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第三十二話 そのとき歴史は動いた!

あらすじ:俺大人の女になった、以上!

 世界は本当に不思議で溢れている、今の俺の心情を語るならそれが一番シックリくるだろう。


 カラクが無事だったことは喜ばしいが、砂漠が広がった街に何で緑豊かに生まれ変わったのか俺には理解できない。


 エーリオは俺が蘇らせたといっていたが…ろくに魔法も満足に操作できないのに?


 「俺の姿が変わったのと関係あるのか?」

 「さて、それは僕にも及び知らないけどね。恐らくはあると思う」

 

 エーリオは俺の真横まで歩き同じく窓の外を見つめる。サワサワと近くにある木が風に揺られていた。


 砂だった地面が肥沃そうな土に変貌している、砂漠から元の大地へ戻るのは少なくても数十年ではないだろう。一気に時間を早送りしないと無理だ。


 「あの時……」


***

 

 カラクを抱きしめたまま光りが爆発した後、双子姉妹は地面に伏せて「何かの力」が迫っているのを肌で感じた。絶対的な力にしてそれが決して禍々しい力ではない。


 表現するなら生命そのものの力といったほうが伝わると思う、「生きる」という原始的にして壮絶な力。


 光喜を中心に森を光が包む。ドンドン光りは地面を這って膨れ広がって、とうとう弾けた。


 流星のような速さで森から光りが走り、砂漠の隅々まで走っていく。途中ヴァニーユの街も包み光はまるで乾いた大地を潤すように、インクが白い紙の上に垂らされてしみ込み広がるように四方へ広がっていく。


 マリとヨミが凄まじい光に暫し気を失い、気がつけば先ほどまで崩れかけていた大樹が傷一つなくたっていた。


 しかも枯れていた大樹はまるで時間を戻されたように生き返って立っている。マリは怪訝そうに大樹を見つめるが、己の命よりも大切な光喜がどうなったのか思い出して立ち上がる。


 光喜は光りが爆破した状況のまま同じ場所にいた、ただカラクが上半身を起こしているのにマリは愕然とした。


 確かに自分たちは魔力を加えた回復剤「コルヌ」をカラクに振りかけたが何の効果もなかった。コルヌとは魔力によって数倍の効果を持たせた薬剤だ。


 大抵の治療にはそれで間に合うが、今回のカラクの重症な傷にはコルヌでは追いつかなくて諦めかけたのに。


 まるで原罪の霧に憑かれた蔓に腹を裂かれたのが夢のように顔色もよい。


 走ってカラクと光喜の元へ双子姉妹が駆け寄る、エーリオも光喜に弾かれた場所で呻きながら起き上がった。


 「何が起こったの?」


 頭を押さえながらエーリオが尋ねると、カラクが首を横に振る。


 「分からん、うっすらと何かが入り込む感覚はあったが……」


 意識が虚ろだったカラクに詳しい状況など分かるはずもない、側で見ていた双子姉妹すら理解などできないのに。


 ≪守護者を助けたのは女神じゃわい≫


 精霊王にして炎霊グリエの声が光喜の側から聞こえた、その声は何時もより硬い。


 「光喜様はこのようなお力をお持ちでしたか」

 

 マリが信じられないように呟く。これは精霊に魔力を送り出す魔法ではない。


 どの精霊にも傷を回復する力を持ちえない、そして死にかけたカラクや死んでいた大樹を蘇らせる命を操作できる魔法など双子姉妹には想像もつかなかった。


 ≪うむ、それどころか原罪の霧によって吸われた大地をも蘇らせているようじゃ。今やこの周辺は元の肥沃な土地に戻っているはずじゃわい……まったく力加減ができん女神じゃわいな…≫


 呆れたというよりも、ちょっと違うニュアンスで喋るグリエにカラクは少し引っかかる。できるなら使って欲しくなかったと思っているような声だった。


 ≪……巫女たちよ。光りの精霊を存じておるな?≫


 マリとヨミにグリエは語りかけた、一瞬何のことか分からず返事は遅れたが光りの精霊の事は知っている。


 「「はい、賢者になる為には絶対に契約が必要な、最高の精霊ですね」」

  

