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家族というゴミ箱  作者: 山中千
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フラストレーション

家族にたいして苛立ちを感じる千尋

家族というゴミ箱

          山中千


 家族と居れば死にたくなる。いや!なんで俺が、死ななあかんねん。お前ら全員地獄へ墜ちろ。千尋は心の中で毒づいていた。

 千尋は20歳になってようやく気付いた。自分が両親の操り人形だったこと、父親が気色悪い人間だということ、母親が母親自身で考えて行動出来ない馬鹿野郎なこと、弟と妹が千尋のことを下に見てること、でも弟、妹は家で好き勝手やっているが社会に出たときに相当苦労するだろうと思うこと…など色々気が付いた。なぜ弟、妹が社会に出て困るのを判るのか。それは家族がゴミ箱だからだ。ゴミが社会に出て、使える訳が無い。ゴミは自分がゴミなことに気が付かない。千尋は気付いている、千尋自身がゴミだと言うことに。

 千尋は二度、軽度の鬱病になった。寮生活をして通っていた大学を辞めた。中退だ。千尋はどうしてうまく立ち回れないのか、どうして人に嫌われるのか、どうして自分はこんな目に遭わなければいけないのか、実家の和室に籠もって考えた。考えたというより、頭からその事柄について切り離せなかったと表現したほうがぴったりだと思う。自問自答を繰り返す日々は苦しかった。結論自分はゴミだという結論に至り、息をするのがやっとの状態だった。寝たきりと引きこもりになった。たまに家族が寝静まった深夜に、和室から抜け出して、リビングに有るTVの電源を付けて見た。お笑い芸人が映っていた。損得感情を横に置き、人の笑顔を見たいという高貴な職業、お笑い芸人。TVに映るということは、お笑い芸人を目指している軍団から抜きん出たエリートで、面白さは勿論、道を選んだという生き方のかっこよさを見せつけられ、千尋は死にたくなった。ただ死ぬ勇気はないので、この世から消滅するのが一番の理想だった。地面に埋められる、宇宙に飛ばされる、空気化する、どれかだ。あの時期は寝ていた。寝る、と自己否定から逃げれた。寝る、ことで心に降るナイフの雨が止んだ。起きたら、病んだ。やまない雨はない、明けない夜はない。そんな一般論が全く効果を示さない。どうせ今日も死ねずに生きる以外無いじゃないか、明日がノックしてくるじゃないか。と。冷静になれば病気だと分かるが、渦中にいると分からない。元々自分はこういう人間なのではないか?病気だとして直って人間としてやっていけるのか?ゴミなのに。千尋の景色はそういうふうに写っていた。真っ黒。闇。

 両親はそんな状態の千尋に心療内科へ行こう、と言った。千尋は心療内科へ行くのを嫌がった。自分がなぜこんなにしんどいのかをうまく話せる自信が全く無かったし、もしマシな言葉が出たとしても心療内科の先生は貴方の話を聞きますよっていう顔をして内容なんて大して聞いていないからだ。誰も救ってもらえない。その事実は当たり前なのだが、今の状況の千尋を加味すると残酷で、絶望だった。もっと深く考えろ、こういうことを千尋に言ってくるのは、父親の良文だった。隣にいる母親の真澄は、お父さんの言うことが正しい、そんな顔をしていた。これぞ地獄。千尋には本当に居場所がなかった。この頃の千尋は自分が悪いのだ、そう思い込んでいた。良文は自分は理系で賢かったという過去に縋っているプライドの高い男だった。プライドが高いなら人に強く言って自分を律するという風にしてほしかったが、打たれ弱く、真澄に甘えた声を出していた。気色悪い、気色悪い、気色悪い。弱った千尋は、良文に理屈で責められて、話し合いになったら、涙を流した。厳しい現実というのを教えてこまれ、千尋をより不安にさせた。でも21歳になった千尋から言わせれば、良文なんて口で偉そうなことを言っているだけで、家族全員から嫌われていて、酒におぼれてる野郎。濃度の薄まったNARUTOを観ていて、本当につまんなそうだ。

弟の大成と妹の幸子は、兄の千尋がどうなろうが知ったこっちゃないという態度だ。別にどうでもいい。特に仲が言い訳じゃないし。死にたいのだったら、死ねば?千尋が夜中町を彷徨ったことがあった。その時も大成は心配など一切せず、千尋が帰って来たときに嘲り、笑い、エピソードとして友達に話しウケたと嬉しがっていた。最低な人間。幸子は学力が凄く高い。学年で十番以内に毎回入る。地元の中学はいわゆるマンモス校と分類される学校で、十番以内に入るなんて、千尋には到底届かなかった世界だった。その事実が影響して、今の幸子の態度を形成した。小さい頃から優秀と言われる人間は逆に可哀想だと思う。何故なら上には上がいて、大して優秀でも何でもなくて、自分は優秀だったという過去があるから変にプライドを持っちゃって、人に好かれない。まあ独断の偏見でしかないのだが。まあそれは置いといて、幸子は千尋を馬鹿にしてる。千尋はそれをヒリヒリ感じている。幸子はだいたいの人間を馬鹿にしてるので千尋がその中の一人に入るのは当然と言えば当然だ。幸子の人を見下し、はっ、と馬鹿にしていますよとでもいう笑い方。腹が立つ。幸子がよくゆうことは、人に何かを教えるとか無理ということを言う。理由はできない人を見るとイライラするからだそうだ。優しくない性格。千尋は、幸子の性格が幸子自身の足を引っ張ると予感している。絶対に自分が下の立場になることがあるだろうし、その立場のときにこんな態度の奴になんかに教えたいとは思えない。子どものときは優秀と言われるが大人になってダメになるタイプかもしれない。まあ、知ったことではないのだが…。幸子が言っていた言葉で、あれ?と思ったものがあった。ある日の幸子は、母親の真澄に歯医者へ連れて行け、といった。カチンときたのか(頭が悪い馬鹿野郎なので判断出来ない)幸子へ自分で行きなさい、と言った。そのように言われた幸子は始めはゴネていたが、段々自分で頑張って行ってみると意識が向いた。当日。歯医者から帰って来た幸子の表情は清々しかった。そして「向こうの看護師さんが話しかけてくれてすごい嬉しかった」と言った。やろ?お前が不安そうにしてるから、話しかけてくれてやったんじゃ。幸子はその自分が言っていることの矛盾に気付いていない。勉強は出来るかもしれないが、バカ野郎。

 大成とは昔から、何から何まで合わない。嫌い。大成と幸子は仲良くて、僕ははみ出しもの。大成は千尋のことを下に見てる。2人ともサッカーをやっていたが、千尋は中途半端に辞めた。下手だったから。大成は、小さいときから、コーチに褒められていた。上達のために初対面の人にも話を聞きに行くその姿勢は、周りの大人たちは大成の成長度を買っていた。千尋はよく大成と比べられ、大成を見習わなあかんぞ、と言われた。知るか呆け。母親の真澄が、千尋は1番怨んでいるかもしれない。千尋が軽度の鬱病になったり、どうしようもない性格に形成した1番強い原因は真澄だと思うからだ。真澄は、千尋が小学校のときに、周りのお母様方に自分のことを教育ママと言うイタイやつだった。長男だった千尋は、その自己満足につきあわされたと言える。毎日ドリルで勉強させられ、ゲームはやらせて貰えなかった。学生時代勉強だけは出来た真澄は、千尋が分からないと言うと、何でこんな簡単なものも分からないの?という口調で、千尋に勉強を教えたい。その言い方が嫌で、千尋は勉強が分かっても分からないふりをしたものだ。させられる勉強より面白くないものはない。ゲームもやらせてもらえなかったので、周りの友達との話題についていけない、そんなシーンも見つけた。21歳になった今でもゲームは下手で、やろうと思えない。今やゲームはオリンピックまでに成っており、文化の一つと言っていいのに。のに、のに。中学校のときはテストの度に、真澄が脳裏に浮かんだ。勉強はしたの?点数は取れたの?お母さんは中学校のときはもっと取れたわよ。こんな感じだ。それを言われる度に、千尋は自信を失った。中学時代、母親の目を気にした勉強だったので、点数は伸びず、結果自信を失い続ける事になった。

 それでもまあなんとか、千尋は高校に入学することができた。高校生になっても真澄のお節介が終わることはなかった。母親として一番頼りない人間に手を焼きたい気持ちは分かる。世話することで自分自身のアイデンティティの確立しようとしているのだ。なんかしたいことはないんか?バカ。そんな真澄のことを理解出来ていなかった千尋は、手を焼いてくることに対して、感謝していた。今から考えてみればおかしな話だ。自分で考えることを放棄して、自立する力を失い、ありがとうという言葉を使うなんて。どうかしている。真澄の差し出してくる手なんか蹴っ飛ばして踏みつけたほうがいい。そのほうがいいに決まっている。高校生になった千尋は中学生のときにやっていたサッカーを辞め、陸上部に入部した。サッカーはボールを足で扱うや、戦術の理解など色々難しいと感じていた。陸上部で長距離をしたのだが、行う動作はシンプルで、走っているときの爽快感に、千尋は心を奪われた。走っているときは、家族からの呪縛から解放された。熱中した。しかしそんなに長距離が速かった訳ではない。地元の小さな大会では上位に食い込むことができても、規模が大きくなるに連れて、千尋の存在は小さくなっていった。そういう感覚があった。

 クラスの人たちは優しくて仲がいいクラスだった。仲がいいクラスの中にいるのは千尋はいい気分はしなかった。なぜならそのクラスにすら馴染めない自分の人間性を大きくバツ印を付けられた気分になるからだ。でも考えれば当然だ。母親真澄のペットが他の人に合わせれる訳が無い。結局は巡り巡って、真澄のせいだ。腹が立ってきた。でもこんな千尋に話しかけるクラスメイトがいた。村上だ。村上は自分なりの哲学を当時から持っていて、千尋は彼に憧れた。世の革命者だと思った。彼と話していると世の中の全てが分かった気になった。千尋は、真澄に首輪を付けられているような存在だったので、超が付くほどの世間知らずだった。村上は自身の虐げられていた過去を話し、それに対しての反骨心で、とても熱量を持っていた。彼はサッカー部で1年の内から、どうすれば周りと比べて特異的な存在になれるかを日々模索し、トレーニングしていた。例を一つあげると、千尋が宿題を晩のうちにできていなく朝早く行って学校で済まそうと6時に行ったときは、村上は一人でヨガをしていた。声をかけ、理由を聞くと、精神統一といい、またトレーニングに励んだ。邪魔してはいけない、そう思った。彼の背中はとてもとても大きく見えた。彼の真似をした。よく使う言葉、口調、仕草。まるで彼みたいになったと錯覚した千尋は急に自分に自信を持ち始めた。周りの人に哲学を話した。村上にはその哲学までに至る思考があったが、千尋には無かったため、詰めて聞かれると返答することができなくて、恥ずかしすぎる体験をした。村上は、色んな友達がいたが、お弁当の時間には千尋と食べた。千尋には、村上が離れてしまうと弁当を1人で食べることになる未来を想像すると恐ろしいので、日々必死だった。彼の話しを聞き、難しくてわからない話も同調する声をあげ、出来るだけ自分の意見を挟まないようにした。ユーモアも入れたときには、笑った。修学旅行のときは流石に困った。ずっとべったり隣の居るので、話も尽き、村上はつまらなそうな表情をした。嫌われた、やばい、そう思った。しかし村上の頭には、千尋の思っているようなことは考えておらず、未来の勝利、それに拘っていたのだった。

