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第三十話 逃げ延びろ

あらすじ:やっとこさ霧の核を撃破!以上!

 



 蔓から生えたヒマワリくらいある一輪の黒い花を横一線で切った。


 彼岸花に似た黒い花は花びらを散らして枝に落ちた。暫くの沈黙、何も起こらない。


 と思ったら茎の中から原罪の霧の勢いよく噴出した。我先に争いながら溢れる霧に耐え切れず花を失った茎は吹っ飛び茎があった場所に穴が空き、こじ開けられて漏れる穴は広がっていく。


 巨大なホースで空に向かって水を出すように真っ黒い霧が空へ向かっていく、一直線に。


 穴の周囲から黒い色から茶色へ変色して枯れ始めた。霧の威力が王宮の封玉に匹敵する霧の噴出に俺は駆け足でその場を離れる。もう霧を顔面から食らいたくない、それにこの霧が蔓から全て抜け切った後に大樹が今のまま立っている保証もない。


 しかし凄い量だ、霧は空へ舞うと一つの塊になろうとしてグルグル森の上で霧が渦巻く。その光景は圧巻もの、原罪の霧で空が曇り始めた。


 それに伴って大樹に寄生していた蔓が朽ち始める、大樹は地震でも起こったように揺れ崩れ始めた。そりゃ大樹全体を支える蔓が端から枯れて支えなくなったから当然として。


 アクション映画のラストシーンかよ!!この高さで落ちたら即死だっつーの!!画面の向こう側にいたキャラの心境を今一番理解できるのは俺だろうよ、こりゃメチャ焦る。


 光喜は崩れ重力に従い落ちていく枝と蔓を横目に今後の人生を賭けて来た道を戻る。邪魔なので神剣は腕輪に戻した。


 何とか沢山の死体がゾンビにされている所まで戻ってきた、多くあった死体の成れの果てはほとんどが安らかな顔をして動いていない。


 死体に寄生した小さい蔓も朽ちて、もう自分が違うものになる恐怖から開放されたのか。静かに眠りについているのは俺の願望でもいいからそう思いたい。


 すると俺の足元が暗くなったので上を見上げると俺の立っている枝と同じくらいのドでかい蔓が大樹から切り離されて、俺の真上から落ちてくる。


 ボケェェェェ避けれるか!!!


 お父様お母様、愚息の先立つ不孝ふこうをお許しください、あと姉貴!俺の部屋にあるタンスの裏に隠した本は何も言わずに処分してくれ!!!


 もう数メートル上まで巨大な蔓が俺にキスをしに落下してきた、少しでも恐怖が薄らぐように瞼を接着させる勢いでつぶって体を硬くした。


 すると思わぬ方向から何かが無防備な俺に突撃して押し飛ばされ、俺は枝から落とされた。


 自分が何をしているのか数秒頭が真っ白になって、何も考えられなくなり気がついたらすごい衝撃が背中に走り息が詰まる。


 目を開くと俺がさっきまでいた枝の斜め下に生えていた枝に落ちていた、上を見上げると俺にネックレスを渡した男の人が覗いていた。


 『ありがとう』


 何故そう聞こえた気がする、男は笑顔だった。一瞬その顔は宿の主人モードルさんが重なり……俺は声を出せずに大きな口を開く、次の瞬間。


 巨大な蔓が男のいる枝の上に落ちた。


 耳が痛くなるほど大きな音をたて、蔓の重みに耐えられず枝は折れてそのまま共倒れに地上まで落ちていく。俺は三秒くらい落ちて行った枝の先を見つめ、唇を噛んだまま見つめていたが立ち上がって走り出す。


 あの男が俺を突き飛ばして助けてくれたんだ、下の枝に落ちるようにして。俺も「ありがとう」って呟く。


 走っていると頭上から蔓の欠片の粉がふってくる、顔だけ上に向けてみると鉤爪みたいな蔓が俺を狙っていた。大樹の内部で俺とカラクが戦っていると現われた強化された凄い蔓が俺の上に存在している。


 光喜の脳内会議第59回を開始します。


 光喜A「このままでは死にます」

 光喜B「ストレートだな、もっとオブラードに包んでくれない?心臓に悪いから」

 光喜D「しかし現実は現実だろう、どうするかが大事じゃね?皆も居ないし爺っちゃんも魔法もここで使ったら文字通り花火になって俺たち全員死ぬなー」

 光喜C「全力で逃げ切るって案はどう?」

 光喜A「いいね、採用!」


 「つか、それしかできねーつーの!!」


 俺は蔓が動いたのを見て前にジャンプして倒れこみ避ける、枝が揺れる振動に俺の真後ろでは爪のような蔓の先端が枝に深く差し込んだのが分かった。


 凶鳥といい蔓といい俺を刺すの好きだね!?……訴えてやる!


