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第二十九話 黒い華

あらすじ:地下のゾンビをやっつけて霧の核がある所まできた、以上!

 



 蔓が寄生した大樹の中に五人は入り込む、大樹の腐り消えた空洞の内部はとても広くて上を向くと真っ直ぐに伸びていてビッシリ中に硬い蔓が張ってある。


 蔓は最初に襲われた遺跡近くとは違い俺の腕程度の太さどころではなく、俺が乗っても余りあるから注意していれば蔓から落ちる事はないだろう。


 細いのはきっと森の中をスムーズに移動できるようにだと思う、本当にこの蔓は賢い生存競争で生き延びる為にあの手この手を使ってくる、それは凄く感心した。


 内部を支える蔓は縦横と縦横無尽に張っているので登っていくのにも問題はない、あるとすれば蔓にいつ気付かれるというスリリングな状況だろうね。この場所だったら蔓の方に分があって魔法を極力避けなければ自分たちの足場が危うい。


 俺は端から魔法を自分の戦闘力に換算してないが、魔法が得意なマリとヨミには戦い辛い場面が続く。


 とにかく内部の蔓はもう支える以外に感覚はないみたいで、踏んでもピクリともしない。


 いつもの通り俺の前にはカラクが後ろには双子姉妹が続く。エーリオは最後、下から敵が迫ったときには弓で迎え撃つためだ。


 光喜には体力的には中々きつかったが大樹の真ん中まで無事に登れた、一休みの時間などない早く俺が霧の反応がある所まで行かないと、一休みが永遠の休みになっちゃぁ洒落にならない。


 光喜は自分の足場を見る、するとビル何階分の高さだろうか…もう落ちたら死ぬ確定の高さがあった。ブルッと震える。


 俺は別に高所恐怖症じゃない、だったらヒポグリフの移動で死んでいるだろう、でもヒポグリフは賢くてカラクが手綱を持っている安心感があるがこの足場はその真逆。


 ビユゥゥゥゥと風が鳴る音が下からしてきたコワッ、是非とも早く登って浄化して帰りたい。


 と顔を上げた瞬間俺の後ろ首のうなじ辺りにゾワワワッと寒気が走る、この感覚なんだと思い返す前に何本もの蔓が大樹の外側から大樹の空いた穴から内部に侵入してきた。


 「走れ!!」


 カラクが叫び俺たちは走って上部を目指す、黒ずみ汚い色の蔓は俺たちを狙って増えてきた。


 急ぐ俺たちの足場が悪くて中々距離をつくれない、追撃してくる蔓は主にエーリオの矢によって切断していく、矢が当たればその部分が裂けて蔓は切断された。


 カラクは光喜の手を引き上層部を目指す、もちろん既に刀は抜き光喜を捕らえようと近づく蔓を片っ端から切って捨てた。


 蔓は大樹に空いた隙間から触手みたいに中に入り込むがそれほど数は多くない、エーリオの矢の威力も土の精霊で強化され尋常ではないけれど、蔓は切断されていく。


 蔓の強度は岩のように硬くないので、大樹を突き破って中には入れないのだろう。


 カラクと光喜の前に数十本の蔓が襲い掛かってくれば多い程度、遺跡での襲撃に比べたら可愛いもんだ。それを一刀両断に断ち切るカラクに続き、俺も剣を持って撃退に参加した。


 漸く俺自身が戦闘戦力貢献に参加しているな、エーリオの矢が俺の後ろから来た蔓を打ち落とす。


 マリとヨミも他のメンバーに負けてはいない、マリはヨミに自分のスティレットを渡し。


 「ヨミ!貴方の精霊では辛いと思うけど使いなさい!!」

 「はいお姉さま!!」


 マリが空いた両手で、これ以上大樹の隙間から蔓が侵入してこないように開いた隙間を氷で覆っていく、今の蔓には氷を突き破って入ってくる強度はない。

 

