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お兄ちゃんポジの幼馴染が肉食に変わるとき

作者: 七海七雪

ここは王城。

今は繁忙期で、虚ろな目をした文官達が横を通っている。


「モニカ!今から休憩?」


声をかけてきたのは同僚メイドのリーナ。ノール子爵令嬢だ。寮が同部屋ということもあり、今では一番の親友である。


「うん。今から食堂でお昼なの」


私はモニカ・コールディー。コールディー子爵令嬢だ。商人上がりの子爵家なので、家族全員が自分の手で稼いで生活することに喜びを感じる、生粋の商人気質だ。


「モニカ、一緒にお昼行かない?」

「うん!行こ行こ〜」


リーナと食べながら話をする。

貴族でありながら貴族ぽくない私達は話が合うのだ。お気に入りのパン屋、服、趣味。私達は価値観が合うらしい。


「ねえ、モニカ。あなた恋人はいないの?」


リーナは私の恋バナを求めているようだが、彼氏いない歴=年齢の私にそんなことを言われても困るのだ。


「いないわよ。だって私モテないし」


謙遜ではなく事実なので悲しくなってくる。


「相変わらずね〜好きな人は?」


好きな人…好きな人ねえ…


「今は仕事が忙しいからいないわよ」

「忙しくても、こう、気になっている人とかは?」


リーナが恐る恐る聞いてくる。

気になっている人?


「そんな人「モニカ?」


私の声にかぶせて、シウエンがこちらにやってきた。シウエンはヨーク子爵子息。今は第一騎士団に勤めている、私の幼馴染だ。


「シウエン、どうしたの?」

「僕も今からお昼でね。一緒に食べない?」


リーナの方を見る。


「えっと、リーナ。シウエンも一緒に食べていいかな?」


リーナが苦笑する。


「かまわないわよ。シウエン・ヨーク子爵子息ね?お噂はかねがね。リーナ・ノールよ」


「はじめまして、リーナ・ノール子爵令嬢。モニカがいつもお世話になっています」


シウエンは私と同い年だというのに、よく私のお兄さんぶる。


「それにしても、モニカ。さっきは何の話をしていたの?」


あっ!シウエンの登場ですっかり忘れていたわ!


「恋バナよ、シウエン様」

リーナが言う。


「へ〜モニカは恋人がいるの?」

へっ?キョトンとシウエンを見る。


「いないわ。だって私モテないし恋愛に興味ないもの」

「そっか…」


ん?何か嬉しそう。気のせいかな?


「シウエンこそ恋人できたの?おばさまがシウエンが結婚しないってぼやいていたわよ?」


我が家とヨーク子爵家は家ぐるみで仲が良く、シウエンのお母様こと、おばさまは私の第二の母のような存在だ。


「好きな人はいるんだけど。鈍感な子でね。僕からのアプローチもお兄ちゃんみたいだねって言われるし」


シウエンは端正な容姿をしていて、メイドや女性騎士団員からもモテモテなのだ。シウエンの心を射止めたのはどんな子なんだろう?


「ねえ、私の知っている人?」


シウエンの恋バナなんて初めて聞いたから、興味が出てきた。


「気になる?」


シウエンがにこりと綺麗な笑みを浮かべる。

うん、教えてくれなさそう。これは幼馴染としての勘だ。


「えっ、まぁ。シウエンの恋バナなんて初めて聞いたし」


「じゃあ、教えてあげる。僕の好きな人はね、優しくて気遣いができて可愛くて働き者な子なんだ」


あっさり教えてくれたことに驚く。

うわ~そんな完璧な女の子いるものなの?


「シウエン様、モニカは…」

「分かっている」


ん?何の話?


「何でもないよ。じゃあ、仕事があるから行くね」

「あっ、頑張って」

「ありがとう」


シウエンが行った。


「ねえ、モニカ。さっきの続きだけど気になる人いるの?」 


ん?ああ、その話ね。


「いないよ〜」

「えっ、シウエン様は?」 


シウエン?


「幼馴染だし、お兄ちゃんみたいだから」

「なるほどね…」


リーナが遠い目をしている。

二人揃って私に言いたいことでもあるの?



「モニカ、あなた恋人はできたの?」


お母様もですか…

ちなみに、ここは我が家。たまには帰っておいでということで里帰り中なのだ。


「いないわよ」 


お母様がため息をつく。


「モニカ、あなたはもう20歳なのよ?王立学院卒業と同時に結婚する人もいるくらいなのに」


17歳で結婚ってどうなの?政略結婚ぐらいでしょう、そんなもの。


「それは王族の方とか、伯爵家以上のご子息やご令嬢達でしょう?」


子爵家と伯爵家は階級的には一つしか違わないが、それはそれは大きな隔たりがある。

子爵家までは下位貴族であり、伯爵家から上位貴族にあたるからだ。


王家の縁談も伯爵家以上ではないと来ないと言われている。現に歴代の王族の配偶者は伯爵家以上のご令嬢である。


「そんなことないわよ。マトリー子爵家のご令嬢がご結婚されたし」


あー、マトリー子爵令嬢はね。

あそこは家同士の業務提携のために政略の婚約を交わしたはずだから。

それに、婚約者であるペルージャ伯爵子息とそれはそれは仲が良い。

すぐにでも結婚したかったのだろう。


子爵令嬢が伯爵家に嫁ぐのは玉の輿だ。

しかもペルージャ伯爵家は建国から仕えていた名家。

マトリー子爵令嬢は幼い頃から次期伯爵夫人としての教育を受けてきた才女でもある。

あと一つ爵位が上であれば王族との縁談が来ていたほどだという。

私はそんな誇るべきものは無い。


「あそこは政略でしょ」

「そうだけど…王城で気になる人とかは?」

「ううん、仕事が忙しいし」


なんかリーナと同じ会話してない?


