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第三十七話 王宮ってめんどくさい

あらすじ カエルの皇子を引き摺り下ろすぞ!オーッ以上

 立ち上がった女神である光喜の行動に、壮大にそして威厳あるようガレット帝国の芸術の叡智が注ぎ込まれた謁見の間が静まり返った。


 一連のパネトーネの行動にも感心がなさそうに、ただ眺めていた女神がとうとうお怒りになられたのか?


 それとも、そのお顔を拝見できるのか?なんて少しばかりの期待も貴族や騎士たちは持ってしまう。


 注目の的である光喜は。

 

 (え~っと俺は何て言えばいいんだっけ)


 モラセスが聞いていたら、「おい」っと突っ込みをいただけるような事を考えていた光喜は、次の台詞を思い出して下品な声はだせないのでパネトーネが聞こえる程度の音量で喋りだす。


 「この者は私の代わりに賢者の祝福を受けたもの、つまりは私が祝福をした皇帝が不服か?」


 直訳すると。


 てめぇ俺が選んだ皇帝になんか文句あんのか?……だ。


 女神である光喜とただの皇子でしかないパネトーネとの差は比べるまでもなく、今更といいたくなるほど違う。その光喜がまだノア・レザンに来る前だったので賢者が代理で皇帝になる者への祝福をした。


 祝福を受けたモラセスを皇帝として貶すのは、即ち女神に対しても貶す行為になってしまう。


 話が飛びすぎて無茶苦茶だって思われるだろうが、ここは公式な場所。尚且つ絶対的な存在の御前。


 些細な言動や行動が命取りになる。


 そう思うと、カジノみたいだな。一攫千金みたいに上位の懐にもぐりこむか、弾かれるか……。


 かけ引きとか、化かしあいとか興味の無い俺はただ少しでも人のためになるのが絶対にパネトーネの権力を削ぐ事だってのは分かる。


 だから俺は、俺のできる…俺にしかできない行動をするまでだ。


 「どうした?先ほどの態度はどうした?」


 冷たい声で女神はパネトーネを追い詰めていく、誰も口出しはしない、出来ない。


 カタカタ震え始めるパネトーネ、この男が築き上げた物が崩れる音が、謁見の間に集っている人々にはハッキリと聞こえているだろう。


 玉座に居る光喜に肩をすくめ、くだらなそうに見つめるカラクと神々しい立ち振る舞いに何処かの領域に入ってしまった双子姉妹。


 「それともう一つ」


 全ての人間が光喜の言動を見つめている中、また光喜がパネトーネに言い放った。


 ビクリと大きい体を、動かす。まだ何を言われるのか逃げ出したくなるが、もう遅い。


 「私が降臨したエグゥテの村で許しも無く私の腕に触れた。その無礼は許しがたい」


 モラセスが光喜に振り返る、モラセスも光喜とパネトーネが接触したのを知らなかった。いや、女神を追いかけてエグゥテの民の村へ向かったのは知っていたが。


 女神と知った上で、光喜に触れたのか?ただの人間の、たかだか王族の分際で。


 (オイ!先に言え、それ知ってりゃ…こんな茶番しなくても済んだぞ)


 少しだけ光喜に顔を動かし、コソリっと光喜にしか聞こえないほどの小さな声で、モラセスは光喜に周囲に聞こえないように言う。


 (うっせーなー、今思い出したんだよ。これって不敬罪ってヤツになる?)

 (もう完璧だ、お前は黙ってみていろ。あとで抱きしめてやる)

 (そりゃいらねぇよ、ホスト)

