第四十二話 さよなら海の幸
あらすじ ゴメン、俺落ち込んでる。……以上。
珍しく俺シリアスな思考で頭が一杯だった。はあ?お前にそんな頭ないだろうって?
いえいえ、マジで真剣に考えてんよ?こんなに頭を使う機会は他にないってくらいに。
考えている内容が、今日の飯はアレが食いたいとかアホなどうでもいい事じゃなくて…。
ゴメン、ちょっと混乱している上手く纏められない。俺はやっぱり頭悪いから頭ん中がぐちゃぐちゃになんだわ。
こんなに考えるキャラでもないしね。
誰に言う訳でもなく、光喜は1人で生産性の無いモヤモヤした気持ちでベットに転がり……ベットなんか無いっつーのぉー!
今、俺がいる場所何処だと思う?狭い臭いバッチイ倉庫ですぜ?ベットも無けりゃ窓すらない。
暗い、臭い、狭いのKKS。
俺の状況超監禁、やっ別に俺が誘拐されたとかじゃなくて乳ハンターのカラク(アホ)に此処へ宿につくなり押し込まれた。でなけりゃ頼まれてもここにこねぇーよ、最上階から二番目に高い高額な部屋を借りてたんだぜ?
シナモンと会って、一騒ぎを起こしてからもう結構夜も更けてきた時間まで此処に俺は虚しく一人ぼっち。
上の階の俺が泊まる予定だった部屋があるのが恨めしい。
フカフカのベットは勿論あってさ、部屋で食事が出来るほどのテーブルもついて中々上等の宿だから完璧に綺麗に清潔。しかも風呂は王宮では当たり前にあるが、シャワーまで付いている宿は中々ない。
こちらの世界は科学的なものは発達してないのでシャワーの仕組みは単純で明快。屋上にはお湯を沸かす人がいてその人が下の階にお湯を送ってる。
普通の宿は共同の大きな浴室を皆で仲良く使うか、最低レベルの宿だったら木の床に薄い毛布を敷いて寝るんだって。俺はまだそんな宿は泊まった事無い。
寧ろ最高ランクの王宮にある離宮を使わせてもらっているから、倉庫にドキドキワクワク監禁★はい、キッツー!
コレが贅沢に慣れたってことかい?でも言わせてくれ!まだ木の床に毛布のがマシじゃぁーこん畜生!!
あれ~俺ってこの世界じゃ女神様ってか、すんごい偉い神様じゃなかった?あーそれが原因だったね。
唯一無二の女神である俺がシナモンと会ったから。他の闇の使徒とか俺を狙う間者とか諸々の危険を考え、囮にマリを俺の部屋に寝かせて安全な場所に(宿の倉庫)にポイっとな。
で、このザマやっほーい!……あの乳もみ死ね!!
俺の扱いひどくない?暗くカビ臭い部屋で薄ら笑をして体操座りをしているしかない。
ははは……孤独。
薄ら笑いを止めて、光喜は静かに天井を見つめる。
部屋がどうとかはともかく光喜が考えているのは、シナモンとカラクに関して。
目にも悪いからささやかな明かりを腕輪からライトを出して、押し込められた部屋を照らし光喜をさらに憂鬱にさせた。
気分も昼間のシナモンとの一件があって、何度も光喜の口からため息がこぼれる。
らしくないんだけど、俺ちょっとカラクと一緒だと居心地が悪い。避けているとかカラクに引いているって訳じゃないはずなんだけどな……。
決定的な意識の違いか?うーん分かりやすく伝えられないけど。
誰もかもハッピーになれる方法なんて無いのに探してしまう、シナモンと最初に出会ったあとに闇の使徒ってだけで死刑の対象になるって知ってから、ガレット帝国の皇帝をやっているモラセスに問うてみた。
闇の使徒を迫害の対象にせず、受け入れられないかと。
ちょっと苦笑いしたモラセスからは「疑心暗鬼になって殺しが横行するが、いいのか?」って。
なんだ?そりゃって話だけど、自分の隣に闇の使徒がいるかもしれないって民は隣人を疑うんだって。闇の使徒の存在を俺が許すと。
俺が許すとは即ち、それが世界の摂理になってしまう。表面では争わないが闇夜に隠れて闇の使徒のあぶり出しが行われる。
俺は自分が女神という役割、ノア・レザンの人々から聞けば嫌な顔をされると思う表現だけど、使命とか運命とか重い言葉でない。
ゲームの世界へある日突然紛れ込んで、俺のステータスは女神って誰かが選択して入力した感じにしか受け取れない。
本当の神様か何かが適当に矢を放ち、ものすごく不幸か幸運をもって俺が抽選で当選しちゃったみたいな?
