第二十八話 ゾンビVS爺ちゃん腕
あらすじ ゾンビって怖い、以上!
自分の体がどうなろうと前進してくるゾンビの群れにカラクとマリが光喜のところまで行かせない為に突っ込む。2人とも当然敵も2人に集中してヒトゴミの中2人は器用に立ち回りを見せてくれた。
後方から援護射撃とばかりエーリオが元部下の足の皿を狙って矢を引き、打ち抜く。滑らかでないロボットのような動きしかできないゾンビたちにはそれだけで二度と立ち上がれずに今度は這いずる。
ヨミもこの狭い洞窟で竜巻を起こすのは自殺行為なのを承知して数は倒せないが触れたら切断する風の刃を一体ずつ足に重点を絞って狙って放つ。
光喜は一番後ろにいて這いずっている奴らを何処でもいいから神剣で刺した。プスッとすると風船の空気が抜けたように黒い霧が傷口から吹き出て体の何処かに咲いていた花は萎れ死体は動かなくなった。
もちろん霧は俺の剣に吸収される、植物のクセに死体とか操るとか芸当多すぎだろうが。
どうやら花がやつらの本体みたいだ、足を切り離しても上半身でなく下半身に花が咲いているゾンビは下半身だけで俺に近づいてくる。怖い、キモイ、グロイの最悪コンボ。ホラー映画の主人公の気分だ、でも挫けない逃げちゃ駄目だ。
まだゾンビならいい幽霊がでる映画の世界だったら俺は皆を置いて全速力で逃げる。幽霊怖い…絶対ちびる、ついでにテンパル。
小学の頃にテレビで幽霊系のホラー映画を姉貴と一緒にみていてお約束シーンで律儀に叫ぶから鉄拳制裁に地獄固めを食らった。姉貴の関節技は親父仕込で抜け出せない、あの苦い思い出も俺のトラウマの一つ。
麗しくも慈悲深いお姉さまをキレさせるほどに俺は幽霊系のホラーは駄目、ゲームとか貸してもらっても開始五分後には積む。
俺の黒歴史とチキンハートを自慢したいわけじゃない、こんなのを考えるほど数が多いくてカラクとマリには悪いが這う死体を刺して回る作業に疲れてきた。カラクに聞かれたら頭の一つは殴られる、最近アイツ俺に遠慮がねぇ。
カラクとマリがゾンビの群れに突っ込みどうにか周囲をゾンビに囲まれないようにカラクは刀で切りつけるがさしずめお正月の福袋買いたいおばちゃま状態で2人に殺到していた。
一体一体カラクたちにとっては弱く敵ではないが戦闘力の高さではなく数の暴力だ、しかも光喜にトドメを刺せさせるには常にカラクとマリは前進しながら死体と戦わなければならない。
止まれば光喜が敵に囲まれる、光喜だって最低限自分の身は自分で守れる程度の武術は身につけている自信はある、神剣で切ればどんな傷でもあっという間にゾンビは再起不能になるわけだし、剣術にしてもカラクに劣り魔法にしても双子姉妹みたいに操れなくてもだ。
でも一番に優先して守る対象が俺なのは分かるがこうやって楽な戦闘しかできないのは何とも心につっかえるものがあった。
それ以前にきりが無い、後から後からゾンビは湧いて出てきやがる。いい加減元栓を締めたい、しかしここで森を燃やしたように魔法を出せばみんな仲良くあの世行きは間違いない。
それにカラクはともかくマリに疲れが見え始めた、やっぱり女の子で接近戦より中距離戦のほうが得意なマリには長時間の前線はキツイ。女性を前線で戦わせておいて自分は安全な場所で戦うのは男としての沽券に関わる、今は女の姿だろうとか言ったやつはコンドルチョップをお見舞いだ。
