守護者
意外と早く倒せた。
街道沿いの森を走るレイモンドは、やはり驚異的な速度を保つ。
体中が傷だらけで、あまり速度はだせないが、普通の人よりは速い。
走れはするが、体中のあちこちの骨が折れている。
足の骨が折れているときは、流石に隠れながらの移動だった。だが、もう走れるまでに回復している。
少しずつ治っていくのがわかるが、だが、戦闘時の様にすぐにというわけではない。
内蔵までも破壊されたはずだが、鈍痛はあるが、治っていくのが解る。
やはり、自分は化け物になっているのだと感じ、しかし、守れる力と受け入れる。
きつい戦いだったが、あの一匹だけだったのが救いだとも、考えていた。
何匹も居れば、死んでいたのは自分の方とも思っていた。
だが、それでも、死ぬことになっても、あの二人が逃げる隙は作れただろう。
死を恐れ、死に立ち向かい、そして、自ら死地に向かう。それが、自分に出来る唯一の事。
レイモンドは自分の成長を解っていない。
聖鎧を前にしても怯まず、聖鎧の攻撃さえも凌いだ事を、解っていない。
あの聖鎧の攻撃は壁を砕き、防御は神剣さえも通さない。
それを相手にしてなお、怯まずに立ち向かい、そして、勝利を収めた。
シュリアが最初に説明してくれた言葉が、心の隅にあったかもしれない。
龍鎧。
お伽話にある竜。
その竜は、種類で言えばトカゲだ。甲殻のようなウロコを体中に纏い、火を吐き、氷を吐く。
竜には鱗をめくられると痛みが走り、逆鱗と言われる。
鱗状の物が生えている下は、トカゲの表皮と同じ。
心のどこかに有った「龍鎧」と言う言葉が、竜を連想させ、トカゲな皮膚の部分を攻撃するヒントになっていたかもしれない。
だが、人の命を吸収し、残り全ての寿命を僅かな短時間に使いきってしまう様な聖鎧。
それを相手に、倒すことさえして見せた自分の成長。
人が成長したからと言って、出来ることではない。
遥かに人を越えて、そして、何からの攻撃も通さず、そして、その攻撃は何者をも防げない。
それを倒すことは、人間に出来ていいはずがない。
レイモンドはその成長を、進化をわかっておらず、二つの事しか頭にない。
ファリスが無事にいるか、そして、自分のことがルナにバレた事。
人違いと言って逃げてきたが、納得してもらえたとは思えていない。
住んでる村や、父の名前も告げてしまった相手に、正体がバレたという焦燥感は、レイモンドにとっては村に居られなくなるかもしれないという可能性を告げている。
勇者というのは、戦いの時だけ重宝される。
戦いのない平時では、ただ力を持つだけの危険な存在となるだろう。
一時は勇者ともてはやされたとしても、その後に、暴君ともなれば討伐の対象だ。
勇者は平時には、人間にとって最大の敵となる。
常に狙われる存在となれば、家族と離れ、一人で常に誰かに狙われる暮らしをしなければならない。
もし身を隠したとしても、人は狡猾だ。レイモンドの身の回りの人を巻き込んでしまうだろう。
人質なり、殺されるなりして、レイモンドをおびき出す手段に使われる。
そうならないようにするには、常に自分が居ることを目立たせ、自分だけを狙わせなければならない。
ファリスの存在が表沙汰になっていない事が、少しだけ気を楽にした。
彼女は戦う力を持たない。ただ、知る力なだけだ。
誰かに知られれば、利用されるだろう。
元々居たケイルアムの村でなら、家族を守る目や耳として自分に自信がもてたはず。しかし、その村がなくなっているならば、自分の村に連れ帰ってシュリアとともに守らなければ、ただ、使い棄てられる。
誰かがひどい目に会うことも、レイモンドには我慢が出来ない。
街道沿いの森を走りながら、ファリスの元へと急ぐ。
自分が移動する音を聞き、ファリスが動き始めているかもしれないと思うと、少し不安になる。
他の音を聞き漏らしていなければいいが、と。
馬で追ってきたとしても、追いつくまでには時間がかかるだろう。だが、村に戻ると推測すれば、ルナたちは街道をラースニアに向かう。そうすれば、ファリスと合流した後に捕まる可能性がある。
合流後には、街道を外れて進まなければならない。
それか、ファリスと合流せずに行くか。
自分だけが狙われるなら、それでいい。
ファリスに無事と知らせて、その後、別れる。
レイモンドの意志は、そういう方向に傾いていた。
王都とラースを結ぶ街道。
