも、あの子、泣いてたわよ?笑いながら、最後まであなたの名前呼んでた」

「……」


 レイは黙って歩みを止めることなく、足音だけが冷たい石を打つ。

 沈黙を割るように、リリィが再び声を投げかける。


「ねぇ、レイ。ああいうの、嫌い?」

「……」

「ううん、違うな。……嫌いじゃないから、手加減したんだよね?」


 しばらく沈黙が流れた後、レイがぼそりと呟いた。


「……ああいう『熱』は、正直、重い」


 その言葉には、断罪の冷たさではなく、拒絶に似た悲しさが混じっていた。

 リリィはその答えを聞いて、小さく息を吐き、少しだけ真顔になる。


「……じゃあ、私が『重く』なったら、切り捨てる?」


 一瞬、レイの足が止まりかけた。

 だが、すぐに歩き出す。


「……ならないだろ、お前は」

「ふふ、さすが。分かってるじゃない。私は軽やかに生きるのがポリシーなのよ」


 リリィが肩をすくめ、再び笑顔を取り戻す。

 砦の外から吹き込んだ風が、髪を揺らした。


「でも……それでも、今日のあなたは、ほんの少しだけ優しく見えた」

「勘違いだ」

「……そうかも。でもね――」


 リリィが言葉を切り、ふと夜空を仰ぐ。

 欠けた月が雲の切れ間に覗いていた。


「その『勘違い』に救われる人も、きっといるのよ」


 その言葉に、レイは何も返さなかった。

 ただ、風の音だけが、長く長く砦の残響に混じっていた。



読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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