新時代の三角関係!2人をくっ付けたい目的は共通なのに男女×百合×BLで三者三様の思惑が止まらない
私と彼は両思い。なのに男と女の関係でいられることがなんでこうも難しいのだろうか。
「三角比は、天文学の発展のために古代ギリシャのピッパルコスが発明した。この発明によって、科学は飛躍的な発展をーー」
今は授業中。数学なんてつまんないな。早く放課後になって彼に早く会いたい。なんて思いながら、空を見上げると入道雲がもうすぐ夏休みが近いことを示していた。
恋の三角関係は三角比なんかでは解けない。そんな陳腐なテーマの歌は、古くからJ-POPでは繰り返し歌われてきたらしい。だが、私たちの関係はそんな中でも特殊な部類だった。
なにせ、私たちは男でもあり、女でもある。男でありたい。女でありたいという三者三様の思惑が、決して交わることがない。
3人とも、私たち2人が愛し合うという点においては、相違ないが、愛の形はそれぞれ違うのだ。
私たちは、1ヶ月前まで男だった。そう。私の一人称はその頃、僕だった。
僕の名前は聖哉で、彼の名前は裕也。親友の関係だった。だけど、それは、友達の仮面をかぶっていただけにすぎない。本当は、僕は、彼の彼女になりたかった。恋心をひた隠しにしていた。だけど、僕たちは男同士。それは、叶わぬ罪深き夢だった。
ある日、天使から召喚され、僕たちは、魔法少女として選びだされた。悪の秘密結社、右殺義乃会を倒す選ばれし戦士になったのだ。
かくして、僕は、夢の女の子の体になり、さらに、変身すると、魔法少女ターコイズブルーに変身できるようになった。彼女として彼の横で佇んでいられる。そう思っていた。
放課後、僕はサッカー部の部室に赴き、ユニフォームの洗濯をしていた。
「んー。裕也くんの匂いだ。うふふっ」
こうして、彼がグラウンドを走り回るのを甲斐甲斐しく世話を焼く日々にささかやな幸せを感じていた。
そして、練習は終わり、一緒に帰ろうと誘うが、彼は「男友達と帰る」とそっけない返事。
「そっか。男同士の付き合い大事だもんね」
私は、夕焼けと彼に背を向けそっと涙を流す。そっか。私の片想いだったか。
ひとりぼっちで、河川敷を歩く。電車の通過音が私の気持ちとお構いなしに轟音を鳴らす。石を拾って水切りでもやりたいな。なーんて考えていたその時だった。
「きゃあっ!」
「うさうさー!」
この声は!? うさぎ型戦闘員が通りすがりの少年を襲っている。これはまずい。
私の姿を発見した戦闘員が近づいてくる。
「さぜるかあっ!」
「裕也くん!」
ああ、彼に助けてもらえるだなんて。まるで、御伽話のヒロインになったようで素敵。
うっとりしていると、彼は私に叫ぶ。
「さっさと変身するぞ! 変身して悪を滅するんだ!」
「やーだー」
「また、そんなわがまま言って……」
私たち魔法少女は、二人揃って変身のポーズを取らないと変身できない。だが、それは私は拒む理由があった。
彼が変身したら、魔法少女、つまり。女になってしまう。彼と男と女の関係でいられなくなっちゃう。私は、彼のための女の子でいたいのに。
「さっさと変身しようぜ」
「だめー。今度デートしてくれるって言ってくれたらいいよ」
「わかった。わかった。してやるから、さっさと変身しよう」
そんなこんなしているうちに敵が私たちを取り囲む。
「選択肢はないようだぜ」
「もう。しょうがないわね」
私は渋々、承諾し、変身のポーズを取る。全身をきらめく光が包み込み、ふわふわドレスが身を包み込む。
「魔法少女ワインレッド!」
「魔法少女ターコイズブルー!」
変身ポーズ決まった。と、安堵していると、戦闘員がやってくる前に、裕也くんことワインレッドが抱きついてくる。
「おねえたまー」
「や、やめなさい。私たち女同士でしょ」
「えー、お姉様こそ、本当は男なのに、僕と男と女の関係になろうとしてる」
そうなのだ。裕也くんと私は両思い。両思いだけど、私は男と女の仲になりたくて、彼は女同士の仲になりたいのだ。
だから、彼にとっては敵が襲ってくるのは好都合だし、ひとときの百合タイムを楽しめるのだ。
「さっさと倒すわよ!」
「えー。しばらくお姉様と一緒に居たいから、あまり敵倒したくない。甘美な時間を楽しみたい」
思惑のずれもあってか、敵の戦闘員のほとんどは、自分ひとりで倒してしまった。
「よくもやってくれたわね!」
「うさぎ怪人兎紗子!」
どうやら、敵幹部が現れたようだ。
「ふっふっふ。今度こそ、あんたたちを倒してみせるわよ」
「狙いは、世界征服か?永遠の命か?」
「そんなちっぽけな野望、興味ないわ。私が興味があるのはあなたたちよっ!」
「な、なに?」
何を言い出すのだろうか。この敵は。
「あなたたちを捕獲して、ふたりとも男の姿に戻す。そして、ボーイズラブキスをしないと出られない部屋に閉じ込める! それが私の野望よ。腐腐腐……」
「そんなことさせてたまるか!」
裕也くんと声がシンクロする。男同士に戻りたくないという利害は一致したようだ。
飛び跳ねる怪人にマジカルビームを当てつつ、倒す。
「ぐ、このたびは敗れたが、今度こそ、あなたたちをやおい沼に落として見せるわっ! それに、働き方改革の時代だから、そろそろ時間なのよね。子どもを保育所に迎えに行かないと」
怪人は、亜空間に逃げようと試みる。
「待てっ!」
僕は深追いする。
「そうはさせない!」
飛び蹴りをしてきたのは、なんと、ワインレッド。
「その怪人を倒して、世の中が平和になったら、魔法少女としての生活は終わりだ。二度と僕たちは百合関係でいられなくなる」
「ばかばか! 地球がどうなってもいいの?」
「そんなこと言いながら、本当は男と女の関係に戻りたいんだろ? そうはさせない」
「ぐぬぬ」
そんなこんなと私たちが痴話喧嘩している間に、怪人は亜空間に逃げていった。
「しまった!」
全身を光が包み込み、元の体に戻る。
そして、自分一人がその場に取り残された。
「あー! 裕也のやつ帰っちゃった! 絶対デートの約束守らせるんだから」
今日も、三者三様すれ違い、愛の形はばらばらなのであった。来週こそデートして見せるんだから!