第二十四話 騎士のエーリオは爽やか系
あらすじ ジャングルはエロい触手で一杯だった、以上!
ジャングルから出て砂漠からジャングルの様子を窺うと、ジャングルの高い木々がゆっさゆっさと揺れていく。ただいま光喜が放火した火を絶賛消火中。
森中に絡まっていた蔓が、懸命に動き消火に当たっているのを四人は眺めていた。まるでジャングルが一つの生物のよう。
その様子を見ていた光喜が大きな欠伸を暢気にしたと思えば、今度はフラフラと体が安定せず膝を崩し。倒れそうになるのをカラクが顔面から砂に衝突しないように光喜の体を支えた。
「悪い、俺また魔力使い過ぎたみたい」
光喜の体はまだ魔法の魔力が体に馴染まず大きな魔法を使うと、眠気が襲ってくる。肝心な光喜が動けないとなると再びジャングルに近づく意味は無い。
「いったん退くぞ、ヴァニーユの街にはまだ人が住んでいたはずだ」
カラクが光喜を抱き上げ、双子姉妹もカラクに頷き自分たちの魔獣を指笛で呼ぶ。ほどなくして2体のヒポグリフと大蛇が空から飛んでくる。
もくもくと煙を上げ続けている森をよそ目に光喜たちを乗せた2体の獣は空へ舞った。
***
暫く空を飛んでいると光喜はヒポグリフの背の上で目を覚ましまた、前回の魔法の暴走時よりは小規模だったので街につく頃には完全とは言えないが寝ぼけた状態で目を開く。
「ここは…?」
「「もうすぐヴァニーユに着きます光喜様。着いたらお食事にしよう」」
真横を飛んでいたマリとヨミに言われて足元を見ると遥か下に街があった、相変わらずボロボロのゴーストタウン寸前で。
う~ん…とカラクに俺の腕が当たらないように気をつけて背伸びをして、カラクが「下に降りるぞ」言うので光喜は体制を整えて魔獣は街へ向かって降りた。
ヴァニーユの街はやはり上から見た通り、砂漠の砂にやられて随分いろんな所が痛んでいる。四人は魔獣を街の端に置いて街の中心部に向かって歩く。
忠誠心をしっかり叩き込んでいるヒポグリフと大蛇は逃げる心配はない。
外側のほうは砂の侵食が酷く、完全に人が住んでいない状態だった。逆ドーナツ化現象だろうな、昔テレビで砂漠に住む人が砂をほうきで掃いて家を守っていた風景を思い出した。
生まれたときから習慣になっている人ですら、砂漠の砂にうんざりするといっていたので、ここ最近砂漠が広がった地域だったらどんな苦痛なんだろう。
そもそも肥沃な土地だったってカラクが言っていたから、砂漠に対する知識なんか無くて呆然と見守るのが精一杯かも、俺だって家の周りが数年で砂漠化したらどう対処したらいいかまったく分からないしな。
街の中心部に行くに連れて人の気配が感じられ、光喜はマントのフードを深く被って髪を隠す。ここで女神なんてバレたら街の住人が助けを乞いに殺到するのが目に浮かぶ。
どの道のこと原罪の霧を祓って女神の存在がバレるならせめて顔を隠さないと、この先の旅がやりにくくなる。
街の中心部では絶望感漂う顔で砂を掃いている人や俯いて座っている人がちらほらいて、彼らの生活に生き生きとした活気は無かった。ただ外から来る人が珍しいのか周囲から注目されながら、とりあえず食事が出来そうな場所を探して歩いていく。
そりゃ注目されるよ、今にも砂に飲み込まれそうな街に旅人がやってきたら。とりあえず宿らしいほかよりも一回り大きな家に目星をつけて四人はドアをノックして入った。
一応民家だったら迷惑だからね、でも中に入ったら看板は降ろされていたけど宿だった。カウンターと食事が取れるイスとテーブルが暫く使ってない感じに放置されていた。
カラクがカウンターを叩き、ドンドン音を立てながら大きな声で家に人が居ないか呼んでみた。
「誰か居ないのか!」
そうすると奥からのそっと、しわの多い中年の痩せた男性がやってきた。
「なんだい、珍しい。あんた外の人間だね」
「そうだ、食事がとれ寝る場所があればいい。泊めてくれ」
金なら出すと、カラクが言うが宿の主は首を振って断ってきた。
「すまないがもう宿は廃業したよ。出す料理もない、自分の食事すら明日どうなるかわからないんでね。金があっても、もうここでは意味がないんだよ」
「食料は俺たちの分を使えばいい、数日分の食料も分けてやる。それが宿代で文句はあるまい」
カラクはどうやらこうなるであろう展開を読めていたらしい。俺の腕輪の中にしこたま食い物と水は収納して持っている。
