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 第一部 9

「むぐむぐ・・・・でのう、我も不本意ながら、なれがこの男とどのように暮らしてゆくのかを・・・・んぐんぐ・・・・見ておったのじゃ・・・・むぐ・・・ごくん。」

「食いながら話すな。ただでさえ解り難いのに・・・・。」

「ほう、やはり。これでも今の言葉になるべく近うなるように申しておるのだが?」

「それもそうだが、根本的に食いながら喋るな。」

 突然弘人の家に押しかけてきた乎耶。彼女は今、楓が焼いたホットケーキを頬張りながら事の成り行きを話している。

 しかし古い言葉を喋り、更に食べながら話されたのでは弘人と楓には何のことだかちんぷんかんぷんであった。源抄はある程度理解できたようだったが。

「それじゃあ、私は弘人といきなり離れなくても済むんですね。」

「まあ、そのようになるのう。なれの事は稀である故にあちらでも興味を持っておる。先の馴れ初めが偶然であったとも思えぬでな。我が黄泉へと逝き、永槻祭如女となって務めてからはや千五百有余年。このようなことは初めてじゃ。」

「せっ、千五百年?!」

 弘人と源抄は乎耶の言葉の最後を聞いて飛び上がりそうになっていた。千五百年前といえば、鎌倉時代にまで遡るのではないだろうか?

「千五百年前といえば・・・・飛鳥、いえ、古墳時代では?」

 とは源抄。

 もっと前だった。

 だが弘人には目の前にいるこのお子様が、それ程の年月を重ねているようには感じられなかった。

「きゃうっ!よかったよぉ!!」

 乎耶の言葉を聞いて楓が弘人に抱きつく。弘人もまたホッとして楓を抱きしめた。

「ああ、楓。よかった、よかった・・・・。」

 源抄もまた安堵の表情である。

「おうおう、仲睦まじきかな。」

 そう言って乎耶は呆れる。

 乎耶の話によれば、彼女は永槻祭如という、成仏しても現世に残って迷ってしまっている霊を黄泉に導くための役目を担っている一人だという。十年前に楓が死んだ時、本来すぐに成仏するはずの楓が何故か成仏しないままでいた。不審に思った乎耶が調べたところ、楓は本来交通事故で死ぬはずではなかったようだ。

 何故楓が交通事故で死ぬ事になったのか、その原因は別の強力な『鬼』と化してしまった怨霊の霊障で、引き寄せられた楓はその犠牲になってしまったらしい。現在その霊はすでに地獄へと送られているという。

 そして十年間その場に縛り付けられ、未成仏であった楓の霊波動がそれまでいたあの交差点から突然消えたので、乎耶は必死になって探していたらしい。

「まったく、見つけるのには骨が折れた。何処のたれともわからぬ者に憑いていってしまうとはのう。」

「ゴメンナサイ・・・・。」

 別に楓が謝る事はないだろうと、弘人は楓を庇う。

「いや、それに相違ないのだが、楓、なれを見いだした時には我は正に肩の力がのうなったわ。」

 散々探し回った挙げ句、ようやく見つけたのは弘人の家で愉しげに暮らす楓の姿。

 そして弘人と楓の様子を見て、普通ではあり得ない状況である事に気が付いた。霊と生きている者がお互いを認識し合い、お互いを拠り所としているという事。

「元来霊と生きておる者は特別の条件がない限りは接する事はないのじゃ。源抄のような、法尉等のように黄泉と現世の狭間で生きておる者以外には。」

 そう言ってお茶を啜ってホッと息をつく乎耶。見るとすでにホットケーキは無くなっていた。

「それで、乎耶はこれから楓をどうするつもりなんだ?犬じゃないんだ、ホイホイと連れて帰られてたまるか。」

「まさか強引に楓さんを浄土へ引っ張っていくつもりではありませんね?」

「そんなのはイヤです!私、絶対に弘人と一緒にいるんです!!」

 三人三様、連鎖的にそんな事を言う。

「ぬ、実はそこで参っておるのじゃ。元より楓は今でも生きて子を産み、育てておる頃じゃ。そこをねじ曲げられてしまっておるのじゃから、本音を申せば黄泉に来られても困る。かといってこのままにしておく訳にもいかぬ。」