 パネトーネの方へ向く瞬間、光喜にウィンクをしてモラセスは厳しい顔をして自分の腹違いの兄に怒鳴った。


 「貴様!この恥知らずが!!女神の御身に触れただと!?」


 オーバーリアクションで声を荒げたモラセスの迫力に、パネトーネは失神寸前だ。


 「我に忠義ある者よ、女神の御前からその男を引きずり出せ!!」


 玉座の下に配備されていた騎士が、返事をしてパネトーネを掴み引きずって謁見の間から追い出す。


 何処へ連れて行かれるのかは知らないが、ろくな場所じゃないね。あらら、大きい声で喚いちゃって…。


 どうにか弁解しようと、光喜とモラセスに何かを喋っているパネトーネの努力むなしく、謁見の間の大きな扉の向こうへ姿を消した。


 光喜は満足げにベールの下で笑うと、モラセスは膝を突いて光喜に侘びを入れる。


 「兄の無礼。どうか怒りを静めていただきたい」


 光喜は小さく頷くと、静かに玉座に座った。モラセスはそんな光喜に目で語った。

 

 (お疲れ)

 

 まったくだ、光喜もそう思う。もうちょっとパネトーネは抵抗して、派手に事が進むと思っていた。


 でも、今回でどれだけ俺の存在が凄いのかも再認識しちゃった。ちょっと怖い。


 国一つ俺の発言で動くんだ、だってパネトーネは無能だけど王族だし。俺にちょっと無礼な態度をとるだけで処罰の対象になっちゃうのか。


 普段、乳揉むカラクにお姉さんみたいな双子姉妹が気安いので、まったく忘れていた。


 カラクが言っていた他国の間者が来て、俺を攫う価値があるのがよく分かったよ。上手く操れば他国すら操れる。


 もーやだー!俺普通に暮らしたい!!俺は小市民でしかも未成年だっちゅーの!!


 今一番ノア・レザンに来て女神っていうか、今の俺の姿が……いやになったかも。


 でも早くご飯ん食べたい。


 グルルルって鳴る俺の欲望に直結している、マイ腹の虫。


 音はモラセスくらいにしか聞こえなかった。


 兄を貶め降格させた充実感から、振り返って無言で俺を見るモラセス。


 誰にも気付かれなくても積年の願いが成就した心地から、一気に現実に戻されたモラセスの顔は渋い。


 渋い顔からため息をつき笑う、光喜らしい。


 そう、光喜には関係ない。パネトーネが失脚したならば、位ばかり見て正后の子供ではない自分を軽んじて政を進ませないパネトーネのバックについている昔からの血統を崇拝している一派に大きく深入りできる。


 少しだけモラセスは目をつぶる、瞼の裏には今は亡き母の面影。


 特別美しい人ではなかった。しかし春の日差しのような人で、父上が魂の底から愛した真の女性。


 父上が少年期、度重なる横行によって宮廷に入り込んだ暗殺者から逃れるため、ひっそりと身を隠していた村で出会った母上を正后よりも先に式を上げに迎え、妃とは聞こえはいいが内容は妾として側室に召し上げられた。


 これは正妻であるパネトーネの母のプライドを大きく傷つけた、しかも先に皇帝の子であるパネトーネを生みながら、まぁ分かるだろう?はっきりといって将来どう贔屓目に見ても皇帝の器ではない噂が成長するに従って囁き、尚且つ側室である母を、高貴な血族の自分が同じように平民の母が扱われる屈辱を感じ嫉妬していた。