 ヨミも託されたスティレットを両手に、自分に迫った蔓をジャンプして避け。そのまま踏み台にして、もっと奥の蔓を刺すとマリの時と同じく傷口から氷が広がって氷が覆われた蔓は行動を停止した。

 

 エーリオも矢筒から二本の矢を取り出し、弓を構える前にもう一本を自分の口に向かって投げ、その矢を歯でキャッチすると手に残った矢を弓に添え矢を引く。

 

 (もう残り15本もない…)


 自分の背中にある矢筒の微かな重みで残りの矢の数が分かる。消耗しすぎたとはいえ惜しめば光喜の身を危険に晒すのだけは絶対にしてはならない。


 矢を放ち蔓の一つを破壊すると、腰のつけている短刀を近づく蔓に投げナイフのように投げ刺してから走りだし、頭上にある蔓まで土の精霊で強化された足で跳び、蔓に足がつくと全身の力を込めて跳ね、空中で銜えていた矢を弓に構え大樹の隙間の穴から顔を覗かせた蔓を矢で打ち破った。


 つかさずその隙間もマリが氷漬けにして塞ぐ。


 攻防戦を続けていると蔓はピタリと動きを止めた、まだ攻撃仕掛けていない蔓までコンセントを引っこ抜かれた電化製品みたく急に停止する。全員が急に動きをやめた蔓に怪訝そうな顔して見渡す。


 エーリオは警戒をしつつも近場に倒れた蔓から刺さっている矢の回収をしているが、不気味な予感が全員していた。


 カラクが刀を握り締め周囲を窺うと大樹全体が揺れ初め、段々と強くなる地響きに光喜も神剣をカラクに背を向け構える。


 まだ無傷な蔓が一斉に枯れていく、まるで何かに吸い取られているようだ。


 「まさか……ッ!」

 

 カラクが呟くとカラクと光喜の真横から蔓が大樹を突き破って襲い掛かってくる、先ほどの蔓とは大きさも太さも桁違いに強化され蔓の先端は鉤爪みたいに尖がっている。


 外から隙間とか関係なく大樹の中に差し込んできたのだ、カラクは蔓を叩き割ろうと刀を鉤爪のような先端に振り下ろすが撥ね返された。


 カラクも驚き後ろへ引きさがり、先ほど弾かれた反動で指先に痺れをきたすが、自分の震える指に力を入れて蔓を睨む。


 数多くあった蔓を切り捨てて数本のみ残し、残した蔓に霧の力を集中しているのが直ぐに分かる。


 蔓の色は黒ずみから一転もう腐った果実みたいになっているのに先端の鉤爪だけは白っぽく白い石をとんがらせたよう硬い印象がとっても素敵、一発で腹に穴が空きそう。


 それほど耐久力は無いにしても人間の肉なら貫くほど前の蔓にもあったが、パワーアップバージョンは頑丈な大樹に穴を開けられる威力まで上がっちゃった。きっと俺たちまともに食らったら穴どころじゃなくて二つに分裂しちゃう。


