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継ぐ者  作者: 犬神弥太郎
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それぞれの犠牲

 

 

 聖鎧は何故、聖鎧と呼ばれたのか。

 

 単純な理由だ。

 

 王たる者が管理する宝物に、悪しき物があってはならない。

 

 王が忌まわしき物を封印したとしても、さすがと言われはすれど非難はされない。

 

 王の力をもってしても、国としての力をもってさえも封印さえ出来ず、ただ安置し、監視することしか出来ないとすれば話は違う。

 

 だから、話をすり替えた。

 

 忌まわしき力の姿は全てを滅し、死を招く。

 

 忌まわしき者すらも統べる我らが王。

 

 人は伝承を伝える中でも、教訓を入れたがる。

 

 伝え聞かされることには、意味があると思いたがる。

 

 王に背きし者に、力の制裁有り。と。

 

 そして、力の象徴となったのは聖鎧だ。

 

 忌まわしき血塗られた化物は、いつしか勇者と伝えられた。

 

 人々の死骸で大地が肉片と血で埋め尽くされる中で立ち尽くす者。

 

 死骸となりしは反逆者達。立ち尽くすは勇者。そういう構図だ。

 

 忌まわしきは勇者が屠った者たち、勇者は返り血により穢されつつも正義を行う。

 

 化物が暴れ回り、殺戮の限りを繰り返しただけのことが、後に勇者の伝説となる。

 

 そして、勇者が纏うそれは、聖鎧と呼ばれた。

 

 王の力の象徴として祀られ、だが、真実を知る者達によって北の城に隠された。

 

 伝説はただの伝説。

 

 そう思う者もいるだろう。しかし、殺戮が有った事実は伝えられる。

 

 歴史家は書に残し、吟遊詩人は語り継ぐ。

 

 多少の食い違いはよくあること。

 

 聖鎧の伝説は、王の力の象徴となっている。

 

 そして、王は聖鎧を支配するものとして、崇められた。

 

 王たるものは、王であるゆえに聖鎧を支配できる、と。

 

 だが、誰も聖鎧が義勇を成している姿を見ていない。

 

 伝説ゆえの話は膨らまされ、伝説ゆえ尾鰭が付く。

 

 様々な地域で語り継がれるそれは、王への畏怖と尊敬に変わる。

 

 確かに、王は聖鎧を持つ。

 

 それは、ただ単に保管すべき事を命じたのみ。

 

 北の城へ運ばせ、地下深くの安置所へ運ばせただけ。

 

 当時の王は、聖鎧により人間の世界の全ての反逆を抑えたと伝えられた。

 

 だが実際は、王は聖鎧を持つゆえに、いつ暴走させるかわからないという事で恐れられた。

 

 使えるということではない。

 

 所持していることで恐れられたのだ。

 

 古くから領主を勤め、先代達より聞き及んでいた領主ならば知っている事実。

 

 七日。

 

 聖鎧の適合者は現れた。

 

 そして異形のモノが進軍してくる南へと向かった。

 

 聖鎧の適合者は、まだ意志を保っているらしい。

 

 戦ってくれるだろう。

 

 だが、聖鎧と言えど異形のモノと戦い無事に済むだろうか?

 

 領主たちは半信半疑だ。

 

 王も然り。

 

 聖鎧の適合者に勇者としての命を与え、戦いに向かわせた。

 

 七日のうちに勇者が異形のモノを討滅しきれば、人間世界に再び平和は戻るだろう。

 

 しかし、前回の聖鎧は七日動いたが、今回も同じだろうか。

 

 そして、異形のモノが現れた道はそのままだ。

 

 王は領主たちを集め、進軍を命じた。

 

 それは敵を倒すというものではない。

 

 勇者の後を進み、上手くいけば異形のモノ達を排除出来るだろう。

 

 その後、勇者は消え、聖鎧は残る。

 

 その回収だ。そして、南の地に壁を作る。

 

 異形のモノが入ってこれない様に。

 

 再び、人間世界が脅かされないように。

 

 まだ騎士や兵士は残っている。

 

 聖鎧の適合者になりえなかった、老兵の後に続こうとした者たち。

 

 それらは死を賭して進軍し、異形のモノへの対処にあたるだろう。

 

 王は胸の苦しさを感じる。

 

 命じるだけで何人もの人が命を失っていく。

 

 子供の頃より王としての教育を受け、ただ国を統治して安穏に人生を終わらせるだろうと思っていた。

 

