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第19話 友の胸に一抹の不安

 時刻は夕日の傾きが強くなった午後六時頃。

 学校から家に戻っていた崇吾だったが、急に甘いものが食べたくなり、食前の散歩がてら財布片手にコンビニスイーツを求めて歩いていた。

 甘いものを求める時、軽い運動を体に与える事でより甘さを感じる、とは彼の談。


 ショートパンツにTシャツに日除けのキャップとラフな姿。ボーイッシュな少女の印象を持たれる事に気づかない彼だったが、こういう恰好をしているとなんとなく周りの人間が自分に優しく接してくれるような気がする、とは思っている。

 そうして親切にされる時は、いつもより気分が良くなるのだ。


「ん?」


 コンビニスイーツを求め歩るく町中、ふと視界の端に見覚えのある人影を捉えた。


(あれって……)


 真新しい記憶にある人物と同じだったので思わず立ち止まり観察する崇吾。その視線の先の人物をしっかりと見据えた。

 あの小柄の黒いショートの少女は……。


(確か、放課後に良くんと会っていた女の子)


 その人物のことは詳しくは知らない、名前もわからない。

 ただなんとなく、何の確証があるわけでもないが、どうにも良い印象を持つことができない人物。

 その感覚の正体を今だ掴めていないが、少なくとも知り合いとしても遠慮したいと思える少女であった。


 そんな彼女が何故ここに?


 一瞬そう思った崇吾だったが、夜遅いわけでもない時間帯に学生が歩いていて何の問題も無いのだから、気にする理由にはならない。

 それを言えば同年代の自分だって町中を歩いているのだ。何故などと考えるものではない。


 そう思考を切り替え、再びコンビニに向かって歩みを始めようとした時、少女に向かって誰かが近づいてくる。それは男。


(彼氏かな? 大人しそうな子に見えるけど、年頃の女の子なら珍しくはないか)


 今時、物静かな少女は男性に対して免疫が無く恋人など居ない、などと思う人間などいるはずもなし。年頃の、それもかなりルックスの優れた少女に彼氏が居て不思議な事は無い。女性に気の多い同年代の男性なら放っては置かないだろう。


(って、僕も同年代の男の子なんだけどね)


 だが崇吾は元々恋愛に対して奥手な上に、ピンと来る女性と巡り会ってはいない。彼個人としては親友である良介と過ごしている方がずっと気が楽で有意義だった。


(ま、僕には縁のない話かな)


 ぎこちなく笑いながら少女に話しかける男性を見ると、同年代くらいだが、横に太くあまり健康そうには見えない。崇吾は失礼だと思ったが女性との会話が得意そうなタイプには見えなかった。

 きっとあの少女の事が余程好きになって頑張って恋人になったんだろう。恋人にしては、少女の方は表情一つ動かさないが……。


 その少年の行動を勝手ながらに想像して、これまた勝手ながらに心の中で応援することにした。そういう勇気を持てる人間は嫌いではなかったからだ。


 しかし、ふと疑問が沸く。

 放課後、良介に抱きついているように見えたあの少女。自分の見間違えだったのだろうか?


 状況を改めて整理すると、二人のいた場所は曲がり角付近。もしかしたら飛び出してきた彼女を良介が抱き止めていただけかも知れない。


(それにしては良くんが変なポーズをとってるように見えたけど……。ま、彼は元々変人よりの人間だし何もおかしくないか)


 崇吾という少年は親友である良介の扱いが多少雑なきらいがある、家族以外では最も気を許してる人間だからかもしれない。


 そうこうしているうちに二人は何処かへと去って行った。


(どこの誰かは知らないけれど、やっぱりカップルには長く続けて欲しいと思うのは余計なおせっかいかな? それでもやっぱりあの女の子、気になるな)


 好きになったという意味では全くない。先ほど、偶然にも良介が抱きとめただけと推理したが、どうにもしっくり来なかったのだ。


(もしかして……)


 一つ想像が浮かんだが、首を振って忘れることにした。


 だって、もし少女が良介の元彼女であっても恋人がいるのに抱きつく理由がわからない。


 それでも、ほんのわずかな疑念を払うことが出来ずにいた。

 コンビニへと向かう道すがら、それとなく良介を案じる崇吾。




 一方、同時刻。


「ああ、なんか落ち着く気がする~。アロマって意外と悪くないな。……こういうのをくれるって事は、やっぱり期待しちゃっていいのか? へっ、へへへへへ」

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