長くなったけどね、俺が言いたいのは。俺は別に女神として崇拝されたいわけじゃない。
女神がたまたま俺だったってだけの事、俺はソレくらいに軽く受け止めている。が、ノア・レザンの民にとってはとてつもなく重要。
女神は「原罪の霧」を浄化できる唯一の神、そして天地創造をした全ての絶対神。
女神とは即ち、世界そのもの命の輝きと同じ。全てが女神、女神こそ最上の至高の存在。
嗚呼、今日も感謝をして女神を称える賛美歌を……。
それがこの世界の常識だとさ。
巨大な権力を馬鹿な俺の手に置いちゃって、ノア・レザンの人たちも運がない。
黙って天井を見つめていた光喜は、手で頭を押さえた。
嫌になる……。
光喜は頭を振って、肩が動くほど大きなため息をつく。
『そんな女神を疎んでいる存在の闇の使徒を、ノア・レザンの9割以上が崇拝している女神側の民が許すか?』
モラセスに逆に聞かれて、俺は言葉を詰まらせた。確かに許せない。
それなのに俺が簡単に「やっほー!皆仲良くしようぜ!今日から闇の使徒も認めちゃおう!!」とか言った日には大混乱。
それでも女神に対して敵対心を持つ同じ人間を、女神側の信者は恥と怒りを闇の使徒に対して抑えられない。
だから、皆隣に座っている人は闇の使徒か?って疑心をもって地球で中世の時代にあった魔女狩りみたいな暴動が様々な要因で引き起こされる可能性がある。
モラセスは俺に、珍しく懇々諭した。皇帝としては餓鬼の俺が馬鹿なことしでかさないように、民が犠牲にしないようにする為、めったに拝めない目だった。
顔は普段通りふざけていたが、やっぱり皇帝の座に座る者。その辺の分別はついている。
責任の重いポジションに居る男の顔だった、それに比べ俺は……。
ネガティブな思考の海にドップリ浸かっていた俺は、ピクッと顔を上げて耳を澄ませる。
やはり違和感と人の気配がした。
光喜は少し天井が騒がしくなったので耳を壁にぴったりくっつけて、少しでも音を拾おうと目を瞑った。
上の階は俺達のほかに客は居ない、今数人分の足音が俺のいるはずだった部屋に向かって歩いていく。
誰?なんて疑問に思う前に、俺を攫いに来た間者だ。間違いない。
世界中で一番の人気者の俺は、いつもファンにつき狙われるのは宿命ね。
でも、残念だったな。俺がふっかふかのベットに寝る予定だった寝台にはマリさんが寝ていらっしゃる。
間者が来るのを予想して、一番上の階の部屋に俺が寝ていると見せかけて実は俺は直ぐ下の階の倉庫に避難(別名監禁ともいう)しといて、マリが囮に俺の部屋に泊まったって寸法。
カーテンは閉めているが、マリがワザと窓に何度か影を映して人がいるアピールさえすれば、間者ホイホイの完成。
ホイホイされた間者と一悶着やっていらっしゃるらしく、上の階からギッタンバッタン物が壊れる音と人の悲鳴。
何人間者が俺を攫いに来ても無駄ぁ!だって寝台にはマリが寝ているけど、その部屋にはカラクが部屋の隅っこで立っているんだもん。
ついでに俺がいる倉庫の前には、エーリオが仁王立ちして待ち構え完全防御体制。
スタンバイオッケーなカラクと、対等に戦えるほどの戦士は未だかつてお目にかかってない。
暫くガッタンゴットン上の階が騒がしかったけど、うって変わって静かになった。
俺が壁から耳を離し、床に腰を落ち着けて暫くして倉庫のドアが開く。
ドアの向こうにはカラクが居て、大股で俺に近づくと俺の腕を引っ張って立ち上がらせた。
「いって!もうちょっと丁寧に俺を扱え!」
乱暴な動作で引っ張られ、握られている腕が痛む。でもカラクは知らん顔で廊下に俺を連れて行き、そのまま外に向かって階段を降りていく。
「今のうちに王宮へ帰るぞ、俺とお前だけ出発をして残りの3人は餌にしてお前を攫う連中の注意を引いてもらう」
用件だけ俺に伝えると、カラクは急ぎ足でヒポグリフを預けた小屋に俺を掴んだまま行った。
馬を入れる厩ほどの大きさに、ヒポグリフと真ん中に大蛇一番奥にコカトリスが行儀よく並んでいる。
しかし心なしか、ヒポグリフとコカトリスの間に挟まれた大蛇の顔が、やつれているのは俺の気のせいか?
