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3時間目 リコーダー泥棒は呪術師の始まりよッ!(類似・感染・共感)

 あらマイケル。

 隣の席のルーシィちゃんに何見せてるの?


 ”ドスケベ催眠アプリ”……?


 まったく。

 そんなゴミみたいな遊びにルーシィちゃんを巻き込まないでちょうだい。


 スマホ没収よ。

 ってマイケル、あなた大量にアプリ入れてるのねえ。


 ”絶対服従♡奴隷化アプリ”。

 ”王様の命令は絶対ッ!”。

 はあ……どれも催眠術を模したジョークアプリね。


 ん?


 ”あの子の身体と繋がる!遠隔操作アプリ”……?

 なるほど。

 これはやり方によっては、もしかしたら呪術的に機能するかもしれないわね。


 ってことで、今日は魔術の超超超基本である類似・感染・共感について説明するわ。

 穴という穴をかっぽじってよく聞きなさい。


 20世紀初頭にジェームズ・フレイザーが四十年以上かけて書いた”金枝篇”によれば、”呪術”──つまり”原始的な魔術”の基本法則は”類似”と”感染”。

 さらにその二つを合わせて”共感”という事になっているわ。


 第一の”類似の法則”に基づく呪術を”類感呪術”。

 第二の”感染の法則”に基づく呪術を”感染呪術”。

 それらを複合した呪術を”共感呪術”と呼ぶの。


 例えば、そのスマホアプリ。

 他人の身体を遠隔操作──画面と標的の身体が繋がっていて、スマホを愛撫すれば標的が嬌声を上げる──そういったものがあるとしたら第一の”類感呪術”ね。


 『類似したものは類似したものに影響を与える』と考えるのが”類似の法則”よ。


 だから、スマホの中に標的に似せたアバターとか、身体の一部分を模したえっち画像を作り、それに触れる事によって、現実のその人にも影響が出る事を願う。

 これは立派な”類感呪術”であると言えるわ。


 最も有名な類感呪術は”てるてる坊主”かしらね。

 太陽に似ている象徴(レガリア)の”てるてる坊主”を出す事で、本物の太陽が出る事を願う。


 他に有名なのは、”丑の刻参り”とか。

 標的と似たもの、つまり”呪いの藁人形”に五寸釘を打ち付ける事で、標的を傷付けた事と同じになるという日本古来の呪術よ。


 そう考えると、その遠隔操作アプリも恐ろしいわよね。

 使い方によっては、標的を傷付けたり殺す事も出来るシロモノなんだから。

 そんな必殺凶器を単にえっち目的で使おうとしてるマイケルは、ある意味めちゃくちゃ平和と言えるわ。


 あら?

 どうしたのルーシィちゃん、急にそわそわして。

 何か探してるの?


「さっきまで机の中にあったリコーダーが無くなってて……」


 それは大変ね!

 盗まれたのかしら!


 これは事件よ。

 私が魔術を使えば犯人を探し出す事なんて簡単だけど、その前に自白した方が身のためね。

 自分から名乗り出なかった場合は、生きたまま火炙りにするわ。


 ……誰も名乗り出ないようね。


 ところでマイケル、あなたのズボンに浮かぶ棒状のシルエットは何?

 あなたのはそんなに長くないでしょうが。


 まったく……リコーダーを盗んだ上、股間に擦りつけて楽しんでいたとは。

 だいぶ上級者ね。

 マイケル。あなたは退学、というか犯罪者よ。

 あとで火炙りにするから廊下に立ってなさい。


 いや、とりあえずルーシィちゃんのリコーダーは置いていきなさいよ。

 なに? 立たせるのに必要……?

 いや、「廊下で勃ってなさい」じゃなくて「廊下に立ってなさい」ね。

 死になさい。

 私の呪殺(ドル)が発動する前に早く出て行きなさい。


 はあ……。


 ああいうバカも世の中にはいるから、みんなも気を付けなきゃダメ。

 特にリコーダーとか箸、衣服や櫛のように、唾液とか髪──”自分の一部だったもの”が付着しているものの扱いには気を付けなさい。


 呪術の基本法則の二つ目、”感染の法則”は、『かつて一部だったものは、切り離された後も影響を及ぼす』ってやつなの。


 つまり、好きな子の毛髪を使った”恋のおまじない”みたいなのは総じて”感染呪術”ね。


 他には、さっき類感呪術の例に出した”丑の刻参り”に使う藁人形に、標的の爪や髪や皮膚なんかを仕込んでいる場合。これも感染呪術の側面を持つ事になるわ。


 ちなみに、”金枝篇”で紹介されている感染呪術の最たる例は”戦勝頭皮祭り”。

 これは北米先住民の”ミナターレ族”が行っていた、『倒した敵の頭の皮を剥いで獲得する』ことで、 その敵の強さを獲得するというグロい儀式よ。


 このように、リコーダーに付着した唾液なんかも使いようによっては感染呪術の材料になってしまうの。

 ……まあ、あのバカがそこまで考えてリコーダーを股間に押し当てていたとは考えづらいけど。


 それでも、誰かが自分の髪や唾液を所持しているのって、なんとなく嫌じゃない。

 その『なんとなく嫌』っていう直感自体が、魔術への入り口であると言えるわ。

 人間が『嫌だ』と感じる事には、必ず何かしらの理由があるのよ。


 それじゃ、今日の授業はここまで。


 え、どうしたのルーシィちゃん?

 またそわそわして。


「さっきまでここにあった体操着が無くなってて……」


 はあ……。

 マイケルを火炙りにする前に、ボディチェックが必要みたいね。

来週もお楽しみにね♡

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