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継ぐ者  作者: 犬神弥太郎
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契りと繋がり


 レイモンドとシュリアは、一つのベッドで向い合って正座しあっていた。


 お互い言葉も出せずに、緊張状態だ。


 レイモンドが風呂から出て部屋に戻ると、リリの部屋から追い出されたシュリアがベッドに座っていた。


 風呂あがりに父親に言われた「がんばれ」の意味を理解して、脂汗でもう一度風呂に行こうとするも、部屋の外にいた母親に阻止された。


 なんで居るんだと思ったレイモンドだが、問答無用で部屋に押し帰された。


 流石に力尽くで押しのけるわけにも行かずに部屋に放り込まれた。


 野宿で散々横で寝起きをしていたが、こういう状況を作られてしまうと緊張する。


 しかも、あんなことを言われた後だ。


 お互い、なんとなくベッドの上で正座になっている。


「えーっと……」

「あ、あの……」


 お互い同時に言葉を発して、また黙る。


 シュリアは少しは知識はあるが、実際には未経験。レイモンドに関しては、知識さえ無い。


 騎士道精神を叩きこまれた農夫の息子というだけで、そういうことはからっきしだ。


 しかも、村で一番の美形が妹という、他の女性を見ても気遣いの対象程度でしかなかった。


 シュリアをも、妹と重ねあわせ家族愛の対象か、もしくは、女性として気遣いの対象程度だった。


 結婚も一番大切にしたいという気持ちの結果であって、こういう行為をとは考えていなかった。


 一応結婚ということで、こういうこともしてると思われてたんだろうと、今更ながらに思う。


 純朴すぎる少年。


 正座して、向かい合ってるだけで、顔が真っ赤だ。


 少しの沈黙の後、シュリアがくすくすと笑い出した。


「な、なんだよ……」


 照れて真っ赤になってるレイモンドを見て、更に笑いが止まらないらしい。


「いや、多分察知されてるんだろうけど……まあ、うん、なんというか……えっと……」


 レイモンドがドギマギしてモジモジしている姿が、面白くて仕方ないらしい。


 いい加減笑い疲れた後「かわいい」と言われて、さすがに困る。


 戦いでは凛々しいというか、猛々しい姿を見せてるレイモンドが、これほどおどおどしてるのが面白いらしい。


 そして、レイモンドは土下座した。


「ごめん、ホントにこういうのわからないんだ」


 シュリアも笑ってはいるが、顔が紅潮している。


「あー、もう! なんか可愛い!」


 押し倒したのは、シュリアの方からだった。


 廊下から壁越しに部屋の様子を伺っていた父親と母親は、ガッツポーズをしていた。




 翌日の朝食の時間。


 父親と母親はご満悦だった。


 最近の料理担当はシュリアだったが、今日は母親が作っていた。


 その理由が「シュリアちゃんが寝坊するかもと思って」だそうだ。


 レイモンドはと言うと、恥ずかしいのかシュリアの顔を見れずにいる。


 シュリアはと言えば普通だが、妙にレイモンドにべったりだ。


 リリは状況が何か違う感じがして困惑しているが、さすがに説明は出来ない。


 レイモンドにとって、とても空気が重く、痛い。というか、むず痒い。


 無性に恥ずかしいと感じてしまう。


 早々に朝食を終えて、親にからかわれると思ったのか、また村の周りの見回りに出た。


 シュリアとリリは、今日も食堂の手伝いらしい。


 今まで看板娘状態だったウェイトレスに嫉妬されるかとも思うが、さすがにシュリアは上手く取り入り、二人共よく出来た後輩のイメージを植え付けてある。


 出がけに母親がシュリアに「お腹が大きくなって、きつくなったら休むんだよ」とか言ってるのが聞こえて、レイモンドが赤面する。