その街道は、実際にはまだレイモンドは調べていない。
異形のモノが潜んでいる可能性。
しかし、ファリスにの耳ならば異形のモノの動きを聞くだろう。そして、距離を取る。
出くわすことはない。
出くわすことはないが、危険がつきまとうことには変わりはない。
居れば倒す。
王都の者に正体を知られ、手配されたとしても、それは変わらない。
化け物であることを受け入れた自分は、しかし、まだ人間の心があるはず。
だから、人の心を持つモノとして、人を守る。
自分でさえ、自分を「者」では無く「モノ」と考え始めている。
たとえ一人になったとしても、他に自分の様なモノは居ない。
だから、一人になるんじゃない。元々が一人なんだ。
自虐なのか、それとも、自分を納得させるためになのか、レイモンドは自分の心が軋むのを無視する。
満身創痍でありながらも、まだ人を守る事を、レイモンドは考えていた。
遠くから、人のざわめく気配。僅かに感じていたが、しかし、それは同じ場所で続いている。
異形のモノか、野党か、それとも、検問などで人がたまっているのか。
すでにファリスと別れた位置は過ぎ、逃げたにしろ、先に進んだにしろ、ファリスを探すために速度を落とす。しかし、街道には出ずに森のなかを行く。
検問で目をつけられた後で身を隠していたら、目立ちすぎる。
木々に隠れながら、ざわめく気配を確認する。
異形のモノの気配はない。だが、ニアスの時の蜘蛛の例もある。
レイモンドの感知できない異形のモノが居てもおかしくはない。
ざわめきがある分、ある程度人から見られているのだろう。
一体何があるのかと木の影から見ると、そこには、検問の様な、だが、何となく違う物が設置されていた。
「警備の兵と、騎士と……あと、なんで野党が一緒に?」
思わず口に出てしまった。
「通行料とってますよぉ、あの人達」
「うわあっ」
声をあげてしまった。
レイモンドが感知出来ない様な隠形をいつの間に覚えたのか、そこにファリスが居た。
「びっくりした……いつから、そこに?」
大きい麻布の様な物に木の葉をつけて被って、まるで土の盛り上がりにしか見えない。
しかし、その中にはファリスが体育座りで座っていた。
「人が多いところなら、安全かなって」
レイモンドなら、戦う時に人と離れる。しかし、戦う術を持たないファリスは人ごみに紛れることで危険を逃れようとしたらしい。
それにしても、あまりにも雑なため、ゴミでも捨ててあるかとレイモンドさえも見逃してしまうという隠形。
人が隠れているのであれば、レイモンドが気づかないはずが無いのだが……。
ある意味で恐ろしい。
「なんにせよ、無事で良かったよ」
麻布から出てきたファリスは、レイモンドに抱きついた。
リリを相手にしてる気になって、思わず頭を撫でてしまう。
「それでね、ごめん。王宮で戦ってる時に顔をみられたんだ。一緒に行動出来ないかもしれない」
不安そうにするファリスに笑顔を向ける。
「ちゃんとラースニアまでは守るよ。けど、俺は姿を出せないから、一人で歩いてくれるかな」
もの凄く不満そうにしている。
「レイ様が変装すればいいんですよ! ほら、女性物の服があるじゃないですか!」
色んな意味で、レイモンドの顔からいろんな汗が溢れだした。
「いや、それはそれで、いろんな誤解を生みそうで……」
木の影に置かれていた大量の荷物には、シュリアの為に買った服等も入っている。
それを自分が着ると思うと、凄まじい抵抗感がある。
確かにレイモンドは無骨な顔というわけではなく、女性物を着ればごまかせるかもしれない。
しかし、その格好のまま知り合いに合えば、確実にいろんな誤解をされる。
見つかるよりはマシかもしれないが、しかし、それも違う意味で自分を捨てる気がした。
「……ごめん、無理」
ファリスは、レイモンドの反応を楽しんでいるかのよう。
「これなんか、似合うとおもいますよ!」
袋から出してきたのは、妙にフリルが大量についた服だった。
「か……かんべんしてください……」
レイモンドがファリスにいじられている頃、ルナは王宮内の混乱の鎮圧に動いていた。
元は聖鎧を上位騎士なら手を出せる場所に保管した、自分の責任を感じていた。
そして、居なくなったはずの勇者は来た。
来なければ、王宮内の人間は全て死に、そして、王都にも被害は広がっていただろう。
聖鎧を相手にしながらも、一歩も退くこと無く、そして、二人を守るように戦う姿。
