第十五話 美人さんと天使さん
あらすじ トンカツは俺の好物、以上!
「確かこの辺だったけど」
俺は賢者とか言うファーロウの指名した場所を、携帯の地図片手に歩いていく。後ろには当然カラクをお供にして。
必要になるかもしれないんで、神剣は俺の竹刀を入れるバックの中に入れてカラクに持たせた、俺が持つより似合う。
厳重にそれを出すなと注意したが、世界観が違うぶん不安がないことはない。だってあっちは護身用に携帯するのは常識だった。
その若干の文化の違いを教えるのに五分も掛かったんだ、そりゃ心配にもなる。
その流れでカラクの刀はアイツに貸した部屋の天井裏に刀を隠させた。
待ち合わせに指定された街は俺の町よりも都会で田んぼの数よりビルの数が多い、この街に来るのにバスで一時間もかかった。さすがに俺の住んでいる町よりも女の子はオシャレではある。
それと、どうでもいいけど問題は俺の後ろに居るカラクだ。
この男は外見ばかりはいい、移動時間ほとんど女の子に見つめられるか(死ね)、声を掛けられてばかり(爆破して死ね)。
最悪、女の子たちから睨まれたり対抗意識をもたれたりとして大変だった。
出来ることなら是非とも俺ともども遊びに連れて行ってほしいものだけど、カラクは乳しか興味が無い。
少しはプロポーションとか見よう、存在するよ彼女たちの魅力は乳以外にも。そして驚いたのがコイツ偽乳を一目で暴けるという無駄なスキルを持っているのが判明した。
パットだろうがシリコンだろうが、アイツの手に掛かればお見通しらしい。
歩いていると光喜の折り曲げていた袖が、重力にしたがって下へずり落ちてきた。
俺は男の頃からもっていた小さめな服を着ている、でもちょっと女の体には大きい。
サイズぴったしでも本物の女物をきる勇気はなく、それで済ませたい。
カラクの場合は親父の若者でも着れるタイプを選んで着せているから、ちょっと真っ赤な髪と眼帯でも人ごみに紛れるかな?
俺の親父も爺っちゃんに幼少から鍛えられてるんで、体格はいいからカラクには少しきついが着れないこともない。
今度爺っちゃんに言って衣服をどうにかしないと、やっぱりカラクの外見と服の世代があってないや。
でも異世界のファンタジーな服よりは日本に溶け込み……無理でした、皆振り返ってカラクを見ます。主に女性から。ついでに俺もチラチラ男に視線を送られて気持ち悪いことこの上ない。
自分で言っておきながらなんだけど、はっきり言って俺は超美少女で同世代から、多分俺の顔と乳目当てでよって来るチャラい兄ちゃんと、カラクより恐ろしいロリコンなんだろうか?親父ほど年の離れたオッサンまで声を掛けられそうになっていた。
が、後ろに控えるカラクが睨みをきかせスゴスゴと離れていく。可愛い子も大変なんだね。
現在進行形で俺は女なんだけどやっぱり数十年見慣れた姿…男の自分の姿が強いのでどうしても他人事に感じてしまう、この容姿も性も。
のん気に歩いていく光喜は小さなカフェの店についた。
個人経営で洋風なお店、光喜はドアに手をかけて開けると、ドアについていたベルが客の来店を知らせる。
中はカウンターと向かい合って座れるテーブルが四つ、雰囲気は定年退職して老後の夢を形にした感じに客に媚びず楽しんで営業しているのが感じて取れた。
席に着く前に携帯を出して時間を確認、…ジャスト。
どこにいるんだ?ファーロウって人は。見渡してもビジネススーツを着た人がコーヒーを飲んでいたり、若い女性が小説の小さな本を読みながら軽食を食べていたりする中で、見渡すと一番端のテーブルが観賞植物の陰になっていて覗きづらい。
(もしかして…)
行ってみると先に誰かが座っていた。植物が邪魔をしてどんな人かは分からない、覗いて間違いでした~って言うのもかっこ悪いしな。
とか考えていると葉っぱをどけて、座っている人が顔を出す。その人の顔を一目見た途端、心底驚いた。
うわわあああああぁぁぁ!!声にならない絶叫、ものすごい美人な男の人がいる。
年は俺よりも上、高校生くらいで黒髪の人、カラクもいい男だけどちょっとジャンルの違う人種で見方によっては女性にも見える中性的な男性だった。
いや、弱弱しくて女っぽいとかじゃなくて……なんだろうな?こう男の色香とか一歩上のランクってゆーのか?