一度目の鬱病だったときの話をしよう。高校時代の話は追々もう少し詳しくするつもりだが、今回も何とか大学へ入学することができた。英語が凄く苦手だった。他の教科でカバー出来た。教師たちには英語はどういう進路を選ぶことにしても付いてくる。や、これからグローバル化が進むから英語が出来ない人は取り残される。こういった言葉は千尋に呪いをかけるよう、重くのしかかり、いや鉄球の付いた足枷のように動きを鈍くした。分かりやすく言うと英語の点数はあまり伸びなかった、ということだ。不安だったし、その不安は今でも継続中だ。不安は自分である限り逃げられない。逃げる方法は、現実逃避、酒、自殺。そんなもんだ。もうなんでもいいや、と思うと少しだけ楽になる。半分の意味でもう死んでもいい、と覚悟する。不安や恐怖は根本を紐解けば、死にたくないという気持ちから生まれる。半分の意味で生を諦めると、そこまでの覚悟の人には日常生活で中々出会わないので、何というか堂々たる気持ちというか、ゆったり構えることが出来るのだ。最近の千尋はそう考えている。でも「半分」というのがキーワードで、本能の部分は生きたいと思っているので、痛みや温度驚きといった防衛のための基本機能は備わっている。死んでもいいという余裕があるほうが、死ぬっていう緊張感に陥ったときに冷静に行動することができる、と思う。多分そうだろう。21歳になった千尋は、上記のように考えていた。

大学入学したての千尋。将来の不安はつき纏っているにせよ、受験を抜けた先には短い期間の光の時間が待っていると思っていた。その光は想像することができなかった。高校時代に友達の少なかった千尋は人間関係で少し緊張していたが、それを凌駕するほど大学生活は楽しみだった。そんな千尋、いや新大学生を出鼻をくじく、いや出鼻をへし曲げる事柄が起こった。新型コロナウイルスの感染が世界中で起こったのだ。国家から外出自粛要請が言い渡された国民は、新型コロナウイルスという見えないものに恐怖のどん底に突き落とされた。見えないには2つの意味があり、可視化出来ないというのと先が見通せないだ。両方が厳しく乗りかかって来た。新大学生にスポットライトを当てる。せっかく受験という地獄の果にたどり着き、4年の希望が渡された、瞬間。希望という光を放つ硝子がパリンと音をたて、割れた。インターネットを利用したオンライン授業という体制がひかれた。共に学ぶという作業がすっぱり捨てられた孤独の学習。分からないことは、自分で解決。教えてー、と楽に聞けない所。それがオンライン授業だ。千尋は苦しかった。千尋はインターネットが苦手なタイプで、今まではそこまで重要で無かったかもしれないが、世界がオンラインと決まった瞬間に、千尋は最弱に堕ちた。時代の流れというのは、くるんとひっくり返る。オンライン授業の春学期は苦しみだけが永遠と続く、迷路。分からないことだらけでも、やってくしかない。自分に自信が無かった千尋にとってドン底にまで行くにはもってこいの状況。まあ、まだまだ闇は深いが、、、。目の見えていない状態で手探りで道を歩いている気分だ。新型コロナウイルスのせいで、急に失明した。千尋はその時期を思い起こすと吐き気がする。部屋に閉じこもり、インターネットでの課題、zoomを使ったリアルタイムの配信授業。それを繰り返す日々。楽しみのない生活。機械音痴だった千尋は、他の学生の3倍大変だった。夜、ベッドに入り天井を見上げる。明日の授業は大丈夫だろうか。この前の提出物の内容は、幼稚過ぎただろうか。そんなことを考えると、居ても立っても居られない。寝つけなかった。一晩寝れず、授業。頭がうまく働いてくれなかったため、課題のWordの文章が変になった。寝なければならない。そんな次の二晩目も寝れなかった。不安という重りが気になり、「寝なければならない」という強迫めいた概念が千尋を襲う。襲う。

 三晩目も千尋は寝れなかった。ふらふらだった。四晩目が明け(もちろん千尋は寝ることができなかった)朝に千尋は爆発した。鬱という世界の扉を開いた瞬間だった。爆発した千尋は号泣し、ボサボサだった髪、汗で異臭を放つ服を丁寧にし、歯磨きをした。歯磨きは30分から1時間ぐらい長い時間したと思う。時刻は午前5時だった。あと30分したら、真澄が大成のお弁当を作る時間になる。その5時半が来た。真澄が階段を降りてくると号泣している千尋が立ちすくしていた。千尋は「大学なんて辞めて、旅人になりたい」大きな声で言った。真澄は自分では何もできない。良文を起こし、良文の元に千尋を連れて行った。良文は「千尋、お前それはほんまに泣いているのか?嘘泣きじゃないのか?」意味の分からない最低な事を口にした。親に反抗したことが無かった千尋も、さすがに地団駄を踏んで怒りを露わにした。「すまなかった」良文はすまなさそうでないようすで言った。謝る気持ちなどさらさらない。当時の千尋はそんな事を気にする余裕みたいなものが無かったので、泣き止んだ。「旅人なりたい」叫んだ。「今はコロナ禍だから、旅はできない」真っ当なこと言った。その後も良文は言葉を繋いだ。「お前は病気だ。大人しくしておけ」「……」

 その日から僕専用の部屋にぶち込まれた。和室が僕の部屋になった。僕にとって部屋は城みたいなものだったが、ゴミ家族は、僕の部屋に好き勝手に自分たちの荷物を置いた。大成に限って言えば、千尋が寝ていたとしても、ノックもせずに強い力で扉を開けて、荷物を取りに来た。千尋は、僕にだったら何をしてもOKという風潮が家族の中で暗黙の了解みたいになっているなと思った。本当に嫌い。もう一回大成に関して言えば、大成はサッカーの部活を終え、汗だくになった体で帰宅した。その体で和室の僕の布団で寝たのだ。どう考えても許せない。酷い。酷すぎる。怒りを全面に出して、大成を部屋から追い出した。大成ヘラヘラ笑っていた。幸子はある時「あんたここ居るの嫌なんでしょ?どっかいきなよ。私も嬉しいしウィンウィンじゃん」と言ってきやがった。その時の千尋は弱っていて何も言えなかったが、21歳の千尋はこう言う。「黙れ、お前なんって最低な男に捕まってろ。勝手に自滅しろ。地獄堕ちろ…」

 千尋は人生で始めて心療内科へ行った。わあ、ここが心療内科か、ついに足を踏み入れたか…そんな気分だった。心療内科の中は、耳心地のいい音楽が流れていた。おばあちゃん、おじちゃん、女の子、女の子の付き添いのお母さん。皆どこにでも居そうな人だった。心が病んでいるなんて、言われないとわからないぐらいだ。心療内科まで来るのさえ精一杯な千尋。周りにいる人もぎりぎりの心で、ここへ来てるのかなーって妄想。もちろん主観的な妄想に過ぎないのだが、ぎりぎりのところで予約を取って、ぎりぎりの思いで病院に来ている人もいるのではないかな?って思う。こういうことを考えられるのは余裕のある今で、当時の千尋はもうダメだって気持ちでいっぱいで周りのことを気にしていることなんて出来ない。受け付けを済ませ、ソファーに座る。横には真澄がいる。みんなが診察をする。アナウンスが鳴る。「山田千尋さま、山田千尋さま。診査室へ来てください」主治医の先生 の声が機械を通して、千尋の耳に届く。診査室の前に張り紙が貼っている。鬱病のときは文字を読んで理解するのは困難だが、読んでみる。『新型コロナウイルス感染拡大防止のため、患者様が扉を開けないようによろしくお願いします。』そう書かれていたのを千尋は読み取れた。一歩後ろに真澄がいる。頼りにならない。

 扉が開かれる。スライド式の扉なので、スゥイー、という音だ。扉というよりドアのほうが表現として適切かもしれない。主治医自らドアを開けてくれたみたいだ。「どうぞ」主治医の姿が千尋の網膜に映し出される。50代、細み、知的な雰囲気、醸し出されるエリート臭、白髪がよく似合うイケメンオジさん。担当してくれた先生はこんな特徴的を兼ね備えていた。男としての渋みがあり、これで煙草吸っていてら魅力的だ。「はじめまして、久保です。」空気に置くような低い声で、言った。「よろしくお願いします。山田千尋です。」千尋はオドオドしながら、自分の本名を明かした。声はあまり通らず、焦点は定まらず、体は小さくだが慄えていた。「山田さんは今回どうされたのですか?」主治医が質問する?僕は、どうしちゃったんだろう?千尋自身でも答えが出ていない。飼われていたのに、急に野に放たれた感覚に似ている。もごもごした。言葉がうまく出てこない。「あ、ええっと、その…」言葉がブツブツと切れ切れに出てきたが、何一つ意味を持たなかった。真澄が、しゃしゃり出る。こんな悪口叩いといて、千尋は何も話せないのだが。「千尋は〜〜」真澄が何か話しているが、千尋の耳に入って来ない。集中力が維持できない。バッテリー切れ。シャットダウンした機械みたいに、千尋は疲れていた。何回か主治医の久保先生の質問に答えた。体の向きがこちらを向いていなかった。こいつの症状はそんなに対したことはない、といった具合だ。薬を処方してもらった。睡眠薬と精神安定剤。どちらも気持ち程度の弱い薬だった。帰り道、真澄に聞いた。「あんまり主治医とコミュニケーション取れなかった。」「そんなことないわよ、あの先生はよくわかってくださるわ」やれやれここまで馬鹿か。どうしようもない。その後、良文の話題になった。「お父さんと話し合いをすると、僕の相談事を解決しようとするのではなくて、自分が言い合いで勝ちたいって感じだから、凄くしゃべりにくい」普段抱えてる心のうちを話した。「え!全然そんなことないわよ」と真澄は言った。オメエは正気か?千尋は、思った。

 鬱になって主治医に言われた言葉を千尋は思い出してみた。全く覚えていない。記憶力まで低下している。実際のところはどうなのか分からない。あ、一つ台詞を思いだした。「昔のことを思い返すとよかったりしますよ。なにが好きだったとか、どういうときが楽しかったとか…」これだ。千尋は昔のことを思い返した。恥ずかしい黒歴史ばかりで、死にたくなった。存在を消したかった。こんな状態のときに色々と考えても無意識。21歳の千尋が今、昔のことを考えるとする。

 幼稚園の頃から記憶を掘り起こしてみる。断片的な記憶はカメラの写真みたいに残っているのだけど、まずは母親の真澄に自分がどんな子どもだったか、千尋は尋ねた。返ってきた返答はこうだ。幼稚園のときは、迷路を書くのに夢中だったわ。へえ、そうなんだ、なんか気色悪い幼稚園児だな~と思った。人生という迷路に迷った状態である現在。この迷宮は自らの手で作り出したのだろう。千尋は自分の中にある記憶をノートに書き出してみる。日付を確認するためにカレンダーを見てから。

 6月4日

幼稚園児だったころ


・節分のときに鬼の衣裳を着た先生が            出てきて、猛烈に怖かったこと。


・茶の間に潜んでいるビビンバさんにWくんが戦いを挑みに行ったが出てこなかったこと


・Yくんのお母さんが熱中症で倒れたこと


・Mくんが運動会で鉄で指を挟んで、救急車が来たこと


・先生に今日は、外が晴れているから外で遊ぼう!って言われて嫌だったこと


・園長先生が園歌を歌わない子どもの頭を引っ叩いたこと


・園内有名ヤンチャな双子に髪の毛をむしり取られたこと


・鼠とからかわれたこと

覚えているのは、上記の通りだ。最後の1文「鼠とからかわれたこと」とあるが説明が必要だと思う。なぜ千尋が鼠となったか。千尋は母親に愛されて育った。母親が千尋にキスしてくれた。好きな人にキスをするという外国人と同じ価値観を持つ千尋は、ある日同じクラスの子にキスをした。キスをちゅうと言い換えるとこの話が分かりやすくなる。女の子にちゅうをした千尋は、ちゅうちゅうとからかわれ、ちゅうちゅうから派生して鼠になった。前歯だけが大人の歯に生え替わっていた千尋は、見た目からピッタリだった。

