勇者
全身をほぼ甲殻で覆われたレイモンド。
蜘蛛型が牙を当てようが、鎌の様な腕で薙ごうが全て粉砕し、倒し続ける。
殆どの蜘蛛型が危険と感じ、逃げようとするも、しかし、逃がさない。
異形のモノが侵略してきた時と、まるで逆だ。
人々が悲鳴を上げて逃げ惑う。それを追い、捕まえ、殺す異形のモノ達。しかし、今はレイモンドが追う側だ。
まるで聖鎧にでも包まれたかのように、レイモンドの攻撃には容赦は無く、全ての異形の蜘蛛が倒されていく。
レイモンドの攻撃は、動いている蜘蛛型だけにとどまらず、固められた壁の中にある全ての卵にまでも及んだ。
全てを根絶やしにする。
全ての危険を排除する。
全ての異形のモノを倒す。
それだけが、レイモンドの体を突き動かす。
意思はある。理性もある。しかし、それ以上に自分への自責の念が、体を突き動かす。
洞窟が壊れそうなほど、壁を壊し、すべての卵までも壊した。
そして、目の前にあるのは、人を溶かす泉。
レイモンドは僅かな躊躇もなく、その泉に踏み込んだ。
人さえも溶かす泉。しかし、手に出来た甲殻を溶かす為に浸したが効果は薄い。
自分に耐性があるのか、それとも、皮膚を僅かに溶かす程度なのか。
以前に戦った毒液を吐く蜘蛛型。あれが使った溶解液と同じならば、耐性は出来ている。
今は目さえも甲殻で覆われ、しかし、甲殻を通して見える。
まるで裸眼の様に見える。
泉に潜り、そして、僅かな時間で湖底へ。
人が溶けている液体へ潜る。気持ちの良いものではない。しかし、中に何かがいるとすればと考える。
倒さなければ、ラースアムの人たちに危険が残る。
武器が、甲殻の外側に残った鎧が、わずかに溶けているのが解る。そして溶けた部分が甲殻になるのも。
流石に川で遊んだ事がある程度。泳ぎなど知らない。妙薬の地底湖ですら、人が入れば凍える温度だ。
歩くように進むも、もがくだけで進みはしない。
レイモンドは、湖底につま先を刺し、一歩ずつ進む。
突進はしない。それは、敵の襲来を考えて。
甲殻は溶けず、そして、水中は、泉の中は意外にも広い。
流れは僅かにあるものの、淀んでいる。
そして、その淀みは僅かに揺れている。
何かが居る。
レイモンドの感覚は、そう伝えている。
今まで遭遇したことのない、遭遇する事も考えたことがなかった、水中型。
視認はまだ出来ないが、感覚が近いと伝えている。
水の動きが、空気よりも敵の動きを伝えてくる。しかし、遅い。そして、荒い。
水が動く。そしてそれは波紋のように広がる。周囲の水が波打つことで、様々な方向から動きを感じてしまう。水の中の振動の検知は慣れないレイモンドには敵の察知を遅くする。いや、遅くするどころか、出来ていない。
水中の敵は、レイモンドの後方から襲いかかった。
レイモンドの前後が解ったわけではないだろう。だが、一番無防備そうな場所を狙っていた。
後ろから押し倒されたレイモンドのうなじの部分に牙を突き立てる。
僅かに甲殻を貫通し、痛み。しかし、後ろ手に振った手が、跳ね除ける。
動きが鈍い。
水の抵抗で、いつもの速度、威力が出せていない。
水が抵抗し、動かした手で自分自身が動いてしまい、手に力が入っていない。
またも湖底に足を突き刺すも、しかし、柔らかい。
敵のように泳げ、そして、牙で相手を噛むという攻撃の方が、遥かに有利だ。
それを理解し、欲する。それが、どういう結果を生むか知らずに。
こんなやつを食いたくはない。しかし、牙で相手を噛むという攻撃は有利。
水中の敵が、またも速度を上げてレイモンドに襲いかかる。
それほど大した敵ではないと判断したらしく、まっすぐに襲ってくる。
それに対してレイモンドは湖底に足を突き立て、こぶしを構える。
姿勢を低くし、湖底を蹴るように殴れば、相手にもダメージが行くはず。
そして、水中の敵はレイモンドの腕に噛みつくように動く。
縦にした武器が、敵の顔面を捉えるも、浅い。
