第二十三話 冒険にでよう、そうしよう
あとがき シナモンは俺が嫌いみただけど俺は友達と思っているからな!以上
朝日が地平線から顔を出す時間帯に光喜とカラクに双子姉妹が王宮の大きな庭に出て、それぞれの装備を最終チェックしている。
マリとヨミは念入りに薬などの装備品を点検して、カラクは新しい服と特注で作った手袋の感触を確かめていた。
カラクの手袋は鹿の革で出来た丈夫な物で、手の甲には金属が縫いこまれ手の平の内側は厚いなめし革を使い、篭手のように外部からの攻撃を防ぐよりも刀の摩擦から防御する仕様なので軽そうだった。
服は新しい旅用の生地のしっかりした丈夫な服で、上は濃い緑色の長袖に下は黒のズボン。それに愛刀を茶色のマントの後ろから剣を背負うベルトで固定し、腰には光喜が一つ魔法を込めた八個の魔法具の筒を確かめていく。
ついでにカラクの眼帯も新しくなった前から使っていた眼帯は、出血して血を吸いどす黒い色に変色してしまったから。
光喜は原因であるのに何で出血しているのか?大丈夫なのか?とウロチョロとして大変鬱陶しがらせカラクの乳揉みの刑に処された。
後ろから羽交い絞めにされて乳を揉まれ、モラセスから指をさされながら笑われる羞恥には流石に白旗を振った。
カラク自身、光喜には眼帯の下に触れて欲しくない感じも受けて出来るだけ関わらないようにそれからはしている。
new眼帯は黒に銀色の刺繍の模様が描かれ、光喜が選んだカッコイイやつで、真紅の髪に黒の眼帯は我ながら良く似合っていると思う。
双子姉妹もカラクよりもオシャレで色彩が多い旅用の服にかえて、お揃いの紺色のマントを装着。厚着をしてもなおエキゾチックな魅力は今も健在であった。
光喜は純白のマントを前で留めて、マリとヨミの点検を待つ、これから最近異変が起きている遺跡へ行くのだ。
話によれば400年前に封じられた封玉が綻び始めているのか人や環境に被害がでているらしい、確かめるためにも行くしかない。
暫く離れる光喜にお国代表のモラセスとニーダが見送りに着てくれた、とは言っても暇そうにしている光喜にモラセスがからかっているだけなのだったが。
空で移動すれば半日もあれば目的地に着くので、お昼すぎ頃には遺跡の近くの街にはつく予定。
ニーダさんがあれこれ双子姉妹と喋っているのを横目でモラセスに聞いてみる、前からちょっと疑問に思っていた事なんだけど。
「カラクとマリとヨミが乗っているアレって動物にカテゴリーされる訳?」
指をさしてヒポグリフを見ると、マリとヨミの蛇にトンボの羽がついている大蛇の尻尾を銜えて食おう?としている。
初対面からあの大蛇は酷い役回りをさせられていると思う、最初が城の壁に頭からマリとヨミに激突させられ泡をふいていたよな。
「動物とは呼ばないな、魔獣だ。魔獣の条件は空を飛び肉食で人に危害を加えられること、空を飛ばなければ肉食も動物として分けられるぞ」
そして魔獣は動物に比べて闘争本能が強く、しばし賞金の対象としてギルドの傭兵たちが討伐へ行くこともあるほど。
フーンと返事をしてヒポグリフと尻尾を何とか取り返そうと暴れる大蛇を見つめた。
彼らの上下関係はどうやらヒポグリフのほうが上らしい、大きさは大蛇のほうが大きいのに。
魔獣は基本飼いならすために雛のうちに巣から奪い育てるのだとか、そして名前は付けない。
名前を付けない理由はただの縁起が良くないのだって、同じ名前の人間が来世で同じ名前の魔獣の種族に転生するんだと。
認識するにはヒポグリフと大蛇で光喜には不自由がないので別にいいけど。カラクもヒポグリフと呼んでいるので問題はない。
そんな話を続けているとマリとヨミのチェックも終わり双子姉妹に呼ばれる、俺の仕事は収納係。
賢者ファーロウから貰った何でもいっぱい収納できる便利な腕輪に旅の荷物を入れるのだ。
光喜が腕輪の宝石を触り、旅の荷物が吸い込まれていく。何を入れても全く重くないし、取り出すときだって簡単に取り出せる全くありがたい。
光喜の仕事なんて数秒もあれば完了、後はカラクのヒポグリフと大蛇に騎乗するための鞍と手綱をつけたら準備万端。
カラクのヒポグリフに光喜がカラクの体の前に乗り、大蛇には双子姉妹が乗った。
「よう、お土産はヴァニーユ特産の豚肉でいいぞ」
モラセスが数メートル離れた場所から言ってきたので、光喜は。
「心配しなくても買ってこねぇーよ、お前はちゃんと仕事していろ!」