 五本の鉤爪と化した蔓が俺とカラクに向かって首を擡げた、狙われているのね……泣きそう。


 「光喜!霧はまだ遠いのか?!」


 視線を蔓から逸らさず俺に問うカラクに光喜は答えた。


 「いや!もう近い!あの穴から凄く近くにある」


 頭の上に大樹の自然に出来た穴の向こう側に心臓を締め付けるトキメキに近い感情が湧き上がる、間違いなく原罪の霧が集まった核があるはずだ。


 そこまで行くにはまだ数十メートルは離れ、光喜が蔓から逃れつつ駆け抜けるには難しい。


 「俺が囮になる、その間に霧を浄化しろ」

 「大丈夫か?」

 「自分の心配をしていろ、最後まで油断するな」


 俺はカラクに頷き安定の悪い蔓を蹴って駆け始めた、穴までは螺旋階段みたいに上っていける。


 カラクは光喜が動いたことで蔓が光喜を狙うが、横から振り下ろして行く手の邪魔をした。


 それでも光喜を追おうとする蔓に腰から魔法具の筒を取り出し、ヨミが込めた魔法を放つ。


 カラクの手の中で筒が勝手に開き封じ込まれていた魔法が発動した。 


 ヨミが出来る最高の攻撃魔法の一つ刃の竜巻だ、一撃ならともかく竜巻なので何度も傷つけられ五本のうち二本の蔓が肉を引きちぎる耳障りな音をたてた。


 このような閉鎖的な場所で強力な魔法を使ったので大樹に大きな穴が空くが、気にせず腰に戻すと刀を持ち近くの蔓がカラクの胴体を狙って襲い掛かってくるのを間一髪で避け、鉤爪の真上から突き立てた。


 「ぐっううう!!」


 硬い表面にカラクは歯を食い縛って渾身の力で押し込むと、刃先が折れるも中に突き刺せた。そこから刃のついている反対側の反りに足を乗せて、一気に中へ押し込む。


 傷がついたのを確認すると引き抜き、全力疾走でその場を離れ再び腰の筒へ手を伸ばし蔓に向かって投げる


 今度はマリの氷魔法を発動させた、以前に凶鳥を氷の剣山で縫いとめた魔法だ、傷口を鋭利な氷が刺し陸に上がった魚のように暴れるが縫い取られた氷からは脱出はできそうにない。


 走りながら先ほど放った氷の側に落ちている筒を回収して、光喜の後を追う。


 光喜はやっとのことで反応の一番近い場所の横穴にたどり着いた。手を大樹に乗せて息を整えたいけど我慢の子!!


 左右に顔を動かし更に霧の核の在りかを探す、外は大の字になれるほど太い枝を走り捜すと隣の枝に強く俺が反応する。


 間違いない隣の枝に霧の核がある。


 光喜は助走をつけて隣の枝へ跳ぶ、なにそれほど距離があるわけでもない。此処で蔓に襲われなければ落下して死ぬ心配は……。


 突然前方から沢山の人間の腕が俺に向かって手を伸ばしてきた、跳ぶ距離ばかり気にしていた俺はそれに驚き無意識に後ろに反り返ってしまう空中で!!


 お・ち・る!!!!


 叫び声もあげられず大きく開いた俺の目に一本の腕が映る、そのまま俺に手は伸びてフードつきのマントと服を胸の辺りで鷲摑みをして俺が落ちないように枝の上へ引き寄せた。


 俺は引っ張られた力そのまま枝の上で両手をついて顔を上げた……ゾンビの生き残り?


 目の前に立っているのは主は若い男のもので、土気色をした顔の皮膚の下に寄生した小さな蔓が見え隠れしている。


 やばいーーー!!と叫んで逃げようとしたが。


 「…大丈…夫?」


 掠れ絞りだした声で俺に聞いてきた。

 

 「え?生きている人間?」

 「違…うまだ花が咲いてない…から…意識が残っているだけ…ここで死体を集めて…寄生させるんだ……」


 そのまま助けてくれた男は枝の上に倒れ、男の周囲には寄生された死体が放置されていた。帝国兵士に近辺の住人たちがまだ完全に寄生していないのか虚ろな目で俺に多くの手を伸ばしてくる。

 

 人間と人間でない物の境目にいるらしい、惨い光景だった。


 乾いた血のあとをつけて口から何かを訴えている、でも俺には何も出来ない。…ごめん。


 俺は立ち上がり霧の核を探すために動こうとしたが、足を先ほど助けてくれた男が掴んだ。


 男は自分の首にあった糸を編んで出来たネックレスを切ると光喜に差し出した。


 「父に…忠告聞かなくて…悪かったって伝えて…」

 

