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第四十三話 運搬中

あらすじ 口すっぱく言われてたのに攫われちゃった、以上!

 



 光喜とカラクが五分前までいた場所は、ガレット帝国のご自慢の離宮。帝国のかなでも最も高貴な御仁を迎える宮殿、万が一を考え警備も設備も充実しているはずだ。


 しかしこうもアッサリ侵入を許してしまうとは。


 カラクが漸く見えてきた目に鞭を叩き、前を見る。


 自分の命に代えてでも守るべき存在。


 女神……いや、光喜がいない。


 何処を見てみ純白の髪をした少女はいない、視線をさ迷わせて光喜を探すが何処にもいない。


 カラクの胸に奪われたという文字が染み広がり、拳を血がにじむほど握り締めた。


 そうすると、カラクの後ろの大門が開き王宮にいた騎士が列を作って離宮になだれ込んできた。


 離宮のとんでもなく広い庭にいた残党の男どもに騎士は剣を向けて、戦況状況は一変した数多くの騎士が離宮に入り込んだ男どもを切り捨てていく。


 無情な光景の中で刀も構えず立っているカラクは異様に見える。


 「おい!どうなっている!?」


 光喜がいた場所を睨んでいたカラクに、後からやってきた皇帝陛下直属騎士隊長のカートンが低い声を荒立ててカラクに詰め寄る。


 「光喜が攫われた……探しだせ、何が何でもだ!」


 カラクはカートンを睨む、用件だけ伝えると上空に待機していたヒポグリフを口笛で呼んだ。


 「皇帝に伝えろ、見つけられなかったら殺すとな」


 ヒポグリフの手綱を引いて、カラクはカートンに言い捨てると光喜を探すためにヒポグリフに跨り空へ登った。


*** 


 「畜生!また狭くて暗い場所に閉じ込められるのかよぉぉぉ!!」


 攫われた当の本人、光喜は体がスッポリはいる正方形の木の箱に入れられて密封された状態で運ばれている。


 箱から伝わる振動からして人の手で運ばれてはいない、何かの乗り物。


 思ったより箱の中は狭くなく、沢山のクッションが敷き詰められて体には負担は掛からないけど心が折れそうだ。


 この状況で、グリエの爺ちゃんの力でも俺の魔法でもぶっ放せば「箱」からは出られる。その代わり俺の周辺には大被害。


 どうしょう……人気のない場所ならともかく、関係のない人まで巻き込むよな。


 光喜はボリボリ自分の頭をかく、腕輪の中には神剣があるからそれで箱壊すか?


 ん?待てよ?


 ちょっと考えて光喜は自分の腕輪を触った、立体的なSFチックな地図の映像が出てくる。


 場所は……城下街を移動中、まだ街から出てなかったんだ。周囲から街の喧騒が聞こえてないって事は、一度モラセスと一緒に城下街にお忍び下りた地下水路を使っているのかな?


 多分、自分の推理は正しい確信している。ホスト皇帝も避難路として利用していたって言ってたもん。


 中は複雑な迷路になっていて、モラセスの相棒である土の精霊の案内なしでは絶対に俺は外へはたどり着けないって程の水路。


 あ~あ……大変な事になったなぁ~、無事に帰れても絶対カラクに説教を受けるわぁ~。


 ここ最近になって女神の存在がバレ、カラクやモラセスたちが口を酸っぱくして間者がいるから気をつけろ。


 と言いつけられたので、空想の中では何度も攫われたらどうなるのだろうって……考えなくもなかった。


 でも実際になってみると、実にいやなもん。


 「お姫様ご機嫌はいかがですかぁ?」

 「最悪最低だよ!ボケ!!」


 光喜の頭上から男の声がする。愛想が全く欠落した返事を光喜は返した、ついでに箱を足で蹴る。


 光喜の予想通り、女神の光喜を攫うために襲撃した男どもは、光喜を箱の収納した後に箱ごと運びガレット帝国の王宮がある城下街へ逃げて四方に広がっている下水を小さな船で移動していた。


 船は屋根もなく実にシンプルなタイプで、数十人の男と一つの箱が運ばれていく。


 ガレット帝国の都市であるここは、発展した理由の一つに豊富な水に支えられて、そこから街が造られている。


 今は綺麗な地下水と廃棄する下水に分け、地下の水洞窟を整備して歴代の皇帝が手入れをしてきた。


 しかし地下水路は増築して迷路になっているので逃げ場所にはうってつけだ。現皇帝陛下が地下水を整備しようがクモの巣のように広がっている地下水を全て把握はして無い。


 むしろ、城下街を整備する貴族が自分の貯蓄を増やすために別に必要でもない地下水路を作ったのが始まり、後につづけとばかりに無駄な予算を使ってモラセスがメスを入れるまでは野放しの状態だった。