 しかし、この状況だ。

 

 国を動かすのは全て経済だと教わっていた。

 

 戦もしかり。

 

 人は欲があるから物を欲しがる。食欲や睡眠欲、性欲。全ては経済だ。

 

 そして、戦争も領主たちの欲が創りだす経済の形。

 

 領地を増やせば税収はあがり、裕福になる。逆に領地を奪われれば貧困が襲う。

 

 だから領主たちは戦いを繰り返す。全ての戦を禁止すれば、矛先は王へ向かうかもしれない。

 

 過去の王は、それゆえ、領主同士の戦を認めた。

 

 だが、その戦場に聖鎧は現れない。

 

 聖鎧は王が介入した証。

 

 それ故、今まで誰も聖鎧を求めなかった。

 

 そして、今、国の、世界の危機。王として、聖鎧を出さない訳にはいかない。

 

 今回もまた、勇者は伝説になるだろう。

 

 人間が生き残れば、聖鎧によって人間の世界は守られたと伝えられる。

 

 そして、聖鎧を使役した王は尊ばれるだろう。

 

 何人もの騎士や兵士を生け贄にし、なんとか適合者を見つけた。

 

 そしてまた、死地へと兵を向かわせる。

 

 死なせるだけならば、尊敬されるような存在ではない。だが、人は王の命令を待つ。

 

 王たる者として、王は言葉を発しなければならなかった。

 

 勇者に続け。そして、我らが世界を守るのだ、と。

 

 

 

 

 

 少年の受けた傷は、簡単に意識を刈り取った。

 

 傷自体も深くはあるが、致命傷ではない。だが、痛みがひどい。

 

 普段は農業で暮らしている普通の少年。

 

 町に若者が少ないという理由で入った自警団。

 

 戦う相手は、町や近くの畑に入ってきた野生動物や、時に野党や山賊。

 

 野党や山賊を相手にするときは、もちろん大人達が、いや、騎士や兵士達が前線を作ってくれる。

 

 自警団がすることなど、前線をすり抜けた敵を見つけ出し、騎士や兵士に救援を頼むことくらいだ。

 

 実際のところ、まともに人と戦うことなんてない。

 

 だが、訓練は積んでいた。

 

 木の棒で作った模擬刀での対人訓練。

 

 当たれば結構な痛みだが、怪我までは至らない。

 

 自分は痛みなんて大丈夫。

 

 そう思っていたが少年が受けた傷と痛みは、想像を絶していた。

 

 致命傷ではないが、痛みが全身を貫き意識が飛んだ。

 

 不思議な事に、まだ喰われていない。

 

 倒れこんだ時に、油に突っ込んだからだろうか。

 

 体中油まみれ。運良く顔近くが浅くて息は出来ていた。

 

 今まで異形のモノに襲われた者達が見れば不思議な光景だろう。

 

 まだ生きている人間が倒れているのに、異形のモノが歯牙にかけていない。

 

 他の獲物を探しているのか、それとも、少年を見失ったのか、異形のモノ達の動きがまばらだ。

 

 蟻が持つような触覚が周りを探る。

 

 野生動物でさえ、異形のモノを恐れてか、近くには何も居ない。

 

 焚き火の火は、ほとんどすべてがくすぶっている状態。

 

 月の光が僅かに夜の丘陵を照らしているだけだ。

 

 異形のモノ達が闇の中で蠢く。

 

 誰もこの光景の中に身を投じたくはないだろう。

 

 森からは風が起こす葉ずれの音だけ。

 

 焚き火からはたまに燃え尽きた薪が弾ける音がする程度。

 

 静寂だ。

 

 異形のモノが歩きまわっているというのに、足音はしない。

 

 少年は気を失ったまま、しかし、息はしている。

 

 途切れた意識の中でもまだ戦っているのか、息遣いは荒い。

 

 異形のモノが周囲を徘徊し、獲物を探す。

 

 油にまみれた少年は眼中にないらしい。

 

 異形のモノが一匹、何かに気づいた。

 

 闇に包まれた森の方を見るや、爪を構える。

 

 そしてすぐさま動き始める。

 

 獲物を見つけた。そういう動きだ。

 

 しかし、異形のモノがそれ以上進むことはなかった。

 

 いや、正確には下半身だけは数歩進んだ。

 

 上半身はそこに残され、そして、落ちた。

 

 騎士の剣も通じなかった異形のモノが、甲殻ごと切断されていた。

 