 けっして母親がどうあろうと、子供の俺を父上は特別に扱うことは無いのに出来がよかった責でよく目の敵にされたな。


 父上が病によって死期が近づくと、俺を支持する実力を重視する派、血統を重視するパネトーネ派で城は一時大変になった。


 それは父上の死後さらに加熱。どうにか皇帝の座は死守したが、俺が皇帝になってからまだ三年、ようやく長年城に堪っていた汚れを女神殿のおかげで大掃除ができる。


 まったく、いくら感謝しても足りんな……。


 モラセスは誰にも知られないように含み笑いをした。


 古狸を一掃したいのは、政を邪魔されるだけではなかった。幼いあの日、いつものお茶の席で目の前で母は血を吐き死んだ。


 その日から自分は皇帝にどんな手を使ってでもなって、首謀者をこの手で殺してやると誓い現在に至る。


 それを探るためには、母をよく思っていなかった古狸から権力を奪わせてもらい、パネトーネと付き合うにはよろしくない友人に関する情報を得て行動しなくては。


 本当は俺がパネトーネを失脚させかったのは民のためだけじゃない。俺の個人的な願いだ。


 パネトーネの懐を暴けるならば、母を毒殺した者も突き止められるかもしれない。


 だがその先には光喜が知る必要はない。あくまでも自分の問題。


 きっと知れば女神の立場を利用して光喜は協力を願い出るだろうが、女神の問題でも帝国の問題でもない。


 そこに光喜を巻き込むつもりも無く。真っ直ぐの瞳で光喜の手を優雅な動作で取ると、謁見の間から連れ出す。


 光喜の後ろについてくるカラクたち。心ではやっと終わったかといいそうな顔。


 三文芝居のつまらない喜劇にうんざりしている。


 このまま食事をとれるようにしている宴の場所に皇帝が案内をするのだ。次の宴では何枚も天井からカーテンを吊り下げさせた。


 光喜も窮屈な思いはしないだろう、宮殿の広い廊下で光喜の手を引いている手で、光喜のベールごと頭を撫でる。


 「なんだよ?髪飾りが動く」


 顔の表情は窺えないが、多分唇をとんがらせているであろう。


 「ありがとな…」


 モラセスが小さく礼を言う。


 「うん、俺もアイツ気に入らなかった」


 相手には見えていないが、光喜も笑って答えた。


***

 

 それから三日間女神の降臨の祭りは盛大に行われた。


 次の日は少しだけ帝国の国民の前で手をふって答えたりして、その次の日も宴があって五つの帝国の使者が来て長い挨拶を聞いたり。


 さらに次の日になると俺は宴に飽きて、出席を猛抗議して断固拒否をした。


 もう疲れた、だって数時間イスに座ってただ訳の分からない話を聞くのも、こっそりベールの下で居眠りをするのも飽きた。とにかくもう、じっとしたくない!!


 とうとう三日目に至ってはマリに俺の代わりをしてもらった。どうせベールで顔を隠しているからバレはしない。


 俺の変装したマリに他国の使者の口上を聞いてもらい、俺は自分の部屋で爆睡をしていたので申し訳ないのだけど、他の国の事なんかさっぱり分からん。


 こんなそんなで、一週間も過ぎれば帝国の人たちも女神の降臨の興奮から、普段の生活を取り戻していく。


 浮き足立っていた王宮も落ち着いた夜、光喜は1人広い寝台の上で寝息を立てて寝ていた。


 そしてふと目を覚ますと、光喜は慌てる様子もなく周囲を窺う。


 また…夢見ている…。


 夢だともう感覚で分かっちゃう、いつも原罪の霧…。


 いやその霧にとり憑かれた「穢れし者」が事前にどんなタイプか、どんな事が起きるのかを知らせてくれる予知夢。


 予知夢に近い夢を二度も見たらパターンとして学習しちゃうよ、いくら頭の軽い光喜にだって。


 ただし夢の世界なので常識は通じない、でも前回のエーリオが後ろから矢を受けて倒れる夢は全てが一致していたので、油断はできない。

 

