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第四十一話 友だち

あらすじ シナモンって不幸体質なんかな、以上

 



 港の潮の匂いとサンサンとそそぐ陽気な日差しなんて興味も無い顔で、2人の長身の男は歩いていく。


 カラクとエーリオは魔具師ザーネから選りすぐりの魔法具を求めてやってきたのだが、彼女の気が乗らず全くの収穫がないままに街の中心部にやってきた。


 一応ザーネから刀を借り受けたが、どんな性質の魔法具か使ってみないと分からない。魔法具に関してはザーネがカラクの性格や戦いのスタイルを見抜けぬ筈は無いと、カラクは確信している。


 カラクが腰につけている魔法具の筒のような飛び道具ではない武器ならば、受け取った魔法具の刀は恐らく丈夫か切れ味が普通の刀より上等か。そんな所だろう。


 この港街エマルジョンは大きく慣れないので、カラクが考えていた以上にザーネの家に行くまで時間を使ってしまった。


 手ぶらのエーリオには悪いのだけれど、新しい刀を手に入れた今。この街に滞在する理由は無くなった。


 城を出て数日、モラセスがいる王宮まで帰るにも最低二日は必要とする。


 もうモラセスが光喜を一度王宮から出させた目的を果たしているだろうか。


 お忍びとは言えど、これほど数が多い人間が集る中で光喜を置いておく訳にはいかなかった。


 光喜とモラセスのくだらない謁見のまでの茶番をやって、モラセスの兄であるパネトーネ皇子を大幅に失脚に成功した。


 パネトーネ自身には力なんぞあるような人物ではないのだけれど、彼を支持する昔からの血統を尊んでいる派閥は大きな勢力をもっている。


 モラセスとパネトーネが幼少の頃から続いた亀裂、実力とカリスマと王の風格の持つモラセス、または前皇帝の正妻の息子パネトーネか。


 当然のこと貴族も自分が支持している方の皇子が皇帝になってもらいたい。


 その思惑の中でモラセスの一番の後ろ盾は母親である妃、しかし母親は庶民の出。昔は相当の苦労をしていた。


 パネトーネを支持しているのは、高貴な血を持つ者こそ支配者であるべきという考えの貴族ども。


 皇帝となった自分に派手な暗殺や企てが少なくなり大分楽になった現在、モラセス自体その考えを持つの貴族たちなど別段構わない。


 モラセスも全ての配下が自分に従うなんて最初から頭には無い。ただ自分を真っ向から否定し認めず政治まで邪魔ばかりをするのならば排除するのは当然だ。


 数日前に女神である光喜がパネトーネを批難した事によって、急速にパネトーネの支持率が下がり、かつてパネトーネ派の貴族達が、自分の身の保全にあの手この手で生き残り合戦をやっている。


 そのドサクサに紛れ、光喜を狙う王宮外からの間者が王宮に入り込んだらしい。他国の間者か、女神を疎む闇の使徒かは知らない。


 ザーネから新しい刀を譲り受けたかったのもあるが、最大の目的はモラセスが王宮にこびり付いたゴミの掃除している間に危険な王宮から離れ、港街エマルジョンに連れて来た。


 恐らく、ここで光喜が海で戯れている瞬間にも断頭台に権力に溺れ、過ちを犯した貴族が並んでいるだろう。それは光喜が知らなくてもいい。


 モラセスが言っていた、「掃除」とはつまりこう言う事だ。それに王宮に入り込んだ間者の炙り出しにも力が入っている。


 カラクは無言で、人通りの多い商店街をエーリオと共に歩いていく。時々人とぶつかりそうになる程の人ごみを器用にくぐりながら光喜が訪れているであろう屋台の並ぶ大通りを新しい刀を背中に背負い行く。