≪そろそろワシの出番かじゃわい?≫
俺の足元のから声が響く、いつもカラクと同じくらいに頼りになる炎の精霊王グリエの爺ちゃんだ。
「いい手はあるの?爺ちゃん?」
足元のゾンビを刺して問うと意外にウキウキした声で。
≪何度か女神が魔法を使ったおかげで腕一本程度ならワシを召喚できるわい、やってみるか?≫
爺ちゃん自分の姿をお披露目したいのね、でも。
「腕一本でた所でどうこの状況を打破できるわけだよ!?」
≪失礼なワシは精霊王じゃわい!この死体ども程度は蹴散らせるわい≫
光喜は自分に這い蹲りながら向かって手を伸ばしてくるゾンビに眉を顰めて切りつけた。まるで女神に助けを求めるようにも俺を母親みたいに縋ろうとする様にも見えてくるのだ。彼らを静かに眠らせる以外に俺には出来ない、正直いって期待されているのを裏切っているみたいで辛い。
このまま長期戦は不利とみなしグリエの爺ちゃんの言う通りにしてみよう、すんげー自信あるみたいだから。
「カラク!マリ!グリエを召喚するから退いて!!」
≪退くだけではイカン女神の後ろへ回れ≫
俺が叫んだ後続けさまに爺ちゃんの声が洞窟に響いた、カラクとマリは一瞬だけ顔を見合わせたけど…俺に任せて大丈夫なの?的な意味だったら泣く。
グリエの指示通りに2人は周囲に囲まれたゾンビをなぎ払い、俺の後ろへまわる。ついでにエーリオとヨミも。
そして爺ちゃんに意識を集中したのはいいが基本的な魔法の使い方以外に精霊召喚って習ってませんが大丈夫でしょうか。
なんて考えていたら俺の目の前に大きな紋様が浮かんだ、エーリオがキルッシュを召喚したのと似ているがその魔方陣みたいなのが比較にならないくらい大きい。
結構な広さのある洞窟一杯に魔方陣が光喜の盾になるように前方にあわられた。
うわービックサイズ、感心していると円の中から筋肉モリモリの人間の腕と猫科の前足を融合させた腕が新幹線なみの速さでゾンビたちに向かって真っ直ぐ拳が迫る。
でかい、爺ちゃんの腕でっかい!!しかも腕が炎に包まれている!!
比較するならば俺があの手に握られたら最近転職が決まったバービー人形みたい見えちゃうよ。ファッションモデルからコンピューターエンジニア就職おめでとう。
なに?爺たん巨大だったの?腕から推測するにキングコングくらい巨体だったわけ?凄いね精霊王って。
当然そんな巨大で筋肉質な腕の超正拳突きを食らったらゾンビの群れはあっという間に体ごとつぶれ見るも無残な消し炭に…。
≪どうじゃまだヤングには負けんわい!≫
「すげーぞっ爺ちゃん!一発で蹴散らした!!」
フフ~ンとグリエの声が聞こえそうなほどの上機嫌な声に俺も興奮。宿主を失った原罪の霧は俺の神剣が漏れなく吸収していく。
目の前のゾンビは爺ちゃんが一掃してくれたので先には一体も視界を遮る死体はない。
≪しかしのう…コレがワシの限界じゃわい。一度の戦闘にワシを外に呼べるのは腕のみ回数は一度きりと覚えておけ≫
「了解、頼もしいぜ爺ちゃん」
≪早くワシを外に出せるように精進しておくれ、外に出られない状態ではワシ自身ろくな魔法を使えんでな≫
「おうよ!」
ぐっと俺も親指を立ててみる、あれ?俺も古臭いポーズしている?