というわけで鼠といじられた。……。

ん?で?こんなこと思い出してどうなるのだ?病気の治癒になっていない気がする。そこの所はどうなのだろう。


高校時代の千尋。名字は山田なので、出席番号順に並ぶと、後ろだ。学校である健康診断とかでは、長い時間待たなければならないから、ウザい。

 千尋は村上との関係に必死だった。それ以外の関係は深くならなかった。高校時代に恋人は、出来なかった。当たり前だ。思考を両親の考えに合わせ、自分で何も考えられない人間が、相手を思い遣る言葉や行動がとれる筈がない。千尋はこのようにきちんと言語化は出来ていなかったが、ぼんやりとだが感覚的には掴んでいて、自分は一生付き合ったり結婚したりすることはできないのだろうな、と思っていた。付き合えない、結婚出来ないということは、子どもが産まれない、ということと今の日本ではイコールで結ばれる。ということは千尋はこの世界で、生き物として絶滅する。公園とかで、親子が遊んで楽しそうな表情とかしているのを見ると、あーあいいなーと思う。僕には一生をかけても手に入れられないものだなーと考えると、息がつまりとても苦しくなる。地獄。ただ唯一自分に興味を持ってくれる女の子がいた。京子ちゃんだ。京子ちゃんは大人しい性格の女の子だった。肌は白くて、スベスベだった。ミルクキャンディーみないな肌だった。千尋はニキビに少し悩んでいたので、羨ましいな、と思っていた。京子ちゃんは千尋といるときは明るくて、たくさんお話してくれた。そういう意味では心を開いてくれてたのかもしれない。京子ちゃんは僕以外には、内向的だったので、本をよく読んでいた。読書家だった。ある日京子ちゃんに小説を貸してもらった。貸してもらった本は、島崎藤村の『破戒』だった。千尋は読書は読書感想文を書きなさいと言われてから本を読む男の子だったので、『破戒』は難しかった。難解で分からない所だらけだけど、何故か面白かった。この気持ちすごくわかるな~と思う文章が出てきたときには、こんなに昔の人も同じようなことで悩んんだりしてたんだなって不思議な気持ちになった。すごく遠くの世界が近くに感じられた。1ヶ月ぐらいかかったが、何とか読み終えれた。文字も頁ぎっしりで、ぶ厚い小説だったので、読み終えたときの達成感は大きかった。次の日、千尋は京子ちゃんに『破戒』を返した。おもしろかったよ、ありがとう、と言った。すると京子ちゃんは目を輝かせた。「この藤村の破戒はね、藤村自身が山に7年も籠もって書いたものなんだよー、山から破戒を持って降りて来て夏目漱石らに絶賛された伝説の作品なんだよ!」

「7年も!そいつはすごいや」

「うんうん、分かってるじゃん。ちーくんセンスあるよ。」京子ちゃんは千尋のことをちーくんと呼ぶ。

「ありがとう」千尋は自分でも照れてしまって、言い方が変な感じになっちゃうのを自覚した。かわいい、そう言って京子ちゃんは笑ってくれた。本当に楽しそうに笑ってくれた。千尋は『破戒』を本屋さんに買いに行こう、そう思った。

「またさ、オススメの小説あったら教えてよ」

「いいよー」そう約束してくれた京子ちゃんは、約束を忘れちゃったのか中々小説を貸してくれなかった。自分で読むのにすごく真剣だったので、何も言わず、楽しんでねっと千尋は心の中で思った。想った。高校の6限が終わって、家に帰る途中にサンミュージックが有り、寄った。探していたら見つけた。即、購入した。家に帰り、机の上に置いた島崎藤村の「破戒」を見つめる。かっこいい。しかし京子ちゃんの「破戒」は何度も読み返しているのだろう、少しくたびれていた。新品より全然かっこよく見えた。それでも自分が買った『破戒』を大切にしようと表紙を優しく撫でた。

 駄目だ、駄目だ、駄目だ。話が少し明るくなってしまった。2回目の鬱の話をしよう。2回目の鬱は梅雨が引き金となった。梅雨にとどめを刺された、といった表現が似合う…。新型コロナウイルスの感染が少し落ち着きた冬と春。千尋は行くはずだった大学の行くはずだった学生寮に宿泊した。初めての方は、新鮮で楽しかった。親元を離れ、お金は送って貰っているものの、自分で生きてるっていう感じがした。のだが…。やはり、あのゴミ箱出身の千尋は寮で浮いた存在だった。周りの人間に他大な迷惑をかけた。空気も全く読めなかったので、怒りも買うことが多かった。そんなやつは嫌われて当然の存在で、千尋の一番の悪いところはそのことすらも自覚できていなかった。注意されても、対して考えることもせず、ヘラヘラ笑い、飯を食って寝て忘れる、学習しない人間。うんこ出すだけが、唯一の仕事みたいなやつだった。クソ野郎。周りの耐用は素晴らしかった。千尋と関わるのは必要最低限だけで、プライベートの部分は巧くインターネットを利用して、交流を極力、避けていた。蚊帳の外。普段は周りなど見ない、のんきな千尋。気付く様子は全く無かった。しかしたまに眠れない夜に、僕は嫌われてるのでは無いか?と思うときがあった。母親の真澄に電話したら、夜だからそういうことを考えちゃうのよ、と。自分が間違っている、親が正しい。そういう思考の千尋だったが、残念ながら悪い予想は的確に現状を捉えた正解だった。そして畳み掛ける梅雨という憂鬱などんよりとした期間。千尋は全く眠れなくなった。あの時と同じだ、気持ちばかりが先行し、焦る。ズブズブと自己嫌悪の底なし沼に沈んでいく。沼が臭くて、深くて、息苦しくて、いっそ殺してくれと思う。毎日。毎日。毎日。眠れない夜が丸3日続く。周りの人には、嫌われてるいる。その事実が追い打ちをかけるように強くのしかかる。表向きはそれは心配だねーって感じだが、裏では死ねよと思っているかもしれない。超が付くほどの繊細になっている千尋には、そういう思考になっているのはしかない。感情の起伏が段々と制御不能になる。激しい自己嫌悪。心に自らで、包丁を突き刺しているかのよう。何度も。寝れなくて、自分を刺している夜は、長すぎる。早く楽にしてくれ。千尋は寝たい、と思った。自己嫌悪の嵐の渦中は、自分に対しての自信が勿論、ない。将来のことを考えると、自分なんて誰にも好かれない、自分なんて就職することができない、万が一就職出来たとしても仕事が出来ない人間で迷惑な存在、役に立たない屑。もう僕をどこかの山奥に埋めるか、牢獄の中へ打ち込んでくれ。本気で、そんなことを思う。すると今にスポットライトを当てられていない状態となって、周りのことに手がつけられなくなる。勉強や人間関係など…。どんどんダメになっていく。話す言葉、表情、姿勢、何から何まで。ニキビもとても増えた。ゴキブリの赤ちゃんみたいに増えた。一気に増えた。ブツブツブツブツ、ギトギトのニキビ。汚い。でも汚いとか気にできる精神状態でない。千尋は精神的な意味で、死んだ。自分の感性みたいなものが無くなり、脳が動かなくなった。動かなくなったような感じ。ベッドでずっといる、そんな日々。ただ時間だけは何も変わらず進行している。刻一刻と。学生寮から飛び出して、実家へ帰った。新幹線にしっかり乗れるか、心配だった。不安で不安で、仕方なかった。新幹線は思い通りに乗ることが出来たが、新幹線から降りてからJRで、実家の最寄り駅には通り過ぎて戻った。何とかそれぐらいで済んで、良かった。電車を降りると高校時代に電車通学をしていたときの光景が目の前に広がった。大きなノスタルジックが押し寄せ、感激し、涙を流しそうになった。もしかしたら流していたのかもしれない。実家は駅から、徒歩十分のところにあるが、駅まで母親の真澄が迎えに来た。しんどいときに嬉しかった。高校時代も朝、電車に間に合わない時は、送って貰った。生粋の甘えん坊。高校時代が懐かしい。ほわんほわんほわん。

 「おかーさん、俺の机の上の筆箱取ってー」靴紐を結んでしまった千尋は自分の部屋まで行くのが億劫で、真澄に声をかけた。いつもならそのまま忘れっぱなしな筆箱の存在を思い出せた、そんな朝だった。

 「はいはーい」真澄は、言ってしまえば雑用をさせられているのだが、何故か嬉しそうだ。奉仕欲。自分自身に価値を見出してくれるのが千尋であり、家族。家族という気持ちが悪い軍団。

 「お待たせ!」「ありがとう、行ってきます」「行ってらっしゃい、気をつけてね」何気ない家族の会話のように思えるこのやり取りにも、21歳の千尋からすると気持ちが悪い。真澄のお待たせの後のビックリマークのついた語尾。想像するだけで、全身の毛が立つ。家を出て、駅へと歩く。見慣れた風景。もう毎日見てるようで、見ていない。間違え探しにされ、どこが違ったでしょう?と急に言われたらわからないかもしれない。無事到着して、定期券を取り出し、改札を抜けて、電車に乗る。毎日行う行動。電車に揺られ、学校を目指す。まだ少し眠い。千尋は最近悩みがあった。それは京子ちゃんの対応が冷たいことだ。教室のドアを開け、京子ちゃんに挨拶した。「おはよう」手を少しあげ、笑顔で言ったつもりだった。「…うん」これが京子ちゃんの反応。千尋は今日も朝からダメージを受け、自分の席へ座った。村上が僕の席へ来て、5分ぐらい話した。チャイムが鳴って、朝の会が始まった。なぜ、京子ちゃんに無視されるのか?千尋の頭はそれでいっぱいだった。たぶん千尋に原因がある、最近のことを思い返しても何も思いつかない。だめなとこ、だからこういうことになる。なってしまうのだ。そつなくこなす、すると1日はあっという間。京子ちゃんはすぐ帰っちゃう。机の上に小説が置かれている。京子ちゃんは授業中でも小説を読んでいる。どんな小説読んでるんだろう?と疑問に思い、こっそり覗いて見る。こっそり、ごめんなさい。小説は、川上未映子さんの『わたくし率 イン 歯一、 または世界』だった。え?どういう意味?または世界以外の部分は、日本語であるはずなのに理解が出来なかった。わたくし率 イン 歯一、または世界。もう一回読んでも、分からない。頭の中ははてなマークでいっぱいだったけど、面白そうだなと思った。帰りに買おうと思ったが、忘れて、今も買えずじまい。…。