 とりあえずニアスの事を考えようとしても、昨夜のことが頭をよぎると、また顔が真っ赤になるのが解る。


 ニアスを探そうにも、なんにも集中できずにいる。


「よし、ちゃんと切り替えて……」


 自分の両頬を叩いて気合を入れる。しかしすぐにダメだと自覚する。


 さすがは思春期の少年である。


 自分は化け物で、誰とも一緒に居られず、そして、一人で死ぬ。そんな風に考えていた少年が、今は年相応な思春期の少年に戻っている。


 異形のモノに知能が有り近くに居て、レイモンドを観察していたとしたら攻撃の好機だろう。


 今までから見れば死線から一歩も二歩も退いて、腑抜けと言われても仕方ない様な状態。


 まるで別人だ。


 軽く走れば届くと思われた狩猟小屋にも、だいぶ時間をかけて到着。


 もちろん、ニアスは居なくなっている。


 自分にどれだけの感知が出来るか、地面に手を置き感覚を研ぎ澄ます。


 やっぱり昨夜のことが頭に浮かび、集中を邪魔する。


 思わず「うー……」と唸ってしまうほど、重症のようだ。


 なんとか集中し、ニアスの足取りを追おうとする。


 感知出来たのは、精神が乱れまくりで近距離だけ。動物の移動程度。しかも、種類もわからない。


 戦闘が続いていた時は、勘も鋭かったがだいぶ鈍っている。


 昨夜の出来事がなくても、最近は戦闘自体がなく、見回りが中心。


 緊張感も剥げ落ちてきており、日常に浸りかけている。


「日頃の鍛錬……か……」


 父親が言っていた言葉。自警団であるときも、自分を守るために訓練をしろと言われた。


 攻撃は最大の防御という。しかし、それは敵に攻撃をさせないという意味と、もうひとつの意味がある。


 攻撃を知ることは、つまり、剣の太刀筋がわかるということ。


 相手の太刀筋が解れば、それを受け、避ける事が可能となる。


 確かに攻撃で圧倒できれば、それも、最大の防御だ。しかし、技量が同じなら先読みが出来たほうが勝つ。


 後の先。


 格闘技の話しらしいが、剣術でも役に立つ。


 相手の太刀筋を誘導することで、先読みすることで、先んじて攻撃を当てる。


 相手に攻撃をさせることで、自分に有利な状態にする。


 達人にしか出来ないと思っていたが、異形のモノとの戦いの中、出来ていた時もある。


 本来は相手より一瞬あとに踏み込みながらも、攻撃自体は先に当てる。


 相手が攻撃をしかけてくれば、それを読めれば、自分の攻撃が入るからだ。


 しかし、後の先を取るには鋭さが必要。相手と同じか、それ以上の速度が要る。


 今の鈍った状態では、出来るかどうか。


 神経を研ぎ澄ませて、感覚を広く、そして、鋭く。


 剣は、剣術も磨かねばならないが、心も磨かねばならない。


 今更ながらに、言われたことの意味を見出す。


 実際に教わってる最中には、さっぱりわからなかったことだ。


 そして少しは落ち着いたのか、心を研ぎ澄ます。


 化け物である自分を受け入れ、そして、利用する。


 気配自体は、やはり感じられない。


 感覚が鈍っているのもあるが、ニアスの技量もあるだろう。


 倒れている時でさえ、人から見つからないような場所に倒れていた。


 場所を選んで休もうとしたのだろうが、重症だったからああなったと考えるのが普通だ。


 そして、傷は塞がり打撲の痛みも回復しているとなると、進む方向は目的地のある北だろう。


 レイモンドはニアスの服に、王軍の部隊章をつけているのを確認していた。


 北を向くが、しかし、まっすぐ北に向かったとも思えない。


 北に向かっては街道がある。そして北東にはラース、そして北西にはラースアムの村。


 街道は北から向かってくる反乱軍とハチ合わせる可能性。そして、ラースは町としての大きさがあり、人が多くいる可能性。ラースアムの村は人が少なく、そして特産もないラースの居住区状態。