 光りの精霊は創造の力を司る。具体的にどんな事をするのかは賢者ではない2人には知らないが。


 ≪そうじゃわい、まず世界を創造するのに女神は光りの精霊を生み出し天地を造らせた≫


 それは女神の神話で最初に語られる神話、双子姉妹も何度も聞かされた話だ。


 ≪物は光りの精霊でも生み出せるが一つだけ、光りの精霊も手が出せぬものがあっての…それは「命」じゃわい≫


 先ほど光喜から感じた力が「生命」だったのかと、ヨミは考え。マリが質問を続ける。


 「死にかけたカラクや大地を蘇らせた力は生命を司る女神、つまり光喜様だけのお力と仰るのでしょうか?」

 ≪その通り、よってその力は極力使わせるな。これは警告じゃわい≫


 カラクは光喜の顔を見る、小さな少女は自分の腹の上で何も知らずに眠っていた。


 不思議そうにグリエの話を聞いていたヨミは疑問に思う。


 「どうして光喜様が力を使うのを反対なさるのでしょうか?何か副作用を起こしますか?」

 ≪うむ、今回のように大きく使わなければ問題はないが…すまぬがまだ断言できんわい。女神には大規模な力を頻繁に使うなと注意しとくがよいわい≫


 双子姉妹は腑に落ちないが精霊王の言葉だ、きっと意味があると納得して頷く。


 暫し沈黙が流れた、エーリオも近づき全員無事を確かめる、カラクも無事で原罪の霧の浄化も済んだ今、少し全員気が抜ける。


 いや、光喜の力が凄くてまだ夢を見ている居心地だった。


 しかしカラクの腹に頭を乗せて寝ている光喜の体が、白く光りはじめた。


 先ほどの力を再び使うのかと身構えてみるが、一向に光りは強くならず光喜の体のみ光りが包むだけだった。


 徐々に光りが収まるとそこには小さな少女はいない、15歳にしては小柄な光喜が18歳ほどの女性に代わった。


 あどけない寝顔のまま大人になる前の少女は己の守護者の腹の上で暢気に寝息をたてる。その顔はまるで卵の内側にいる雛のようだった。


*** 


 「それで俺がこうなったのか?」


 エーリオに昨日、光喜が気を失った後の出来事を掻い摘んで説明を受けた。


 最初は半信半疑だった大地の再生もエーリオとカラクに再三そうだと言われると、そうなのかな?と思え始めた。


 「それであの力は普通の傷を治す程度なら問題はないけど、また同じ規模で発動するのは危険だって精霊王が仰っていたよ」


 グリエの伝達をエーリオが言うと光喜はイマイチ実感がなくて心のこもってない返事をした。


 そういわれても自分の意思でまたその「力」とやらは使える保障はないので、光喜の中では保留となっている。


 精霊のグリエの爺ちゃんの力以上に凄い力なんて全く持って実感なんてない、そもそも魔法は使うなって言われている俺だ。それ以前に使いたくても使いこなせない自信はエベレスト級にある。


 それより姿が変わったのはどうしよう。そっちの方が俺にとって問題だ。


 ここノア・レザンはいいとして俺は地球へ帰らなきゃならないんだぜ?


 また家族に「はーい俺、光喜!また姿が変わったちゃった」で受け入れてくれるか?


 今度こそ無理だ!尻蹴られて家から追い出される!!


 大体こんな大きい中学生はそんなにいねぇよ!身長とかじゃなくて、何ていっていいかな雰囲気が中学にはない大人なんだ。


大人になりたくない高校生が中学生のコスプレしているだけになるじゃん!!