宿の人に多少譲っても、大分余裕がある。それよりは野宿するよりベットで寝れるほうがありがたい。
「そりゃこっちとしては有難いが…なんでまたこんな街に来さったね?」
宿の主人の当然聞きたい質問にマリは笑い。
「旅人は旅をしますので旅人です」
何処の名言ですか?マリは軽くはぐらかし、これ以上追求しないで欲しいと言葉の裏で言った。宿の主人もかつて大地が緑豊かな時に開いていた旅の宿なだけに深く聞かずに「そうかい」と一言で済ませ。
「台所はあちらにあるから好きに使っておくれ、わたしは残り物をいただくよ。どれ、長い間つかってなかった部屋の掃除をするかね」
ゆったりとした口調で再び奥の部屋に引っ込んでいった。
「「では、光喜様私たちが腕によりをかけてお食事を作ります」」
マントを脱ぎ双子姉妹は光喜に向かい愛情満点の顔で料理を作ると宣言したが、カラクが止める。
「止めておけ、激辛料理か塩分過剰の料理しか出てこんぞ」
「「失礼な。お父上様は美味しいといってくださいました!」」
マリとヨミの主張にカラクは、眉間に指を置いて自分の寄った眉を宥める。
「その後で長老は寝込んでいたのをお前らは知っていたか?飯は俺が作る、光喜を殺したく無いならお前たちは部屋の掃除でもしていろ」
わおっ!確かに俺は双子姉妹の料理を食べたこと無い、まさかそんなハードな料理を好むなんて知らなかった。そして俺は過剰に辛い料理もしょっぱい料理も食べる勇者じゃないから遠慮します。
光喜もカラクの手伝いに向かい、最初は双子姉妹は渋々だった掃除が今は光喜が使う部屋をピッカピカにする使命感に燃えて夢中になり店の主人は大助かりだろう。
なんとか水は緑が豊富であった頃の名残で、地下水は辛うじて枯れていなく料理と掃除の心配は無かった。
俺は終始マントのフードを被ったままだと怪しまれるからカラクに髪を結ってもらう。青い色の長い布で頭に巻く、風呂上りのねーちゃんみたいに髪をスッポリ隠す。
カラクと一緒にマントを脱いで手伝をしたけど食材を刻むぐらいが精一杯、俺の尽くせるベストはここまで。
自慢じゃないがな!俺が小学のころに姉貴と一緒に料理作ってド突かれた経験がある、スープの具のささ身を切り分けずにそのまま浮かんでいたので怒った。
こりゃスープじゃなくてささ身の水死体だって。確かに肉の固まりが浮く姿は不気味だった。
俺とは対照的にカラクが手際よく男の料理を作っていく。
コイツは本当に何でも出来る男だ、顔もいいし体格もバッチリ。そして強いときたもんだ、乳ハンターじゃなけりゃ…とつくづく思う。
余談だけど料理をしている間はカラクの髪が邪魔になるのでポニーテールにしていた、似合っていたからそのまま定着したらどうだ?と聞いてみたら鼻で笑いやがった。
微弱ながら俺が手伝った料理は羊を塩茹でにしたデカイ骨付き肉と、小麦粉に水を加えて生地を作り肉まんみたいに羊肉を細かく刻んだ(ここ俺がやった)なんちゃってミンチを包んで水餃子を作り沸騰したお湯で茹でたら皿に盛る。
最後に羊の塩湯でした大きな鍋からアクや不純物を除けたゆで汁に大きめに切った野菜と見たことないトマトみたいな赤い実を潰して入れ、最後に味を安定させる固形物を放り込む。
この世界のコンソメの素みたいなのを入れたら完成で、カラクは大きなお玉で混ぜていく。スープは肉汁と野菜のだしがでて美味そう。
日持ちとか俺たちには関係ないから生肉や野菜を使う、流石に貴重な油を使って揚げ物なんかは何処から出したと疑われそうなので使わない。
たぶんエグゥテの民は一品一品がデカイ分、出てくる品数の種類は少ないと思う後は羊の肉をよく食べる。前にテレビの料理を見て日本の料理は品数が多いとか話していた。
料理が完成したらマリとヨミを呼んで俺たちはできたての料理を頂く、宿の主人は本当に後から食べるようだ。
やっぱり好きで宿を辞めたわけじゃないからか、テキパキと自分の仕事をしていた。砂漠化などせず平穏のままだったらこの街でずっと変わらず宿屋をやっていけたのに。
食堂の名残である長方形のテーブルに俺の向かいに双子姉妹、右にカラクが座り料理を食べる。
カラクの愛情(?)がたっぷり込められた手料理をマリが自分の小皿にのった料理にタバスコみたいに真っ赤でちょっと目にしみる調味料をわんさかかけて、ヨミが塩をばっさり乗せていく。