「シウエンくんは?良い子でしょう?」


シウエン?なんで皆シウエンを推してくるんだ?


「兄みたいなものよ。っていうか、なんで皆シウエンを推してくるわけ?」


「そんな、理解に苦しむみたいな顔をしないでちょうだい。シウエンくんは優しいしかっこいいし王城でも人気なんでしょう?」


まぁ、そうですけど…


「お兄ちゃんみたいなものでしょう、シウエンは」


この言葉にお母様はため息をつく。

何なのだ、全く。



「モニカ〜今日の女子会来るよね?」

「うん、行くよ〜」


今日は同僚達と女子会という名の飲み会だ。

ちなみに、17歳を過ぎれば飲酒は可能である。


「今日はどこ〜?」

「ふふ。今日は良いレストランを予約してるのよ」


えっ、楽しみ〜!


で、なんでこうなったんでしょう?


「えーじゃあ、まずは自己紹介からね。私はリーナ。好きなものは銀糸亭のパンよ。よろしくね」


なんと、今日は合コンらしい。お相手は第一騎士団の若手団員達だ。


「じゃあ、次はモニカ」


おっと、次は私らしい。

どうりでこんな良いレストランなのか。いつもよりも数倍ランクが上のレストランを予約したのは、こういうことだったからか。


「はじめまして、モニカです。好きなものはリーナと同じで銀糸亭のパンです。よろしくお願いします」


言い終わると同時に冷や汗をかいてしまった。別に緊張とかではない。

ただ、第一騎士団との合コンと聞いて気づくべきだったのだ。

…シウエンが来てもおかしくないことに。


「はじめまして、シウエンです。モニカとは幼馴染で仲が良いんですよ」


えっ!シウエンの言葉に皆がこちらを見る。


「へ〜そうなの?いいなー」といった女子の嫉妬の言葉や「モニカちゃん、シウエンの昔のこととか教えてね」といったシウエンの同僚達の興味本位の言葉が私を貫く。

ただ、私はそんなことを気にする余裕も無かった。

シウエンから殺気が漏れ出ているからだ。怖い。怖すぎる。



「じゃあ、二次会行こうよ~」


なんと、二次会まであるのか。私はシウエンの殺気に目も当てられなくなり、帰ることを決意した。


「モニカ〜行く?」

リーナに聞かれる。


「私はいいや」

「じゃあ、モニカ。一緒に帰ろう?」


シウエンがそう言う。いや、あなたと離れたいから帰りたいんですけども。


「そうね。危ないし、モニカをよろしく」


リーナ〜!?置いてかないでと視線を送るがウインクが返されたのみで、何も助けてくれない。


「ああ、もちろん。じゃあモニカ、帰ろう?」


にこりとこちらを見るシウエン。絶対に逃さないという思いが視線から伝わってくる。

逃げたい。逃げたいけども、目の前の男は逃してくれないだろう。


「分かった」

私は諦めた。長年の勘でここで逃げると碌なことにならないと理解したからだ。


「で?なんでモニカが合コンに?恋愛に興味ないって言ってたよね?」


同僚達と別れて早々、シウエンからの質問攻め。

もしかしなくても、これは怒っているな。ただ、なんで怒っているんだろう?


「シウエン、落ち着いて?私は知らなかったのよ、合コンだってこと。リーナからは女子会って聞いてたし」 


この私の言葉にシウエンから醸し出される殺気が霧散した。どうやら、シウエンの地雷を避けることができたらしい。


「そっか」

シウエンがため息をつく。どうしたの?


「っていうかシウエン、なんであんなに怒ってたの?」

「はあ、もういいや」

「ん?なんか言った?」


シウエンの言葉が小さくて聞き取れなかった。

それにシウエン、吹っ切れた顔してる。


「ねえ、モニカ。男っていうのはね、『恋愛に興味ない』って言った好きな子が合コンに来てたら嫉妬するものだよ?」


ん?頭の上が?でいっぱいで理解できない。


「ふふ、鈍感なところも可愛いけれど。つまり、モニカのことが好きなんだ」


えっ?だってシウエンは…


「優しくて気遣いができて可愛くて働き者な子が好きなんでしょう?」


好きな人に『好きな人いるんだ』って言うのっておかしくない?


「え〜、モニカは優しくて気遣いができて可愛くて働き者でしょう?ってか気付いて無かったのはモニカだけだよ?」


つまり…

「シウエンは私のこと好きなの!?」


「さっきからそう言ってるじゃん」


なんか私だけが騒いでて馬鹿みたいじゃん。 


「でも、シウエンのことそういう対象として見たことないよ?」 


「知ってる。だから、モニカに僕が男ってこと自覚させてから告白しようと思ったんだけど…まさか合コンに来るって思わなかったのにモニカが来て、もういいやって吹っ切れたんだよね」


えっと…どう返せばいいのか分かんない。


「だから覚悟して?これから絶対に好きって言わせてみるから」


どうやら、お兄ちゃんポジの幼馴染が肉食に変化したようです。


リーナ「シウエン様ったら、やっと告白したのね。周りの男ばっかり牽制しちゃて、想いの一つも伝えれないヘタレとは思わなかったわ。さて、モニカへの結婚祝いはどうしようかな」

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― 新着の感想 ―
[良い点]  モニカとシウエンのやりとりがコミカルで、読みやすいです。また作品全体の雰囲気がよく、疲れている時に読むと元気になれそうだと感じました。  なかなか気づかないというのはある意味才能であり…
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