噛みつかれた場所から水中に血が流れだす。牙で左右から挟まれたてからは、血が流れ出す。
敵は勝ったと思っただろうか。しかし、それは誤算。
血は、水中でも固まった。
まるでレイモンドが望んだかのような、噛む牙の形に。
そして、水中の敵は、自らの牙で身動きを止めていたことで、レイモンドの牙に左右からの攻撃を許した。
敵の頭が左右から挟まれ、潰される。まるでレイモンドの腕が、異形のモノの頭にでもなったかのように、敵の頭を喰らい潰したのだ。
レイモンド自信にさえも解らない、甲殻の変化。
しかし、甲殻を身にまとう事で水中でも呼吸が出来ている。
これもまた、意識せずに出来たこと。
自分が呼吸を必要とするかどうか。人間には、その疑問さえもない。
息が荒い、落ち着いたなどはあれど、呼吸が何のためにあるのかは、広く知られているわけではない。
だが、息が苦しければ水中には居られない。それは知っている。
川遊びもしていたことがある子供なら、誰でも解ることだろう。
だが、レイモンドは戦っている最中も、敵を探してる時も、水中で呼吸をしていない。そして、苦しさも感じていない。
今更ながらに自分に違和感を感じながらも、しかし、まだ水中を探る。
あれもまた、一匹だけとは限らない。
一匹が分泌した溶解液で、泉全体が人を溶かすほどになるとも、思えないからだ。
しかし、いくら探しても異形のモノを発見することは出来ず、そして、感じもしない。
しばらくは水中を探索するも、レイモンドは泉から這い上がる。
呼吸をしてる感じはしない。
全てが甲殻に包まれ、そして、守られている。
全身の全てが、武器になっていると感じる。
これが自分だと、再認識する。
人ならざる者になってしまった自分。
いつから、人からかけ離れたのか。
いつから、人と違うのか。
自分で自分が怖くなる。
もう、もしかしたら、シュリアがくれた武器さえも、要らないのかもしれない。
自分の体だけで、戦えてしまうのかもしれない。
しかし、自分では人間を辞めたくはなかった。
人間で居たいと願う。
誰かを守るためには、人間で有ることさえ捨てる。しかし、人間で居たい。
周りから脅威が消え、それを自分の体が察したのか、甲殻が剥がれ落ちていく。
誰かを助けようとした時には、剥がそうにも剥がれなかった甲殻が、ボロボロと剥がれる。
脅威は去った。
この洞窟から、脅威は無くなった。
泉の正体はわからない。だから、埋める。
レイモンドは泉がある洞窟の壁を何度も殴り、そして、天井をも崩して、その場を埋めた。
村の人が何らかの理由で使っている場所ならば、また掘るだろう。しかし、異形のモノが利用する可能性があるならば、埋めておかねばならない。
自分のこぶしが、まるで重機の様に岩を砕き、そして、洞窟を崩落させる。そのことに違和感を感じなくなっている。
こぶしには血は滲まずに、そして、甲殻も出来ないまま、そのこぶしは岩を砕く。
体自体が、変わっている。それに関してレイモンドは気づいていない。
血だけでなく、他の部分も着々と変わっている事に。
そして一番変わっていることは、自分自身の変化に気づかないレイモンドだった。
振り返ればラースアムの村から、寒々しさは消えている。
しかし、混乱が起きている。
子供が、親が居ないと騒ぐ村人たち。
今までは、あの妙な匂いで錯覚させられていたであろう現実が、村人たちに突きつけられている。
誰もが普通だと思っていた、人が居なくなっていく現実。
しかし、それが間違っていたと気付かされた時、人は絶望する。
大切にしていた我が子、大好きだった両親。体が弱く、また耐性が低い者から、匂いに惹き寄せられたのだろう。そして、耐性があったとしても、居なくなることに気づくことが出来ない。
レイモンドは村の様子を見ながら、悔し涙を流していた。
一人も助けられなかった。
捕まる瞬間を見ながら、その人さえも助けられなかった。
自分は強いと思っていた。だが、弱い。
自分は守れると思っていた。だが、守れていない。