 この場合、人に見つかりたくなければ、ラースアムの周囲を通って北に進むだろう。


 可能性的には一番高いが、確実ではない。しかし、とりあえず予想だけでも行ってみることにする。


 シュリアの感覚なら、レイモンドが北西に向かうことを感知するだろう。


 もし危険が有っても、その時はその時。


 ラースアムまで行ってニアスが見つからなければ、ラースを経由して戻れば良い。


 どっちにしろ近隣で唯一の町であるラースを見に行くつもりだったレイモンドにとっては、問題無い距離だ。


 普通の旅人ならラースニアからラースアムまで二日、ラースアムからラースまで一日。しかし、レイモンドの足ならば、数時間で着くだろう。


 一番の問題は、途中でニアスを見落とすことだ。


 レイモンドの今最大の敵は、思春期の煩悩だった。


 何しろ何かあるごとに夕べのことが頭をよぎるのだ。


 なんとか頭を振って煩悩を振り払おうとするが、気にすると逆に思い出してしまう。


 シュリアの顔を思い出すだけで、感覚が鈍る。無理に夕べのことから守る対象としようとしても、シュリアも強く守られるだけの存在ではない。


 どうにもならないと頭を抱えながら、レイモンドはニアスの痕跡を探した。


 そしてまだ煩悩に悩まされてるレイモンドだが、ニアスの痕跡らしきものを発見した。


 僅かに残る妙薬の匂いだ。


 普通でも違和感と感じるかもしれないほどの匂いは、レイモンドにはニアスの痕跡だろうと感じる。


 大量に塗りこんだ妙薬の匂いは強烈。


 傷の縫合の痕にも塗り、癒着を早めようとしていた。


 そのためか、匂いが随分とあとをひいている。


 匂いは風で流れてしまう。しかし、ある程度の推測は付く。


 ラースアムまでの道は、それほど整備されてるとはいえない。森の中の道ということもあり、道自体が倒木で塞がれている場所もある。それゆえに、まだ遠くまで行ってないと推測できる。


 だが、不安な道でも有る。


 あまり人の往来が無いために、踏み固められ方も柔らかい。


 異形のモノが巣を作るとしたら、絶好の場所かもしれない。


 人通りがなく、また、人が通っても僅か。そして、地面は掘りやすい。


 こういった場所に巣は作られるとレイモンドは感じる。


 いつかは、あの巣も掃討に行かねばならない。


 ムカデ型、蛾型も調べないといけない。


 普通の虫としてのムカデは湿地を好む。やはりこういう地面を選んで住むのだろう。


 戦うことを想像すると、やはり行くときは、一人だな、と思う。


 シュリアは連れて行きたくない。


 幸せそうに両親やリリと話す姿を見て、本当に家族に迎えてよかったと思う。


 だからこそ、守りたい。守られるだけの存在で無いことは解っているが、それでも守りたい。


 守りたい家族が一人増えた。


 そんなことを考えながら走る。


 走る先に、幾つもの枝道。


 一つはラースアムに通じているが、他のは近くの狩猟場や採取場だろう。


 ニアスは足あとを残さないように進んだらしく、どの道かは匂いでしか解らない。


 そして、自分が妙薬の匂いを漂わせている事に気づいているだろう。


 レイモンドにさえ追跡されたくないのか、やはり他の誰かに追われているのか、枝道のそれぞれに同じくらいの匂いが残っている。


 ただ単に枝道のどれを行くか迷って、右往左往した可能性もあるが、それにしては足あとが無い。


 それぞれの道を少し探ると、違和感を感じる。


 ラースアムに向かってきたのは勘だ。しかし、それは当たった。


 ここまで進めているなら大丈夫とも思えたが、妙薬の匂いは枝道のそれぞれ先まで行くと消えている。


 僅かな残り香は、どこかからか流れてきてるのかもしれない。


 倒れているとしたら助ける。


 風の向きを感じ、そして、風の強さを感じる。


 どこから吹いてくるのか、森のなかでは風は木々に遮られ、また、曲げられ、特定は難しい。


 しかしレイモンドは別の何かも感じている。


 異形のモノは一度中央付近まで攻め込んだ。


 王軍が撃退し、そして、南で封鎖したはずだ。


 他の道があるならば別だが、一応掃討されと考えていい。しかしもし、何匹か残っていれば。


 考えられるのは、地上のタイプと地下のタイプ。


 蟻型、蜘蛛型、ムカデ型。


 ただ、体力が尽きて森のなかで休んでいるだけならいいが、異形のモノに攫われたとなればやっかいだ。


 出会っていきなり即死か、もしく保存食のように拘束されているかもしれない。


 可能性がゼロでない以上、考えた上で動く。


 レイモンドは癖になっているのか、武器で体を斬りつける用意までしている。


 既に身に着けている武器や防具が異界のモノであって、それで斬り、防げるというのに。


 そして入り込む森の奥。


 ドロドロの地面に足を取られないように、木々の根を足場に移動する。


 地面は随分と水分を含んでおり、まるで沼地だ。


 匂いはこちらからだが、ニアスが自分で入りこむとは思えない。


 異形のモノの感じが強くなるが、しかし、異形のモノの気配を感じない。


 また新種なのかと身構えつつ進み、そして、それは居た。


 異形の蜘蛛。


 前に戦った蜘蛛型とは違い、背中に妙な模様がある。


 糸で巣を作っているのは同じだが、人を喰らう方法が違うらしい。


 人型のまゆが多くつくられ、恐らくは捕らえられた人が入っていたのだろう。幾つかがしぼんでいるのは、中身が喰われたから。しかし、人型だったろうまゆは、まるで風船がしぼんだ様になっている。普通の蜘蛛でも居る。餌を捕らえ糸で巻取り保存し、その餌を消化液で溶かして吸うという蜘蛛。