 光喜が喜びそうな候補として、飲食が多く並ぶ店を探して行ったほうが遭遇する可能性が高いく、子供の光喜が宿で大人しくしているわけが無い。


 このノア・レザンでは武器を携帯して歩くのは旅人ならば珍しくない。しかし武器を抜刀するのは非常識を超えて異常者だった。


 武器の携帯を許されているのは、自己防衛のため。間違っても街中で抜いていい物ではないのだ。


 武器を使う相手は自分を攻撃する賊か魔獣など。


 しかし、カラクはある一点を視界に捉えた瞬間に背中に提げていた刀を躊躇なしに抜刀した。それに驚いたエーリオは急いでカラクの視線をたどると光喜がいる。


 カラクは光喜に向かって走り出した、勿論光喜を殺そうとして抜刀したのではないのは承知だった。光喜の直ぐ隣に見慣れない青年がいる。


 とっさに腰に装備している矢筒に手を伸ばし、矢を一本取り常に背にある弓を素早く手にして弦に矢を添えたままカラクを追った。


 戦闘態勢になっている長身の男2人に、前を歩いていた人々は逃げ出してカラクとエーリオは真っ直ぐに光喜に走りよる。


 テーブルで会話をしている光喜の後ろの方向な為に、光喜はカラクの接近に気付かず光喜の正面に座っていたシナモンは大きく目を開き立ち上がる。


 「ヤバイ!!」


 カラクの後ろについているエーリオの目にも光喜と一緒にいる青年の顔が覗けた、あの顔には覚えがある。皇帝モラセスから渡された情報の中から光喜と接触した闇の使徒として記入されていた人物像と瓜二つ。


 カラクが光喜とシナモンの距離を作るためにワザとテーブルを叩き割り、2人の間を遮った。予想通りにシナモンはイスを倒して後ろに後退する。


 光喜は突如カラクの出現に、言葉さえでないで驚いた顔をしているがカラクは構わず刀を持ちなおす。


 マリとヨミがゴロツキを倒した時よりも周囲は騒然となった。


 当然だ、街の中で抜刀した男が青年に切りかかろうとしたのだから。


 普通に考えて、周囲の人々にはただの通り魔に見えるだろう。


 カラクの行動と刀を見て悲鳴を上げて逃げ出す人もいる始末、人が皆走り出してパニックになっていくがカラクにはシナモンしか視界に入ってない。


 「止めろ、カラク!!」

 「お前は黙っていろ!!」


 ほぼ同時に光喜とカラクは叫んだ。


 シナモンは前回の背後を切られた時よりもカラクの存在を早く察知したので、カラクの刀が身体に触れる前に走りだし、人ごみに溶け込もうとしたがエーリオは見逃さなかった。

 

 カラクの背後にいるエーリオを光喜が見つけると、顔を青くした。本気でシナモンを殺そうとしている。


 「ちょっと!俺の話を聞いてくれ!!」


 エーリオが弦を引いてシナモンの背に矢の標準を完璧に合わせ、矢を撃とした瞬間。


 矢の軌道に躍り出て、光喜が身を盾にしてシナモンを守ろうとする。


 「!!?」


 驚愕の表情でエーリオは渾身の力を使い、手から離した矢が光喜に当たらぬように持っている弓ごと向きを変え、どうにか矢は光喜の背後にある屋台の柱に勢いよく突き刺さった。


 「何を考えているんだい!?君は!!」


 もう少しで光喜を射ぬく所だった、でも光喜はカラクとエーリオの前に立ちはだかり両手を広げてシナモンを庇う。


 カラクが顔を上げてシナモンの姿を探すが、周囲にはシナモンの姿は見えず遠巻きにこちらを窺う住民だけが見える。カラクは鋭く舌打ちをすると刀を鞘に戻して光喜のほうを向いた。


 光喜はカラクの本気で怒っている顔を見て、一度だけ身をすくめた。


 戦闘中に出している殺気に似た気迫を自分にぶつけられている。


 カラクの凄みに唇を噛んでカラクの気迫に押され気味だが、正面から対立をする光喜の目の前まで歩き光喜をカラクが睨んだ。その表情はとても険しく数秒2人は無言でいたが、カラクが無言で光喜の腕を掴み引っ張り歩き出した。