 鬱の渦中。トンネルの先が見えない状態。闇。実家へ逃げ帰った千尋は、再び和室にぶち込まれた。ゴミ箱にゴミを棄てるように。しかし家族全てがゴミ箱なのだ。それに気づくのは、もう少し先の話だ。ネタバレ。和室の千尋は寝ていた。夏が終わった。心療内科にも行ったが、勿論良くならなかった。もしかしたら発達障害の可能性があるかもしれない、ということで検査を受けることになった。千尋は、発達障害です、と言われたかった。そうすれば今までのことを仕方ないと自分を納得することができ、途轍もなく振り切れない自己嫌悪を緩めることができるからだ。検査は、発達障害を行う専門の先生が来るときに併せて、行われた。いつもの心療内科の席へ座っていた千尋は、「山田千尋さま、ついてきてくださいね」と精神異常者の扱いがうまいといった表情の看護師が言った。「わかりました」看護師はあるき出した。僕は、その背中を目印にしてついて行った。隣りのビルの5階だった。「ここです、検査が終わり次第、受け付けへ来てくださいね」「わかりました」「じゃあどうぞ」そう言って扉を開けた。中の部屋へ入ると、おばあちゃんと表現できる人がいた。まあそりゃ経験はあると思うが、大丈夫か?と思ってしまう。まあ大丈夫じゃないのは、僕のほうか…千尋は苦笑した。「お座りください」柔らかい椅子に着席した千尋に発達障害の検査の軽く説明が入ってから、試験が始まった。数字の記憶、ブロックの並べ替え、言葉の意味、絵、間違え探し…等々。色々あった。発達障害と診断されたい千尋は、わざと間違えたりした。しかしたまにで、結構真剣にやった。千尋は、ブロックの並べ替えが、楽しくて成績も良かった。一方間違え探しはいつまで経っても見つけられず、ギブアップということが多かった。「これにて検査は終了となります。結果はニ、三週間後となります。それでは。」「ありがとうございました」発達障害の検査監督がお辞儀をするのを確認して、千尋は検査会場を後にした。そして心療内科の受け付けへ向かった。受け付けのババアに「終わりました」といい、「おかけになってお待ち下さい」とあの笑みで言われた。指示に従う。しばらく待っていると「山田千尋さま」と号令が入った。受け付けまで、数歩、歩く。お会計の値段が言い渡されて、対応する金額を払う。「ありがとうございます、またニ、三週間後に結果が出ると思うのでこちらへお越しください」発達障害の検査医と同じセリフをはき、笑顔。あの笑顔を忘れられない。技巧的笑顔。僕の感情の中に安心と危険が、混ざって変な感じにさせられる。もう地獄から解放されたい。早く。それか存在を無くしたい。千尋は、みんな自分のことを忘れてくれないかな、と本気で思った。…小学校のときもあったな、思い出す。小学6年生のときだ。保健室に逃げ込み、あーあ早く中学生になって、みんなと会わない生活がしたいな、とおもった。窓から見える校庭で楽しそうに笑ってる子の風景がばっちり千尋の海馬に残っていた。

 小学6年生の頃、千尋は5人組と呼ばれるクラスのグループみたいなもので集まって、遊んでいた。すごく仲が良くて、みんなで遊ぶことが楽しかった。メンバーは、寺川くん、福田くん、金原くん、辻くんが居た。メンバー紹介。拍手。寺川くんは家が隣だった。千尋の父親の良文と寺川くんのお父さんは同じ会社で働いていた。寺川くんのお父さんは超エリートだった。寺川くんのお母さんは、明るくてお洒落で料理が上手だった。お菓子作りが趣味で、よく僕の家にも持ってきてくれた。美味しかった。寺川くん家やどこか出かけるときには、千尋の服装が大丈夫かどうか母親の真澄はいつも気にしていた。寺川さんところはお洒落だからと、千尋はよくそのセリフを聞いたのだった。福田くんはすごく大人びた子どもだった。周囲の人間を注意深く観察していて、決して自分は前には出ず、話を聞くというスタンスを常に取っていた。しかし自分のしたいことややりたいこととなると絶対に曲げない、そんな性格をしていた。福田くんはよく寝る子だった。千尋と寺川くんと福田くんは近所で、一緒に学校へ行ったのだが、登校の朝は、毎回福田くんのお母さんが福田くんを起こすわめき声が聞こえた。福田くんのお母さんは温厚な人だが、そのときだけは怖かった。金原くんは、仏様みたいな顔をした子だった。全てを許すような雰囲気を持っている子で、ありとあらゆる人間から好かれた。マスコットキャラクターみたいだった。金原くん一人居るだけで、場が和み、春のお陽さまのぬくもりみたいなものを感じた。金原くんの人柄のいい面であり、悪い面でもあった。性格を見られ、急にイジってくる人や、ヤンキーみたいな人に絡まれるのは、彼であった。それもそれで面白かったが。辻くんは野球のスポーツ少年団に入っている子だった。辻くんが所属しているチーム内でも、運動神経が優れた子で、四番打者をまかされていた。学校の駆けっこでも毎回1番速いので、彼の言っていることは、容易に想像出来た。体は大柄で、力持ちだった。辻くんがバッターボックスに入れば、相手をするピッチャーは少なからず緊張するだろう。辻くんは女の子にモテた。小学生のときって、足が速い子がかっこいいとされる。クラスの半分ぐらいの女の子は、辻くんのことが好きだったんじゃないかな?と思う。スポーツ万能、頭はそこまで良くないが、やんちゃ坊主。どこでも居る学生時代にモテるタイプの人間。このメンバーで遊んでいた。仲良し5人組というそのまま過ぎるグループ名だった。千尋は、辻くんほどでは無いが、サッカーで昼休みは遊んでいたが、このメンバー員になって、教室に残ってお喋りをした。辻くんもみんなに合わしていたと思う。ふざけた冗談をいうのは金原くん、寺川くん、と一応僕で、福田くんは皆を見守り、辻くんは大きな声で笑い、ノリに合わせたことを言ってくれていた。その中で楽しかった遊びが二つある。一つ目は、トランプの大富豪だ。小学生に市販のトランプを持ってきてはいけないという校則があったので、厚紙から自分達で作り出した、トランプのカード。自分たちになりにだが、工夫をした。5と6のカードを繋げれば、ONE PIECEの主人公ルフィーの伸びっ切った腕を描いた。ゴムゴムの実を食べたことからきたダジャレ。また8は巨人の原監督だった。野球好きの辻くんが描いたのか、弟が野球をやってる寺川くんが描いたのか、今の千尋は思い出せなかった。もう一つの遊びは、公園で集まっての買い食いだ。福谷公園という大きな公園が千尋たちの学区にあった。お菓子やジュースを隣りにあるセブンイレブンで購入して、テーブルと椅子があるところで飲食した。小学6年生の千尋らに取って、大人に憧れていたので、毎週金曜日に「飲み会」と名称を付けて、飲食をした。金原くんは毎回80円のコロッケしか買わないから、貧乏といじられた。飲み会でなくみんなで遊んだときに金原くんが持ってきたのは人数分の10円ガムで、みんなで散々叩くと、金原くんは泣いた。泣かしちゃうのはやり過ぎだと思うが、金原くんもケチだ。「飲み会」は花金と呼ばれるときに開かれ、背伸びして大人ぶって楽しかった。みんなでふざけ合うのが楽しかった。事件が起こった。ある時期に寺川くんが千尋のことを嫌いだしたのだ。千尋はなぜ嫌われているのか、分からなかった。常に心の中は、モヤモヤし、曇り空だった。20歳の千尋は自分のせいだ、と嘆くだろうし、21歳の千尋もそうだろうな、と冷静に思う。千尋という人間は、周りが全然見えていない、そういう性質を持っている。原因はともかく、寺川くんに嫌われ、辻くんは寺川くん付いた。寺川くんが、千尋のことを馬鹿にしたことをいい、辻くんが味方した。金原くんもたまにイジりに参加してきた。千尋は嫌だったので、昼休みなどの自由な時間は保健室に逃げるようになった。そして深い人間関係って苦手だな、早く中学生になりたいなと思った。

 20歳の千尋は和室で一日中寝ていた。ご飯を食べるのすら面倒に感じたし、お風呂も入らなかった。母親の真澄は、仕事が終わって、自分の様子を確認して、ご飯を持ってきた。ご飯を食べずに死のうと思ってた千尋は、煩わしく感じた。要らんことすな、そう思いながらご飯を食べた。真澄は、毎日毎日毎日「今日は、お風呂入りーね」と言ってきた。五月蝿かった。季節は夏が、過ぎたぐらいで、昼間布団の中にずっと居るには、少し暑かった。床ずれで痛いときもよくあった。たまに真澄に連れられて、散歩をした。気候的には最高に気持ち良かったが、母親真澄と2人きりで話すのは気持ち悪かった。家族と居るのが、本当に本当に本当に居心地が悪かった。嫌、厭、だった。しかし自分で自立して生きていける経済力と生活力は、千尋になかった。自分はゴミ箱で育てられたゴミということに初めて自覚した。自覚したときの衝撃と絶望は大きかったが、21歳の千尋からすると成長のように感じられる。21歳の千尋が当たり前だが、1番先輩。これから年を重ねるほど、ナウが1番先輩。それは変わらない事柄。家を出たい、突発的に思った。家族が家から出て、一人になった瞬間を狙い、千尋は周囲を徘徊した。近所の人にバレたら話さないといけないので、マスクとキャップ帽を深く被るのは、千尋の中で鉄則だった。自分というのをできる限り隠し、彷徨った。誰にもなにも言われずに、散歩するのは楽しかった。ぶらぶら。出来るだけなにも考えないように、努める。それを意識しているということは、どうしても考えてしまっている。闇の入口へ進むようなことを。しかし公園や川や山を見ると、少し気持が安らぐ。景色見ることに慣れれると、また病んだことを考えるのだが…。千尋は一度外へ出ると中々帰ってこなかった。連絡もせずに、帰らないので、両親は心配した。毎日。鬱陶しかった。ある日、千尋は電車に乗った。目的地もなく。JRの電車に揺りかごのように揺られ続けた。気分が良かったので、降りたくなかった。気が付くと、人が多くて、電車から降りることにした。新大阪駅だった。都会の人の多さが、爽快だった。誰も僕のことを知らない。その感覚が、今の千尋が求めているものだった。自分の存在を消したい。日々和室の布団の中で、思っていることだった。現実逃避、そう言い換えることが出来る。千尋は家に、帰らなかった。そのうち携帯の電源が底をついて、スマホは死んだ。現代社会でスマホは相棒みたいなものだが、死んだ。独り。両親から連絡が来ていたが、まあ、無視でいいか。千尋はこういった気分だった。夜になった。都会の夜は、ライトアップされて、とても綺麗だった。ずっと見惚れていたかった。が、財布に一泊するお金は入っていなかった。帰るしか、ない。それしか、ない。電車に乗り、来た方向と逆向きに進む。それが帰るということ。実家の最寄り駅に着いたが、家に帰りたくなさ過ぎて、わざと一駅乗り過ごした。田舎の一駅は、都会の一駅とまるで違う。歩いて帰った。三十分から一時間ぐらいかかったと思う。途中で、公衆電話を見つけた。今の自分に、公衆電話で実家へ電話をかけることが出来るのかが、気になった。自分はどこからできていないのか、軽く試してみたくなったのだ。説明を見た。字をじっくり見るのを久しぶりに感じた。人間はダメになったら、とことんダメになれるんだな、と思った。10円を入れて、何とか実家へ連絡が、ついた。「もしもし」「もしもし千尋?千尋なの?」母親真澄の声が、興奮しているようだった。「うん、そうだよ」千尋はのんきに、答えていた。「よかたあ、心配したんだよ、LINEの連絡も返ってこないんだから」早口で大きな声だった。「充電、切れてて…」「今どこなの?迎えに行くわ」何だか、凄く前のめりだな?と感じた。自由にさせて欲しい。「大丈夫、1人で帰れる、今は彦根駅から家に帰る途中にある公衆電話からかけてる」まだ母親の真澄は言いたげの様子だったけど、電話の受話器を元の位置へ引っ掛け、会話を切った。一方的に、プッツリと。実家へ続く夜道。田舎の道はライトが少なく、暗め。歩いていて心地良い暗さ。実家に着いてしまった…。最悪…。何度も開けたことがあるドアを開ける。「ただいま」リビングまで行くと、怖い化け物を見るような目で、母親の真澄が「おかえり」と言った。心配した、と言った。うん、それだけ千尋は言った。「生きて帰って来て、ほんと良かった…」死ねるものなら、死にたかった。千尋は思った。自殺する度胸があるならとっくにしている。本能的な意味で、恐怖を感じるから、自殺はできない。生きる、しか、ない。20歳の千尋の状態が決して、生きている、と胸を張って言えないが。生きる、といいことが気持ち悪い。嫌だ、と思う。生きる、というのを強く感じる瞬間があって、それが食事と性行為だ。食事は歯で奪った命を細かく刻み、唾液でドロドロにして、胃にぶち込む。なんて得体のしれない、気色わるい光景だろうか。吐き気を催す。ただ単純にグロテスク。それを思ってから、僕はご飯を食べるのがあまり好きではなくなった。性行為だってそうだ。粘膜と粘膜の合わせ技。グロテスク。生きるということは、グロテスクなことをグロテスクと感じないことなのかもしれない。「実はね…」重い沈黙を切り裂くような切り口の口調で始まった言葉に、千尋は驚くことになる。「千尋、あなたが帰ってこないから捜索願いを出したの」二階で眠っている父親の良文に「よっくん、千尋が帰って来たわよ。降りてきて。警察に電話して。」自分で何もできない真澄と行方不明な息子が居てもオチオチ眠り込んでいる良文。千尋は家族に対しての違和感を感じ始めていた。どんどんどん、足音が聞こえ良文が階段を降りてくるのが分かる。良文は千尋と会った瞬間に手を振った。そして「千尋〜、心配だったんだぞ〜」語尾を伸ばすような甘い声でいった。嘘つけ、と千尋は思った。良文は散々、千尋のことを否定する人間だった。そんな奴が都合のいい事、言いやがって…。良文は真澄が言った通りに、捜索願いを出した警察へ電話した。千尋は、聞き耳を立てる。「山田です。息子が帰って来ました」警察「はい、ほんと良かったです」警察「はい、何時ぐらいになりそうですか?」警察「わかりました、お待ちしてます」警察「失礼します」電話が切られた。「10時半ぐらいに来るって。千尋に話があるみたい」面倒な事になった。馬鹿騒ぎしやがって。このアホ共。千尋は心のなかで毒づいていた。