レイモンドの姿は、まさに勇者に見えた。
しかし、その姿を追うでもなく、まずは、騒乱の沈静化を行う。
死者は多数。勇者が居たというのに。しかし、勇者が現れたのは聖鎧があばれだしてから、だいぶ時間があった。
聖鎧の力を見極めていたというよりも、遠くから来たと想定するのが普通だろう。
聖鎧との戦い方も、それを示していた。
それまで聖鎧が行った蛮行を見ていれば、あの勇者ならば避けられただろう攻撃も、初見の様に受けていた。
初めて相対した者との戦い。
それがわからないほど、騎士としての修行をしていなかったわけではない。
政務官も補佐も生き残り、しかし、騎士の多くは死んだ。
自ら戦いに飛び込み、そして、散っていった。
聖鎧と知らず、神剣を振るって斬れる相手と信じ。
だが、神剣さえも弾き、そして、人間の体をまるで粘土でも削るかのように裂いていった。
聖鎧の真実を、目の当たりにし、そして異形のモノへの対抗策として使った王への不信。
神剣はしかし、反乱軍が使い出すまでは存在もあまり知られず、そして、異形のモノは人間を蹂躙した。
王は何故神剣の部隊を作り、前線を作らなかったのかと疑問に思う。
実は王でさえも、北の城に保管されていた神剣の数で、異形のモノを倒しきれないと判断したなど、ルナは知らない。
人間世界に流れ着く異界の武器は、それほど多くはないのだ。そして、殆どの物が隠匿される。王に献上されるものは、その中のごく一部。
二桁ほどの本数で、異形のモノを全て倒すなどということは不可能だったのだ。
そして、聖鎧を使うと決めた。
ルナは不信を払拭し、王宮の、王都の復興を再優先した。
そして、王宮にある廃井戸に聖鎧を埋め、禁所とした。
もう、誰にも触らせるわけには行かない。
誰も、あんな化け物の犠牲にするわけにはいかない。
そして、もうふたつ。
ひとつはファティにも口止めし、レイモンド・アスレイが勇者である事は口外無用とした。
王宮の中でも、ルナ達以外でレイモンドの姿を見たものはいた。全てに箝口令を敷き、勇者に手を出すことを禁じたのだ。
ふたつめは、アスレイ家に対するもの。
ラースニアに住むというアスレイ家に、恐らくはレイモンドは帰るだろう。自分たちに姿を見られたとしても、一度は帰るだろうと考えた。
そして、南から来る敵を抑え、人間世界を守っている。
レイモンドという名を伏せ、しかし、アスレイ家に騎士でもなく、兵士でもなく、守護者の称号を与えた。そして、その伝令をだした。
アスレイが騎士を返上した際に、ルナの父カルヴァーニ・レヴィアスは誇らしく見送った。しかし、ルナはそれを、納得していなかった。だが、その息子は騎士道を、いや、人を守り戦う者としての矜持をもっていた。
息子の性格もあるだろう。だが、それを作ったのは父の教えだ。自分と同じように。
そのアスレイが騎士を返上したのならば、それ相応の理由があるはず。今なら、わかる。
自分はその父を愚弄し、息子を追い返すような行動をした。だが、その息子は、王宮の危機に駆けつけ、そして、命をかけて戦ったのだ。
レイモンドは何も求めず、ただ戦いの無くなった場所から消えた。
騎士として、助力を得られたものに対して、礼も尽くしていない自分に恥じる。
「王宮が落ち着いたら、私はラースニアに向かう。騎士として執政官として、アスレイ家の方々に礼をしなければならない」
事情を知っている者たちは、もちろん反論はなかった。
「ラースニアには、他にも勇者がいるやもしれません。ともすれればアスレイ殿が活躍されているのかもしれませんな。神風が異形のモノを打倒しているという噂があります」
ルナも聞いたことがある噂だ。しかし、ラースニアという場所自体が今までは、気にもならなかった。
レイモンドが、アスレイが住んでいるという事と、神風。それらが人を守っている
何かしら関係があると、考えないほうがおかしい。
王宮内の騒乱は、早々収まるものでもない。しかし、破壊された場所の復旧や、めどの立たない場所の封鎖や埋め立てて使うことをやめるなど、方針決めさえすれば、あとは政務官がやるだろう。
そうすれば、ルナは旅立てる。
しかし、ルナはまた勇者に会えるという思いとは別に、合わせる顔がないとも思っていた。
2度助けられている。1度めは死に際。自分が異形のモノを相手にし、死ぬ寸前に。そして、2度めは聖鎧から守ってもらった。