双子姉妹に料理を作らせなくて正解だ、カラク…。俺みているだけで水が欲しい。
気を取り直し、ちゃんと羊の肉は切り分けて俺の皿にドカッと乗っけてフォークとナイフで水餃子とスープと一緒に食べていると宿の入り口のドアが開いた。
やわらかくてシンプルな味だけどうめぇなと思いつつ(臭みがあるが空腹は最高のスパイスです)自分が羊肉にそれほど抵抗が無いのに感謝し。ついでに茹でているときにカラクは月桂樹の干したのに似ているハーブを入れていたので臭みは中和したかも。
美味しく食べていたが扉から来た男性に一同みな手を止め誰かと確かめた、お世辞にも俺たち意外にやってくる客はいない。
扉にいたのはこの街では珍しい生き生きとした男性だった。年は二十代前半、若い男。髪は紫色でセミロング、どちらかと言うと伸ばしているよりも手入れをする暇が無くて伸びたという感じ。
顔はいい男だけどちょっと目は細く、赤い瞳をしていた。全体の印象は優しそうで知的な風貌を持っている。
カラクほど体格よくなく細マッチョであろう、帝国軍の兵士なのか見覚えのある動きやすそうな鎧を着て腕は篭手を背中には弓の矢を入れた革製の矢筒を背負っていた。
弓兵だから身軽な格好をしているのか…てか、帝国の兵士がこの街にいるんだ。
「こんにちはモールドさん、今日も来た…よ?」
俺たちを見つめると男性はこちら見て目が合う、おや?といった具合に首をかしげた。
「こんな街でも旅人が来るのか…」
興味深げに俺たちを見つめる男性に宿の主人は二階から降りてきて。
「こんな街で悪かったな、お前さんはまた懲りずにきたのか」
「すまない、そんなつもりで言ったんじゃないんだ…今日もモールドさんを説得しにきた。いい加減この街を捨てて帝国の城下街へ移住しよう」
男性の言葉に、モードルはため息をつく。
「何度も言わせんでくれ、あんたの気持ちは嬉しいがわたしはここで死ぬつもりだ。もうこんでくれんか?あんたが来ると息子が帰ってきたと勘違いする」
「いやだよ、僕は何度だって説得しにくる」
俺達は知らんフリをしながら2人の会話を俺たちは盗み聞きしちゃう、まあ耳を澄ませないでも聞こえてくるんだけど。
話の内容はどうやら若い男性が宿屋の主人をこの街から速く避難させたいらしい、それを頑として断る主人との攻防戦は平行線でどっちも譲らない。
五分ほど続いた戦いに決着はつかずに男性は帰ろうとしたが、意外にも宿の主人は男性を引き止め食事を勧めた。自分の分はいいから食べて行けと、口うるさい兵士でも居てくれたら助かると言って再び二階へ行ってしまった。
返事も聞かず二階へ行った主人に困り男性はどうしたものかと立ち尽くしていたのをカラクが声をかけた。
「食っていけ、どうせまだ多く残っている。お前が大食らいでも一人分は残るはずだ」
意外に初対面の人間に親切な態度のカラクにちょっと驚くも、俺も賛同した。
俺の手伝ったスープを舐めるな、給食で使うでっかいバケツみたいな鍋で肉なんかグラムじゃ足りないキロ単位ぶち込んだんだぜ?カラクが肉を取り出した時は、大きくてなんのパーティーかと思った。
見ろこの肉はお前の腹を突き破る大きさだ、さあかかって来い。
とか口に出して言ったら馬鹿みたい。心の片隅に先ほどの台詞を捨てて俺の空いている左の席のイスを引き座るよう促したが、まだちょっと躊躇はあったもののマリとヨミが食事を運んで来たら降参してありがたく頂くように背中の矢筒を置いて俺の隣に座った。
「食事を頂くのにまだ自己紹介してなかったね、僕は帝国騎士エーリオ・ダトー・ミントよろしく」
「ほう…ミドルネームお前は貴族か」
カラクがエーリオの名前に反応した、光喜は知らないがミドルネームがあるのは貴族か王族の身分が高い一族だけに許される。ちなみにモラセスは皇帝なのでモラセス・デギゼ・ガレットが正式名。
「ええ、お恥ずかしながら僕は貴族といっても没落貴族だ。三年前にモラセス皇帝が王位を継承なさった時に、僕の父がパネトーネ殿下派で、モラセス皇帝陛下が皇帝になられ際に伯爵だった父が男爵まで降格した後に僕が家を継いだんだ」
へーっと後ろ盾とか王宮内の権力争いとか光喜は良くわからないが、相槌だけはとっておく。
それよりも光喜の興味はエーリオの言った単語に集中していく。
パネトーネ…パネトーネ…どこかで。
あっ!!思い出した!