約束の時間になり、インターフォンがなった。真澄が対応して、リビングに招待しようとしたが、玄関で大丈夫と話が着地した。千尋はなんとなく、玄関に正座した。敬意を示したほうがいいのでは、と思ったからだ。

いざ玄関に入ってきたのは、恰幅のいい50代ぐらいのベテラン刑事だった。身長が高く、顔はまさにイースター島のモアイ像だった。警察特有の人を疑うような目を持ちながら、優しげな目、両方を兼ね備えていた。「すみません、迷惑をかけました」千尋は、半分土下座ぐらいの勢いで、謝った。なぜ、そこまで本気だったのか、千尋自身でもわかっていない。反省する気持ちが強かったのか、謝る姿勢を親に見せたかったのか、警察の注意を弱めるためだったのか…わからない。どれにも当てはまらなかったかもしれない。「そんな、そんな、いいですよ」すごく優しい口調で、しかし演技なのではないか?と疑う目を忘れずに、応じた。その相反する矛盾が、この警察官のアイデンティティであり、明らかに今の位まで登りつめた特異性であろう。「失礼します」もう一人警察官が入ってきた。20代後半、女性、美人、切れ長の目、鋭い目線、小柄。精神的に肝が据わっている、という印象を受けた。女性刑事が口を開く。「千尋さん、今日は何があったか話してくれませんか?」警察官ならではの厳しさみたいなものは出てしまうが、女性ということもあるのか、その滑らかで温かみのある声だった。安心して話せるかもしれない。女性刑事の左手にはボード型ノート、右手にはボールペンが握られていた。千尋から出てくる言葉をキャッチするかのように、書くつもりだ。千尋は今日あったことを話し出す。しかしあまり覚えていなかった。その状態でも、記憶と言葉を絞り出し、話し出す。「電車に乗っていたら、ずっと乗っていたかったです」このセリフには、家が嫌だというミュアンスを含めているのだが、誰も気付かない。僕が異常者で、みんなはみんな自身が正常ですよという表情をする。結局自分が、おかしいんだ。千尋の自己嫌悪地獄は、まだまだ続く。「それはなんでなんですか?乗っていたかった理由です」ノートとペンを強く持ち直して、言った。「楽しかったからです」千尋は本音をいうのが、面倒で適当に答えた。すると女性警察官は明らかにこいつはダメだ、という顔をして、言葉を出した。「山田千尋さん!もう小学生じゃ無いんですから、しっかりしてください。千尋さんの親は、どれだけ心配されたと思っているんですか?親の気持ちを想像出来ない年齢ではないでしょう?」その言葉を受けて、千尋は思った。全く両親の事を考えていなかった。父親は、自分がどうなろうと気にならないだろうし(周りへの演技が大変ぐらい)、母親はいちいちうるさいからほっておくぐらいが丁度いい。うんうん、両親の気持ちなんてどうでも良かった。千尋は、僕は永遠に大人なんかには成れないんだろうなと思った。「そうですね…すみません…申し訳ないです…」千尋は表面上謝罪をした。女デカはそれも知らずに、全くクズ男だなという顔。人間の思考や表情から正しい情報を見つけ出そうとする警察官ですらこんなもんかと思っていた。「あの千尋さん、実はノート勝手に見させてもらいました。両親と一緒に見ました。精神世界に土足で踏み込むような真似をしてすみません。あれほぼ遺書ですよね?自殺するのですか?両親から聞きましたよ。最近川や山に行くと…。もうちょっとしっかりしてください。あなたは20歳で、もう大人なんですよ」「…すみません」千尋は自分の持ってる中で、一番すまなさそうな顔をした。「川や山で何をされてるんですか?」女性刑事は踏み入った話をしてきた。「山で生き埋めに出来るところを探したり、川で溺死出来るところを探したりですかね…でも勇気が無いんでどうせ自殺なんてできないんですけどね…もうやめておきます、両親も心配するので…」目的を聞いてきてだいたいの理由は推測できただろうに、なに甘いこといってんだという顔。そのあとの言葉には満足したようで、少し安心した様子だった。千尋は、両親の心配なんて、どうだってよかったのだが。「それでは帰ります、本日はご無事で何よりでした」女性刑事は、一礼して、くるりと玄関前に停めてあったタクシーへと向かった。ベテラン刑事は千尋に向かって、若いんだからこれからやぞ、という言葉を残して立ち去った。「若い」「若い」「若い」ありとあらゆる大人に言われる言葉。人生の先輩に言われる教訓だ。あなた達の言うことだ、正しいのだろう。自分も他人に対して「若いんだから」と思うことがきっと増えていくのだと思う。うんうん、それは分かる。しかしあまりに若い、若いと言われるとこちらとしては、焦る。今の時期が人間としての黄金期であるから、行動・経験しなければいけないよ、と言われている気分になる。20歳の千尋なんて、引きこもりだから余計に重く感じる。いやもうすでに諦めている。せめて、自分がおじさんになったときぐらいは「若いんだから〜」と言わないでおこうと決心するが、無理だろう。まず、話すら聞く価値がないと判断されると思う。警察が帰った玄関に取り残された千尋。真澄、良文は警察のお見送り、感謝をを伝えている。もっとお前たちが寄り添ってくれたら、こんなことにならないのにな、不満の矢印が自分にでなく、両親に向く。お見送りが終わると、すぐに寝室へ戻る、良文。真澄は対照的に、「お腹減っていない?お風呂行きたくない?」と千尋に聞いてくる。千尋は口数少なく「お腹」と答える。真澄は「待っててね」と愛情多めの口調で言い、それに気持ち悪いなあ、と思ってしまう千尋。いや思って、当然だ。この愛情過多のせいで、今、千尋は苦しんでいるのだ。そのぐらいでないと、これから生きていけない。生きてなんて、そんな超ハードでしんどいことなんて、したくないなと思ってしまう。

ご飯を待つ。家族の団らんのテーブルの決められた席に座る。何にも分類できない時間。これからの人生を生きることになんとなく考えていると、目から涙が溢れ出した。きつすぎる、その気持ち一つ。涙がとまらない。閉める部分がぶっ壊れた蛇口のように、とまらない。眼球から溢れ出る洪水。そのうち、嗚咽もリビングに響くようになる。発信源はもちろん、千尋だ。感情の噴火。こんなことになるのは、2回目。一回目は鬱のトリガーのとき、それ以来だ。

母親気取りの真澄が近寄り、背中をさすってくる。千尋の心はなだめられない。号泣の様子に、さすがに父親気取りの良文も寝室から降りてきて、優しい言葉をかけてくる。千尋の心はなだめられない。

この二人のせいだ。より涙と嗚咽が激しくなるのを、千尋は感じた。飯も風呂も面倒になった。

ベットに入った千尋は、スマートフォンを充電した。しばらくして、電源を入れてLINEを開いた。父親の良文と母親の真澄から、大量の連絡が来ていた。全て既読にした。

朝比奈先生に、LINEを送ろう。

今の僕の話を受け入れて、聞いてくれるのは朝比奈先生しか居ない。そう思った。真夜中。朝比奈先生に送るLINEの文章を作成した。作られた文面は、グチャグチャで汚物のようだった。右側の送信ボタンを右親指で、送信した。ゲロを吐き終えたように、気持ちはスッキリして、この日は眠れた。涙で濡れて、パンパンになった目を閉じたのだった。

朝、目が覚めた。時刻は午前11時半だった。充電が放電するほどに溜まりきった100%のスマートフォンを、充電器から引っこ抜いた。弄る。朝比奈先生から返信が返ってきていた。そうだ、深夜にLINEを送りつけていたんだ。文面を見返すと、深夜テンションの乗りかかった病んだ文章。こんなものを朝から見せられた朝比奈先生のことを思うと、深夜の自分を殺したくなる。千尋は馬鹿野郎と自分を攻撃した。

さんざん自分を罵った後、朝比奈先生の救済の文章を見た。涙が出た。昨日のでた涙と成分から違うのではないかと疑うほど温かいものだった。まあ成分は同じだが…。本当に優しい人だったなあ。千尋は思い出に、浸かる。そんな朝比奈先生に、負担をかけて申し訳ないなと、しみじみ思う。同時に朝比奈先生に会いたいとも思った…。


 朝比奈先生は高校の先生だった。千尋が3年生の時に、新米教師として来たのだった。千尋は、その先生の授業を受けていなかったので、一学期は会話を交わしたことが無かった。挨拶ぐらいはしたことはあっただろうが、正直、全く記憶になかった…。朝比奈先生と始めて話したときのことを千尋は今でも鮮明に覚えている。

夏休み。千尋は陸上部の集大成で、部活動にエネルギーを集中していた。特に千尋が高校3年の夏は各地で猛暑と言われ、暑さに慣れることが、夏の大会を制するうえで必須だった。という訳で受験生ではあるが、千尋は勉強のほうは放ったらかしだった。

夏の勉強会の存在を知ったのは、村上からのLINEだった。

千尋!久しぶり!勉強会こいよ、進学組は必須だぜ

絵文字は一つもないシンプルでスタイリッシュな文面に、千尋は村上らしさを感じた。いや、そんなことを言っている場合ではない。千尋は正気を取り戻す。そして夏の勉強会について、村上に質問の文章を作成した。3年生は、企業に入る就職組と4年生大学入学の進学組に分かれる。千尋と村上は、4年生大学進学を目指す進学組だった。部活動に夢中で、勉強のことが頭からすっぽ抜けていた。やばい。持ち物や、次の勉強会の日付を聞いて、カレンダーにメモっておいた。

当日。千尋は夏休み期間で、始めて学校へ行った。夏の勉強会の教室は、千尋たちのクラスルームで行われた。千尋は普段の席へ座り、授業が始まるのを待った。その間に村上が来て、簡単な挨拶を交わし、千尋の隣の席へ腰をおろした。部活漬けの毎日を送っていて、村上と会う機会が無かったので、久しぶりに話せて嬉しかった。

