第十二話 封玉の浄化完了
あらすじ 爺ちゃんちょっとからかい易い、以上!
「光喜、本当に大丈夫か?」
心配そうに訊ねてくるカラクに光喜は笑って答えた。ほらほら尻がすごい勢いで燃えているみたいだけど全然オールクリア。
「大丈夫、この炎は炎霊とか何とか言うグリエの爺ちゃんだって、今から封玉の霧祓うから剣貸して」
炎に乗る光喜の剣を持つカラクに近づけるよう炎の塊は動く、カラクは警戒を解かずに素直に光喜に神剣を渡す。
≪では、封玉のところまで運んでやるぞい≫
「了解」
返事をすると炎は光喜を乗せたままグングン上昇、巨大な玉の封玉の真横まで上って行った。剣の鞘を抜くと炎の明かりに剣が鈍く輝く。
≪赤子よ300年よう我慢したわい≫
うん、だから今開放してあげる。
光喜が剣を振り上げ、封玉を切った。ぱっくり傷が玉につく、それを光喜は見続ける。
そして凶鳥のように霧が勢いよく傷から噴出してきた。
さて、よく考えて欲しい。
前回の凶鳥のときは喉に刺した小さな傷だったのに比べ、今回は調子にのって大きな傷をつくった、つまりそれだけの幅で霧が噴くということだ。
「うげーーーーっ!きっ霧が!!」
余り頭の宜しくない光喜に向かって霧がすっごい勢いで出てきた、それを正面から受ける。さながら消防車の消防ホースの水の放出をまともに受けているような状況だ。全身で。
≪安心せんかい、女神にとって霧はなんでもないただの煙みたいなもんじゃわい≫
だからって進んでやりたくはないって!しかも想像以上に霧が凝縮してるんですねぇーーー。
視界いっぱいに原罪の霧が広がって他に何も見えない、下で双子姉妹が騒いでいるのが聞こえたが答える気力は無い。
神剣が霧を吸収しているが量が量なだけに時間がかかりまだ収まる気配はなく、剣を持って光喜は霧を受け続けていたがチラチラと何かが見え始めた。
霧の中にポツンと浮かぶ何かの映像。
なんだアレ?家っぽいけど。
≪…記憶だわい、おそらく赤子のな≫
***
おかあしゃん、おかあしゃん。
まだ世界がぼやけている自分が何者なのかもわからないが、泣けば優しいおかあしゃんがきてくれる。
「はいはい、よくなく子ね」
おとうしゃんは夜にならないと来ない、おとうしゃんは毎日お湯につけてくれるポカポカ温かくて気持ちがいい。そこでウンをするとおとうしゃんは慌てるけど気持ちいいので出てしまう。
おかあしゃんもおとうしゃんも大好き。
ベットでウトウトしてたら急に暗くなったので目を開けてみると黒い何かがあった。
こわくてこわくて思いっきりなくとおかあしゃんがきてくれた。
おかあしゃんは一度もきいたこともない声でさけんだ、おとうしゃんも走ってきてくれたけどとっても怖いかおをした。
黒いなにかが被さってきて。
気がついたらおかあしゃんが泣いているおとうしゃんも泣いている。
おとうしゃんの手に何かをにぎっていて、おかあしゃんはおとうしゃんにしがみついて止めようとしていた。
「やめて、お願い殺さないで!!」
「仕方ないじゃないか!俺だってやりたくない、けど!」
「めっ女神様!!この子を助けてください!!」
「今ならあの子は人を殺さないで済む!」
おかあしゃんもおとうしゃんも泣いている、おかあしゃんとおとうしゃんより小さいのにグングンおおきくなっていくし体はかってに動いていくし。
もうわかんない。
おかあしゃんとおとうしゃんは真っ赤になって床で寝ている、ねんねはベットのなかですよ?