光喜は苦虫を噛み潰した顔をしてしまった、マリもヨミも同じような顔をしている。
光喜がノア・レザンで召喚されたときにマリとヨミの父親である長老の館に侵入して、色々面倒だった蛙の皇子様だ。思い出しても俺たちのモチベーションを下げてくれる凄いやつ。
金と女と権力がすきそうなコイツに決定権を持たせてはいけないアンケートぶっちぎり一位を取れる男だ。光喜に…女神に取り入って権力の拡大を目論んだのはいいが、結局みんなの前で無様な姿をさらしただけに終わったな。
エグゥテの町から出たら一度も思い出すことなく、記憶のたんすから即消去した男を思い出す。
「その騎士様が一人でこの街に何故いますの?他の皆様はどちらへ?」
率直な疑問をヨミは訊ね、エーリオは微笑みながら言う。
「最近異常な砂漠化が進み、僕の判断でとりあえず避難できる人は僕の連れてきた兵士によって王宮がある城下街まで連れて行いたよ。残った兵士は僕を含め数人だけ」
光喜はモラセスの顔を頭に浮かべてみる、チャラ男でホストだったけどちゃんと民のために働いている気はした。ここまで人々が苦しんでいるのにもっと救助にくればいいのに。
「ふーん、皇帝に言わなかったの?こんなに酷い事になってますよーって」
疑問をぶつけてみたが、エーリオはスープを飲むのを止めて俯いた。
「それが…ね。このエリアの統括はパネトーネ殿下なんだ、いくら訴状を書いても…街の一つ程度じゃ関心が向かなくて」
あの無能…。光喜はますますカエル皇子に反感が募った。
そしてエーリオは後ろ盾だったパネトーネが皇帝になれなかったゆえに権力争いに負け降格しただではなく、パネトーネ共々他の後ろ盾も一緒にエリアの統括監督とは名ばかりの場所に移されたらしい。
その一つがこの街でだって、エーリオは騎士としてこの一帯を管理する部隊の隊長を務めているんだと。
パネトーネ本人は王宮の城に住み自分の統括するエリアに見栄(特別注目されない街が多い)がないので興味が向かずに、やるべき施しを一切していない。
モラセスの耳にもパネトーネが塞き止めて邪魔をしている、意識してこの街を潰そうと動いているわけじゃないが無関心ゆえに動こうとしない。
光喜は帰ったらとことん告げ口してやる……俺は女神だからもっと凄いことできない?皇帝よりも上位なんだからさ。
にぃ~と笑い、エーリオの肩に勢いよく手を乗せて。
「まっ直ぐに良くなるさ、皇帝がきっと助けてくれるって」
助けさせます、この俺が。
こんな魂胆カラクにはお見通しで、俺の足をテーブルの下からゴンと蹴った。地味に痛い、調子に乗るなって意味でしょう。
エーリオも軽い励ましと思い、笑ってくれ「ありがとう」とお礼を述べた。
「ところで、君たちの名前を教えて欲しいのだけど?」
おっと失礼まだ自己紹介がまだでした。みんなエーリオに注目しすぎ。
「俺は光喜、こっちはカラク」
俺は指を自分にさした後に右に座るカラクへ移した。
「ヨロシク光喜…珍しい名前だね」
まあね、地球出身ですから…。例え深く突っ込まれても俺は笑ってごまかす。
「わたしがマリです」
「その妹のヨミです」
どう見ても双子にしか見えないのであえてその説明は省く。
「「どうぞよろしく」」
「ああ、こちらこそ」
爽やか青年エーリオは笑顔で皆に答えた。
新キャラ登場、彼は毒にもクスリにもならない性格で正義感が強い感じですかね?
このメンバーと一緒に居て自分の主張をしっかりしないと出番が少なくなるのでしっかり彼の性格を固めたいです。