 教室の横移動式の扉が開き、教師が入ってきた。それが、朝比奈先生だった。大学を卒業して一年目に赴任された先生で、年は23歳だった。特徴としては、小柄で、つぶらな瞳、サラ艶のいいロングヘアー、丸顔で、小動物のようだった。千尋は朝比奈先生の元へ近づいて行った。千尋は、部活動が忙しくて夏の勉強会に来れなかったと言った。朝比奈先生は、ああ、そういう理由だったのね、と納得した。そして授業ようの持ち物から、一冊の冊子を取り出して、千尋に渡した。「これ夏の勉強会のテキスト。これを使って授業を進めるよ。」「あ、なるほど、ありがとうございます」「お金は670円だから、また次来たときにちょうだいね」「はい」返事と軽く会釈をして、千尋は席へ戻った。なんて優しい人なのだろう。そしてなんて可愛いい声なんだろう。今まで聞いてきた人の声の中で、軍を抜いて、可愛かった。人間の出せる音とは、到底思えなかった。天空から降りて来た天使の音色か森の妖精の口笛、どちらだろうと思った。

 授業が始まった。朝比奈先生は、それでは小テストをします、と言った。小テストは全部で20点満点だった。10点を下回ると、罰ゲームがあった。小テストがあることを知らない千尋は、もちろん解らなかった。脳を部活動にシフトチェンジしていて、英語の単語を見るだけで驚くといった具合にまでになってしまっていた。朝比奈先生は小テスト中に千尋のところへやってきて、「急に小テストなんて、ごめんね」と言ってくれた。千尋は「大丈夫です」と少しでも好印象を受け取ってもらえるよう一番の笑顔を使っていた。解答用紙は、白紙に近い状態だった。

丸付けをすれば、千尋の解答は5点だった。罰ゲームを回避するには到底点数が足りていなかった。基礎問題ばかりの小テストだったらしい。不合格は、千尋だけだった。状況を受け入れるのに少し時間がかかったが、なんとかなった。罰を受ければいい、その結論に達した。「あの人、不合格だったんだ」という無言の声のほうが、罰ゲームだった。恥ずかしい。朝比奈先生も優しいので、微妙な顔をして、「ごめんね、黒板消してね、ほんとごめん」といった。余計に恥かしくなった。

 授業終わり、罰ゲームの黒板消しをした。こんなに恥をかいたのだ。徹底的に綺麗にしてやろう、そう思って罰ゲームに取り組んだ。まず黒板消しクリーナーで黒板消しを圧倒的に綺麗にした。そして黒板を上から下に向けて、力が均等に入れて、消した。その動作を4回繰り返して半分を消し終えて、残り3回で全て消し終えた。ふう、完璧。恥を全て、黒板に込めた。この気持ちがこもっているのか、黒板はとてもきれいだった。満足感に酔いしれていると、朝比奈先生が「几帳面だね」と2人しかいない教室で言ってくれた。千尋は有頂天になった。「…ありがとうございます」照れながら、答えた。

「今日は始めての夏の勉強会だったのに、ごめんね」

「いやいや、大丈夫ですよ」

「でもほんときれい。これまできれいにして」これとは黒板消しクリーナーのことだ。

「あ、これってなんて名前だったっけ?」黒板消しクリーナーのことを指さし、朝比奈先生は聞いてくれた。その時、千尋も名称が出てこないなんて「んーなんでしたっけ?」という感じで、お互いに悩み、悩めば悩むほど『黒板消しクリーナー』という名称は奥に奥に、沈んでいった。名称が出てこない2人は笑いあった。朝比奈先生に几帳面と言われた千尋は、嬉しすぎて、将来は清掃の仕事をしようと本気で考えた。

という初対面で、千尋は朝比奈先生に惹かれていくようになった。廊下ですれ違えば、必ず挨拶をした。挨拶を返して貰えるだけで、その日は幸せだった。挨拶を2、3回繰り返すと、一言、話すようになった。千尋から積極的に質問した。朝比奈先生のことを知りたかった。質問の内容は、前夜の風呂で練りに練った。あーでもない、こうでもないと悩み、どうすればよりパーソナルな話題を聞けるのか、考えた。こんな経験は、初めてで、本当の初恋だっただろうと、21歳の千尋が振り返っても思う。振り返ると幼稚園のことも思い出されるけど、あれはハテナだ。

 幼稚園の断片的な鮮明に覚えている記憶の一つ。千尋は鼠と言われ、からかわれるようになった。幼稚園児の千尋は母親の真澄に愛されて育った。真澄は千尋にキスしてくれた。好きな人にはキス、という外国人と同じ価値観を持つ当時の千尋は、ある日クラスの子にキスをした。キスをチュウと言い換えるとこの話がわかりやすくなる。女の子にチュウした千尋は、チュウチュウとからかわれ、そこから鼠に変化した。前歯だけ大人の歯になってた千尋の見た目からぴったりなあだ名だった。

このときが初恋だとすると、高校でのことは初恋ではないなと思うが、大してどうでもいい。とりあえず、千尋は幼稚園では鼠と呼ばれ、高校では朝比奈先生に片想いをしていた。

千尋の卒業がだんだんと迫ってくる。時というのは、あっという間に過ぎていたりするので、不思議だ。卒業を記念して、旅行へ行くことになり、千尋は誘って貰った。千尋、村上、西郷の3人で博多を一泊二日した。とても楽しかった。西郷は、クラスの顔とも言える中心人物であった。全体的に濃い顔づくり、堂々とした雰囲気、正義感と責任感の強さを兼ね備えていた。クラス内で、色々なグループで卒業旅行の話題が出て、千尋は誰も誘ってくれないだろうな、と彼の現実を卑下していた。するとクラス1の陽キャラの西郷が村上と千尋を選んだのだ。村上は、クラスの中心メンバーを裏で糸を引いて操っているタイプだったので納得出来るものの、千尋は内向的で村上以外とつるんでいなかったので、驚いた。(この頃には、京子ちゃんとは疎遠になっていた…。)声を掛けてもらった次の日に、3人でチェーン店のマクドナルドで集合した。千尋は張り切っていたので一番のりで、西郷は時間丁度に来た。村上は堂々と10分遅刻した。一切謝る気を見せず、自分に対する自信を、千尋と西郷は面白がって笑った。取りあえず、何か注文しようということになって、レジへ向かった。千尋はビックマック、村上はスパチキ、西郷はダブルチーズバーガーを注文した。飲み物は全員、コカ・コーラだった。ソファーのある店内でも上位の席を牛耳って、旅行の計画を立てた。西郷が、仕切り、話し合いが進んだ。どんどん2人で計画が出来上がっていく。千尋は置いていかれている、という気持ちになった。そこで積極的に手をあげて、ホテルの予約をさせてもらえるよう、頼んだ。存在価値を示すかのように。2人は承諾した。千尋は、村上と西郷の役に立てて、本当に嬉しかった。

前日の夜。千尋は、楽しみで中々寝つけなかった。

待ちに待った、当日。

集合場所は、都会の夜行バスに乗るために、そこまで移動するバスのある一番近いアウトレットパークだった。千尋はウキウキする気持ちを抱えて、電車を利用して、アウトレットパークへ向かった。

アウトレットパークに、千尋は着いた。家族で来る習慣も、一緒に来るような友達や彼女も居なかった千尋は、始めての体験だった。目がキラキラと光る。格好良いお店が、ズラリと並び、マップを見て確認する。直ぐに、忘れる。色んなお店を探索する。一人だ。気持ちが高揚して、集合の20分前に着いてしまった。でも待ってて、退屈という訳でない。単純に、楽しい。外の世界は広くて、高校生の千尋にとって新鮮だった。夢中になっていると、西郷と村上の到着を報せるLINEが、7分前に来ていたのに、気付けなかった。直ぐ二人のところへ向かうと、即座に返信し、二人との約束の店に行った。約束のお店は、リーバイスだ。ジーンズのお店で、上に着るTシャツやポロシャツなども、ジーンズに合うものを置いているらしい。村上が、リーバイスが大好きということから、集合場所になった。村上は海外サッカーをよく見ていて、リヴァプールというチームを応援している。そのスポンサーでリーバイスが在り、好むようになったというわけだ。

リーバイスへ、千尋は辿りついた。ぶらついている時間が長かったので、道に迷うことはなかった。

入店すると、目の前に村上が、居た。

バチリ、と目が合う。千尋は顔を綻ばし、村上は右手を軽く空に掲げた。会合。村上の後ろには、西郷がいて、よう!と声を掛けてくれた。

集った3人は、取り敢えず、ショッピングを愉しんだ。西郷は豪快に紙幣を使い、村上は今日は買うの辞めておくと判断した。千尋は値段が安めのT−シャツを買った。2人は、Tーシャツのデザインを褒めてくれて、千尋は嬉しかった。

アウトレットモール内のフードコートエリアで、昼食を済ました。千尋は親子丼、村上はうな重、西郷はラーメンを食べていた。これから博多で、さんざんラーメンを食べることになるのに、だ。西郷は根っからのラーメン大好き人間だった。生涯で、何杯のラーメンを食べるのだろう。1番美味しいラーメンは何なのだろう。死ぬ前に、猛烈に聞きたい。

腹も満ち、いざ出発。3人ともに準備満タン。バスを利用して、京都へ行く。自分たちだけで、予約したチケット。村上も西郷もなんともなさそうにバス員にわたしていたが、千尋は1人感激していた。なぜ感激したか、それは首輪を意識していたからだ。今は自由だ。

京都に無事着き、夜行バスに乗り換えて、博多へ向かう。夜中を四角い箱の中に入り、ごとごと走る。西郷は、いびきを立てて、寝た。どの環境でも、ぐっすり眠れる。それが彼の強みだろう。

「千尋、起きてる?」

カーテンの向こうから、周囲に配慮した小さな声で、村上は訊ねてきた。村上も寝れないみたいだ。

「うん、起きてるよ」

返事をする。千尋が通路側で、村上が窓際の席だ。

「俺のさ、過去の話聞いてくれない?」

「え、勿論いいよ」

こんなことを言い出す村上は珍しい、と千尋はおもった。いつも堂々と村上でいる村上は、眠れない夜行バスという環境で、少しセンチメンタルになっているのかも知れない。

「俺は、小学校1年生から高校三年生の今まで、サッカーをしてたわけね」

うんうん、と首を縦に振る。

「俺は、体は小さかったし、足も遅くてさ、小学校と中学校で試合に出たことがなかったんだよ。それがね、ほんと悔しくてさ、毎日校庭でボールを蹴ってたね。俺には才能がないから、努力しかない。そう思って努力してたけど、現状が改善せんくて、一回も出ることはなかったんよ。」

千尋は、自分もサッカーをしていた経験から必死に、その時の村上少年の心情を推測する。子どもの時期というのは、今いる環境が世界の全てだと思っている。気付かぬうちに。村上少年は、試合に出られない自分のことをどう思っていたのだろう。きっと途方に暮れるような無力感や自分自身の才能を呪い狂ったのだろう。繊細なワンシーンが村上の口から発せられるたびに、千尋の胸は苦しめられた。その状況化で努力を続けられた村上とは生きてきた次元が違うと感じた。

千尋と村上の通っている高校は、スポーツに力を入れた所で、礼儀や挨拶には厳しく、西郷も含めて、基礎から叩き込まれた。村上は、そのような環境に自分を置きたかった、という。

今、通っている高校への入学は、両親にとても反対されたのだという。サッカーの才能は、あなたには無いのだから、少しでも勉強に集中出来る環境に身を置けば?といった具合に。これが今の村上をつくったと思うのだが、村上は反発に反発を重ねた。両親も何度も考え直すように村上に催促したのだが、そのうち村上の熱に押されて、承諾するようになったそうだ。村上は村上を貫いた。しかし祖父だけは村上が試合に出れない中、校庭で毎日、練習するところを見ていたので、始めから応援していたそうだ。村上は祖父に背中を推されていたと語る。

