最初の使い道
どうやらあの女神(仮)は本当に俺を異世界に放り出したらしい。しかも、よりによって「戦えない」クソスキルだけで。
「ステータス!」
昭島 有
ステータス
Lv.1
ちから:5
かたさ:5
はやさ:5
きよう:5
ちせい:5
こころ:5
うん:5
各種スキル説明(簡易)
* スキル:『ハズレ』 → ハズレ。しようするとハズレる。
* スキル:『女の子が自分の話を喜んで聞いてくれる』 → 使用するというより常時発動している。
* スキル:『セクハラ(発言も含む)しても嫌悪感を抱かれない』 → 常時発動。
* スキル:『美少女又は美女にするスキル』 →
無機物に使用すると、固定で美少女になる。無機物(無生物)に対しての使用は1日2回まで。生物は全て適用され、触れる時にこのスキルを念じると発動する。又は常時発動も出来るが、レベルが足りないため、常時不可。
*補足:美少女又は美女化しても対象の数値又は技量に変化はない。
モンスターを美少女に変えても、結局モンスターとしての能力はそのままだって女神言ってたし…いや、言ってないけど、きっとそうだろう。美少女になったからって懐いてくれるわけない。
というか、腹減ったな。どこかに村とか街とかないのか?
とりあえず、人の気配がある方向に歩いてみよう。太陽の位置で方角を確認し、適当に歩き出す。
見渡す限り草、草、草。たまに小さな花が咲いているくらいで、他に何も見えない。本当に飛ばされただけなんだな。
どれくらい歩いたか分からない。日差しは強く、喉が渇いてきた。体力の消耗も感じる。せっかく異世界に来たのに、ガチャでクソスキル引いて、徒歩で草原を彷徨って、誰にも見つけられずに力尽きるなんて、あまりにも報われなさすぎる。
……ん?
少し先に、何かが動いているのが見えた。
人か? いや、小さい。動物?
目を凝らすと、それは明らかに動物とは違う、粗末な革鎧を着た、緑色の肌の生き物だった。手には歪な形の棍棒を持っている。
ゴブリンだ。
ゲームやラノベでよく見る、ファンタジー世界の雑魚モンスター。
「まずい…!」
身体が反射的に硬直する。逃げなきゃ。でも、俺には戦えるスキルなんて何もない。走って逃げるしかない!
そう思った瞬間、ゴブリンはこちらに気付いたようで、「キィッ!」という耳障りな声を上げて、棍棒を振りかざしながら駆け寄ってきた。
早い! クソッ!
どうする!? 逃げる? でも追いつかれそう! 相手はゴブリン、全スキル意味あんの?
頭の中をスキル名が駆け巡る。この絶体絶命の状況で、使える可能性のあるスキルは…
「…『美少女又は美女にするスキル』…!?」
馬鹿か俺は!? 相手を美少女にしてどうするんだ!
しかし、ゴブリンはもう目の前だ。棍棒が振り下ろされる!
死ぬぅっ!!
「うあああああああ!」
咄嗟に、ゴブリンに向かって両手を突き出した。身体が勝手に動いていた。触れればスキルが発動する、という情報をどこかで聞いたような気がする。まさに藁をも掴む思いだった。
ズンッ!
棍棒が腕に当たる直前、ゴブリンの身体が眩い光に包まれた。
そして、光が収まると、そこに立っていたのは…
緑色の肌ではない。粗末な革鎧は体にフィットした皮製の鎧に変わっている。歪な棍棒は、細身ながらも禍々しい雰囲気の鉄棒になっている。
そして、何よりも変わったのはその顔だ。
翡翠色の瞳。意志の強そうな口元。そして、驚きに見開かれた端正な顔立ち。元のゴブリンからは想像もつかない、紛れもない美少女がそこに立っていた。
「…え?」
呆然とする俺。
そして、美少女になったゴブリンも、状況が理解できていないようで、驚愕に目を見開いている。
…一瞬の静寂。
しかし、それはすぐに破られた。
美少女の口から、元のゴブリンと全く同じ、耳障りな**「キィイイイイイッ!!」**という叫び声が発せられたのだ。
そして、手に持った細身の鉄棒で、先ほどと同じように俺に襲いかかってきた。
見た目は美少女。中身は凶暴なゴブリン。
美少女は素早い動きで鉄棒を振るってくる。さっきより攻撃が的確になった気がするが、これは気のせいか?
「うわああああ! なんでだよ! 美少女になったのに襲ってくるのかよ!?」
完全にパニックになり、俺はひたすら美少女ゴブリンから逃げ回った。
スキルを使った結果、雑魚ゴブリンが、見た目ハードコアな美少女に変わり、しかも相変わらず襲いかかってくるという、最悪にして一番厄介な状況が生まれていた。
俺、この世界で生きていける気がしない…!