 事前情報として参考にするのもいいかも、まっエーリオの場合はエーリオは助けられてもカラクが文字通り盾になってくれて俺を守ってくれた。


 守ろうとして行動したのに結果、カラクを生死の境に立たせてしまっては元も子もない。


 次はちゃんと誰も怪我をしないように、しっかり見ておこう。


 察するに俺は何処に居るんだ?数メートル先が暗くて遠くが見えつらい空間に1人光喜は静かに佇んでいた。


 光喜はとりあえず周囲を窺う、ちょっと体を動かすと自分の足の裏から波紋が広がった。


 「水の上に立っている?」


 もう一度足を動かす、やっぱり波紋が発生して何処かへ消えていくのを黙ってみていたら、大きな何かが遠くで通り過ぎた。


 はっきりと見ていないが、視界に入った物体を見ようと目を凝らしてみる。


 自分が動いてもいいけど、遠くなので追いつける自信が無い。ひたすら見ていると足場となっていた水が本来の性質を取り戻す。


 つまりは水の上に立って入られない、水しぶきを上げて水の中に放り込まれた光喜はパニックになりかけたが、夢なのを思い出す。


 証拠に水の中でも息が可能で苦しくない。さっきまで立っていた水面を見上げると、真っ黒だった空間に太陽が出現してキラキラ水面が反射していて綺麗だった。


 現実の俺は夢にうなされているだけならいいが、いい年して寝小便なんかしてないだろうな俺。水に関する夢だから。


 切実な心配をしていると、腕を誰かに捕まえられて水面に引っ張られる。


 きっとカラクだ、このパターンで助けてくれるのはアイツが多い。


 俺の顔が水からでる、顔を上げるとカラクのように体格がいいが知らない男がいた。


 顔は逆光りになってよく見えない。その男に腕を引っ張られたのだ、カラクの髪の色の真紅じゃなかった。髪型だって違う。


 どなた様?


 ぼけ~っとよく分からない男を眺めていたら、男の背後では晴天の空がいやに眩しいので目を細める。


 そして雲ひとつない空に体長一メートルほどある魚が、男の頭上を飛び通り過ぎる。


 しかも魚のヒレが羽になっており、ゆっくりと水中を泳ぐように動かしていく。

 

 何だこの展開?夢ってこんなもんだけど、どんなストーリーだよ。まだエーリオが矢で刺される夢のほうが的確だったぜ。


 見知らぬ男の肩越しに帝国兵士の歩兵部隊が武器をもって此方へ突っ込んでくるのが見えた、そして光喜の背後から大多数の男どもが帝国兵士に向かって迎え撃つ。


 至近距離で戦争を勃発させんな!!


 怒鳴りたかったが俺の腕を掴んでいる男の真後ろから、毒々しい色をした真っ黒な剣を振りかざした男が光喜の眼に飛び込む。


 俺は何かを叫んだ気がした。


 パチッと寝台の上で光喜が夢から覚める、上半身を起こすとパジャマにしている薄着の服が纏わりつくのに眉を顰めた。

 

 これは自分の寝汗だ、いつの間にかビッジョリ汗をかいている。


 次の旅もハードな予感に「オラわくわくするだ!」なんか言えやしない。一つため息をついて寝ている時でもカラクによって身につけるのを強要されている腕輪を触ってみた。


 パソコンの画面みたいなのが光喜の前に現れ、もう少しいじると地球で使われている数字が現れた。


 20%


 ああ、先は長いな…。


 これは神剣の完成までの数字で、100%になると神剣は本来の姿に戻り、このノア・レザンから原罪の霧が全て浄化されるまでの表だ。


 あと80%も霧が残っているのか。それだけの「穢れし者」と戦わなくてはならない。


 神剣が元に戻るにつれて、女神としての力も取り戻していくらしい。グリエの爺ちゃんから俺が先ほど見た「予知夢」とカラクの傷を治した「生命の力」もその一端だとか。


 普通の中学生のおれが、ノア・レザンに召喚されてから性別も姿も立場も180度変わった。


 辛くないといえば嘘になるし、楽しくないのかといえば楽しいことが多い。


 まっ何とかなるだろう。


 寝ションベンはしてない、よしよし。


 楽観的な光喜は服を脱いで、下着になるともう服を着替えるのが億劫になりまた寝台に体を倒して眠りにつく。


 光喜が使っている賓客の離宮……月見の宮と呼ばれ、月の光りで美しくなる庭が自慢の後宮さえからも独立した建物はモラセスの騎士が常に周囲を固め、女神の下僕である守護者のカラクと女神の巫女の双子姉妹、そしてガレットの代表の女神の騎士エーリオと使用人が寝泊りしている。


 静かなものだ、直ぐに光喜は再び夢の世界へ旅たつ。


 眠った光喜の部屋のドアの向こうには1人の男が静かに立っていたが、見回りの騎士の足音で素早く立ち去る。


 足音も闇の中に消えてなくなった。


次の話の大まかなストーリーは光喜の夢で分かります。

でもこれで分かったらエスパークラスですよね。

これからも光喜は悪い意味で暴れるのでお楽しみに。

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