 乎耶が困ったように唸る。どうやら乎耶は楓をどうにかして成仏させ、黄泉へと連れて行きたいようだが実はそれも困ると、複雑なジレンマを抱えている様子だった。そこで弘人と楓に直接アプローチしてみたは良いが、その後どうして良いかの手段を講じていなかったらしい。

 以外と間の抜けたヤツだと弘人と源抄は思っていた。

 しばらくの間、誰も何も言わずに時間が過ぎていく。

「楓、なれはこの男といて幸せか?」

 突然、乎耶がそんな事を言う。

「え?それはもちろん・・・・し、幸せです。私いまものすごく幸せです。」

「そうか。」

 それだけ答え、茶の残りを飲み干して乎耶はまた弘人に湯飲みを差し出す。

「これ、大滝弘人。茶をもう一杯。」

 一体これで何杯目か。よく茶を飲むお子様だと弘人は思っていた。

「何故じゃ?」

「え?」

「何故じゃと問うておる。何故この男といて幸せでおるのかと。あちらへ行けば皆がなれを迎えてくれる。淋しき思いせずとも済む。この世に何の未練があってなれは留まりたいと申すのか?」

 新しい茶を啜りながら楓に問う乎耶の姿は初めて感じる、子供とは思えない威厳があった。

「何の未練といわれても・・・・それは私よくわかりません。」

「未練無くて、この世に留まる由縁無かろう?」

「それは・・・・!」

 言葉に詰まる楓。

「我はなれがあちらへ逝ってくれれば事は万事上手くいくように思う。あちらではやや難色を示す者が散見されるがのう。」

「やだっ、嫌です!私、弘人と離れたくない!!」

 楓が辛い表情をたたえて乎耶に叫ぶ。乎耶は湯飲みに視線を落としてそれを聞いていた。

「何故離れたくないと申すのか。元より、大滝弘人となれの出会いが偶然でなかったと思われる節はある。じゃがそれが理由とはならんのじゃ。」

「理由ならあります!」

 楓が必死の表情で乎耶にくいさがる。

「ほう?」

 楓に対して、乎耶はからかうような笑みで楓を見ている。弘人はそれを見てかなりムッとしていた。しかし、いま弘人に二人の間に割ってはいることは不可能だった。

「弘人は・・・・弘人はずっとひとりぼっちだった私に答えてくれた。いきなり押し掛けてきた私を受け止めて、優しくしてくれた。本当なら気持ち悪がってそっぽ向くはずなのに。それなのに弘人は・・・・弘人は私のことを大切にしてくれる。幸せな気持ちにしてくれる。だから・・・・だから私も弘人に幸せをいっぱい、いっぱいあげたいの!弘人が望んでくれる限り、私は弘人から離れない。私は弘人が好き。世界で一番好き!!」

 楓は今まで心の中にしまっておいたのであろう気持ちを精一杯叫んでいた。段々と激しくなる楓の口調がそれを物語っていた。

 チリッと、部屋の何処かで小さな雑音がした。

 乎耶はそれを少し気にする様な仕草をしつつ、真剣な眼差しで聞いている。

「私、幽霊になって初めて本当に人を好きになるっていう気持ちが解ったんです。生きている時は何となく男の人って信じられなくて、付き合った人もいなかった。でもあの交差点で弘人の行く方に道が開けた時、何故か弘人について行かなくちゃいけないっていう気持ちになったの。もちろん、あの交差点から逃げたかった気持ちもあったけれど、弘人の近くにいると、とってもあったかい優しい気持ちになったの。だから私は一生懸命弘人に呼びかけて・・・・。そしたら弘人が私に気が付いてくれて・・・・。このあったかい気持ちはどこから来るんだろうって思って、だんだん弘人のことを好きになって・・・・。もう絶対離れたくないって思って、それから・・・・あれ?何言ってるんだろう私・・・・。」