 貴族が帝国から渡された金を使って、自分に賄賂を寄越し媚を売る建設に関わる人たちにやらせてきたのだ。


 避難所として造られたがそれ以上に広く、無駄に複雑な迷路になってしまったのが現状。


 足元をすくわれないように、大至急にモラセスが新しく正確な地図の作成をはじめ、悪用されぬように警備の強化をしていた。しかし……。


 あざ笑うように、男達を乗せた船は地下水路を堂々と進む。


 貴族の懐に入る金を増やすのに、巨大な地下水路は長年かけて増築され、地図も警備の整えも昨日明日で出来るほどたやすくなかった。


 光喜はちょっとゆれる箱にイライラして、内側から蹴る。まんまと攫われた自分にもイラつくが、地下水は臭い。


 どうせ通るなら綺麗な地下水の方がよかった、コレは控えめに見ても城下街から出た廃棄水。


 長年染み付いた異臭はたまらない、マジ鼻が曲がる。


 「はっはっは、やっぱり女神にはきついよな?」


 箱の直ぐ側から男の笑い声が聞こえた、俺を攫った張本人。


 中々長い浮遊感の後に地上に降りる感触、その頃には光りでやられた目は回復して目をあけると目の前には見知らぬ男のアップ。


 ハチミツ色の金髪を後ろの束ねた男、髪の毛はそんなに長くないからオールバックになっている。


 背もカラクと同等に長身で筋肉が引き締まった身体。そして目の色は茶色の少したれ目の泣きホクロが凄くセクシー。


 文句なしの色男、カラクよりもモラセスのようなホスト的な雰囲気がある。


 数回交わした会話で印象では性格イタリア人みたい、ジョークが上手くて女性の外見の俺を褒めちぎっていく。


 お姫さまだの、美しいだの。決してゴマすりじゃなくて「女性を見かけたらナンパしないと失礼」って精神。


 モラセスも大概ホストってイメージだったが、コイツはもう本業じゃねえ?みたいな。


 まったく俺の周囲にはいい男禁止条例が作った方がいいと思います。こいつも絶対女にモテるしぃ!羨ましいーんだよ!ビッチ!!


 あまりの色男ぶりに無意識に男の顎を殴ってやろうとして腕を振り上げた瞬間、俺は現在入れられている箱に押し込まれた。


 後はえっちらほっちら運ばれて、これさ……。


 男は俺の入っている箱の側でずっといる、退屈しないように時折話もかけてくるが大半俺は無視してやった。最初はね。


 だけど男はひつこい!暇なのか何度も話しかけられたら俺も反応しちゃって会話成立。


 いや、俺が「いい加減にしろ!!」って怒鳴ったら爆笑しやがるんだもん、俺も意地になって黙っているのが馬鹿らしくなった。


 まっ俺もずっと暗い箱の中にいると、頭が可笑しくなりそうになっちゃうからなぁ。


 自分の膝を抱える体操座りで大人しくしている箱の上から音がする、近くにいた男が歩いたらしい。そして箱を軽くノックする音。


 「や~お姫様、ちょっと揺れるからじっとしてな?」

 「へ?」


 ガクン


 音は鳴ってないが、表現するなら擬音の「ガクン」としか表せない。空気穴が空いているだけの箱の中において俺は何が起こったのかわからないが、体全体が箱ともども傾いたのは分かった。


 ギョッと目を大きく光喜は開く、対処したくても出来ずに流れのまま自分の身を任せる。


 ゆっくり動いていた船が、段々と揺れが激しくなり体がガッタンガッタン揺れる。


 両手両足を突っぱねて体を少しでも安定を図ったが、無駄で無理。


 「ひええええぇぇ!!」


 わからないまま光喜は悲鳴を上げた、箱の近にいた男の声が響く。


 「おら!お待ちかねの滝だ、全員船にしがみつけ!!」


 っ!!……ちょっとまてーーーー!!確かに聞こえたぞ?!滝だって?!!ああっザーって滝の音まできこえてくる!!


 光喜を乗せた数十人は乗れる船は、数メートルはある大きな滝に引き寄せられていく。


 船は飛沫を上げて落下する水の先に連れて行かれるが、もう抵抗は不可能な場所までやってきた。


 「はっはっは楽しいな!!」


 楽しくねーよ!!