 現れたのは一匹の爬虫類。

 

 いや、大きさで言えば人間より少し大きい生き物。

 

 二本の足で立ち、頭もそれほど大きくない。

 

 爬虫類にしては人の形に似すぎている。

 

 そして、その手。

 

 指には鋭いナイフのように爪が光っている。それだけではない。手の甲から伸びるソレは、まるで鎌の様に伸びている。

 

 棘、なのだろうか。それとも、何か別のものだろうか。

 

 だが、それは異形のモノを斬った。

 

 左腕に当たる部分のソレは、異形のモノの体液がこびりついている。

 

 その爬虫類に口は見当たらない。

 

 ただ、異常に残忍に見える目。

 

 目の前に有る生き物全てに死を与える為の生き物。

 

 そんな目をしている。

 

 その姿、誰が見ても思わないだろう。聖鎧だと。

 

 異形のモノでさえ、一瞬戸惑った。

 

 困惑したのだろう、どう動くかを考えたのか、動きが止まった。

 

 聖鎧は、しかし、躊躇も遠慮も無く突進した。

 

 異形のモノ達が人間にしたように、次々に切り裂かれる。

 

 頭を握りつぶされ、胴体を斬られ、踏みにじられる。

 

 違うのは喰われずに、死骸が転がり増えていくだけ。

 

 死骸から流れ出る体液は、油と反応するのか、地面を妙な色に染めていく。

 

 少年が倒れる場所も、妙な色に染まる。

 

 聖鎧もまた、少年には見向きもしなかった。

 

 聖鎧が向かう先は動いてるモノ。

 

 手から、足から伸びる鎌状のソレは、異形のモノを簡単に斬り裂いていく。

 

 その度に迸る異形のモノの体液。そして、散らばる体のかけら。

 

 人間の世界とは思えない、地獄の様相。

 

 異形と異形がぶつかり合い、だが、力の差は歴然。

 

 無秩序に襲い掛かる異形のモノが肉塊と化していく。

 

 聖鎧の移動速度は恐ろしく速い。

 

 地を這う様に移動し、斬撃を繰り出していく。

 

 異形のモノが立ち上がった姿で移動するのに対して、聖鎧の攻撃は敵からは見下ろす形。

 

 つまりは、異形のモノは同族が壁となって聖鎧の姿が認識できない。

 

 仲間が殺されている場所に聖鎧がいる、と感じているのだろう。

 

 そこに向かって牙を、爪を立てるが、しかし、その時既に聖鎧は違う異形のモノを殺している。

 

 聖鎧の動きに、取り込まれた老兵の動きは関係しているのだろうか。

 

 まるで騎乗の兵士に対して戦う剣士の様に、狡猾に、正確に、確実に倒していく。

 

 だがそれも、誰もが疑うだろう。あまりに凄惨な光景に、中身が人間であることに。

 

 老兵の知識はあったとしても、それは野獣のそれであった。

 

 少年に意識があれば、その光景を見れば、聖鎧もまた異形のモノと同じに見えたかもしれない。

 

 それほどまでに恐ろしい光景。

 

 異形のモノの爪は聖鎧のウロコで弾かれ、噛み付こうとした異形のモノは上下の顎を裂かれる。

 

 手足の鎌状のもので斬るだけではない。力任せな攻撃でも異形のモノを圧倒している。しかも、異形のモノの攻撃はまるで効かない。

 

 人間が異形のモノと初めて戦い、感じただろう事を異形のモノが今感じているのかもしれない。

 

 だからだろうか、異形のモノ達はさがりはじめた。

 

 異形のモノ達に言葉があるのかわからない。だが、一斉に後退しはじめていた。

 

 餌場だと思い蹂躙していた場所に、思わぬ敵。

 

 聖鎧は見送りはしない。

 

 たとえ背中を見せて逃げたとしても、全て倒す。全て殺す。

 

 老兵の意志なのか、それとも、それが聖鎧の意志なのか。

 

 南へと逃げ出す異形のモノ達を追って、聖鎧もまた南へと向かった。

 

 残されたのは、油と異形のモノの体液が混じった妙な液体で沼地に沈みかけた少年だけ。

 

 息は、していない。

 

 異形のモノの流した体液が多かったのか、沈んでいる。

 

 口や鼻から流れ込んだもので溺死したのか。

 

 泥の中で沈んだ少年は、事切れていた。

 

 

 

 

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