千尋と同じ高校に、入学を果たした村上。ここでも挫折を味わう。高校一年で村上の熱量で、成長を果たし、AチームとBチーム、どちらの試合に出るようになった。ハードスケジュールの中、村上は自分の感性を鍛えた。運動能力や身体能力で通用しないということを嫌ほど感じていた村上にもとてつもない才能に気付く事になった。

村上の才能。それは目だった。味方の力量を測れる目、自分自身を俯瞰で見渡しどこにスペースがあるかを見る目、相手の戦術すらも見透かすような目。それが垣間見えるように、なったのが高校一年だった。ようやく、自分の可能性を信じられそうになれそうになった、村上。夏の大会のユニホーム渡しの時期になった。村上も一年ながら、ユニホームを受け取ると周囲には、言われていた。

実際は、違った。

ギリギリのところで、村上はユニホームを掴みそこねた。理由は、戦術との少し合わなかった。チームがしたいサッカーはカウンターで、がっちり守備を固めて、エースに託し、一瞬のスキから点を取るというものだった。村上プレースタイルは、ボールを大切に回すといった戦術に合った選手だったので、そこで外れた訳だ。

ユニホームを貰えなっかった村上は、とても悔しかったという。ようやく自分の、長所的な部分が現れたと思ったらこれだ、と少し良くない思考になっていた。気分が落ち着かず、とりあえずトイレへ行く。小便器に向かい合うと、隣には村上と同じくユニホームから外れた選手がいた。泣き出した。彼は、三年生でこれが最後のチャンスだったのだ。そんな先輩の姿を見れば、村上の中でせき止めていたものが、崩れた。村上も泣いたのだ。2人で、号泣した。先輩は「お前には、これからがあるんだから、頑張れよ」「はい」自分がユニホームから外れても、後輩へ、という器の大きさというのを村上は感じた。

そんな状況で、努力を重ねた村上を監督は、見逃さなかった。

2年になった村上。エースが抜け、目指すサッカーが、変わった。村上が活きるパス回しのサッカーとなり、スタメンをはるようになった。小学校の頃から、目指していたスタメンにようやくなれた。村上は才能を存分に活かして、チームに貢献。

その年、高校は過去最高の成績を叩き出し、テレビ中継されるような世代に化けたのだ。千尋は、その時の、村上の勇姿に心打たれた。そして今のエピソードを聞くと、とても格好良く、尊敬の意を抱いた。

村上の母親は、泣きながらその試合を応援していたみたいだ。試合の出れない村上にどんな思いで、毎日お弁当を作っていたのだろう。試合に出られないという厳しい現実に変わってあげることは、できず、息子の悲しむ姿にどれほど心に傷を追ってきたのだろう。母親の涙は、歴史の感じるものであった。

「そして俺が3年のときは、すぐに負けてしまったが、2年のときに学校最高の成績を塗り変えることが出来たんだよ。そりゃ上には上がいてさ、俺らよりすごい結果を出している奴等なんてごろごろ居るけど、俺は試合に出て結果を残せて良かったと思っている。やってきたことは無駄じゃなかったんだ、そう思えるわけ。この十年以上のサッカー人生が俺の基盤となって、これからも支えてくれる気がするんだよね」

「なるほどね」千尋は感無量で、言葉が出てこない。

「だから俺は俺に自信があるわけ。」

凄いと思った。自分はどうなんだろうと思った。何か基盤となるような経験はしてきたのだろうか?

自分には、何も無い。親・先生の言うことを、素直に聞くだけで、自分の意志みたいなものがない。そこまで深く考えることなく、眠りにつく。

今からおもえば、この先に直面する問題の陰は潜んでいたのだ……。

そのことはさて置き、寝ている間にバスは進み、博多に到着したみたいだ。

バスを降りる、千尋、西郷、村上。早朝に着いたので、どの店もやっていない。各自スマートフォンを取り出して、予定を立てる。村上が早朝にやっている銭湯を見つけ、一同一致でそこへ行こうという意見で、話しはまとまった。

朝の銭湯は、気持ちが良かった。夜行バスで来た人をターゲットにしているのだろう。バス停から、すぐのところにあった。風呂の中で、3人で色々な話をした。これからの旅行のこと、学生生活のこと、未来から来る将来のこと、千尋は3人で話す時間が楽しいと感じていた。

朝風呂を上がり、飲みのもを飲む3人。千尋はコーヒー牛乳、村上はフルーツ牛乳、西郷はコカ・コーラを選択した。千尋は風呂屋のコーヒー牛乳が大好きだった。瓶。それが大好きな要因の一つだ。飲み口の瓶のツルツル感から流れてくるコーヒー牛乳のなんとも言えない優しい味わい。お風呂あがりに飲むと極上の心地に成れると、信じて疑っていなかった。

銭湯を出て、出発する。村上が、太宰府天満宮へ行きたいといったので、そこへ向かう。電車などの交通手段を駆使し、到着する。人は多かったが、神聖なる雰囲気を味わえた。見世物として猿がいて、可愛いいと思い写真を撮った。いい感じに撮影できた。

昼食は、西郷の大好きなラーメンを食べようということになった。博多といえば豚骨ラーメン。と選択は単純明解だった。3人でカウンター席に並び、ラーメンを食す。この瞬間はラーメンと向き合い、自然と無口になる。ズズズ、と勢いよく啜る音だけが聞こえる。食べ終わり、店員さんにご馳走さまを伝え、店を後にする。

「美味しかったね」と千尋が言う。

頷く二人。そして西郷が

「もう一軒行くぞ」と言い出した。

千尋が慌てていると、村上が

「西郷が言うなら、とことん付き合うぜ」と言い出し、歩みだしたのだった。

ズズズ。千尋はお腹いっぱいであった。結局この日は、西郷に付き合わされて、ラーメンを三杯食べたのだった……。

宿に向かう。時間はいつの間にか、そんな時間帯になっていた。宿の予約をかって出た千尋が、3名ですといい、事務的なお話を聞いた。宿の人は、千尋たちを大学生か何か勘違いしたのか、ハイボールは無料ですよと説明した。千尋、村上、西郷の3人は、顔を見合わせにんまり笑った。

飲んだ。未成年飲酒というスリルを味わいながら。ハイボールを紙コップで、飲みまくった。ベロベロに酔っ払った。村上は、周囲の部屋を気遣うぐらいの声の大きさで、全力歌った。村上の好きな歌手のMr.Childrenだった。表情に気持ちが乗り移っていた。千尋は、爆笑した。この世にこれ以上楽しいことはないといったような笑い声だった。村上は歌い飲みを繰り返して、吐き気を催したらしく、トイレへ行った。すると今度は、西郷が歌った。なにの曲か、判らなかった。村上がトイレから「西郷うるさいぞ、周りに迷惑やぞ」といった。どれだけ酔っても、周りが見えていた。

「すまーん」

と言って、村上の居るトイレに行くと、村上は寝ていた。千尋と西郷は、手を叩いて笑い合った。千尋トイレで眠る村上の姿を写真に取り、思い出の一枚となった。

 いつも間にか、千尋も西郷も寝ていて、起きたときには11時半だった。千尋は、少し頭痛がした。気持ち悪い。皆、同じぐらいの時間帯に起きた。そしてとりあえず、宿を出た。家ではないから、ずっとは居られない。

博多に二日酔いの状態で放り出された3人は、スターバックスに入った。理由は近くにあった、それだけだ。

「二日酔いえぐいわ」

西郷が言って、千尋と村上は同意を示した。それなーっと。3人で笑い合った。

ゆったりしたソファーに腰をおろし、糸こんにゃくのように体をふにゃふにゃにさせた。

「村上!ウイイレやろーぜ」

西郷が言った。ウイイレとは、ウイニングイレブンの略で、サッカーゲームだ。世界中の選手を自分の指先で、使いこなすことができるゲームだ。三戦行い、村上の3勝で幕を締めた。終始くそう、と欲求不満を口に出し、ゲームに集中する西郷。

「いやーやられた」と敗北を認める西郷。悔しそうではあるが、全力で勝負を挑んで負けたのだからと清々しい表情であった。

千尋は、激闘を切り広げる二人の応援をしていた。

また夜行バスで、帰り、楽しい楽しい卒業旅行は終わったのだった。


千尋は、お土産を買って返った。その中に朝比奈先生の分も用意した。頑張って自分で選んでみた。

高校へ次の機会に行くときに、渡した。朝比奈先生は驚いた顔をしたが、嬉しいと言ってくれた。その後は、少し世間話をしたが、千尋は夢心地で内容なんて覚えていなかった。


卒業式。

ついにこのときがやってきた。泣いている子や泣いていない子がいた。千尋はお世話になった人へは感謝を伝えたいなあ、と考えていた。

クラスの友達には、ありがとうを添えて、写真を撮った。ピースも添えた。

そして朝比奈先生の元へ。

「卒業おめでとう」

かわいい声で言ってくれた。そしてこれ、といい綺麗にプレゼントように包装された物を渡してくれた。ドッキュン。朝比奈先生が言葉を挟む。

「この間ね、友達と台湾に行ってきたんだよ」

「へー!開けてもいいですか?」

「どうぞどうぞ、お返し出来た(笑)」

リボンを丁寧にほどき、中を覗く。中はお菓子だった。色鮮やかなお菓子があったが、今の千尋の目の輝きのほうが鮮やかだった。

「ありがとうございます。」

ドクドク。心の臓器の音が、聴こえる。

「…もし良かったら、連絡先交換しませんか?」

朝比奈先生の表情は、生徒とここまで距離感近づけていいのか?と吟味した顔をして、そして…

「いいよ!」

とOKを出してくれた。自分のQRコードを見せると、スキャンしてもらえた。トーク画面に残るように、スタンプを送信しておく。朝比奈先生のアイコン、背景、LINEミュージックから登録する音楽、全てがオシャレで可愛くて素敵に見えた。LINEを交換してもらえて、本当に嬉しかった。

千尋には、もう一人好きな先生がいた。国語教師の大林先生だ。女性にしては大柄な体型で、歳は50代、良い読書を積み重ねたといったような深い雰囲気を持つ方だった。大林先生はとても寛容で人を落ち着かせる雰囲気を持たれている方だった。ので大林先生の授業を受けている生徒の大半は睡眠学習の状態だった。しかし千尋は、睡眠学習をせずに、自分の意思で起きて授業を聞いていた。単純に、楽しかったからだ。大林先生が教えてくれる、森鴎外の『舞姫』は面白くて、その授業は楽しみに学校へ行くといった具合だった。日本近代文学の作家の文章は難しくて、1人で読めなかったから、大林先生を挟んで森鴎外と会話しているようで、楽しかった。京子ちゃんはこの授業をどのように受けているのだろう?僕よりもっともーっと楽しんでいることなのだろう。席は、離れているので、小さくなった京子ちゃんの横顔を見ながら、そんなことを思った。

大林先生は学年主任をされていて、学年通信の最後のプリントは、千尋は、感銘を受けた。そこには、こう書いていた。

『人間は言葉によって思考する』

勿論これだけが書かれていた訳ではない。前半は大林先生の過去で、人生の分岐点になるような事があり、そのことによって大林先生の哲学が形成されることになったとあった。しかし千尋の記憶に残っているのは、このワンフレーズだった。たしかに人間は他の動物に知能が高いのは、言語を司る部分があつからであろう。言語感覚を鍛える、これがこの日本で最強になる1つの方法だと千尋は勝手に思った。

卒業式が終わった後に、大林先生はには感謝を伝えにいった。大林先生は、進路のことでもお世話になったので、千尋の進路を応援していることを伝えてくれ、元気で、と言葉をかけてくれた。言葉の中でも、随分と温かい部類だった。