助けてもらったことは礼を言いたい。しかし、騎士としえて助けられたことは自らの未熟。恥を受け入れることになる。それは、自分にとって呵責だ。だが、何よりもルナはレイモンドの父を愚弄していた。
自分が父を愚弄されて、道を示してくれた物を愚弄されて、どう思うだろうか、と。
自分には何の得もないニアスのうなされた時の遺言を守り、聖鎧を王都まで届けた事も。
本来なら、頼まれたから報酬を求めるなどするはずが、ただ届けて去った。
アスレイ家は、今はただの一般人だ。もちろん、その息子も。
まるで当たり前のように、正しき人の意志を尊重し、例え何があろうと遺された言葉を守る。
父が自らの騎士道としていたものと同じだ。
それを、自分は愚弄した。
合わせる顔がない。とルナは苦悩する。
しかし、少女の苦悩の顔は、他から見ると違うようにみえるらしい。
「ルナ様は勇者に恋わずらいをしている」
よくわからない噂がながれていた。
ルナが姫で、勇者が王子という噂の発展形だろう。
今まではルナとレイモンドが出会うことはなかった。しかし、王都の北の街道でルナとレイモンドは遺書に戦い、そして、王宮でもルナを守った。
聖鎧だとは、少年騎士のアレスが自らの死んでも構わないと聖鎧に触れ、そして偶然適合して王宮を荒らしまわったなど、誰も知らない。
ただ、異形のモノがどこかから現れたとされた。そして、その絶体絶命の窮地に現れた勇者が、姫を救う。これほど、民衆が憧れる話があるだろうか。
まるで夢物語だが、その当の勇者は女装を迫られ、森のなかで嫌がっていた。
ファリスもそうだ。レイモンドと普通に接してくれている。
自らの目と耳が、常人と違うからレイモンドに親近感を感じているのかもしれない。
だが、レイモンドは自分をそれ以上の、平和になったらこの世界に居てはいけない化け物だと思っている。
誰もが知っている場所に、誰もが倒しに来る場所に、一人で暮らす。
そうして、国や人々に敵意が無いことを示しながら、生きていくか、それとも自ら死ぬか。
だが、死んだとしても、誰がその死を確認するのか。
ひっそりと死ねば、どこかにいるかもしれないと怯えは残る。
全てが終わったら、王都で処刑されるのが一番良いのかもしれないとさえ思っている。
戦いがあるから、今は必要とされている。
自分が出来ることをしよう、そう考えている。しかし、出来ると言っても女装は嫌だった。
「こっちの服はどうです?」
ファリスがまた違う服をレイモンドに差し出す。
「うん、だからね。女装は……」
ファリスのキラキラした目が、レイモンドを圧倒していた。
ファリスは確信している。絶対似合う、と。
戦闘の時に使われる馬は、重装備の騎士を乗せ、鉾で盾を叩かれても崩れ落ちない足腰をしている。
しかし、早馬に使われる伝令用の馬は軽装の者が乗り、速度が優先だ。
その馬の速度は、レイモンドやシュリアの全力には及ばずとも、それなりに早い。
ルナの発令した、アスレイ家を守護者とする旨の地位を伝令するための早馬だ。
街道の整備された道を走る馬は、レイモンド達を既に追い越し、ラースの領土に入っている。
ラースニアに着くまで、そう時間はかからないだろう。
通行料を取ろうとする連中も、早馬には関わらない。
まるで道を警備してるかのように、敬礼してすませていた。
レイモンドもまた、法外な金銭を要求するのでなければ、それも良しと思っていた。
無償で人を守る。自分にとってはそれはあたりまえなのだが、戦いで生活する者もいるだろう。
あの場所を安全な場所としてくれているのなら、ある程度の金銭の授受はあえりる。
そんなのを全て排除していたら、それこそ、力のある人間が街道を通らなくなり、危険度が増す。
神剣も持っていないだろう連中は、通行料を取りながらも守るとは言ってない。だが、異形のモノが出現すれば、戦うか、逃げるかするだろう。戦うならば助力する。逃げるとしても守る。だが、レイモンドがそれをする前に、奴らの行動でほかの人は状況を知る。
そして、奴らが今あの場所で通行料をとっているなら、あの場所は安全だということ。
さすがにレイモンドに女装させることを諦めたファリスだが、レイモンドに帽子をかぶせることには成功していた。
そして、ファリスが新しくレイモンドに買ってもらったショールを方にかけている。
バックパックも女性向け的なものなので、傍から見ればボーイッシュな女性に見えないこともない。
