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第八話 女神の役目

あらすじ 大きな鳥に喰われた、そんでいっそ役に立ってねぇな俺、以上!

 

 「生臭、ベタベタ、狭い、最悪」


 もう駄目かと思ったのだが光喜は無事だった、寧ろ文句をたれる余裕すらある。


 凶鳥は光喜を飲み込まず、口に放りこみ運んでいたのだった。


 口の中は大きな舌の上に光喜を乗せて、光喜は上下左右に揺れる。


 凶鳥は人影のない場所を探してさ迷い、王宮の広い庭の塀と木の物陰につくと、ようやく足を止め光喜を口から吐き出した。


 「うわっ!!」


 繊細な動作を凶鳥に期待はしてはいけない、乱暴でないにしても実に動物らしい動きで口から光喜は出された。その際に多少お尻を打ちつけたのだった。


 「いてて…」


 なんて悠長にお尻を撫でている暇はない。なんとかベタベタする体を持ち上げて立とうとするが、目の前の凶鳥の顔に体は硬直した。


 もう手を伸ばせば触れるほどに凶鳥の大きな顔が光喜の前にあり息を呑む、この体験は今日で何度目だ?


 じっくり凶鳥は光喜を観察すると、大きな嘴を再び開けた。


 今度こそもう終わりか?と光喜は力いっぱい目を閉じ、歯を食いしばった。カラクも居ない、つか人すらいない。絶体絶命だった。心の中で南無阿弥陀仏を唱える。

 

 ベロ


 「へ?」


 なんか生暖かいものが俺の頬を撫でた、しかもこれはさっき嫌ってほど嗅いだ臭い…。


 そっと光喜が目を開けてみると、凶鳥は大きな嘴を開け、また大きな舌で光喜の頬を舐めた。


 キョトンとしていると凶鳥はテンションが上がってきたのか、今度はベロベロと光喜の顔を舐めまくる。


 構造は鳥なので大きな嘴を開け、光喜の頭を口にいれて舐めているのだから一見すると食われているようにも見えた。でも食う気があるのならとっくに胃の中に入れてもおかしくない。


 気が済んだのか今度は嘴を光喜から退けると、自分の顔を光喜に擦り始めた。光喜も押しつぶされないように両手で凶鳥を抱えて抱きしめてやる。


 食う気はないのか…というより懐いている?


 近所にいる大きな犬と同じような行動を凶鳥はとった、頭を擦りつけたり凶鳥なりに甘えた様な声を上げたりして擦り寄る。


 ごわごわした羽毛は硬い、重い。でもちょっと可愛く感じてきたりもする。


 光喜は凶鳥にとって小さな手で撫でてやると、嬉しそうに目を細めた。


 「よしよし、お前食うつもりで俺を追っていた訳じゃなかったんだな」


 グルル…グルル…などと喉を鳴らして光喜の呼びかけに応えているようだった。


 うーん、このままコイツを人に慣らしていけば共存できるんじゃないのか?などと子供らしい能天気な考えすら光喜には浮かんできていた。


 実際にはもう何人という人間を殺してきているので其れは不可能だ。光喜にとって無害でも凶鳥は光喜の目の前でカラクを殺す気でいたのだから。


 さっきまでの騒動がうそのみたいに光喜は凶鳥と戯れたが、急に凶鳥が大きな頭をもたげ周囲の様子を窺う。


 ギョロギョロと左右を確認していると思ったら、頭で光喜を木の陰に押し込んだ。


 「ちょっ…なんだ?」


 グイグイと木の陰に押し込められ、どうしたのかと凶鳥を見ると、凶鳥は後ろを振り返り周囲の警戒を始めた。


 突然何かが跳んできた、そんなに太くはないが長細い金属が地面に刺さる。


 それは投げ槍だった、一本地面に刺さると続くように何十本と槍が降ってきた、無論のこと光喜にではなく凶鳥に向かって。


 光喜は木の陰に身を潜めているので槍が刺さる心配はない。


 凶鳥は槍から逃げるため走り出した、いや親鳥を気取っているのか光喜を守ろうとする行動だった。凶鳥が動くと覇気ある声が通る。


 「女神から離れた、網を投げろ!!」


 誰だと思い、木の陰からはでられないので耳を澄ます、カラクではない。


 運動会の綱引きに使うほどの太さをした綱を編んだ巨大な網が凶鳥の頭に向かい投げられた。凶鳥も避けようとするが傷ついている足に向かって槍が飛んできたため気をとられてしまい、頭から網を被った。


 「騎馬隊!!」


 再び指示が塀の上からなげられる。指示に従い、人を乗せた馬が数十頭ほど凶鳥の前にでた。網についている金属を急ぎ、槍を投げていた兵士が馬の金具と取り付ける。


 その間凶鳥が動かないように塀の上にいるずらっと一列にならんだ弓兵が、一斉に凶鳥に向かい弓を放つ。


 まるで矢の雨だ。たまらず凶鳥も悲鳴を上げた。


 「クワアアアア!!」

 「よし、牽け!!」


 網を馬につけ終わり、騎馬隊が声に応えるように前進を始めた。


 引っ張られた網に凶鳥は足を負傷していることもあって、倒れた。大きな音を響き渡らせ土煙が立ち上がる。


 無論、凶鳥とて黙っていない、もがき暴れるので網を牽く馬の何頭かが騎馬兵ごと仰け反り、嘶きながらひっくり返った。それでも構わず馬を前進させ、凶鳥は身動きがとれずもがく。