 「痛いって!離せ……おい聞けってば!!」


 光喜はカラクの大きな手に腕を捕まえられて、引っ張られて強制的に歩かされる。


 カラクの表情と、一連の騒ぎで遠巻きにしていた人たちはカラクと光喜に道を譲り、その中を光喜の腕を掴んだカラクが遠慮なしに宿に向かって歩いていく。


 2人の後ろから弓を背中に収めたエーリオも、内心カラクの言動にヒヤヒヤした気持ちで後を追う。


 今のカラクと光喜を見た人には誘拐にしか見えないだろう。


 殺気を放っている男がうら若い女性を強引に引きずって歩いている姿は、どう見ても女性の同意は見受けられない。


 勘違いした街の人が帝国兵に通報しても可笑しくなかった。 


 でも、すぐ後ろから誠実そうなエーリオがついているのだから、幸運にも恋人同士の痴話げんかかそんな所だと決めてくれている。


 カラクは長い足を大股で歩くので、光喜は小走りに走るしかない。そうするとカラクは後ろを振り返らずに光喜に問い詰める。


 「何故1人で居た?あの2人はどこにいる」


 声はそれほど大きくは無かったが、押し殺したような怒りが声から伝わってきた。


 「離せ!マリとヨミは悪党を兵士に連れて行って俺が一人でそこに残っていたんだ!別に悪い事してねぇよ!!」


 全力の力を振り絞ってカラクの手から腕を取り戻そうとしても、びくともしない。


 「……ほう?」


 カラクが立ち止まって光喜に振り返ると、光喜の細い腕を引っ張る。光喜とカラクの距離はあと一歩ほどで光喜の鼻がカラクの胸板にぶつかるほど近くで、向かい合った。


 「お前の命を狙う闇の使徒と一緒に暢気にいてもか?」

 「アイツはッ!「友だちなんぞ言って笑わせるな」」


 光喜が全部言い終わる前に被せてカラクが、言い放つ。


 うっと詰まる光喜、他にいいようがない。


 子供の言い訳のように「友だち」とカラクに連呼するのが俺には精一杯。


 「お前は知らないだろうけど、シナモンいい奴でッ!」

 「ならばもう二度と関わるな、大切な友というならば」


 段々ヒートアップしてきた光喜に対して、怒りの表情だけどクールなカラクに腹が立ってきた。


 シナモンとの会話であった様に、光喜の行動はカラクの許可した中でやっている。


 俺はカラクと対等の仲間だと思っているのに!


 この分からず屋!!今は闇の使徒として対立しているかもしれないけどさ!もしかしたらシナモンを通してお互いの宗教の交流とかもっちゃったら分かり合えるかもしれないジャン!


 最初から駄目だとか無駄だとか考えて行動しないのは、昔のお偉いさんは馬鹿だって名言残してんだぞ!?


 俺にチャンスくらい恵んでもバチは当たらないだろうが!


 って叫ぶ前にカラクが俺に言ってきた。


 「そのお友だちを俺に殺されたくなかったら……だ」


 カラクに呆然としている光喜にカラクは腕を引っ張った時に乱れた髪を、ソッと帽子で見えにくくなっている耳に、優しい手つきで引っ掛けると光喜に背を向けて歩き出した。


 静かにカラクの背中を俺は見つめる。頭の中にはリプレイしている「殺す」発言。


 カラクの一つだけの眼は本気だった、シナモンをカラクは本気で殺す気なんだ。


 シナモンとカラクが遭遇したのは、二度。どちらも闇の使徒と分かった上でカラクは刀をシナモンに向けていた。でもリアルにカラクがシナモンを殺すなんて……実感がない。


 それも、つい先ほどまでで今は違う。


 カラクの眼の殺意をみてしまった……俺の背中に冷水を掛けられた気分だ、こいつは人を殺すのをなんとも思ってない。


 いや、違う。人を殺す罪の重さを持つのを覚悟している。


 背中に背負っている刀を見て、俺はゾッとしてしまった。あれが人を殺す武器だと。


 「光喜……」


 カラクと光喜の後ろから静かについてきたエーリオは、申しにくそうに光喜の名前を呼んだ。


 振り返ると、悲しい顔をしたエーリオ。


 「ゴメンね、僕もカラクも君を傷つけると分かっても……あの闇の使徒を君に近づけられない」


 エーリオは口には出さないが、エーリオもカラク同様にシナモンを殺害対象にすると伝わってきた。


 それで俺は泣きそうになった、悔しいとかじゃない。争いたくないのに、この人たちは争うんだ。

 