「でも、大丈夫なのかよ?みんなは間者の標的になるんだろ?」
「その程度で如何にかなる奴らじゃない、いいから速く乗れ」
小屋に着くなり、ヒポグリフを柵から出して馬の鞍みたいに人を安全に乗せられる道具を全部装着し終わったら、俺の胴に腕を回して持ち上げ、ヒポグリフの上に強引に乗せた。
ついでに風除けの役目もする、純白のフードつきのマントも俺の頭に被せた。カラクには珍しく余裕のない動作に俺はただ黙ってカラクを見つめる。
そして小屋から俺を乗せたヒポグリフの手綱を引いて出すと、カラクも光喜の後ろに乗馬を素早くして息をつく暇もなくヒポグリフの腹を蹴り、ヒポグリフは羽を広げて空へ飛ぶ加速をはじめた。
エーリオと双子姉妹を置いて、宿から空中へ飛び出す光喜とカラク。光喜は強引な展開に少々ついていけてない。
ぽか~んとしている間には、すでに港町から離れていく。
俺は何のために三日も掛けて遥々エマルジョンまでやってきたのだろうか、海で遊ぶのも海の幸も満足に味わってない。
カラクに怪我を負わされたシナモンが無事と確認できたのは、思わぬ大きな収穫だったけど微妙な距離感をカラクと作っちゃうし。
心が疲れたバカンスになってしまった、原罪の霧にとり憑かれた穢れし者を浄化しに来たわけでもなく純粋に休暇として訪れたのに、こんな形でお別れとは心残りの限り。もっと美味しい物たくさん食べときゃ良かった。
夜の空は二つの月と星で綺麗なのに、光喜の心には影を落す。電気の明かりが溢れている日本じゃ珍しい月で出来る影を見ても余り慰めにはならず、黙って離れていく海を横目に帰路へついた。
***
聞いてください奥さん、俺は港町エマルジョンに行くまで休み休みで王宮から三日かけて行ったんですよ?それがその日にとんぼ返りトホホ…。
でもちゃんと俺もあの港町が既に女神の俺がいるって、他の帝国から放たれた間者なんかが集ってきている場所にいたくもない。駄々をこねず素直にヒポグリフに乗っている。
しかし、一晩や一日では王宮のある首都にはつかない。カラクが1人でする旅ならともかく、俺は全力でも二日は掛かる距離をずっとヒポグリフの上では過ごせなかった。
何もしていなくても疲労はたまる、普段陸上で生活している人間の定めだ。カラクは光喜の顔を窺い手綱を操作してヒポグリフを地上に降ろさせた。
目指したのは森の端、森の中には夜行の肉食系動物がうろつく危険もある。長居をするつもりもなく、光喜が軽く仮眠を取れたらまた移動を開始するのだ。
地上に降りても、俺は地面にどっかり座ってお茶を作る余裕も無い。カラクの要求ある物だけ腕輪から無言でだすとカラクは手馴れた様子で近くにあった木の枝を自然破壊ヨロシク手で強引に折っていく。
枯れ木のほうが火のつきはよろしいが、薪を拾ってくる時間に光喜の側を離れるのを嫌ったのと面倒なのがブレンドされた行動に光喜は眼で追う。
な~んにもしてないのに疲れた、長時間ヒポグリフの移動で風を受け続けたので体がガチガチに固まっている。首と腰を動かしたらいい音がしちゃった。
「あのさ、新しい刀は手に入った?」
「ああ、間に合わせになるだろうが今は十分だ」
光喜の質問に答えながらカラクは集めた木に油まいて火をつける、火は俺の腕輪に収納していたマッチだ。
油と接触した火は小さい爆発を起こしてメラメラ燃える。
特別カラクの刀に興味があったわけじゃない、カラクは基本話かけないと喋らないので会話をふっただけ。普段は無言でも気疲れなんて感じないのに、何だか無言でいるには居心地が悪い。
俺がいた地球はまだ夏の前だけど、ノア・レザンはこれから秋になろうとしている季節。ちょっと肌寒いのでマントを隙間が無いように引寄せる。
ぶ厚いので、防寒効果は高い。ジャケットほどじゃないんだけどコレで寒さは凌げる。
「俺な…」
お前達の足手まといか……って聞いちゃおうと思った。こちらを見ているカラクを前に喉から言葉が出てこない。十中八九、イエスって返ってくるのが分かっていても。
視線をそらしてそれから言葉が紡げない光喜に、カラクは手にしていた木の残りを放り込む。
「何を考えているのか検討はつく、だがお前は何も考えなくていい。お前は俺が守る、それだけだ」
カラクと双子姉妹、エーリオたちに守れていればいいってカラクは言ってくれる。だけど。