 頭を抱える俺を静かに見つめる男2人。


 「何を考えているのか予想はつくが、帰ったら直ぐに賢者に相談すればいい」

 

 カラクが俺の後ろまで来たので振り返ると俺の神剣を差し出してきた。


 そうだ!俺は大切な用事があったんだ、モールドさんの息子さんからこれを渡してくれって。


 俺は剣を腕輪に入れて今度は編み糸の切れたネックレスを出した。


 「これモールドさんの息子さんから、父親に渡してくれってさ」


 掌に赤い石をつけたネックレスをエーリオの前に差し出す、エーリオは俺の掌を握り開いた掌を閉じさせた。


 不思議そうな顔をする光喜にエーリオは少し悲しい笑みを溢し。


 「これは君が託されたんだから君が返したほうが彼も喜ぶよ」

 「そうかな……」

 「そうだよ」


 エーリオがそういうなら俺は早速、下の部屋に居るモールドさんに渡したくなって駆け足で部屋へ向かう。


 「おい!光喜……あの馬鹿が…」

 「光喜らしいね」

 

 急いで部屋から出て行った光喜をカラクは止めようとしたが、面倒になって途中でやめた。思い立ったら一直線の光喜にエーリオは笑いを溢した。


 双子姉妹が街の様子を見回っている間、カラクとエーリオは光喜の使っている部屋のイスに座る。


 「お前はこれから如何する?まさかこのまま街に留まるつもりか?」


 カラクの質問にエーリオは顔を振って否定した。


 「一度王宮に戻ろうと思う、そしてありのままの状況を皇帝に口上させていただく。もう二度とこの様な事は起こさせないためにも」

 

 エーリオの強い眼差しにカラクは正面から受け止めた、だが。とカラクは続ける。


 「運が悪ければ、無能殿下に今の位も剥奪されかねんぞ?」

 「覚悟の上だ。それに今でも位の意味あって、ないようなものだしね」


 笑って答えるエーリオにカラクは「そうか」と返して後は黙った。エーリオも無理に会話を続けずに、女神からの恩恵である緑豊かな涼しい風に目を閉じて浴びた。


 昨日までの砂漠が夢のようだ、でもこの奇跡によって女神がいるという噂は爆発的に広まるな。とカラクは思案する。


 光喜が何者であるかなど理解しようとせず、一方的に奇跡を要求するただの民衆ならば問題はないが……闇の使徒が勘付くのは厄介だ。


 やつらにとって女神は悪であり抹殺の対象。各国の皇帝が総力を上げて粛清を進めているが上手く行かないのが現状なのは知っている。

 

 ため息を一つカラクはつき、エーリオと同じく外の景色を静かに見つめた。


 これからも暫くややこしくなりそうだ。


 その頃何も考えていない光喜は急いで階段を下りる。


 『…忠告聞かなくて…悪かった』


 きっとそれはモードルさんの息子さんが一番気に悔やんだ一言だったに違いない。これだけはモードルさんに伝えなければ。


 正確なモードルさんの部屋は何処にあるか知らないけど、適当に1階を歩き探し。モードルさんが薪を運んで調理場にいたのを発見。


 「モードルさん!!」

 