 俺はまたしゃがみ男からネックレスを受け取る、ネックレスの先には赤い石がついていた。それを大切に腕輪に仕舞うのを見届けた男は一つの方向に向かって指をさす。


 「全てを終わらせて女神…様…」


 光喜は無言で頷いた、剣を握り締めて指差された方へ走る。


*** 


 カラクは息を切らして最後の二本になった蔓と対峙していた、蔓は二本になると慎重になりジリジリとこっちの体力を削るような戦法をとってくる。


 蔓にとっては足場など関係がないのだけど、カラク達には死活問題だ。


 避けようにもいつもみたいに動けない。足場を選ぶ分いつもより多く飛んだり跳ねたりしなければいけなかった。それは徐々に体力を奪う。


 蔓は決して深入りした攻撃をせずにジリジリと追い詰めてくる。その上、一撃でもまともに食らえば即死の攻撃力で、常に揺らぐ動きをしている蔓の動向に気を張り詰める。


 エーリオと双子姉妹はカラクが光喜を強化した蔓から逃した後、蔓によって三人の上へあがる足場を全て壊された。カラクはよっぽど蔓に嫌われたのか孤立させ確実に息の根を止めるまで攻撃を止めない。


 カラクの刀はもう刃がボロボロで修復不可能な状態でも構えは解かずに蔓を睨む。


 鉤爪を振り上げ蔓はカラクを挟み打ちにしようと同時に襲い掛かり、カラクは後ろに飛んでかわすがもう一本の鉤爪に肩を引っ掛けた。

 

 自分の肉が裂ける感触に眉を顰める、いつもなら避けられた攻撃だったはずなのに足場がもう限られた場所しかない。


 蔓もさっさと侵入者の足場など潰せば落ちて死ぬと分かっているが、そう簡単に大樹を支える蔓を壊すと自分自身が地面に激突してしまうので最低限しか攻撃をしてこない、それだけがカラクには有難い。


 今度は鉤爪を擡げて上からカラクに振り下ろすが横に跳んだがカラクの足場からまた一本の蔓が迫った。しかもカラクの着地地点から来たので避けられない。


 「クソ!」


 また腰の筒を取ると蔓に向かって魔法を放つ、ヨミの風の魔法だ。疾風の刃が蔓を切断したのだがカラクの足場もろとも切ってしまった。


 足場が崩れ世界がゆっくり落ちてくる、落ちているのは自分だが錯覚してしまった。


 宙に投げ出されるカラクは下へ落下する、浮遊感よりも光喜が行った穴を見上げるとドンドン穴が小さくなっていく。

 

 (あの馬鹿はちゃんとたどり着いただろうか)


 こんな時でも光喜を心配するのは筋金入りだろう、筒を掴んでいた腕が何かに捕まえられた。


 「今引き上げる!!」

 

 その正体はエーリオだった、下にいた彼はカラクが落下してくるのを見ると走り寄って倒れこみながらもカラクの腕を掴んだ。


 カラクの体重と落下した加速で掴んだ瞬間に腕の関節が悲鳴を上げたが、無視をしてカラクを足場の蔓の上に引き上げた。


 「助かった」

 「ツケにしてあげるよ」


 素直に礼を述べるカラクに少し意外そうな顔をしてエーリオは笑顔で答える。

 

***


 一方の光喜は枝の上を走っている最中に大きな揺れを感じてふらついたが、もう落ちるのは勘弁とばかりに体制を整える。それはカラクが蔓に魔法具で攻撃したときの振動だったのだけれども、気がつくはずもなくまた走る。


 枝は先端に近づくほどに狭く細くなっていく、でも確かにこの辺だとキョロキョロ周りを窺うと一本の花があった。


 真っ黒で不気味な胞子を放つ彼岸花に似た形の花、きっとあの胞子で死体に自分の分身を植えつけるのだろう。


 迷わず光喜は神剣を振り上げ沢山の人を悲しませた原罪の霧の核を断ち切った。

核の所までたどり着きました。長かった…。

いや私が遅いだけですね、はい分かってます。(泣)

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