***
静かに光喜は赤子の記憶を見続けた、両親を殺してしまい、家からでて街を破壊していくさまをただ静かに。
赤子は集まる兵士たちに怯え、自らの手で殺した両親を探し呼び続けた。そして赤子は周囲の霧を引き寄せて吸収し巨大に強くなっていく。
どれくらい経ったのだろうか暗い世界に閉じ込められた。
封玉だ、赤子は封玉に封印されて。
怖くて狭くて暗くて寒くて寂しくて…訳が判らないままずっと一人であり続けた300年のあいだ。
俺はただ泣いていた、どうすることも出来ないけど涙が止まらなかった、赤子の体験した苦しみが俺に流れ込んだ。
剣を両手から片手に持ち替え、それを抱き寄せた。
霧が晴れる、全ての原罪の霧が剣に吸われ目の前にあった巨大な封玉は失われていた。
剣を持っていない片手には枯れ木のような赤子がいる、干からびてミイラになり性別も判らない乳児だった。
「おやすみ」
光喜の一言を待っていたかのようにミイラになってしまった赤子は砂になって消えた。
≪やれやれ、これで夜鳴きに苛まされなくて済むわい≫
嘘ばっかり、ホッとした声だったぜ?爺ちゃん。
俺が涙を腕で拭うと、炎の爺ちゃんはゆっくり俺を床に下ろしてくれた。
床に足をつけて立つ、すると俺の周りに皆が集まってくる。
炎は消えて元の静かな神殿にもどった、集まってきた皆はそれぞれ感心した顔をしていた特に双子姉妹は歓喜高まる声で。
マリが。
「尊敬いたしますわ光喜様!あのような巨大な封玉を浄化なさるなんて!」
ヨミが。
「素晴らしいですわ光喜様!炎霊グリエといえば精霊王の一人ではございませんか!」
キラキラとした純粋な目で光喜を見つめる。
「そんなにすごいの?グリエの爺ちゃんって」
双子姉妹の興奮から言って思ったより有名な精霊だったようだ。そのすごい加減がよくわからん。
≪なにゆーか!お爺ちゃんは火の精霊の王様じゃわい!えらいんじゃわい!すごいんじゃわい!≫
拗ねて怒った声が光喜の周辺に響く、突然の声に光喜以外は目を見張った。
≪これが炎霊の声か…俺にも聞こえるとはよほどの力があるのだな≫
特にカラクは感心した声で呟く。
「なんで?さっきから話してたぞ、俺と」
それを聞いたニーダは笑う。
「私たちには聞こえませんでしたぞ」
あーれー?と光喜が首をかしげていると答えは本人がしてくれた。
≪当然じゃわい、さっき言ったじゃろう?封玉がなくなった今ワシは正式に女神と契約が…もとい女神の元へ帰れたんじゃ。そして自由となった今は好きにワシの声を届けることができるんじゃわい≫
エッヘンとか聞こえそうなほど得意げな声だった。
≪しかし女神の守護者よ…お前さんは稀に見る魔力なしじゃ…ワシ開けてびっくり玉手箱じゃわい≫
だーかーらー爺ちゃん!死語だっつーの!もう爺ちゃんの知ってる時代じゃないんですよ?
「そうだ、俺は魔力は一切もっていない」
カラクは死語など気にせず話を進めた。見事なスルーっぷりに拍手を送りたい。
「はい先生」
俺が片手を上げるとモラセスがノッて。
「何かね?女神君、いやいや言わずとも精霊って何ですかってことだろ?」
まるで先生と生徒の様なやり取りをやってくれた。散々モラセスに質問しているので流れで精霊について無知であるのが察してくれたらしい。
「まず俺の精霊を紹介しますか、来いルヴュール」
そう言うとモラセスの隣に独特の紋様が描かれた魔方陣みたいなのが現れ、それから俺の下半身ほどの大きさのアナグマが出現した。外見も普通のアナグマには到底無いほどの鋭い爪と長い尻尾、ついでに体の色は灰色であった。
そいつが俺と目が合うなり鼻をフンフンいわせてチャームを使ってきやがる。可愛いじゃねーか…。
「こいつが俺の相棒、ルヴュールだ。普通の人間は生まれついて大小関係なく魔力を持ち、魔力の塊である精霊と自分の相性のいいを探して契約を結ぶことが可能だ。ちなみに俺の魔力と相性がいいのは「土」の属性」
モラセスがルヴュールを撫でると嬉しそうに目を細めた。
「そしてコイツは土の精霊でレベルは全体から言ったら中堅って所だろう、魔導師や賢者なら自分の魔力を高めて精霊を成長させるのに躍起になるが俺はそこまで興味はない、皇帝になってから戦に出してもらえん」
皇帝が何に言っているだ?とばかりにニーダはモラセスを軽く睨む、モラセスは軽く肩をすくめるだけで話を続けた。
「精霊は契約相手から使役される際に駄賃として其れ相応の魔力を求める、魔力が貯まれば精霊は上位に成り上がれるわけだ。逆に人間は精霊を通して様々な魔法が使える、OK?」
ほうほうと光喜は頷く、精霊がルヴュールみたいに形になるなら俺も爺ちゃんだせるかな?いっちょ試してみよう。
「こい!爺ちゃん」
手を上げて呼んでみる、しかし無音。ドラ●エだったら「何も起こらないようだ」と表示される感じ。
勢いよく手を上げておきながら何のリアクションのないこの悲しさ、いや恥ずかしさ…爺ちゃん裏切りやがった。
≪人聞きの悪いことを言うのう?女神よ今はワシを召喚するのは無理じゃわい≫
「なんでだよ?俺と契約(よく分からんうちに)したんだろ?」
≪うむ、女神の魔力は申し分なく、いやありすぎて注がれても困るほどなんじゃが…女神の体が魔力に馴染んでないのが原因じゃわい≫
双子姉妹とニーダは少しばかりガッカリした顔をした、精霊王ともなれば是非姿を拝みたかったみたいだった。
「俺にわかるように言ってください。馴染むって?」
≪女神の新しい体が魔力に馴染んでないからのう、強大すぎが故に無意識に大きな魔力を使えなくしとるんじゃわい。まずは初歩的な魔法から使い慣れし少しずつ体に魔力を浸透させるが良いわい。さすればワシを召喚も可能となろうぞい≫
あーあ、楽に力は手に入らないのね。
時間のあるうちにドンドンストーリーを勧めたいと目論むんですがうまく行きません。皆様がすごすぎます。