ある程度の変装は出来たとして、レイモンドとファリスは街道を歩いていた。
確かに女物の帽子にショール、バックパックで、買い物袋を大量に持った勇者などいないだろう。
早馬も、レイモンド達の横を走り抜けていった。
早馬が行った時点で、レイモンドは寒気がしていた。
ラースニアの家族に何かあれば、どうしたら良いか、と。
シュリアが居る。だから、多少の人間同士の諍いでも対処は出来るだろう。だが、家族が、村人が傷つくのは困る。
焦りはするが、しかし、早馬を潰しても次が来る。そして、軍勢でも来れば、対応は厳しくなる。
戦いが終われば平和に暮らせる。そんな願望が、自分の夢なだけであることを実感していた。
しかし、その夢は実現させたい。
レイモンドは早馬の姿が見えなくなるまで見つめていたが、しかし、なぜか不安は薄い。
早馬に乗ってる兵は、恐らくは伝令の中身を知らないだろう。
知ると知れば、相手の所で読み上げる時くらいか。
もしくは中身を知らないまま、相手に伝令を渡す。
読み上げるにしても、一人で向かっているなら、それほど大事じゃないだろうと思っていた。
「とにかく、急ごうか」
ファリスは頷くも、レイモンドの体の心配をしている。
シュリアもそうだが、王都に向かう前よりも、傷が多い。
服もボロボロで、ショールをかぶっていないと腹に空いた穴や、脇腹の斬れたばしょ、袖に至っては肩から無い。
途中、通る馬車に乗って行くかと誘われるが、レイモンドの服装をみると、申し訳無さそうに行ってしまう。何かの問題に巻き込まれたくないというのがまるわかりだが、その心情はわかる。
「長い距離、歩かせちゃってごめんな」
ファリスは笑顔で首を振る。
「ずっと考えてたんですけど、奥さんにはなんて言えばいいですか?」
いきなり言われて、言葉に詰まる。
「普通に大好きっていうと、シュリア様と嫌われちゃうし、それも嫌だし……」
ファリスはシュリアも好きな相手らしい。そういえば、間一髪で助けたのはシュリアだ。
「お兄ちゃんみたいで大好き、って言えば問題ないですよね」
それはそれで。リリが対抗心を燃やしそうだ。
困ったような顔をするレイモンドを見上げているファリスは、返答を待っている。
「あー、うん。それでいいと思う……たぶん」
曖昧な返事だが、ファリスは納得してくれたようだ。
いくつもの丘を越え、長い街道を歩き、ラースの町が見えてき始めていた。
そして、レイモンド達がラースの町に届いた頃、早馬はラースニアに到着していた。
王都からの伝令ということで、ジグルが対応する。
領主代行という任務は生きている。
そして、アスレイを呼ぶように言われ、周りの者に支持してアスレイが来る。
ラースニアに伝令が来ることなど稀だ。村中の感心が集まる。
野次馬にはウェイトレス達の姿も有る。当然、その中にはシュリアやリリも。
「公示する。ギアス・アスレイ。汝を王政下において、守護者として地位をあたえ、任を与える」
レイモンドの父親にとって、青天の霹靂。
何がどうなったという感じだ。
すぐには受け入れられず、きょとんとしている。
「ほら、お義父さま。騎士っぽく拝命しないと」
シュリアに耳打ちされて、はっと気づく。
伝令係の前に出て、片膝を付き拝命する事を明言する。
そして、渡される騎士としての王家の紋章と、異界の武器。
伝令係は、早馬に乗り帰っていく。
「あんた、凄い人だったんだねぇ……」
流れてきて村に居着いた騎士崩れと思われたアスレイが、いきなり守護者。
一番驚いているのは、アスレイ本人だ。
そして伝令書を見ると、懐かしい名前。
そこにあるサインは、ルナディアルグ・レヴィアス。レヴィアスの娘か、と懐かしさが顔に出る。
「なんか、この村……最近凄くないか? 神風に守られたり、守護者に任命される人が出たり……」
誰の言葉かわからないが、みんながざわめく。
歓喜というよりもどよめきだ。
「今日はお祝いですね!」
空気を一気に変えたのは、やはりシュリア。
その声に「おう! 祝い酒だ!」と同意する者も多く、どよめきは、お祭り騒ぎに変わっていく。
「ありがとう」
苦笑しながらシュリアにお礼をいうアスレイは、空気を変えようと叫んだのを察しているようだ。
「おめでとうございます。お義父さま」
笑顔で返すシュリアにアスレイは、レイモンドが選んだ娘が、本当にこの娘でよかったと感じていた。