 「光喜ーーー!!」


 木の陰に隠れていた光喜が空から名を呼ばれた、声を追って顔を空に向けると、ヒポグリフに乗っているカラクからだった。


 「カラク!」


 木の陰から飛び出す、するとカラクが上空から何かを投げる。それを受け取ると自分の剣だった。


 凶鳥に咥えられて運ばれる途中に腰の紐が切れ、落としてしまっていたらしい。今の今になって無いのに気づいた。


 「俺が隙をつくる!お前はあの鳥をその剣で切るんだ!どんな小さな傷でもいい!!」

 「でも!!」


 剣を光喜は握る、怖いからではない。ほんの少しあの凶鳥を殺すのに躊躇う。


 「このままでは多くの人間が殺される。救えるのはお前だけだ!」


 そういうとカラクはヒポグリフの綱を打ち、凶鳥へ向かっていった。


 救うってなんだよ!?


 カラクは考える時間なんてくれなかった。いや、時間などなかった。


 ヒポグリフはカラクを乗せたまま凶鳥へ急降下してカラクはヒポグリフの背から飛び降り、剣先を凶鳥に向けたまま落下した。


 肉を深く突き刺す音が光喜にも聞こえた。


 凶鳥の後頭部に深く刀が刺さる。さすがの巨大な凶鳥でさえ、痛みに首をそり返してわめき散らした。


 耳を塞ぎたくなるような鳴き声。


 「やれ!!」


 カラクが暴れる凶鳥の頭に刺さった刀にしがみつき叫ぶ。


 光喜は何も考えずに剣を鞘から抜き、邪魔な鞘はそこらに投げ捨てた。


 「ごめん」


 渾身の力を込めて無防備になっている凶鳥の首に剣を刺す。


 すると凶鳥は電池をとったおもちゃのように硬直した。


 ただ刺さっているだけだ、剣先が数センチ硬い皮膚に阻まれてそれぐらいしか刺せなかったのに、動きを完全に止めた。

 

 一、二秒沈黙のあと、剣と凶鳥の微かな隙間から黒い煙が噴出した。それは噴水のように線を描いて漏れる。

 

 光喜は驚いて剣を抜く、今度は剣の抜いた傷から大量の黒い煙が、それがまわり凶鳥の周りを包む。


 すっかり凶鳥の姿は煙で見えなくなった、渦巻く煙は段々空に昇り一つの球体に纏まると、光喜に向かって飛んできた。


 とっさに剣を構えた光喜を無視して剣に黒い球体は吸い込まれていった。


 「何だったんだ?」


 剣を点検してみてもおかしいところはない、くるりと柄を返してみると、探さねば分らぬほどの本の小さな宝石がついてある。


 光喜の頭に?マークが浮かぶ、どうでもいいか…と暢気に凶鳥がいた網をみてみると、凶鳥は姿かたちもなかった。


 死んだのかな、と少しだけ気落ちをしていたら網の隙間からポンッと小さな生物が飛び出した。


 「コッコッ」


 それは雄鶏である。光喜は怪訝そうな目で見ていると、ニワトリは何も考えてなさそうな顔で何処かへ駆けていった。

 

 「マジで訳分らん」


 光喜が呟くと、カラクが近づいてくる。


 「よくやった、霧を祓ったな」

 「何が何だか、今はつかれたけど後で説明しろよ」


 それよりも遠巻きにゾロゾロと城の兵士たちが光喜の周りに集まってくる。先ほどの凶鳥を捕まえるために集まった人々だ。


 皆つぶやく様に


 「女神だ…本当に女神だ…」 


 呟きは歓声に変わった。


 周囲から大きな女神コールが始まる、光喜はどうしたらいいのだろうと戸惑っていると。


 「そこらへんにしとけ女神が引いているぞ」


 大きな歓声が当たっているのに通る声、聞き覚えのある声だ、凶鳥の討伐に指示を出していた声と同じ。


 見てみると、下はキッチリとズボンをはいているのだけど裸の上半身に軽く衣を羽織っただけの逞しい男だった。首には黄金のネックレスが揺れ、金属の音色を奏でる。


 男の通る道を兵士たちは波が引くように譲り、男が光喜とカラクに近づく。


 両手を広げて男は。


 「ようこそ女神様、わが国、わが城へ」

 「アンタ誰?」


 光喜が奇妙な顔をすると男はニカッと笑う。


 「女神でも知らないことはあるのだな?俺はモラセス、一応皇帝」

 「え?」


 光喜の中の王様は髭が生えて杖をもって赤い毛皮を肩にかけているイメージだった。そこにいるのは若干チャラ男の臭いがする若い男がいた。


 コレが皇帝、マジで?

書き溜めていた小説がそろそろ尽きそうです。これから少しペースダウンするのは了承くださし。

そしてお気に入りに登録してくださった方や評価をくれた方に感謝感謝です。

少しでも楽しんでくれたらもう最高に幸せ。

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