自責の念が、自分を押しつぶしていく。
いまさらの阿鼻叫喚が、レイモンドの心を占めていく。
一人ひとりが悲鳴をあげたなら、手を差し伸べる事も可能かもしれない。慰める事も出来るかもしれない。だが、村全体が悲鳴をあげている。
ただの不思議な力を持っただけの自分が、人の心までも救えるとは思えない。
ただ、自分の心に、他人の痛みを刻み続けることしか出来ない。
レイモンドは、その場を去ることしか出来なかった。
聖鎧を掘り出し、箱のまま持ち歩く。入れるべきバックパックも、既に無い。
そしてまたラースアムを眺める。
救いきれなかった。
確かに人は残っている。そして、異形のモノを駆逐した。だが、消えた人々は帰ってこない。
自分のせいだ。
自分がもっと、近くの村を大事にしなかったからだ。
そう思い、心にカセを嵌めていく。自ら背負っていく。
溜息をつくレイモンドが、いきなり後ろから蹴り飛ばされた。
気配もなく、レイモンドを蹴飛ばせるのは、一人しか知らない。
そこに立っていたのは、やはりシュリアだった。
その目は、おもいっきりすわっている。
「え? あれ……なんでここに?」
「なんでじゃないでしょ」
すっごい冷めた笑顔で言われた。笑顔だが、目が笑ってない。
笑顔の迫力に言葉なく後ずさりする。
「床を共にした翌日から夫が帰ってこなくなった妻って、家でとっても居づらいのよ……?」
レイモンドは「そうですね」と「ごめんなさい」しか言えない。
全く頭が上がらない。
「いちおう理由はでっちあげたけど、なにがあったの?」
レイモンドは異形の蜘蛛型の話をした。
ニアスの話も、また、地蜘蛛型の話も包み隠さずだ。
自分の全身から血の様な汗が吹き出て、今のようなボロボロな服装になったことも言った。
そして、水中の敵。呼吸の話もまた、全てだ。
「水の中か……あたしでも探れそうにないわね……」
ラースアムの村を見ながらつぶやくシュリアも、ウェイトレスの格好のままで格好はつかないが。
一体どれだけの短時間でここまで来たのか、レイモンドにさえも解らない。
「とにかく、やっつけたのよね? 次はどうするの?」
多少は機嫌を直してくれたようだが、やはり少し怒ってる感じ。
家に帰るという言葉を待ってる風だ。
「いちおう、ラースを……見に行こうかと……」
「へぇ~」
「いや、いちおう何もいなければ一日で帰る予定だったんだ」
レイモンドは取り繕うも、おもいっきりため息をつかれた。直感した「絶対ついてくる」と。
しかし、シュリアはレイモンドの直感とは別の言葉を発した。
「家に帰って言い繕っておくね。あと、新しい服も要るでしょ? ……それと、武器見せて」
なぜか正座でシュリアに武器を渡すレイモンド。
シュリアは武器の刃の部分を確認すると、ため息を付きながら自分の武器を差し出した。
ウェイトレスの姿でも、スカートの中に武器はしっかりと常備しているらしい。
装着部分は今までと同じで、太ももの部分。
スカートをまくる時にレイモンドが顔を背けてたので、それで少しシュリアは笑っていた。
「武器は研ぎなおしておくから、こっちを使っててね。ラースの町に付く頃には追いつけるから、そしたら服も渡すわね」
そう言うと、持ってきたバスケットを置いて、「食べておいてね」という。
レイモンドの横にある箱をみて、またため息。
「あーあ……やっぱり、関わっちゃうのね」
箱に関して、いや、箱の中の何かに関して知ってるのか。
シュリアは「箱の中身には絶対触っちゃダメだからね」と言い残し、ラースニアの村へと戻っていく。
レイモンドの目の前にはバスケットと、シュリアの使っていた武器。そして、箱。
武器はレイモンドのよりも小型だが、しかし、持ち手の部分といい、使い込まれた感じがする。
バスケットの中身はというと、食べ物と薬。妙薬まで入っている。
気を遣って来てくれたのが解る。
「ありがとう」
すでに姿もおぼろげに離れているシュリアだが、レイモンドの言葉がまだ聞こえるのか、振りいて手を振っている。