もう性別を超えた美しさ?俺がこういうと馬鹿みたいだけど、彫刻みたいに完璧。何より強そうな意志を宿した瞳がとても素敵だった。
信じられないくらいの美人な人の隣には、天使を思わせるような金髪の少年が座っていた。
「きたみたい、じゃあ私は席を外すよ。終わったら携帯に電話して」
美人の男性は金髪の少年を見る。
「ありがとうございます。楓さん」
青年は楓という名前らしい、金髪の少年もニッコリ笑い友好な関係が築いているのが分かる。
楓さんと呼ばれた男性はスッと立ち上がり、そのまま金髪の少年の後頭部をぶん殴った!
手加減など無い…殴られた天使みたいな少年は痛みに悶絶していた。
「驚かせてゴメンね?厄介ごとを押し付けられているみたいだったから代わりに殴っといたから。気がすまなかったら好きなだけフルボッコしていいから、ね?」
俺を振り返ってニッコリ素敵な笑みで言われたので、つられ「はい分かりました」といいそうになる。
この人には外見の魅力以外にも人をひきつけるカリスマ(古い?)がありそう。
「わた…俺は楓、新井 楓よろしく。じゃあ退場するから好きなだけこの馬鹿に付き合ってあげて」
「……はい、ありがとうございます」
楓さんは俺にメールアドレスが書いてある紙を渡してくれると、いつでも連絡してくれと言い残し、颯爽と店から出て行く。
後姿もカッコええ。つい宝塚とか芸能人の追っかけする女の子の気持ちに俺はなってしまう。
「すみません座ってください」
後頭部を擦りながら俺とカラクに席を勧める少年をほんの少し同情しながら席に着く。
「ご挨拶が遅れました、僕が昨日の電話で話したファーロウです」
昨日の携帯電話で予想はしていたが、思ったよりずっと幼い子供が頭を下げた。
何も頼まず居座るのは気が引けたから俺とカラクの分のお茶を頼んでファーロウと向き合う。
「質問を受けます、聞きたいことを仰ってください」
「まず家族は何で俺が女になっても気がついてない?」
ファーロウは少し驚いた顔をしてクスクスと笑う。
「貴方は優しいですね、自分のことよりご家族のことを優先するなんて。はい、貴方の戸籍と貴方を知る全ての人の記憶を操作しました。そして光喜さんがこれまで男性の姿を残した証拠も含めて全てです」
「どうしてこんな事をしたんだ?女の姿はノア・レザンだけでいいじゃないか」
ファーロウは申し訳ない顔をして。
「すみません、貴方の力と僕の力は天と地ほどの差があります。僕は賢者で最高の魔術師でもありますが女神を封印する力なんてありません」
つまり女神として召喚された以上、俺の正しい姿は女の俺に成り代わってしまった。
だから地球に来たときに男に戻すのは、光喜の中の女神を封印すると同義らしい。
「だから貴方の周辺の人たちを如何にかするしかなかったのです。すみません楓さんにも苦労をかけていますが、貴方の場合はもっとひどい苦労をかけてしまっています」
ああ、うん…まあね。
ざっくりと思い出してみよう、出会いがしらに変態に乳もまれて、裸で空を飛んで、カエル皇子に絡まれて、でっかい鳥に追っかけられて口の中に入れられた。
「くっ!」
俺は思わず目元を押さえた。ああっという顔をするファーロウ。別段なんとも思ってないカラク。
「……次に、なんで俺が女神なんだ?」
そうこれ重要。
俺より先ほど居た楓さんが女神のほうがよっぽど似合う。あの人が女性だったら惚れてまうがな!
