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図書館に住むことにした

作者: 望月叶奏

 夢の中を彷徨っていた。薄暗く、ぼんやりとした世界だったと思う。辺り一面、書籍だらけで海の中のようだった。私の、夢日記というのはこんな場所から始まるのだろうか。拙さが、変容していく。そのスピードに、耐えられなかったのだ。時は、止まったような、そんな感覚だった。形式にはこだわらない。そのままを映し出すために、石を投げる。ぽちゃん、と音を立てる。その響きには、聴き覚えがあったような、なかったような。そんな気がしていた。


 遊覧船の中にいた。気がついたら、オレンジジュースを飲んでいた。隣に座っているおばあちゃんが、買ってくれた。どんな話をしたかは覚えていないけど、160円でオレンジジュースを買ってくれた。僕は、アップルジュースが好きだったけど、構わない。僕は、おばあちゃんにそんなことを言える立場じゃない。そう思い込んでいた。

 隣のおばあちゃんは、もやしを育てていた。もう、50年になるらしい。もやし農家のお嬢さんとして、隣のおばあちゃんは過ごしてきたんだな。僕は、いつもフカヒレを作っていると言うのに。もやしとフカヒレって相性いいのかな。わからない。ただ、温めると半透明になるところは、少し似ている気がするんだ。

 外に出てみると、ピサの斜塔があった。傾いていることが面白くて、ギッタンバッコン、とシーソーゲームをしていたみたいだった。ファルコン兄弟は、僕に言った。君の、頭はポンコツなんだって。僕は、泣いてしまった。その後、ファルコン兄弟は笑っていた。僕も、笑ってしまった。そして、ファルコン兄弟はピサの斜塔から落ちた。僕も、落ちた。痛かったけど、死にはしなかった。痣も出来なかった。出来たのは、思い出だけだった。

 瞬間移動をしてみる。さっきいたはずの遊覧船が、もうない。明日が、ちゃんと来るのかなと心配になったけど、また一歩進んでみた。

 階段を降りてみた。楽しい。降りるたびに、自分が二つ、四つ、八つと増えていく。後ろを振り向くと、僕も振り向いた。楽しくて、振り向いては、前を向いて、また振り向いた。みんな、僕だから何にも言わない。ただ、楽しそうなだけ。僕が笑えば、君も笑う。僕が階段を駆け下りれば、僕は増える。なんだか、水中の小さな生物みたいで、僕は嬉しくなった。

 駆け降りた先には、マグマがあった。あちち。熱い。だけど、この熱さが本物なのか確かめたくなった。触ってみる。偽物だ。ってことは、ここは一体どこなんだ。

 気づいた時には、辺り一面東京のビル街で、僕は丸の内で会社員をしていることになっていた。まあ、なんとなくいつもの道を歩き、駅の改札みたいなやつにピッとならして今日も入社した。13.6°。マグロくん、遅いよ。と、上司に言われたから、僕は走って急いだ。全身が焼けるような、焦燥感に駆られた。着いた時には、もう遅かった。

 クラムチャウダーが僕の目の前に現れる。先輩が、僕の落ち込んでいる姿を見てコケバーガーで買ってきてくれたらしい。僕が好きな、コケバーガーは買ってきてくれなかったけど、彼の優しさには少し救われた。だけど、彼はクラムチャウダーを選んだ。僕は、コケバーガーチーズトッピング唐辛子多めピクルス抜きを頼みたかったんだけど、彼は僕に意地悪したのかもしれない。金タコで、買ってきたんだろうと思われる汁だくジャーマンポテトたこ焼きを貪りながら僕の方を見てニヤリと笑う。僕は、クラムチャウダーの中に入っているアサリを食べながら、先輩に視線を送る。ニヤリと。彼も、ニヤリと。豆腐に入っているのは、ニガリと。

 仕事も終わったらしく、いつも通りドイツに帰宅する。日本とドイツは片道30分で行けるから楽ちんである。昔は、24時間くらいかかったらしいけど、そんな時代いつのことだろうと内心馬鹿にしている。今日も、朝からあそこがグーテンモルゲンしてるかもしれない。こんにちは、みんな。グーテンモルゲン!

 京都に着いた。京都駅で降りるのは、これで7回目くらいだろうか。なんとなく、簡素なこの駅を抜けてから京都市内を散策することにした。僕は男という性別を授かったけど、今日だけは女でいることにした。明日には、男に戻るつもりだ。最近、僕たちの中では京都が流行っている。東京の時代は終わりつつある。次は、京都らしい。京都は、観光名所として発達しているから東京には勝てっこないと思っていたけど、東京のみんなのあそこがグーテンモルゲンしているから首都として機能しなくなっちゃったというニュースが渋谷で流れていた。グーテンモルゲンってなんなんだろう。僕にもわからない。

 不思議なことに、今日はトロンボーンを吹いている。ブラスバンド部としての、最後の一年。副部長として、みんなを最優秀賞に導かないといけない。すこし、重たい責任だったけど僕はそれを成し遂げた。部長は、少し前から不登校気味だったから僕は副部長という名の部長だった。だけど、僕は彼女がいつかきっと戻ってくると思ったから、ずっと信じて待ち続けた。だけど、彼女はいつになっても帰ってこなかった。みんなで部長の家に尋ねに行ったけど、そこは荒地で跡形もなかった。ただ、一つ。そこには、百合が咲いていた。凛として。

 お葬式に参列している。みんな、泣いていて僕も泣いた。僕の大切な人が死んだ。アボカドくんだ。彼は、保育園時代の友人でずっと仲良くしてくれていた。僕は、彼のことを尊敬していたからこの葬式に出ないという未来は無かった。けど、アボカドくんは殺された。誰が殺したかはわかってないけど、きっとこの世界にいる誰かが殺したに違いない。許せない。許したくない。どうしようもない。泣いた。東京には、魔物がいるらしい。昔、おじいちゃんが言っていた。人間に化けた、魔物がいると。僕は、アホらしいと思って信じていないけど、本当にいるのかもしれない。人知を越える未知なる生命体が。


 戻ってきた。今日も旅は終わり。明日も、ここに来ることにした。借りてきた分はちゃんと読んだし、今日もここまでかと思って本を閉じる。明日も、棲むことにする。まだ、夢の中にいる気分だった。鏡の世界に、次は入ってみようかな。

今日は寝不足で、大学の授業に集中できなかった。ふと気がついたら、2,000字くらいの短編を書き上げていたので読んでみると、自分が今まで書いてきたものとは一味違ったものが書けたので初めて投稿してみた。感想など待ってます。

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