 何とか自分の気持ちを伝えたかったのだろう。楓は少し支離滅裂になって、混乱して泣き出してしまった。

 弘人はそんな楓をそっと抱きしめる。

「ふえ・・・・・・・・ふえぇぇ~ん!弘人、弘人ぉ・・・・・。」

 自分の胸に顔を埋めて泣く楓をあやすようにしながら、乎耶を見る弘人。その眼差しは鉄のように強いものだった。

 だが乎耶はその瞳を見ることなく、腕組みをして考え込んでいた。

 源抄もまた、乎耶と同じように考え込んでいる。

 二人は何を思い、何を考えているのだろう。

「うむ、きめた!」

 突然乎耶が手を叩く。そして悪戯っぽい目で三人を見ている。

「そもそもこうなった原因は楓を引っ張ってきた大滝弘人にある。そしていつまでも手を拱いて見ておる法尉にも責任がある。」

「なにっ!俺が悪いって言うのか?!」

「せ、拙僧も?!」

 どよめく二人を無視して乎耶が大きく頷く。弘人も楓も源抄も、乎耶が来た時から思ってはいたのだが、なかなか理不尽なヤツである。

「そこでなれ等にしばらく楓の面倒を任せることにするのじゃ。我は一度黄泉に往き、どの様にすればよいか模索してこよう。」

「あ、つまりは今まで通りって事か?」

「そうなりますね。」

 三人のやりとりに一番喜んでいるのは楓。今までと同じく弘人と一緒にいられれば何も文句はないのだから。

「ただし、この後に楓を黄泉に連れて行く事も有り得る話じゃ。その覚悟はしておれよ。どんなに抗ったところでなれ等に抗する手などありはしないのだからな。」

 涼しい顔できつい事を言ってから、乎耶は残りの茶を啜って立ち上がる。

「では我はもう行く。またすぐに来るからな。覚悟はしてたもれ。」

 乎耶はトタトタと子供らしい可愛い歩き方で玄関へと歩いていく。

「ああそれと、ほっとけーきか?なかなかの物であった。馳走になった、礼を言う。また乎耶に馳走してたもれ。」

 振り返り様に見せた乎耶の表情は初めて見せる愛らしいものであった。


「これからどうしたらいいんでしょう・・・・?」

 乎耶の帰った後、楓はずっと不安げな表情である。いきなりやって来た乎耶によって弘人と離れるかもしれないと宣告されれば当たり前だ。弘人も同じように不安だった。もうすでに楓無しでの生活は考えられなくなっている。弘人も楓も心からお互いを必要とし、離れられなくなっていた。

「俺はどんな事があっても楓を離しはしないよ。」

 寄り添う弘人のその言葉にまた泣き出す楓。

「ほら、もう泣くなって。まったく、泣き虫な幽霊だなぁ。」

「だって、だってぇ~・・・・。」

「泣いてばっかじゃ何もできないぞ。これから二人でずっと一緒にいるために頑張らなくっちゃな。」

 弘人は微笑み、楓の頭をそっと撫でる。

「・・・・・・・・はい!」

 楓もようやく泣きやみ、そうやって笑ってはみる。だが心の中ではやはり不安であった。

「さて、このままで終わってしまってはいけません。拙僧、色々時になる事が。」

「?」

「?」

 定番となりつつある弘人と楓のラブラブ状態に釘を打ちたいわけではないのだが、源抄は乎耶と名乗る少女とその言動についての分析を始めた。

 まず第一に、乎耶と名乗る少女が黄泉の者であるとして、何故実体を持って現れたのかということ。実体であるにもかかわらず、その場で姿を消したり楓に難なく触れたりと、謎が多い。

 弘人が楓に触れる、または楓が弘人に触れるというのは二人が強い想いで繋がっているからであろう。しかし第三者の乎耶が楓に触れられるということは、彼女がやはり黄泉の者だという証拠なのだろうか。

 第二に、あの言動。源抄の知る限り、あの人に対する口調は高貴な身分であり、かつ他人を指す時に使う『なれ』とは飛鳥時代頃に使われていた言い方だ。要するにかなり古い言葉遣いである。そして乎耶の名前。源抄曰く、永槻祭如女とは古い文献に載るところの巫女の一種であるようだ。