「それは分かりません、僕でも分からないのです。ただ貴方が女神だから貴方なのです、という返答しかできません」
それでファーロウが適当…というか故意に俺を選んだ訳ではなかったみたいだ。面倒なことを押し付けられた怒りはそれで解消できた。
実はホスト皇帝のいる神殿で封玉を浄化した時から、段々俺は自分が女神の役割に対して抵抗感は薄れてきた。
女の性別って事に戸惑いと抵抗があるだけで、誰かを救えるならばノア・レザンでは女神を演じてもいいかもしれない……な~んてね。
いや、正直あんな悲しい思いを誰かがしている。でもさ、俺がこれ以上の被害を防げる力があるのをわかって逃げ出すのは俺のちっちゃなプライドが許さなかった。
「それと…不思議に思ったんだけどさ、俺男の姿のときに昼寝してたんだ。でもそれからこっちへ帰ったときはその日の夕方だった」
時間の流れがおかしい、部屋に帰った時は無断外泊したら絶対に叱られる。
一緒に暮らしている爺っちゃんではない、姉貴に手加減なしでしばかれると思っのだけど、何事も無く平然としているので首を捻ってカレンダーを見ると一日も経っていなかったのだ。
確かにノア・レザンには一日以上は居たのに。
「それはですね、僕の力で地球からノア・レザンに行った時、ノア・レザンでの一日は地球の一時間に設定しました」
「はあ?何それ?」
だからモラセスに放り投げられて帰ってきたときにはその日の夕方だったのか。
「そして逆に貴方が地球にいる時は、地球一日でもノア・レザンで一時間しか経ちません」
「どんな原理だよ」
「秘密です」
すごいご都合魔法、ノア・レザンに一週間いても地球の七時間か…確かに便利だ。留年したくないもん義務教育とはいえど。
にっこり笑うファーロウに俺は無言で紅茶を飲んだ。地球のお茶の知識が無いのでカラクにはミルクたっぷり入れてやり、甘いと愚痴をこぼしていたのをスルーする。
砂糖でないだけ俺の慈悲をしれ。乳を揉まれた細やかな復讐だ。
「光喜さん剣を見せてもらっても大丈夫でしょうか?」
ファーロウが控えめにカラクに持たせている神剣があるバックを見た。
この席は角度と植物のおかげで死角になっているのでいいかと、目で合図を送るとカラクはバックから剣を取り出して渡した。
手に取るとファーロウは剣の柄と鍔をじっくり点検していた。
「もう宮殿の一つの封玉以外に浄化をしたのですね」
「そうそう、大きな鳥が霧にとり憑たから浄化したんだよ。そしたら柄に宝石みたいな飾りができて…なんなんだ?」
飾りも何も無かったはずの柄の部分に小さな石が輝く、それを指さして光喜は示す。
「浄化をすればするほど霧を吸収して神剣は本来の姿に戻っていくのです。そうすることで女神としての貴方の能力が段々に取り戻せます、魔力の方は強大すぎるほどあるので……それ精霊魔法以外なんでしょうね」
どんな力だろう、段々化け物みたいになっていくのはいやです。
「全ての霧が浄化し吸収すれば剣は完全体となります。その過程で取り戻した能力はノア・レザンに渡ったら色々試してみてください」
モラセスなら喜んで協力してくれるだろうな、面白そうだって言って。
エンジェルスマイルをだしてファーロウが封筒と箱をテーブルに乗せた。
「これを渡したくて貴方を呼びました、必要なものです。どうぞ」
何気なしに箱を開けてみると腕輪、綺麗な純白金に宝石がいくつもついてある。
「もらえないって、こんなに高価な物は」
光喜が辞退しようとして箱をファーロウ側に押そうとしたがファーロウがやんわり止める。
「気にしないでください僕が作った腕輪ですから、剣を持って歩いたりするの不便ですよ…」
ファーロウが神剣を持つと、空いている片手に腕輪を持って何かを唱えると剣が消えた。
えっと、ファンタジー?
「この腕輪の宝石に神剣を収納しました。これで地球にいるときに問題はないでしょう?あとはどんな機能がいりますか?」
なんでもありだね、賢者は。
「うーんと後は正確な時間とかノア・レザンの地図とか欲しい、ついでに神剣が後どれくらいで完成できるか表示して」
「御意……これでいいです。そして最後にもう一つ、腕輪からノア・レザンのお金を僕の所から引き出せるようにしました」
どういうこと?不思議そうな顔をした俺にファーロウが微笑む。
「ノア・レザンには紙幣がありません。なかなか重いですよ?お金の持ち運びは」
「いや、そうじゃなくなんでアンタのお金だろ」
顔を左右にファーロウは振る。
「お構いなく、貴方は女神。ノア・レザンは貴方の所有物でもあります。でも貴方は店から物を強奪する気はないでしょう?」
そりゃそうだ、そんな事しちゃ駄目です。
「だから僕のお金を使ってください。僕のお金なんて各帝国からの寄付がほとんどです、ご自由にお使いください」
こっそりカラクに賢者ってどれくらい持っているって聞いたら、王宮クラスのお城が三つ四つ建つほどだと言われた。それも賢者を通していつか光臨する女神への寄付が大前提らしい。
うん、遠慮なく使わせてもらおう。セレブめ…。
ご都合主義爆裂です。今日はもう一つ上げるつもりなのでまた見に来てください。