と笑って返した、カラクが綱を引いてヒポグリフの腹を蹴るとヒポグリフは助走を付けて空へ舞い上がった。
後ろに続き、大蛇も羽を羽ばたかせて空へ向かって上昇していく、双子姉妹はトンボの羽より前に座り、双子姉妹が騎乗している頭から首までは動かないが羽から尻尾までの体は海蛇みたいに揺れて空を飛ぶ。
皇帝とニーダは地上から光喜たちの姿が見えなくなるまで見送っていった。
上を見続けていた皇帝モラセスはそのまま背伸びをして、ニーダを見る。
「さて、女神殿がいない間にこっちはこっちの仕事をしますかな?ニーダ宰補殿」
「御意、女神さまの情報によりシナモンという男の身元が判明しました。それを元に闇の使徒の居場所はほぼ確定しておりましょうぞ、後は少数の精鋭部隊を結成だけです」
「よし…では、やるか」
光喜には知らなくてもいい事実がある、これは女神の仕事ではないのだから。彼女は輝いていればいい。
モラセスが玉座へ向かう、その顔は光喜には見せなかった玉座にすわる一国の皇帝の顔だった。
***
朝日がのぼり光喜の真上に来る頃、光喜は地上を見つめカラクへ訊ねた。
「遺跡は森だよな?何で地上が砂漠なわけ?」
「知るか、数年前に訪れた時は荒野だったが…これほど異変があるとはすでに封玉の封印は解かれていると思った方がいい」
地上は緑が一切なく、砂しか見当たらない。
「とにかくヴァニーユの街に行くぞ」
ヒポグリフの進行方向を修正しつつ遺跡のある方向へ向かう、砂漠化をして目印となる物が少ないが光喜の腕輪からでる地図を頼りに予定通りお昼過ぎにはヴァニーユの街へ着いた。
2頭の獣に乗ったまま地上を見おろす。
そんなに高い場所に飛んでいないので街の様子が手に取るように分かった。
随分寂れた街だった、街には人はいるが廃墟となっている建物が多い。砂と風で手入れもされず住んでいない家はすぐに見分けがつく。
「うわ~砂漠の街なのに木造建築って違和感ある」
光喜が思わず呟く、砂漠といったら泥を固めてレンガにしたり環境に適した構造の家が多いのにこの街はポンッと砂漠に瞬間移動して置き捨てられた感じが受け取れた。
「元々は豊かな森に囲まれた街だったはずだ、それが異常な進行の砂漠化がはじまり現在は砂漠に埋まりかけているな」
カラクが俺の後ろから言う。
「これも霧の影響?」
「断言できん、が恐らく関わりはあるはずだ」
光喜は頷き一つの場所を見据えた、何処に封玉があるなんてもう簡単に分かる。
街よりずっと先に一つだけ森があるのだ、周りは砂漠と化しているのに何も知らぬ顔で。その場所だけ森が茂り、砂漠に苦しむ人々をあざ笑うように存在した。
砂漠の真ん中に森があるのは違和感があって空を飛ぶ獣はその場所に向かって飛んだ。
***
怪しい森の端に降り立つ、森は木々も多いが木に絡みつくツタも多い。
森はというよりジャングルって表現が良く似合う。
ジャングルは木々が所狭しと競り合うように立っているのでヒポグリフと大蛇で飛行しながら奥へ進むのは困難だと判断し、二頭を置いていく。
別れ際に一言ヒポグリフに光喜が「大蛇を食べるなよ?」と言い残すと、ヒポグリフは「仕方ねぇな」みたいな顔をしていた。
カラクを先頭に俺と後ろにマリとヨミが俺の背後を警護しつつジャングルの奥へ進む。
「どのくらい距離がある?」
俺が聞くとマリが答えてくれた。
「それほど奥にはありません、程なくしてつくでしょう」
マリの言葉は本当だった、足場の悪い道を歩くこと三十分ほどして石でできた遺跡を発見。ボロボロである。
建物の大きさ蔓が邪魔をして何処から何処までが建物なのか光喜には判別つかない。
外は砂漠なのにこの植物の密着率は何なんでしょう。
当時はさぞかし立派な建物だったのだろうが、大小さまざまな大きさの蔓に完全に飲み込まれ今は残念な風貌をさらしていた。
入り口は完全に蔓で絡まり、扉の部分を壊して進入不能にしていた。
「何か感じるか?」
カラクが俺に聞いてくる、光喜は少し意識を集中するが霧に俺が反応しない。
「なーんも…存在は分かるんだけど何処なのかさっぱり、封玉壊れているんじゃない?」
暢気に俺が推測を話すとザワザワと頭上の木々が揺れる。
四人に沈黙がおりた、無言で背中の刀を抜くカラクに俺は腕輪から神剣をだし鞘から抜く。
マリはスティレットを二本両手に持ち、ヨミはいつでも魔法が使えるように身構えた。