 俺の責でカラクがシナモンを殺させて、俺の責でシナモンは死ぬ。


 一番いたたまれないのは無力な自分。


 涙は溜まっていないのに、泣きそうな光喜の顔を見てエーリオは視線を逸らした。


 エーリオは心で、もう一度謝る。女神という存在を除いても光喜にはこんな顔をしてもらいたくなかった。光喜には沢山の責任を押し付けているとは理解している。


 光喜の話によれば、女神として暮らしているのはノア・レザンだけで。地球の故郷では普通の学生としているらしい。


 エーリオはそれを聞いて愕然とした、命を落すかもしれない旅に光喜は何の見返りも期待せずに原罪の霧を浄化してくれているのだと。ここが故郷でもなければ、見ず知らずの土地で関わりの無い人のために頑張ってくれている。


 だからこそ、光喜は本当の女神だとその時にエーリオは確信した。


 自分が国に尽くすのは貴族の端くれに生まれた者の宿命としている、もし普通の民だったらここまで身を削ってまで働いていたのかすら怪しい。


 ―――カラクが闇の使徒のシナモンに関して冷たく当たるのは、女神の存在がノア・レザンに広まっても光喜自身の顔までは一部を除いて誰も知らない。


 だが闇の使徒のシナモンが光喜の顔を知っている、これは由々しき事態だ。帝国としても女神に仕えるエグゥテの民としても。


 女神には少しの危険な要素を許さない、対立している闇の使徒のシナモンが光喜の顔を知っているだけでも十分に処刑に値する。


 光喜がどんなに望んでも、女神の顔を見た事で彼は各国の粛清の対象からは外されない。言い方を変えると光喜さえ、出会わなければそこで危険視しなかったであろう。


 故にカラクは光喜とシナモンが接触するのを警戒しているのだ。


 この事実を光喜に悟られまいとして。


 「……宿に帰ろう」


 できるだけ、光喜に優しく喋ると光喜は「うん」といって頷いた。


***


 その頃、シナモンは走りすぎて傷む横腹を押さえて、息が静まるのを待つ。


 街の中心部の離れた港の荷物を置く倉庫の影にシナモンは背中を壁に預け、痺れがきた足を宥めた。


 今夜シナモンはガレット帝国から出国するつもりだ、その前にまさか光喜に会えるなんて夢にも思わなかった。


 最初は遠くで眺めているだけにするつもりが、思わず双子の姉妹を光喜から離して話しかけてしまった。


 噂に聞いて耳を疑ったのだけれども、情報通りに前にあったときより数年大人の女になっているのに心底驚いた。


 しかも……女神に相応しく美しかった。かつてこれほど綺麗な女は見たことが無いほどに、中身はガキのまんまの癖して。


 シナモンは額の汗を腕で拭う、それでも直ぐに額は汗ばんでしまい意味は無い。


 大人に近づいた光喜の姿を脳裏に思い出して、シナモンは空を仰ぐ。


 最初は確かに亡き妹を重ねていただけだったはずなのに、今は…。


 「ちくしょう、よりによって女神……いや光喜かよ」


 シナモンの顔は全速力で走った時とは別で顔が赤く染まっていた。


 情けネェと呟くと、手のひらで顔を押さえるしか今のシナモンにはできなかった。


後書きを長々と書きたい長毛種の猫でございます。

ただいまセカンドラフの総合評価ポイントが1000を越えました!!!

ありがとうございます!!コレは夢か幻かと1人で狂喜乱舞しました。

本当にここまで人に読んでもらえるとは思えなかったので嬉しいばかり。

もう一度、ありがとうございました。

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