 起きて振り返りざまに神剣を取り出して蔓を傷つけてやろうとしたが、察した蔓は枝から蔓を光喜から離れ神剣の届かない場所まで鉤爪を持ち上げた。


 空を見るとまだ黒い霧は空に向かって放出している、恐らく霧の量が膨大すぎて全ての霧が蔓から抜け切ってない。だからコイツらはまだ活動しているのだ。


 しかも物言わぬ蔓から「窮鼠猫を噛む」って言葉が浮かぶほど鬼気迫る勢いを感じた、神剣を握る手に力がこもる。


 何が何でも俺を捕まえてやる!例え死体になっても……ってか?お前はヤンデレか!!


 控えめで妹キャラ要素を含む可愛い女の子、もしくは近所に住むちょっとお節介な幼馴染になって出直して来い!そんで俺に女の影を見つけると何時もみたいに声をかけられなくて距離を感じろ、ついでに髪型はツインテールで頼む。


 だからお前とは心中はしたくない、もう植物って所から無理。でも植物モンスター系美少女なら許す。


 些細な俺の願い虚しくヤンデレ蔓は、鉤爪を真っ直ぐ俺の腹を刺すために襲い掛かり、俺は枝から身を投げ出して空中に飛び出す。自殺する気は無いので落ちる直後、枝に神剣を突き刺して落下を防いだ。


 俺の生命線である剣の柄に両手でしがみつく、大樹の枝が太くてよかった足を枝に乗せてバランスをとって体を支える。


 枝からの大きな振動に視線をあげて枝の上を見ると、俺を刺そうとした蔓の鉤爪が勢い余って大樹にぶつかり大きな横穴を作った。


 ラッキー!どうやって大樹の中に入ろうかと考えていたんだ。最初に通った横穴は上の枝にある、蔓の攻撃をかわしつつ俺はあの距離を無事に登れない。


 光喜を殺し損ねた蔓は刺した大樹から鉤爪を引き抜き、再び襲おうと身を引くが光喜はこの隙を狙わなくしてどうする?全身の力を足と手に込めて右腕を枝の上に置く。


 そのまま上半身を枝の上に出すと柄に足を乗せ這い出た、俺にしては俊敏な動きだったと思うぞ。


 枝から神剣を抜くと出来たてホヤホヤの横穴へ向かって駆けた。


 その頃、大樹の内部にいるカラクとエーリオは非常事態なのに言い争っていた。


 「落ち着け!!」


 崩れそうな大樹の内部でエーリオが叫びカラクを止める。


 エーリオがカラクを羽交い絞めにするがカラクは暴れ、振り払いエーリオは飛ばされて背中から蔓の上に倒れた。


 「このままでは光喜が死ぬ!」

 「しかし上に行く蔓の足場はありません!!」

 

 マリがカラクに訴えるがカラクは耳を貸さずに登れる場所を探す。


 「くそが!!」


 足場は全てあの蔓に落とされた今の状況では外側から大樹にへばりついて登るしかない。しかしそんな悠長な時間は光喜を含め誰にもない。


 カラクが光喜の向かった遥か頭上の横穴を見つめた、原罪の霧が空で一つに集まっているので浄化は無事終わった様子だが肝心の光喜は姿を現さない。


 1人で行かせたのは間違いだったのか?いやあの場にいたらそれこそ格好の餌食になっていたはずだ。己の判断には間違いがない、だが光喜を守り続け貫き通さなければ意味はない。


 カラクは苛立ちから近くにあった大樹の壁に自分の拳を叩きつけた次の瞬間、随分高い場所の大樹に大穴が空いた。

 