 箱の外でビッチな声が聞こえるが、俺は悲鳴を上げるのに全身全霊を込めて精一杯。


 俺は人生で初めて、命の保障が守られていない垂直落下を体験した。


***


 「それで女神殿を攫った張本人はこいつか…」


 王宮の堅固な謁見の間で、モラセスが渋い顔で一枚の書類を睨みつける、最近入隊した魔術師部隊のリストだ。


 「どうなっているのでしょうか、陛下?」


 ニーダも皇帝の近くで書類を睨む。隣には騎士隊長のカートンと、空から光喜を探していたカラクが立ち並ぶ。


 本来なら皇帝陛下が座る玉座は階段があって、その下で皇帝の僕が立つのが通例だったのだけれどモラセス気にしない。


 そんな格差を見せ付けて浸る下らない優越感なんぞ、犬にでも食わせればいいと考えている。


 「この男、プラリネ。最近になって騎士になった魔術師部隊の1人だ」


 カラクに見せるように男の資料を差し出すと、無言で受け取る。


 「優秀な魔術師で水の精霊と契約して普段の素行も上々、でもな…」


 最後の所だけ意味ありげにモラセスが言うものだから、全員がモラセスの次の言葉をまった。


 「……無いんだよ、コイツの戸籍。大方戸籍をどこぞの役所に金で名前を買った異国者だな」


 カラクは渡された資料をザッと読む。


 成績は上位、部隊の同僚にも人間的な評価も高かった。何より陽気な性格でムードメーカでもあり、最近になって力を入れている魔術師部隊のエースとなる期待の星であった。


 「今回の首謀者と考えてもよさそうだ」


 状況としてプラリネという男が、離宮に仲間の男達を入れたと考えても不自然ではなかった。


 資料を読んでいるカラクにモラセスが呟く。それにカラクが目だけを動かしモラセスを見て問うた。


 「それでどうする?『羽』を探すのはお前1人では無理だぞ」 


 カラクにモラセスは口だけつり上げて笑う。


 「お前は俺が大人しく、指を咥えて見ていると思うか?女神という付加価値を除いても面白い女だよ、女神殿は」


 ニーダはモラセスを睨む。


 「わたくしも同感ですじゃ、一刻も早く麗しい女神様を取り戻さねば」


 私情がありありとにじみ出るニーダにカートンも笑い。


 「皇帝直属の騎士と兵士の準備は万全ですぜ、若?」


 カートンが歩いて皇帝モラセスが肘をついて座っている玉座の下へ移動し、一番手近の窓を隠しているカーテンを引っぺがした。


 窓の外にはガレット帝国の精鋭部隊、皇帝直属の騎士を前列にガレット帝国の王宮にいる兵士が、所狭しと武器を持って立っていた。

 

 「守護者の俺から光喜を奪った事を後悔させてやる」


 カラクは背中にある刀を強く握る。それを横目にモラセスは薄く笑う、しかし目は笑ってない。


 「どこの馬鹿かは知らんが、お望みどおり……殺戮を始めよう」


 モラセスの呟き、玉座から立ち上がって近くに置いてあった物を掴む。


 それは黒に近い紫色の大きな剣だった。


 「さて、まずは女神殿の巫女と女神の騎士のいるエマルジョンへ行くぞ」


 久しぶりの戦、楽しませろよ?


 モラセスの静かな興奮に応えるように剣の刃が光りを反射して輝いた。


***

 

 「大丈夫かい?お姫様」


 光喜の入っている箱を男があける、光喜を攫ったイタリアン気質の金髪の男だった。


 「だいじょばない……」


 箱の中の光喜はひっくり返り、女神とは程遠い体制で倒れていた。


 滝から落ちた船は見事に水面に着地した。しかしその衝撃で光喜は箱の中で小さな前転(前転がり)を二回半ほど披露。


 おかげで、金髪の男が蓋を開けるとまず目に飛び込んだのは足だった。


 「ほら、起きろ。もう箱から出ても大丈夫だ」


 手を光喜に向かって差し伸ばす、光喜も奇妙な体制でいるのはお断りなので素直に手を握って箱から出る。


 箱の外はまだ地上ではないが、箱よりは広くマシ。臭いけど。


 金髪の男の後ろからは、手下みたいな男達が此方を窺っていた。


 光喜はザッと人数を数える29人……悲しいかな俺はコレだけの相手に戦って勝てる自信はナッシング。


 魔法は先ほど述べた通り、却下。皆丸焦げ、俺は人を殺したいとは思ってない。


 「お礼は言わないぞ?俺がこうなったのはお前らの責だからな」


 超怖かったので光喜は男達に噛み付く。


 「別に構ねぇ~よ、こっちで勝手に頂く」


 そういって金髪男は光喜を引き寄せ、頬に軽くキスをする。


 光喜は数秒の間、呆然として大きな悲鳴を上げた。


 「ひえええええぇぇ!!バッチイ!!」

 「汚いとは酷いお姫様だな」


 ゴシゴシと発火しそうな勢いで自分の頬を手の甲で擦る光喜に、金髪の男は笑う。


 俺ぇは男だ!どんな色男でもキスは全く嬉しくないぃ!寧ろ鳥肌もの!!


 「悪いな、守っているのを奪いたくなるのは海賊の性なんでね」

 「へ?お前達は海賊なん?」


 目の前の男は意味ありげに笑う。後ろの男たちも光喜と視線があると頷く。


 「いかにも、俺はプラリネ。10の島の一つ、サチネット島周辺を根城にしいる海賊の頭、以後よろしく」


 プラリネは重々しくお辞儀をする、勿論嫌味がっぷりの口調で。


 「ふん、どうせ俺を売るんだろうが、女神は高く売れるらしいって聞くからな」

 

 俺の言葉にプラリネは顔を上げる。


 「まさか、海賊は奪った宝を売る事はしない。そりゃ三流のする事だ」


 光喜の手を取り笑う。


 「大事にしてやるよ」


 俺は白けた顔をプラリネに向けたのだった。 

 

こんばんわ、長毛種の猫です。

今回も大変更新が遅れました、年末の責にしときます(逃亡)

新しい話の展開ですが、今の流行であります海賊を出してみました(古い?)

新キャラのプラリネは中々気に入っているので、皆さんにも気に入られるといいな~って書いていて思いました。(笑)

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