以前なら聞こえてても振り向かずに去っていったシュリアだが、随分と変わった。
シュリアと別れた後、レイモンドはその場に一旦座り込んだ。
服も防具もボロボロで、防具は頑丈な部分だけが残っている。つなぎの部分は染みこんだ血で甲殻が出来、それでもっているようなものだ。甲殻が崩れれば、いつ切れてもおかしくない。
さすがに状況を予想できなかったのか、シュリアは代わりの服までは持ってきてくれていない。
しばらくして立ち上がると、ラースアムの村へ。
こっそりとラースアムに入り、捨ててある袋で仮の服を作る。作ると言っても頭と手を出す場所を作り、被って腰の所を留めるだけだ。
旅人や剣士の格好ではない。いや、農民でさえもっとマシな格好をしている。
だが、レイモンドは気にせずに村から出ると、バスケットの中の食べ物を腹に収める。
ラースに向かうのは、落ち着いてから。
シュリアが来てくれたことで、気分が変わった。
本当に助かる。一人じゃなくて、自分を知ってる人が居る。
自分があんな化け物に変わると知っているのに、こんなに気を遣ってくれる人が居る。
それだけで、レイモンドは自分が人間でいられると感じる。
だからこそ、人間を守る。
例えそれが、人間じゃなくなる事を意味していたとしても。
例えそれが、誰とも一緒に居られなくなる事だとしても。
人の心のままで居られれば、例え外見が違っても、守れる。
そんなことを考えながら、空を眺める。
「そろそろ、行くか……」
立ち上がるレイモンドの手にはバスケット。バスケットの中には食べ残して置いた半分と、薬と、妙薬。そして、箱。
移動は早く、そして、誰にも気づかれぬように。
ラースではシュリアと合流する。だから、少しは速度を緩める。
だが、それでも人も馬も追いつけない速度だ。
誰かが見たら勇者と思うだろうか。
しかし、見栄えが見栄えだ。
麻袋を被りバスケットを持った少年を、誰が勇者と思うだろうか。
勇者の噂は尾ひれがつきすぎて、既に何処でどう発生したのかも解らない。
勇者が男性であったり、女性であったり、また、子供だったり、大人だったり。
剣で戦う勇者。素手で敵を倒していく勇者。はたまた聖剣が勇者を決める。ありもしない聖剣等という言葉まで出てきている。
様々な噂が、新しい噂を作り、そして、それは人々の希望だけではなく、恐怖までも呼ぶ。
勇者とされるものは、縄張りを広める人型の異形のモノ。そう言った噂までもある。
果ては、海から現れ、海に帰るといったものまでが有る。
噂の元はレイモンドだろう。
女性という噂の元は、レイモンドに同行していたシュリアかもしれない。
それとも幼げな顔がレイモンドを女性に見せているか。
だが、尾ひれが着きすぎたそれは、幻想の存在となり、誰もが勝手な希望を押し付ける。
勝手な希望や、理想を押し付けられた勇者は、誰もが夢見るような孤高の存在。
その人気は王や王政を取り戻したルナ達よりも高く、噂の根源を必要とされるくらいにまでなっている。
本当に居るのか、居たとして、国に、人々に仇なす存在か否か。
勇者が人型の異形のモノだとしても人を襲ってるという噂は少ない。だが、無いことはない。
少ない餌で長期間生きる異形のモノとして、縄張りを広げているならば、対処は必要だろう。
異界の武器も反乱軍と、第三勢力に与した者達の手によって、ある程度は広まった。
異界の武器と知られること無く、ただ、異形のモノを斬れる「神剣」として。
神より与えられし、人々を守るための剣。
そういう名目であれば、それなりの立場の者が持つのが道理とされる。
そういう名目であれば、持っていることが、神より認められし指導者達となる。
だからだろう。聖剣が勇者と結びつけられ噂話にもなったのは。
落ち着きを僅かに取り戻したとはいえ、不安定な国政。
勇者がもし人であり、国に協力したならば、人心を集めることは簡単だろう。
