喜八の助け船
次の日、何もなかったように真琴は神社に来て、参拝し供物を届けた。
「恋神様、置いて行かれるのはイヤかもしれないけど、僕を好きでいてください。僕の恋は4ヶ月しか続いたことがありません。でも、まだ3年も時間があります。僕はその間、恋神様と過ごしたいです」
真琴は凜とした顔つきで、決意した気持ちを話している。
ふとその時、背後から喜八の声がした。
(恋神様……。お久しゅうございます……現代では喋れぬ故、心での会話失礼致します……)
(喜八‼ 久しぶりじゃがどうしたのだ⁉ 死んでしまってから初めてのやりとりじゃな……)
(困っているとお見受けし、大天神様に話しても良いか聞き、良いと言われたので話しかけた次第です)
(大天神様だと⁉ 大天神様と言えば、わしさえひれ伏す程の神ではないか‼ いや、確かに困ってはいるが、お前はわしと恋仲であったではないか……。それを今、相談するには気が引けるのじゃが……)
(七日七晩泣いてくださり、その後も約一年、病のように臥せっておられた。私はそれだけでもう充分でございます……)
(して、話を聞きに来てくれたと申すのか……?)
(いいえ、そうではございません。問題を解決に参りました)
(なんじゃと……⁉)
(大天神様曰く、真琴さんの寿命を延ばし、恋神様との相性を診た上で、合うようであれば亡くなるときに天界に呼び、修行を受けてもらう……、とのことでした)
(寿命を延ばすのは何年じゃ? そして、修行している間はどうなるのじゃ?)
(えぇ、私もそれが気になったのですが、寿命は5年。修行は、毎日午前中で済ませ、午後はなんの用事も入れずに見守るとのことでした)
(なんじゃと……⁉ 何故そのような融通を利かせてくれるのじゃ?)
(ふふっ、恋神様……。大天神様は今、私と恋仲にございます……)
(そうであったか……! では、礼を……、礼をさせてくれ‼)
(では、神使の私から一つ。恋神様がいつも美味しそうに食べていらっしゃる、”けぇき”とやらを大天神様と私の二人分、奉納してくれますか?欲がないとは言え、あまりに美味しそうに食べていらっしゃるので興味がわきまして……ふふ)
(分かった。ではこのことを真琴に話し、用意させよう。本来であればわしが行くべきじゃが、神である身故、買い物などできぬからな……はっはっは)
(恋神様、どうしたことでしょう、目が生き生きしていらっしゃる。ふふ)
(ええい、からかうでない!)
(ふふ、顔が真っ赤でございますよ……)
(やめろと言うに!)
(それでは、私はこの辺りで失礼させて頂きます……。足された寿命5年と、元の寿命3年、あと合計8年と14日、真琴さんと大事にお過ごしくださいませ……)
(分かった。本当にかたじけない。喜八……、幸せになっていて一安心じゃったぞ……)
(有り難うございます。私も、恋神様がまた恋をされたことに、幸せでいっぱいです……)
(大天神様に宜しく伝えてくれ……。達者でな、喜八……)
(恋神様もお元気で……、では……)
喜八の気配が消えるとすぐに、黒月が話しかけた。
「良かったではないか!」
「黒月! 聞いておったのか? やったぞ、わしはまた真琴に会える!」
「今頃真琴は家に着いたようじゃ」
黒月が透かし鏡の上に乗って、真琴の様子を見せてくる。恋神は愛しそうに透かし鏡を撫でると、一目散に真琴の家に飛び立ち、黒月も後に続いた。
外は、さっきまで曇っていた空が、明るく輝いている。