爺ちゃんの活躍によりゾンビの群れから難を逃れた俺たちは一本道になった洞窟を進む。蔓が地下洞窟を護衛させていたからして段々洞窟の中にも植物の根が異常に伸び張り巡らされている。
進めば巨大な根に進む道を遮られた、びっしり道を塞ぐかのように根が俺たちに立ちふさがった。その代わり上を見ると人工物でない光が注ぎ込んでいた。
どうやらこの辺が森の中心部らしい、洞窟を突き破って根を降ろした代わりに洞窟の外までの穴を開けてしまったみたい、穴は成人男性が十分に通れる大きさ。
巨大な根を登ればきっと地上へ出られる、やっと暗くてカビ臭い洞窟から出られるとあって心が少し軽くなった。暗闇はやっぱり心理的に落ち着かない。
最初に登って地上の様子を見るのはエーリオが買って出た、カラクより身軽でバネのあるジャンプをしてスイスイ足場を見つけては登るよりも根と洞窟の壁を交互に跳んで空いた穴から顔を少しだけ出して様子を窺うと異常はないのか手招きをし、俺はカラクの手助けにより登り最後に双子姉妹が洞窟から地上へ出た。
皆が無事地上へ出ると空を仰いで見てみる、空は森の木々に邪魔をされて見えないが原罪の霧に憑がれた蔓に気付かれた様子もなくて静かなものだ。
周りは前日に来た遺跡近くよりももっと奥でジャングルよりも恐竜がでてきそうな訳の分からない植物の楽園と化していた、大きな木の根に影になるように全員が隠れて辺りを窺う。
「何か感じるか?」
俺の隣にいるカラクが俺に聞いてみる、霧の核が近ければ俺が反応するはずだから。
「あっち」
俺は一際大きい巨大な大樹を指さす、あの木からドキドキしてワクワクしてゾクゾクしてきちゃう。お酒によって裸で走りたいくらいに落ち着かない興奮があの木から発せられた。
「しかしながらあの木はもう死んでいますね」
マリが木を見つめて呟く、そう大樹は立ったまま朽ちていた。その周りに蔓がまるで自分の支えをさせるように木に絡みつき沢山の蔓を伸ばしては生き物のように蠢めく。
ここから森の全体へと蔓を伸ばしているのか成る程うなづける大量の蔓がイソギンチャクの触手のようにも蛇にも見えた。
「どうする一気に攻めるか?」
カラクに光喜が聞く、戦闘に関してはカラクの方が先輩だし信頼もしている。
「いや、出来る限り気づかれない様に近づくぞ」
全員が頷く、それからエーリオを一番前にカラク俺と双子姉妹の順番で身を屈めつつもそっと大樹に近づいた。
あの蔓に憑いた原罪の霧さえ祓えば周囲の霧をひきつけて巨大かした蔓も収まる、その上に砂漠化も止まり何百年かしたらきっと街も元の肥沃な土地へ戻るだろう、賢い蔓のことだ次は地下洞窟も死体に警護を任せずに洞窟自体を塞ぎにかかるかもしれない。
今日霧を祓わなければきっともっと強敵になりかねないのだから皆は慎重になった。
カラクが突然俺の後頭部を鷲摑み自分の方へ強い力で引き寄せた、何が起こったと状況を把握する前に俺の頭があった場所から蔓がニョロと蛇みたく通る。双子姉妹もそれに接触しないように止まった。
蔓は視覚も聴覚もない分空気の動きを感じて敵を探っているに違いない、そして光喜たちが地下で散々に暴れ敵が近づいているのに気付いているはず、しかも光喜がここにいるのだ。霧と女神は共鳴する、女神を求めて蔓は活発に光喜を探した。
蔓は光喜に気付かず双子姉妹は触れないように屈み、蔓の下を細心の注意を払って通った。心でホッと息をついて前進を開始。
何とか精神をすり減らしつつも大樹の前まで全員無事に到着、巨大な大樹を見上げると大樹の中は空洞になってる。腐り中がこっぽり抜けたのだろう。
逆に蔓が大樹を倒さないように内部は蔓でビッシリと、蜘蛛の巣を張るように硬く石化した蔓が上手い具合に所狭しとあるおかげで上層まで登れそう。
光喜は上を見る、反応は大樹の葉のついていない多くの枝のひとつにあった。そこまでいければミッション完了だ。
精霊王グリエが大体どんな動物なのかちょっと片鱗を見せてみました。
あと知り合いからエーリオが光喜に噛み付いたのに「死ね」という返答が…エーリオは私の周りでは人気が本当にない。
可哀想になってきました。