 突然飛び出した女性にモードルさんは驚いた、しかも昨日あった少女が突如大人に成長しているのだから仕方ないだろう。


 「これ!俺…貴方の息子さんに何度も助けられたんだ!!ほんと感謝している!」


 光喜は一字一句伝えないといけない緊張から、顔を赤くしながらもペンダントを見せる。


 かつて自分の妻が息子に作ってやったお守りの石と編んだ紐糸が少女の掌に乗っていた、その妻が砂漠になり交通手段を断たれ満足にクスリも手に入らなくなり病を患った。


 手にしていた薪を落として、少女の手にあるペンダントを凝視した。間違いなく息子のペンダントだ。


 何とかせねばと唯一緑溢れるあの森へ出かけていってしまった、たった一人の息子のお守り。


 「あの子に会ったのか?息子は生きているのかい!?」


 光喜は唇を噛む、最後はあの大樹の枝と運命を共にした。


 いやとっくに死んで不死者の仲間入りをもう少しでしそうになった。なんていえるはずもなく、それだけでモールドさんは二度と帰らぬ者になったのを分かったようだ。


 モールドさんは目に見えて落胆した。そんな姿のモードルさんを見るのは辛いけど、俺はちゃんと伝えないといけない。


 「あと息子さんから『…忠告聞かなくて…悪かった』って何の意味かは知らないけど伝えて欲しいっていってた」

 「そうかい、あの馬鹿ものが」


 森へ行くのを猛反対したモールドさんの忠告を聞かずに森へ行ったことへの謝罪だ。


 あの森なら薬草くらいあるかもしれない、其れが見つからなかったらせめて栄養ある獣の肉をとってくる。と言って出て行った。


 勿論何度も考え直せと口論になり説得しようとしたが、手を振り払って行ってしまった。


 森に入ったものは誰も帰ってこない、たくさんの若いものが森へ行ったが誰も帰ってこなかった。


 そんな森へ息子が1人で行ったことを心配して、さらに衰弱していく妻。そして食べ与えるものは乾燥した非常食ばかり。


 病が進み死が近づくと、妻は帰ってきたときに息子の食べるものがなかったら悲しむといって、一切食べ物を食べなかった。


 衰える妻に帰ってこない息子のフレーク。息を引き取るまでフレークの帰宅を待ち続けた妻にやっと報告ができる。


 私たちのフレークは帰ってきたと。いや、すでにお前の側にいるかもしれないな…。


 「ありがとう、これで私も区切りがつけられる」


 本当は無事で帰ってくれれば、これ以上の喜びはない。でも微かな期待をして待ち続けるのはもう疲れた。


 息子だって覚悟の上だったのだ、私が受け止めてやらなくてどうする?親はいつだって子供を受け止めるのが務め、どのように傷いても。


 大切そうに掌からネックレスを受け取ると、両手でモールドさんはネックレスを包み込んだ。


 「感謝するよ、女神様」


 そう言い墓のある庭に向かって歩いていく。


 俺はだまってモールドさんの背中を見つめていた。


 ……あれ?


 俺の顔を見て女神って言ったよな?さっき。


 俺は自分の頭を触ってみる。


 あっ!!髪を隠すの忘れていた!そっか部屋から出た時カラクが俺に向かって何か言っていたっけ?アレ白い髪を出したままだぞ?っていいたかったんだな?俺すっかり女神って立場、忘れる。


 こんなんじゃ変態カラクに馬鹿呼ばわりされちゃう(もうしているよ)。


 あ~あ……でも、まっいいか。


 俺の肩からも荷物が降りた、さてもう一眠りして惰眠をむさぼろうかな?それともご飯をカラクに強請ろうか?その前にお風呂……。


 「「光喜さまーーーー!!!」」


 後ろの玄関廊下の扉が勢いよく双子姉妹によって開けはなれた。


 ハイテンションの双子姉妹に驚き後ろを振り向く、そこにはキラキラと目を輝かせている姉妹。


 「「ああ、光喜様わたくしたちの女神…麗しゅうございます」」

 

 ごっつう熱っぽい視線で俺を見る姉妹に俺は本能的に後退りをしていく、戦闘中ならカラクにも引けを劣らなく信用できるのに。


 そしてこのパターンは俺のもっとも苦手とする……。


 「「さっそく湯浴びをいたしましょう!」」


 俺は絶叫を上げた。


 


 『いやーーー!!破廉恥止めて!カラクヘルプ!!』

 『『大人しくいたしませ~』』

 『やっやっ!!自分で洗うから体を密着しないでーーー!!自分の体でも恥ずかしいのに!!』

 『『そ~れ!観念いたしませ』』


 ドアの向こうで悲鳴と歓喜を上げる女の声に、エーリオは指をさしてカラクに問おうとするが先にカラクが口を開いた。


 「何時ものことだ気にするな」

 「いつもなの!?」

 

 世界は本当に不思議で溢れている、今のエーリオの心情を語るならそれが一番シックリくるだろう。


やはり少し時間が掛かってしまいまして申し訳ありません。

沢山のお気に入りをしてもらっているのでもっとがんばりたいです。


そしてカラクが光喜の保護者のようになっていきます、どうしても光喜がアホなのでそうなるのでしょうね。

とにかく今回で砂漠の街編は終わりです。

次はカラクの折れた剣やエーリオの弓矢の強化というなの買い物をしたいです。

それではごきげんよう。

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