1時間目 ヤレば良いってもんじゃないッ!(房中術)
席に着きなさい、有象無象。
早速授業を始めるわよ。
みんなは”性”と”魔術”の関係について、どんなイメージを持っているかしら?
「三十まで童貞なら魔法使いになれるとかって、誰かが言ってました!」
全然違うわね。
死になさいマイケル。
むしろ真逆よ。
”魔”の”術”と書いて”魔術”。
”魔”ってのは要するに『神の教えなんて全然守ってない不良連中』の事。
ヤリまくってるに決まってるじゃないの!
12~13世紀のキリスト教会じゃ、魔女は”サバト”──『悪魔の主催する集会』で乱交ばっかりしてるんだってのが常識。
カトリックのミサを応用した”黒ミサ”でも、裸の女性を祭壇にしてたりとか。
まあ、この辺の話は後々説明するとして。
とりあえず今日は最も有名な性魔術、”房中術”を中心に説明していくわね。
房中術について語るには、まず”仙術”について知っておく必要があるわ。
”仙術”っていうのは、難しい呪文詠唱やら悪魔召喚の儀式じゃなく、『仙人になる事で魔術をマスターしよう』という考え方。
そして仙人になるには、大きく分けて二通りの方法があるの。
一つ目は”煉丹術”。
これは”丹”──『仙人になるための薬』を作る技術の事で、錬金術に近いもの。
そして二つ目は”内丹法”。
薬を作る煉丹術とは違って、こっちはざっくり言えば『気をコントロールする修行』の事ね。
有名なものは例えば、五穀、つまり米や麦を食べずに生きる”辟穀”。
まるで糖質ダイエットね。
身体に悪いから真似しない方が良いと思うわ。
”導引”は、身体を動かして体内の気を強くする方法。
ラジオ体操みたいな感じね。
虎・熊・鹿・猿・鳥を真似た五つのポーズをとる”五禽戯”が有名よ。
”行気”は呼吸によって体内に気を行き渡らせる修行。
わりと奥義とされているのが、胎児と同じ呼吸を習得する”胎息法”ね。
そしてお待ちかねの、”房中術”。
これが名前通りの”性魔術”よ。
ほら男子、ざわざわしない!
股間からゆっくり燃やすわよ!
マイケル、前屈みになってどこ行こうとしてるの!
まったく……。
ところで中国には、”陰陽説”という考え方があるの。
世の中の全てのものを『昼と夜』『男と女』『天と地』のように、対立する二つのグループ『陰』と『陽』に分け、対立・比較によって世界を把握しようという考えね。
それによれば、男性に宿る”陽の精”は夕方までに満ちる。
女性に宿る”陰の精”は朝までに満ちる。
要するに、男女では”精”の流れが逆なのね。
だから男女が互いの精によって気を補い合い、体内の気の流れを良くするために交わる儀式が”房中術”ってわけ。
分かった?
なに?
実践しないと分からない?
あなたは今日限りで退学よ、マイケル。
あなたがもう少しオトナだったら教えてあげても良いんだけど……クソガキには興味無いの。
ちなみに、ただヤレば良いってもんじゃないのよ?
”漢書”の芸文志方技略における房中術のコーナーには、色んな注意点が書いてあるわ。
例えば『節度を守らないとダメ』。
『そればっかりになると病が生じ、命が損なわれる』とかね。
もっと突っ込んだところでは『女性は十分に興奮した状態で……』とか『男性は快楽に身を任せず……』とか。
これ以上言うとR15じゃ収まらなくなりそうだから、自重しておくわね。
他にも、男女の片方が一方的に相手から気を奪う”玉女採戦”なんて過酷な術があったり。
肉体的に交わる”体交法”に対し、肉体接触はナシで、ただ男女が静かに向かい合って気をシェアする”神交法”なんてのもあるわ。
”房中術”についての説明はこんなところね。
他にも、インドのタントラ教における”左道”という一派には性魔術があるわ。
タントラ教の性魔術は、ドイツの”東方聖堂騎士団”や、なんと日本の密教教団”真言立川流”でも実践されていたのよ。
さて、今日の授業はここまで。
”性”と”魔術”の関係が密接だって分かってくれたかしら?
難しかった?
実感が湧かない?
ふふっ、ウブね♡
だけど、それでも良いの。
みんなだって『好きな人の事を思い浮かべるだけで頑張れる』とか、『挨拶されただけで元気が出た』なんて経験があるんじゃないかしら?
そういうふとした経験が、魔術の始まり。
”こちら側”への入り口なのよ。
マイケルの今後が気になる方は、是非ブックマークしておくと良いと思うわ♡