 その巫女は死人の中から選ばれ、黄泉の国での道案内をするという。

 乎耶が自分を永槻祭如女と名乗ったという事は、やはり楓を迎えに来たという事なのだろう。本人も永槻祭如女になってから千五百年以上経っていると言っていた。ということは乎耶が生きていたのは言動から推測するに飛鳥時代以前が有力である。もしかすると弥生時代にまで遡るのかも知れない。

 そして第三の疑問。それは弘人も楓も心の中では感じていた事である。

 『乎耶は一体何がしたかったのか?』という事である。楓を連れに来たと言いながら強引に弘人と楓を引き離そうとはしなかった。それどころか、楓の霊としての存在はイレギュラーであるからどうして良いか分からない。だからしばらく面倒を見ろと。

 しばらく弘人と楓を観察していたのはわかった。しかし何故楓をどう扱って良いのかわからないうちに現れたのか。

 そこが一番の疑問なのだ。何故このタイミングなのか?

「もしかして、淋しかったんじゃないですか?」

 楓が何気なく、あっさりと最も納得のいく答えを出した。

「しかしそんな事で現れるでしょうか?あの世とは我々が知っているよりも遙かに厳格な世界であると拙僧は感じているのですが・・・・。」

「でも幽霊の私が弘人や源抄さんと話しているのを見て、羨ましくなったのかも。」

 楓の言葉に腕組みをして考え込む源抄。どうやら彼は弘人と楓に会ってからというもの、今まで積み上げてきた定礎が随分と打ち砕かれている様子である。

 今回もまた、そんな事態になるのではないかと懸念しているようだ。

「う~ん・・・・。しかし、あんなのに出てこられたら、楓とずっと一緒にいる手段を考えるのはかなり難しいんだろうなぁ。」

 弘人もまた腕組みをして考え込む。

「弘人・・・・。」

 楓の心配そうな顔を見て、弘人が意外にも明るい笑顔で応える。

「いや、でも今日乎耶が来た事でちょっと解った事が一つあるんだ。」

「ほう、何でしょう?」

 悪戯っぽい笑みで弘人は源抄に顔を近づける。

「さっきの源抄さんの話、その永槻祭如女ってのは死んだ女の人の魂がなるんですよね?」

「ええ、文献にはそのように。」

「今日来た乎耶は死んだ人の魂なのに実体があった。という事は・・・・。」

「あっ・・・・。」

 そう、弘人が言いたいのは黄泉の者である乎耶に実体が持てるのなら、楓だって実体を持つ事が出来るのではないかということだった。乎耶に持てて楓に持てないことなど無い、と。

「なるほど、良い所に気が付きましたね。確かに乎耶さんは実体があった。茶を飲み、ホットケーキまで食べておりました。そこから察するに、霊魂であっても生きている人間と同じ事ができる手立てがある、ということですね。」

「そういうこと。」

「弘人、頭良いです!で、どうすれば良いんですか?」

 楓が感心して瞳を輝かせる。

「そこなんだよなぁ・・・・。源抄さん、何か良い方法は無いですか?」

「それは拙僧にもとんと検討がつきません。霊体が実体を得るなどとは・・・・。いえ、古来より物の怪の中には実体があり、人を喰らったり、人を助けたりするものも多くいたはずです。その辺りから探ってゆけば或いは。」

 源抄が日本各地で見聞した妖怪や幽霊に関する文献を改めて読み解けば、何らかの手がかりが掴めるかも知れないという。ならばその路線で一度攻めてみるかということになったが、如何せん弘人には仕事がある。

「その役目は拙僧が引き受けます。弘人さんと楓さんはいつも通りの生活の中で気になったことを記憶しておいてください。拙僧が調べてきた事と照合して試してみれば、色々と解ることがあるでしょうから。」