光喜は膝を抱えて顔を膝にうずめた。
(だから嫌なんだよ)
ただのお飾りでいるのは。
結局それ以上の会話はせずに、焚き火が燃え尽きる頃には出発をして急ぎ王宮へ俺達は二日かけて戻った。
***
王宮の俺が寝泊りしている離宮の庭に、ヒポグリフがお昼過ぎに頃舞い降りた。
俺達に気付いた帝国の皇帝陛下直属の騎士が集って、そこにいる人数分で迎えに集る。予定よりかなり早い帰還だ、出迎えの準備がないのも無理は無い。
今日は魔術師の騎士も混じっている、見張りには剣を腰に提げた騎士が多いのに珍しい。
魔術師は礼服の濃い青の金の刺繍でガレット帝国の刻印を縫いこんだ長いローブ、伝統ある格好らしいがフードも深く被っているから相手の顎くらいしか光喜には顔を窺えない。
1人の騎士が光喜とカラクの前に来ると、膝を地面につき口上した。
「お帰りなさいませ、女神様と守護者殿の旅のご無事大変喜ばし「皇帝はどこだ」」
口上を遮って、カラクがモラセスの居場所を騎士に聞く。まさか遮られるとは思っていなかった騎士は数秒ためらい、膝をついたまま再び口を開く。
「皇帝陛下は本日の政務に勤められていらっしゃいます」
「ならば俺が直接皇帝の所へ行く、光喜は部屋で休め」
ヒポグリフから光喜をカラクが降ろすのを手伝い地面についた光喜はクラリと、平衡感覚を少し失ったのを感じてカラクの命じるまま頷いた。
「そうする、疲れた」
ここは離宮の庭、俺が使わせてもらっている部屋は側にある。カラクがヒポグリフを騎士に渡すのに光喜から数歩離れた。
瞬間、何かが光喜とカラクの間に投げ入れられた。
カラクが腰に提げている魔法具と似た筒が一つ。
カラクはハッとソレを見つめるが、突然にソレは爆発した。
物理的に爆発したのではなく、閃光弾の焼け付くような光りと爆発音だった。
カラクは眼帯で覆っていない目に、凄まじい光が入り込み目を押さえた。勿論光喜も目が眩み、耳がキーンと酷い耳鳴りが響く、そして頭が真っ白に染まった。
例えるならば、不意に殴られたように何も考えられない空白な状態で、光喜は本能的に体を前屈みにして小さくなろうとしたが、誰かに腕をつかまれて持ち上げられる。
「光喜ぃぃ!!」
カラクの声が耳鳴りの間に聞こえた気がした。
目がカチカチして開けられないけど、腕に抱かれている感触からお姫様抱っこされているのはわかる。そして段々と耳鳴りは治まってきた。
「よし、お姫様は俺の腕の中だぁ!いくぜ!!」
聞きなれない男の声が頭上で響き、四方八方から数十人の男が出てきて騎士ともみ合っている音も光喜の耳に届く。
「野郎ども!陸で死ぬような真似はするな?!死ぬなら海で死ね!いいな!!」
耳が完全に治っていないのに、頭上で怒鳴らないで欲しい。
「「「おおおおーーーー!!!」」」
掛け声に反応する数十名からなる大音量の返答に、光喜のこめかみに血管が浮かんだ。
「いい加減にしろ!!!」
光喜は頭上の男にとりあえずアッパーを食らわせてやろうと、男がいるであろう場所に手を振り上げたが避けられた。
「おっと気の荒い女神様だ、ちょっと大人しくしてくれよな」
苦笑いの声に額に感じる軽い唇の感触、それに光喜は鳥肌をたてる。
ちょっと!俺、でこチューされた!?マジで!!男だろ?チューした相手!!くたばれぇぇ!!
ありとあらゆうる罵倒を口にしてやろうと、光喜が口を開きかけた次の瞬間。
地上から切り離された浮遊感に、思わず男にしがみついた。状況がさっぱり分からない状態では恐怖も倍増する。
しかも腰と尻を支えているのは片腕だけ、さっきまで両腕だったのに現在は片腕で抱き上げられている心もとなさを見破られたのか、男から小さな笑声が聞こえた。
光喜を守る為にいる帝国騎士たちは、数十人の男どもともみ合いになる。状況は騎士の方が不利だ、人数では侵入者の男どもの方が多い。
それでなくても、先ほどの閃光弾で半分以上が直撃を食らったのだから。
カラクとて、視界と聴覚を奪われた状態だったがほとんど気配を辿って光喜の居る場所に走る、しかしカラクが手を伸ばし光喜がいた場所には既に誰もいなかった。
こんにちは、長毛種の猫でございま~す。
やっと更新できました。しかもちょっと何だコリャーーー!?と叫びたくなる展開と出来です。
そして次から漸く、展開が始まりますね。はい、長い前フリでした。
…………出直してきます。