その言葉は、ヴィータスが謳った言葉よりも、人々の心に刺さるはずだ。
人でなければ、異形のモノであれば、神剣で打ち倒すことで人々の心を掴むことが出来るかもしれない。
単純ではあるが、人々を心酔させる存在は必要だ。
本来は、王がそうあるべきである。だが、今の王は弱々しく、ただ哀れみを集めるだけ。
人々を導く存在として、ルナは自分では力不足を感じている。
そこに降ってわいたのが勇者の伝説だ。
自分が勇者に成り代わることは可能だ。だが、神剣を持ったとしても、噂になるほどに人々を守る旅をすることが出来ただろうかと自問する。
本当に人々を救う旅をしたものが居れば、会ってみたい。
ルナは、国のことを考えながらも、自分もまた、勇者に憧れる一人であることを自覚していない。
数日もするとルナ達の「勇者探し」は、ある意味では部隊化していた。
捜索の理由は勇者を探すではなく、異形のモノを倒す手段を持った者を探し、手段を得る事。
確かに異形のモノを斬れる神剣はある。しかし、勇者の噂では、素手で倒してるという話もある。
素手で倒せるということは、何らかの技法があるはずだ。
それを学び、対処する部隊が会得すれば、神剣を使わずとも異形のモノと渡り合える。
そう考え、しかし、実際は「勇者に会いたい」が本音だ。
部隊の中には、同じように勇者の噂に憧れる者も多い。
ルナは自分も部隊に属して出撃しようとしていたが、流石に引き止められている。
まだ反乱軍の残党は残り、野党も多い。そんな中、王政を取り戻した旗印であるルナの首が取られれば一大事だ。
それに国政もある。
政治経済を学ぶものを多く起用し、また、領土問題に詳しい者も起用した。だが、決定権は持たせていない。決定はルナが執政官であるルナが行う。
そのルナが居なくなっては、国政が滞る。
そういう理由で引き止められてしまっている。
上位騎士の娘であり、王を、国を愛する者として、その責務を大事に思わないはずがない。しかし、憧れる心は別にある。
勇者という存在がもし居るのなら、会ってみたい。
そういう考えは、やはりある。
そして、勇者に憧れる殆どの物が、勇者は上位騎士であるという誤解をしている。
それほど強く、それほど使命感が強い者。
人々のために尽くし、報酬も得ずに立ち去る。
騎士道精神を進む者でなければありえないだろう、と勝手な思い込みをしているのだ。
だから、みな憧れの存在としている。
噂でしか無い勇者は、まるで実在する人物可の様に語られ、そして、噂に尾ひれは付く。
いや、実際には実在する。レイモンドがそれだ。しかし、勇者としての立ち居振る舞いは無い。
騎士としても未熟だろう。そして、人間としても、少年の姿だ。
騎士として見るには、幼いと思われても仕方がない。
旅をする少年が勇者という噂もある。しかし、それはあまり信じられていない。
異形のモノがあまりに強いからだ。
その強さを知っている者は、口をそろえて「子供が勝てるはずがない」という。
だが、噂は噂だ。子供が倒せたほうが盛り上がる。
少年は幼くして最強。幼くして無敵。そう言った噂も流れる。
ルナ達は、だが、騎士としての流浪の者を探すとしていた。
勇者を見つけ、そのカリスマ性を借りるためだ。
勇者がもし貧相な者であれば、本物に口裏を合わせてもらう事も考えている。
見た目が良い地方の騎士に、勇者の真似事を頼むという方法もある。
そして 本物から異形のモノを倒す方法を教わり、勇者と同じ様に異形のモノを倒す力を得る。
本物には会いたいが、勇者を手に入れるという目的が一番強い。
噂は真実であり、勇者は実在した。そして、国のために立った。
その形が欲しいのだ。
僅かな人数でありながらも、勇者を探す部隊は出発した。
中には、勇者を抹殺しようとする者もいる。
自分達よりも遥かに強く、そして、野望を持つ者ならば、と。
だが、出発を見送ったルナは、そんなことは知らない。
ただ、勇者に会いたい。それだけだった。