「山田千尋さま」

心療内科のアナウンスが千尋を指差す。今日は、発達障害の検査結果の日だ。重要な日であるから、良文、真澄の両方が来た。

アナウンスで呼び出された千尋は、いつももように扉の前にたった。

扉は、久保医師によって、開かれた。

「こんにちは、今日はよろしくおねがいします」千尋は、挨拶をした。

「こんにちは、はーい、じゃあここに腰掛けてね」

久保医師の指定した椅子は、あまりにチープなつくりだった。

「失礼します」

両親も久保先生に挨拶をして、千尋の後ろの席に座る。固唾を呑むとは、このことで久保先生から診断される結果に山田一家緊張感が走る。

「山田千尋さんの発達障害検査の判定は否です。ただし1つ1つの試験という観点で測定した場合には否と言えないものが幾つかあります。例えば、間違え探し。間違え探しの点数は相当低いですね。一般人が普通に見つけられるものが千尋さんには見つけられないみたいですね。これだけの分野に集中して言えば、発達障害と言えるでしょう。他にもちらちらそれぐらいのものは、見うけられます。しかし反対に空間把握能力を試す積み木では満点に近い結果を叩き出しています。何か1つとなれば、発達障害と言えるでしょうが、全体で見るとやはり否となるでしょう。」

……。

「あのーではグレーゾーンということになるのでしょうか?」真澄が質問した。

「はいそうですね、そういうことになります。」淡々とした口調で、答えた。

良文が口を開く。

「こんなテストみたいなのがあるのですね。科学的な証拠から導き出せる占いみたいな感じですよね。息子にもこれをきっかけに自分という存在について理解を深めてもらいたいです。」前半部分で自分の理解力や分析力を見せつけ、後半部分でいい父親みたいなのを見せつけている、ある種ナルシストなセリフに聞こえた。千尋のことを想うのではなく、自分が認められたいというエゴの固まり。こういったところも良文の気持ち悪いところだ。今日も、存分に発揮されている。

「そうですね」

久保医師は紳士的な対応で、軽く流す。父親の良文は、嬉しそうな顔をした。年齢はそれほど変わらないのに、これではまるで大人と子どもだ。人間としての器というか生き様というか人間性というか、まあなにはともあれ格が違った。

「千尋さん!」

久保先生が千尋の方を見た。普段久保医師はパソコンに向かって、患者の方を見ない。そこまで入り込むと心療内科の医者はやることができないのだろう。しかし今回は、違った。今回で言うことは最後ということだろう。そう直感した。

「千尋さんグレーゾーンというぐらいの人なんてこの世にいっぱいいます。工夫次第でなんとでもなります。そんなに悲観する必要はありません。頑張ってください」

セリフ的にも口調的にも、もう呆れたということだろうか?しかしこちらを向いたということは気付いてくれということか?わからないが、言葉を必死の思い出で頭に入れ込む。

工夫次第?みんなが見えるものが見えないのに、どうするというのだろう。がんばってください?何をどう頑張ればいいのだろう?

診査が終わった。山田一家一同、久保医師にお辞儀を行う。久保医師も軽く会釈して、審査室の扉を開いた。出ろ!というメッセージを感じた。久保医師もにもらった資料を、受付に渡す。

「おかけになってお待ち下さい。」とあの技術的笑顔の張り付いた顔で言う心療内科の受付人間。

大人しく従うことにする。

「山田千尋さま」と呼ばれる時刻は必ずやってくる、やってこないのならば、病院失格。

座席から立ち上がり、受付に向かう。背後にぺたりと張り付いた、真澄。まるで切手のようだ。不自由。

「お会計は〜円になります」相手を刺激しないような言い方の心療内科の受付のおばさん。

真澄は代金を払い終える。

千尋はありがとうございましたという意味を込めて、会釈して、自動ドアの方へ向かった。

「お大事にしてください」と背中に投げかけられた言葉に、何故か疑問を抱いてしまった。

家の車のボクシーに乗り込む。ボクシーは小学校のときから、乗っているので、ずいぶん愛着があった。が、臭い。千尋は、どうしても車の匂いが好きになれなかった。車の匂いとアボカドが、千尋の苦手2大巨頭だった。あと体育の跳び箱の閉脚跳び。どうしてもあれだけは怖くて、足がすくんだ。

千尋は後部座席に座り、真澄は助手席、良文がアクセルを踏みながらハンドルを握り、車が出発する。

真澄と良文が何やら話をしている。おそらく発達障害グレーゾーンだったことについてだ。

千尋は耳を傾けずに、ドアから見える街を見ていた。街。高校時代は、電車通学で片道約1時間かけて通っていた千尋だったが、それまではこの街で日々を送っていた。見覚えがある店、見覚えのある道、見覚えのある風景。両親の会話が、耳にストンと入ってくる。真澄だ。

「千尋が、そんな性質を持っているだなんて…今までぜんぜん気が付かなかったわ…」

「そう悲観することもないんじゃないか?久保医師も行っていた通り、工夫次第でなんとかなる場面もあるだろうし、大丈夫だろう。」良文は自分の分析力を認めてもらい、完全に先生の言いなりになっている。または、息子の事を考えるのが、面倒くさい。

「…そんな、…でも」オロオロして、落ち着きのない真澄。

そんな真澄に対して腹を立てて、良文は畳みかける。

「発達障害と認定されたわけじゃないんだ!グレーゾーンなんていっぱいいるだろ?みんな別に、普通に生きてるだろ!何だよ、それぐらいだったら俺にもあるだろ!」

……。

しんどい想いをしている息子に対して、あんまりだぜ、親父。

……。

なんとか無事、家に着いた。

来ていた服を全て、脱いだ。長袖、少し汗のついたシャツ、ジーパン。丸めて、カメカメ波のように、放り込んだ。そして、陸上部時代に来ていたランニングウエアを被るように来て、布団に潜り込んだ。睡眠。今日は、疲れた。普段引きこもっている千尋からしたら、外に出るだけでも、相当な体力を消耗する。外へ出て、病院へ行って、難しい話を聞いて、そして家族の反応を感じた千尋の脳はキャパシティーをとうにこえ、疲弊に疲弊しきっていた。どんどん沼に沈んでゆくように、眠りについた。寝た時刻は、午後3時半だった。

勿論、昼間に寝たので、目が覚めたのは、夜中の一時だった。喉が乾いたので、リビングへ向かった。お気に入りのキティーちゃんのプラスチックのカップを取り出して、ヤカンの麦茶を注いだ。キティーちゃんは長いこと使用しているので、プリントされたキティーちゃんの顔は剥がれかけて、ペラペラしていた。持ちでを優しく持ち、そしてなんとなく両手で包み、口へ運んだ。一口含み、飲み慣れた濃さの麦茶を味わう。ごくん。タッチっぱなしだったので、リビングのカーペットに体育座りをする。さっき自分で入れた麦茶を飲みながら、千尋は時計を見た。時刻は1時13分56秒。秒針が毎秒、規則正しく進む。コチコチと。その姿を見続ける、千尋。そんな千尋の精神は病んでいる。千尋自身で、制御死きれないほどの、病み。または闇。世界が永遠に真夜中で、みんな眠っていればいい、と思った。テレビをリモコンを駆使して、電源を入れる。家族でアマゾンプライムに入っているので、何かいいみたいのかないか、ザッピングする。千尋の指が止まる。視線の先には、松本人志さんの『ドキュメンタル』があった。以前仲良くしてもらった先輩の小田さんに勧めてもらっていた。千尋は観ますと返事を返していたのだが、観ることを完全に忘れていた。そして、このタイミングで見つけたのだ。リモコンの真ん中に位置する決定ボタンを選択して、『ドキュメンタル』を観てみる。お笑い界の頂点とも言ってもいい存在、ダウンダウンの松本人志さんが主催という立場で、参加者は各々100万円を持ち、集合。笑えば脱落し、最期まで残った人が集まったお金を貰える。それが『ドキュメンタル』だ。面白くてて、一気に全部観て、笑った。お笑い芸人さんの積み上げてきたユーモアからでるセンスしか感じない一言。それすらも普通だと言わんばかりのレベルの高い防御。その中で、抜きん出た人間性を存分に活かした唯一無二のダイナマイトみたいな爆発的な笑い。見ている瞬間は、最高に楽しかった。千尋の記憶に残ったのは、かまたちの山内さんのボケだ。山内さんは、集められた人たちの中で、1番後輩という立場だった。そんな中で、「ちょっとしたいことがあります」と言い出した。先輩方全員が、山内さんの方へ注目して、その中の何人かが「おお!どうした?山内」と場を惹きつける声でいった。

「僕、実は本格的なマッサージできるんで、誰か試してみませんか?」

「じゃあ、陣内やってもらえやー」とクレバーな笑いを展開するジュニアさんが切り出した。

「いやー俺!まあ、じゃあ頼むは山内」嫌な予感を感じつつも場ののりに合わせる陣内さん。この辺は、もう神々の遊びの次元まで、到達していると思う。

「はい!分かりました!一生懸命頑張ります!」真面目なのがもはやフリに感じる。陣内さんも感じ取ったのか

「ああ、頼むわな」とシンプルなフレーズを選んだ。『笑いとは緊張と緩和』主催者である、松本人志さんのセリフだ。このように自然と、緊張感を創るのだろう。

机に、うつ伏せになった陣内さんにマッサージを始める山内さん。足を揉む。今のところ大した変化がなく、戸惑いをみせる陣内さん。次の瞬間。陣内さんが苦悶な表情をして、叫んだ。なんと山内さんは、陣内さんの足に齧り付いたのだ。その時の山内さんの表情。眼光は大きく見開き、口は真一文、真顔。どうかされました?といったようだ、あんなことをしておいて。いかれている、最高に面白い。山内さんは、1流の先輩お笑い芸人から笑いをもぎ取ったのだった。松本さんも「山内、いいね!」と、山内さんの笑いのスタイルを認めたのだった。

そんな楽しい時間も終わりが来る。優勝は野性爆弾のくっきーさんだった。独特なお笑いの世界観を持っている方で、今回の『ドキュメンタル』で、圧倒的な存在感を示した。優勝賞金が寄付され、参加したお笑い芸人さんが拍手をしていた。優勝者の野性爆弾のクッキーには勿論だが、闘い抜いた戦友のような周りの芸人さんにも送っているように思えてならなかった。

プツリ。アマゾンプライムの『ドキュメンタル』の残り映像時間が、0分0秒となり、派手で華やかな液晶が黒く染まる。突然の黒。届きそうな希望の糸が、プツリと切られる感じだ。ふと壁に取り付けられた時計を見ると、時刻は早朝、4時半頃だった。カーテンをスライドさせて、外を見てみると、ぼんやりと明るくなってきていた。あーあ。5時半には、真澄が起きだしてくる。大成と良文のお弁当を作るためだ。猶予は1時間近くしかないが、別にしたいことなんて、なにもない。怠惰、憂鬱。冷凍庫を開けて、アイスクリームを食べる。持ち手の部分がコーンになっているチョコレートアイスだ。上手いかどうかいまいち分かっていないが、とりあえず胃に入れる。さすがに冷たいという温度ぐらいは分かる。怠惰的に食う。2個目の袋を開封する。食うのも面倒くさいが、食わないのも面倒くさい。2つもアイスクリームを食べた千尋。今の千尋は1日1食、食べるのがやっとな胃に成っているので、急にそれだけを摂取したとなると満腹中枢がもう十分と言っている。つまり、お腹いっぱい。普通満腹になれば幸福を感じるはずだが、千尋は逆。こんな自分が満腹になるなんて…と罪悪感すら、覚える。そろそろ、真澄が、リビングに降りて来るかもしれない。「おはよう、寝なかったの?」と声をかけてくるのが、見え見え。それが嫌すぎるので、寝ることにする。嵐に備えて、非常食を蓄えて、家から出ないように。布団に入り、部屋の電気を消した。





上編です!後編は本でw

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