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2、塔での生活

 翌朝、エレナは食堂で朝ご飯を食べていた。


 食卓に並んだ食事の見た目は、王宮で食べていたものと似ていた。

 それを見て彼女は喜んだが、それを実際に口に運ぶと、彼女の表情は失望へと変わった。そして、

「美味しくない……」

 と呟いたのだった。


 それから彼女はクラウスの方をちらっと見た。

「あなたが作ったの?」

「はい」

 クラウスは申し訳なさそうな表情でそう答えた。

「そう……」

 エレナがそう言うと、食堂に気まずい沈黙が流れた。

 そして、彼女はため息をついた。

 まあ仕方がない。

 王宮にいた時、クラウスが食事を作ったことなんてないのだ。

 王宮にはいろんな作業それぞれに専門の召使いがいて、それ以外のことなんてやらないものなのだ。


 朝食は見た目だけは王宮にいたときの食事によく似ていたが、それを口に運んでみると味は全然違った。色合いが似ているけど味が全然違う食材を組み合わせて作ってあるので、奇妙な味になっている。味付けのバランスも良くない。

 エレナはそれを食べながら、これから毎日こういうものを食べなきゃいけないのかあと思い、つい顔をしかめてしまった。

 でも仕方がない。これの他に私に選択肢なんてないのだから。我慢しよう。



 それからエレナにとって一番嫌なのは風呂の時間だった。

 王家の人間が幽閉されていたというだけあって、塔の中の設備はそれなりに整っている。

 大きなお風呂があって、クラウスがお湯を沸かして用意をしてくれるのだった。


 エレナは一人でお風呂に入ることができない。

 彼女は今まで、風呂に入る時、召使いのお世話を受けながら入ってきた。

 でも困ったことに、今の彼女のお世話をしてくれる召使いはクラウスしかいない。

 それで彼女は途方に暮れてしまった。

 彼女にとって、お風呂に男がいることは受け入れがたいことだった。一方で一人で風呂に入ることもできない。


 エレナがどうしようと思っていると、クラウスが水着を用意してきて、それを着て入るのはどうかと提案した。それでクラウスがエレナの風呂でのお世話をするのだ。

 彼女は、それも嫌だったが、他に方法も思いつかずそれを受け入れることにした。

 

 エレナは風呂に入っている時、ずっと不機嫌そうな表情をしていた。

 せっかくの風呂の時間に同じ空間に男がいるのはやっぱり抵抗があったし、クラウスの世話も手慣れていなくて、彼女はいらいらしたのだった。


「髪洗うの下手ね。そんなんじゃ痛んじゃう」

「申し訳ありません」

 クラウスは申し訳なさそうな表情で、エレナの髪を一生懸命洗っていたが、嫌なものは嫌で、彼女は不機嫌そうな表情を崩さなかった。


 エレナの髪が痛んだところで、幽閉された今の生活で、彼女の姿を見るのはクラウス以外にいないし、それほど気にすることではなかったのかもしれないが、彼女は自分の外見が崩れるのを受け入れられなかった。


 彼女にとっては、自分が王女であるということが何より重要だった。

 鏡を見るとそこには王女らしい気品のある女性がいる。彼女は、そんな自分の姿を見るとほっとした。その手のかかった美しさを見ることで、自分の特別さを確認することができた。

 でも、もしその美しさが失われたら?

 そうしたら、自分の価値がどんどんなくなっていくような気がして恐ろしかった。

 すべてを周りにやってもらっていたエレナにとって、自分ができること、自分に自信の持てることなど他にはたいしてない。

 だから、今の彼女にとっては、王女らしさが一番大事なことなのだ。


 エレナが風呂から上がると、クラウスが彼女の髪を乾かす。

 温かい風を出す魔道具を使っても、彼女の美しい長い髪を乾かすのには時間がかかった。

 そうやって髪を乾かした後、彼女は鏡で自分の髪を触りながら眺めると、王宮の時ほどは美しく仕上がっていない。鏡の中のそんな自分の髪を見て、彼女はため息をついた。


 塔での生活を送りはじめた頃、エレナは思い通りにいかない生活にいつも不機嫌な顔をしていた。

 しかし、毎夜、お風呂からでた後に、髪を乾かしているクラウスの姿をぼんやりと見ていると、エレナの気持ちに少しずつ変化が生じてきた。


 こんなに髪を毎日、時間をかけて丁寧に(上手ではないにしろ)乾かしてくれる。一生懸命にその作業に取り組むクラウスの姿を見ていると、だんだん彼のことが嫌じゃなくなってきたのだ。


 自分のためにこんなにしてくれている。慣れない仕事、王宮の時にはやったことのない仕事もたくさんあって大変だろうに。エレナはそんな風に思うようになった。

 日が経つにつれ、彼女は前ほど不機嫌な表情をしなくなっていた。


 エレナは、クラウスもきっとこの私に尽くせて嬉しいはず。そうじゃなきゃここまでしないわよね。

 なんて相変わらず、自分勝手さは抜けていなかったけど、クラウスのことを悪くは思わなくなっていた。

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