緊張感ただよう中で光喜は気をはりつつもマリの武器はじめて見たな…と心で呟いた。しかもあのゲームに出ていた武器じゃんなんて暢気な子の光喜。
十字架のような形で先端が鋭くとがっているだけの完全突き専門の30センチくらいの短剣、それを両手で持つ。
そんなん考えているから、お前が一番弱そうとばかり光喜の足首に蔓が絡まり、引っ張られた。
突然足首を引っ張られた光喜は後ろへ倒れ数メートル、引きずられていく。
「うわっ!」
背中の痛さよりも驚きが勝ち叫ぶがとっさに神剣で蔓を切り、難を逃れるも駆け寄ったカラクに腕を引っ張られ起こされた。
「油断するな」
「あいよ」
カラクの戒めにも軽い口調で返事をした光喜は自分の足に絡まった蔓を見た。
黒い煙を切断面から出して神剣が煙を吸い、斬られた蔓は茶色に腐り枯れた。
「間違いなく原罪の霧だぜ?封印が溶かれている」
ヨミが辺りを警戒しつつ上を見た。
「光喜様きます!!」
頭上から滝のように迫る大量の蔓の群れ、光喜を片手で持ち上げたカラクがマリとヨミの元に駆けていく。
双子姉妹は2人同時に空に向かって魔法を出す、マリが氷で蔓を凍らせて動きを止めている間にヨミが竜巻を起こし凍った蔓ごと竜巻に触れた箇所は次々と切り捨てられていく。
すげー。
蔓の太さは光喜の腕ぐらい、コレに絡みとられたらエロゲーの触手みたいになるだろう。俺はそんな醜態絶対いや!
その蔓をばっさばっさ切り落とすマリヨミに尊敬の眼差しを送る。
光喜はカラクに小荷物ヨロシク運ばれていたが、後ろから襲い掛かってくる蔓の大群に光喜が気づいた。このタイミングでカラクが後ろを振り返り切るには難しい。
光喜はカラクの肩に右手を置き神剣にぎったまま自分の体を支えて、左手を蔓に向けて魔法を発動。双子巫女がかっこよく魔法をだしているのに感化された。
はい、大爆発。
「やっちまったーーーーー!!」
「馬鹿か!!俺たちまで焼け死ぬぞ!!」
「「流石光喜様!素晴らしい威力です」」
誰が何を言ったのか大体わかると思いますが。やんちゃした光喜が後悔の叫びをあげ、当然怒るカラクにどこまでも光喜を甘やかす双子姉妹。
おかしいな、今ならやれる気がしたのに…。
心で呟いても現実はなんとも世知辛い。
力のコントロールは出来ずともニーダの努力によって魔法を止めることはできるようになった光喜だが、出す炎の量が半端でないので意味はない。
背後が大火事になっている、ダッシュで逃げる三人と抱えられる一人の馬鹿。
風向きが向かい風でよかった、そうでなければ自分の放った炎に囲まれていたかもしれない。
休みなしで走っていく、カラクは体力的に優れているのを光喜は知っていたが、マリとヨミもしなやかな身のこなしで障害物の多いジャングルを疾走した。
来た道を半分くらい戻ると蔓が燃えている木々に絡みつき擦り付けて炎を消していく。
「ああ、わかった!この森全部が霧にとり憑かれているんだ!!」
霧との共鳴の反応が漠然としすぎて分からなかったが、気づけば分かった。そして光喜が言わずも皆とっくに気づいていているよ此処まできたら。
蔓が燃えている場所を消していくのが足止めとなり、三人と一人はジャングルを何とか逃げ切った。
カラクと双子姉妹は全速力で走っていたので砂漠に出ると砂に若干軽いスライディングしながら止まった。一度退散が得策と砂漠に出て後ろから蔓が迫っているかどうか振り返る。
いたる所から煙を出しているジャングルの中で蔓が蠢いているのがよくわかり。侵入者たちを追うより森、いや自分の消火に専念している様子に三人はホッと息をつく。
あの動きからして既に、森全体が一つの霧にとり憑た生命体だと思っていいようだ。
「まさか植物にまで霧はとり憑くのですね、初めて見ました」
マリがあれだけ走ったのに関わらず疲れた顔を見せず、マジマジと森を見つめて呟いた。
思い返せば蔓は汚い黒ずんだ色だった、あれは確かに霧がとり憑いている。だが光喜は首を捻る。
「俺は切ったぞ?ちゃんと蔓をでも浄化できなかったのは何でだ?」
カラクは光喜を地面に降ろしてため息をつく。
「さてな、恐らくは先ほどの蔓は全体の末端だろう。どこかに霧を吸った核となる本体があるはずだ」
つまりトカゲの尻尾みたいなものだ、ジャングルをトカゲに例えるなら心臓を神剣で切らねばならない。
まさか始めての旅が初っ端からハードだとは思わなかった光喜は大きくため息をついた。