 一瞬だけ双子姉妹とエーリオはカラクに意外な能力があるのかと思ってしまったが、大樹に刺さった鉤爪に気付くと全員が戦闘の構えをとる。


 鉤爪は一度抜かれ、穴から姿を消す。油断できず穴を警戒していると幼い少女が穴から姿を現した。


 「うえ?ちょっと何で蔓が少なくなっているのーー!!?」


 光喜は内部を見た途端に叫ぶ、足場にしていた蔓が少なくなっている。勿論カラクと蔓が戦って壊していったのだけどその場にいなかった光喜は驚いた。


 ざっとカラクたちがいる場所まで目測で10メートルはある、カラク達が小さく見えるのは遠近法か?いやリアルな距離だ。


 一際大きな揺れが大樹に走った、よろつき大樹に掴まり凌ぐ。もうこの大樹が倒れるのもそう遠くないようだ、光喜はどうしようと迷っているとカラクが光喜に向かって両手を広げ。


 「来い!!」


 真剣な目をしたカラクが俺に叫ぶ。


 何言ってんだお前…怖いだろ?それに遠いって、俺から見たらお前ちっこいぞ?この高さ見ろ落ちたら死ぬぞ俺?お前はいつも無茶苦茶だよな?バカの乳ハンター!


 光喜はカラクへ向かって跳んだ。


 でも


 俺はお前以上に信じられるヤツはいない、カラクが来いと言うなら俺は信じて飛び降りる。


 背後から翻ったマントに、再び攻撃してきた蔓の鉤爪をスレスレで撫でた、もう数秒遅かったらマントが破けたところの話ではなくなっている。


 光喜は下から突き上げてくる風に顔を腕で庇ってカラクの方へ落ちていく、ヨミが急いで魔力を集め攻撃ではないただの風を光喜に向かって発動した。


 ヨミの風が光喜の落下速度を軽減したが、風が強すぎて光喜の落下軌道がカラクからそれるのを配慮しての風の威力なのでカラクの腕に落ちた時は結構な衝撃を食らう。


 「うぶっ!!」


 間抜けな声をだした光喜を受け止めたカラクは、衝撃の反動を逃がす為にわざと勢いのまま背中から蔓の上に倒れた。


 「へっへっへ…ナイスキャッチ、カラク」

 「無事だな?」


 俺が怪我した様子もないのを確かめると、体を離して立ち上がった。俺もモタモタして大樹と一緒に倒れるのは嫌だから立ち上がる。


 うん、何処も痛くない。無事に不時着できた模様、マジでカラクとヨミに感謝。


 もう大樹にいる必要はない。さっさと帰って美味しいものを食べて、お風呂に入って寝るべ。


 あっ俺の神剣を握ったままだった……ゴメン刺しちゃうところだったね、カラクさん…気付いてないから黙っていよう。


 さっきから木の欠片と蔓の枯れた欠片が内部にも落ちてき始めた、これはいよいよかもしれない。


 5人は急ぎ下へ向かう、大樹全体が揺れて光喜は上手く走れなかったが途中でカラクが俺を肩に担ぎ上げて走った。


 俺帰ったらカラクの肩と結婚するんだ、と高確率の死亡フラグを立てるほど親しみが湧くコイツの肩。


 どれだけ担がれているんだ……?俺。


 自分で褒められるほど今回俺がんばったよね?うんがんばった、なのに最後は尻をカラクたちに向けて運ばれているのだろうか。


 とにかく一番遅い俺が担がれることによって格段に早く移動した。そして俺たちは全員無事に大樹から外の世界へ脱出できた。


 それでも雨のように落下してくる蔓や大樹の枝が降り注がない安全地帯まで全力疾走で走り、俺を除いた皆が息を切らす所まできたら俺をカラクは降ろす。


 流石のカラクも散々に戦ったので何時もの余裕さはなく顔に疲れが見える、超人カラクがこんなだ。他の三人も俺も凄く疲れた。


 はーっと大きく息をはいて大樹を見た、メリメリ音をたてて沢山の枝と蔓を下へ落としていく。壮大な姿だ、ここまで巨大な存在は崩れていく様まで偉大に感じる。


 ようやく気が抜けた、大樹の上にはまだ原罪の霧が出続けて太陽の光りを遮り周囲を薄暗くさせてる。


 どんだけ引き寄せていたんだ霧を……あの量ならこの周辺の栄養を奪って砂漠化させたり蔓を操ったり出来るわけだ。


 さて、剣を収めるかな…と腕輪を持ち上げた時。ビュウンと俺の真横を何かが風を切って通り過ぎた。通り過ぎた物は後ろの木に辺り、ビイイイィィィィンとギターの弦を摘んで弾いた様な低い音がする。