 源抄が早速と言って今自分の持っている文献を調べにかかろうと立ち上がる。

 その時、またしても玄関のドアが叩かれた。嫌な予感がして三人はドアを凝視する。再び叩かれるドア。

 弘人は緊張しながらそのドアを開けた。

 そしてそこにいたのは・・・・。

「あらぁ~大滝さん、突然ゴメンナサイねぇ。」

 大家の奥さんだった。全員がホッと胸を撫で下ろす。

 乎耶にさっき帰ってもう迎えに来られたのでは冗談ではなくなる。

 大家婦人は今度の火曜日に水道の工事があるのでこの辺一体で二、三時間断水するからと言いに来ていた。奥にいる源抄を見つけてちょうど良かったと笑う。

「ああ、びっくりしましたぁ・・・・はぁ・・・・ふぁ~・・・・あふぅ。」

 大家の奥さんが帰ってから、楓が本気で安堵の溜め息をつきつつ、それが大欠伸に変わる。

 ホットケーキを焼いてから乎耶とのことでずっと我慢していたのだろう。眠そうな楓の表情。少し休めという弘人に眠そうに答えてベッドに転がってしまった。

 源抄が自分の部屋に帰ろうと玄関に向かうと、また玄関のドアが叩かれた。今日は来客の多い日だと弘人は思った。まだ眠りには落ちていなかったのだろうか、その音にドキッとして楓が跳ね起きる。

 だが。

「大滝弘人、篠崎楓、開けてたもう・・・・。」

 聞こえてきたのは小さな少女の声。そしてあの喋り方。

「まさか・・・・。」

 楓が弘人のところに飛んできてしがみつく。弘人もまた、心臓が破裂しそうな勢いであった。

「大滝弘人、篠崎楓、お願いじゃ、開けてたもう・・・・。」

 間違いなく、それは乎耶の声であった。しかし様子が少しおかしい。先程までの元気な声色ではない。

 このままにも出来ないので、弘人は意を決してゆっくりと玄関を開けた。外はすっかり暗くなり、今にも雪が降ってきそうな程冷たい風が部屋の中に流れ込んできた。

 そこには予想通り、乎耶がいた。

 一瞬部屋にいる三人がドキッとする。しかし弘人は乎耶の様子にも驚いていた。俯き、着物の裾をギュッとつかんで泣きそうな顔をしている。

 慌てて弘人はドアを開けた。

「どうした、乎耶?!」

 弘人が乎耶を招き入れると、グスッと鼻をすすり上げて乎耶が泣き出した。

「わぁ~ん!あの『ぢぢい』め、我に楓を押しつけて放り出しよった!楓の件ををどうにか納めぬうちは戻ることあいならん、などと言いよったぁ~。ふぇ~~ん!」

「な、な?なっ?!」

 困惑する三人、泣きじゃくる乎耶。

「大滝弘人、我もこの家においてたもれ。行く宛てが無いのじゃぁ~。」

「えっ、ええええ?!」

「で、では拙僧これにて!如何に子供とはいえ、女子と部屋を共にはできません故!」

 状況をいち早く把握した源抄がそう言って逃げ帰ってしまう。

「あ、源抄さん!薄情者ぉ~!!」

 源抄を追いかけて逃げようとした弘人は乎耶に泣き付かれてあっさりと御用である。

「お願いじゃ。我を不憫と思うて、ここにおいてたもう・・・・ううぅ、グスッ・・・・。」

 どんなに迷惑だと思っても、この状況ではどうにもならない。

「あ・・・・。はぁぁぁ~~~・・・・。何でこうもおかしな連中ばかり集まるんだ、俺の周りには・・・・?」

 溜め息をつく弘人。だがそれと共に、この時弘人は不思議な感覚を覚えていた。どこかで感じたような、とても不思議な愛おしい感覚に。

 最終的には楓の「このまま放っておくのはひどいです。おいてあげましょうよぉ。」の一言で乎耶の居候が決定してしまった。結局、こうなってしまっては泣く子供にも幽霊の妻にも頭の上がらない弘人なのであった。

 楓が来て以来、久しぶりに弘人は途方に暮れる思いを味わったのであった。

 合掌・・・・。


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