 音の正体は矢だった。


 カラクが俺の後頭部を掴むと地面に伏せさせた、直後に俺のいた場所に矢が数本飛んでくる。


 「何で?」

 「操られている死体どもだ、奴らは核が浄化されてもまだ動けるらしい」


 ちょっとだけ顔を上げると地下のゾンビと同じく花を咲かせた死体が矢を構えていた。残りがいたのね、しかもこの死体どもはエリートだよ、武器を使っているから。厄介だ。


 でもよく見ると死体は花がひとりでに枯れて死体が倒れたりするのもいる、中心部の核をやられた影響が出ているみたいだけど全部枯れるまで攻撃が止むのを待ってられない。


 光喜を残しカラクはボロボロになった刀を抜き、エーリオは敵の外れた矢を引っこ抜いて、自分の弓に引いて放った。


 双子姉妹は自分たちの本領発揮がやっとできる、森とは言えど広い場所だ。地下でも大樹の中でもない、両手に魔力を溜めて解き放てば小刀くらいの大きさの凶器みたいに尖がった氷が何十個も死体に向かって突き刺さる。


 ヨミも魔力を風に変えて攻撃を放った、ズンズン切り裂いていく死体たちにちょっと同情。


 俺の出番はないみたい、霧も俺の神剣が吸う前に大樹の上にある渦巻く霧へ吸い寄せられていった。


 カラクも次々に切倒していくのでドンドン死体の数が減っていく、武器を持っていても死体たちは皆の敵ではなかったようだ。


 安心していると、枝影からエーリオが光喜に向かって血相を変えて走ってくる。


 「光喜!原罪の霧が迫ってくる!!」


 え?俺は顔を上げてみると超ど級の原罪の霧が球の形になったのが俺に向かって近づいてきた。


 確かに凶鳥のときも体から離れた原罪の霧は丸い球になって俺の神剣に吸い込まれたけど……怖いわーーー!!!!


 何あれ?冗談じゃない!!


 近づいてくるので太陽の光りを隠して俺たちの周りは暗くなった、エーリオが霧から逃げるように俺に向かって走ってくる。


 俺の頭に違和感を覚える、何かと今の状況が重なるのだ。


 あれ?俺この光景みたことある、暗くて若い男が森の中で俺に向かって走ってきて……確か夢だったよな。で?その男どうなるんだ……。


 思い出した俺はエーリオに向かって走った、俺が始めて魔法を使って暴走させた日の晩に見た夢に瓜二つだ、夢に出てきた男とエーリオの服装は一致した、間違いない夢に出ていた男はエーリオだ。


 シチュエーションも夜の森、正確には太陽が遮られて夜に見える森だったが、夢で俺はこの場所に立っていた。


そして夢ではこの後で男――エーリオは矢で後ろから刺される。


 させて堪るか!!


 俺はエーリオに向かって走った、もう周りなんて気にしてない。夢でみた結末の通りさせないという思いだけが俺を突き動かす。


 予知夢とかそんなの知らないけどエーリオにタックルをして押し倒す、まさか俺の体当たりをされるなんて思ってなかったエーリオはあっさり背中から倒れてくれた。


 倒れた瞬間、エーリオを狙った矢が俺の背の上を高速で通り過ぎた、間一髪にもほどがある。


 矢を放った死体は最後の力を振り絞ったのか、その場に倒れ花が朽ちて霧が舞う。


 ホッと一息、よかった。夢の通りにならなくて。


 肩の力を抜いて伏せていた体勢から上半身を起こす、エーリオも起こして俺の背後を見ると目を大きく開き顔が青くなった。


 それと同時に俺の背中に冷たい何かが降り注ぐ。


 エーリオの青い顔に俺はゆっくり振り返ると、カラクがいた。


 鉤爪の蔓に腹を貫かれた姿で。


 俺は獣じみた声で悲鳴を上げた。

あれ?気がつくとシリアス展開になってませんか?

ともあれ続きはカラクピンチでお願いします。

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