 この異形の蜘蛛は、それの大型版だろう。


 しかし、この距離でもまだレイモンドの感覚には、蜘蛛が見えるだけ。


 異形のモノが居るという感覚が来ない。


 煩悩のせいなのかとも思うが、それだけで、これだけ鈍るとは思えない。


 そして、ニアスは大量の妙薬を体に付けていた。


 この人型のまゆの中に、ニアスが入ったものがあるのだろうか。また、ガインが助かったのは、妙薬ではなく石灰だったからだろうか? それとも蟻型には効くが蜘蛛型には妙薬が効かないということなのだろうか。


 視界的にも不自然。


 目の前に居るはずなのに、なぜか後ろの景色に溶けこむ。


 背中の模様は特徴的。だから、後ろの景色に同化することはありえない。しかし、ぼやける。


 模様自体が、人に幻視効果をもたらすものかもしれない。


 レイモンドが足の裏で軽く糸に触れる。


 蜘蛛はピクリと反応するも、それ以上動かない。そしてレイモンドは、この糸も自分が乗れる事を確認した。


 ならば、と。一気に攻撃に転じ、そして、離脱。


 一撃を入れ、即死じゃないとしても傷をおわせる。


 体液に毒があれば、それで解る。斬ることで自分にも飛沫が飛ぶからだ。


 敢えて飛沫を避けずに、手の甲で受ける。


 溶解作用は無し。ならば口か尻尾の部分から溶解液を出して吸うという感じだろうか。


 どこから溶解液を出すか、また毒を持つか、それを確認しなければならない。


 倒すだけなら頭をかち割ればすぐだろう。しかし、わかっていれば同じタイプに出会った時に、対処しやすくなる。


 こんな自分の村の近くで、蜘蛛型とやりあうはめになるとは思わなかったが、逆に見つけられたのが行幸。


 シュリアさえ、こいつの存在に気づいてないのかもしれない。


 最初の一撃を入れてからの防御の体制と攻撃の仕方を見るに、以前の蜘蛛型と動きは同じ。ただ、こいつは音もなく前後に動くのが速い。


 傷はもう少し深めに入れるつもりだったが、それほど深く入っていなかった。


 まゆの中の状態が、ただの仮死状態ならいいが、入ってるだけで溶けるとかなら厄介だ。


 攻撃に溶解液を使ってこないとすると、捕まえてまゆに包む時に既に注入してる可能性もある。


 餌が溶けきるのを待ってから吸って喰らうタイプという可能性もある。


 ――よし、早めに倒そう。


 レイモンドがそう決め、動く。


 地面を蹴り、そして、蜘蛛自信が作った糸の階段を駆け上り、レイモンドの一撃が蜘蛛を斬る。


 避けはするも、斬れる。だが、速い。


 流石に足が多いだけ有り、移動にも必ずどれかの足が糸を掴み、方向を変える。


 妙に手強い。


 長引いた戦闘も、蜘蛛型の足を斬り落とし、また糸を切ってたるませることで逃げ場を失わせ、そして、倒せた。


 怖さで言えば、最初に戦った蜘蛛型の方が怖かった。


 何をしてくるかわからないのが、一番怖いのだ。知識があればあるほど、戦いは有利に運べる。


 レイモンドにもケガはなく、あとは捕まっている人を救助だ。


 異界の武器で薄っすらと切込みを入れる。


 どのくらいの厚さでまゆを作っているかわからないのと、どこか一部でもピッタリ作ってあれば、人を傷つけてしまう。だから、まず浅くなのだ。


 そして、レイモンドは見た。


 捕まっている殆どの人が、溶けている。


 ウツボカズラに落ちた虫の様に、溶けてしまっている。


 そして、その人たちの中に、ニアスもいたようだ。


 体の部分は溶け落ちては居ないが、皮膚はただれ、手足は動くこともない。


 声をかけても反応はなく、抱き起こすと眼球がこぼれ落ちる。


 捕まった時点で毒を注入されたのだろうか、それともまゆの効果か、糸に包まれたら終わりらしい。


 そして、レイモンドの足元に落ちる、ニアスが大切にしていた箱。


 結局誰に届けるかも聞けなかったが、恐らくは王都の誰かだろう。


 箱は溶けずに、しかし、形は変形している。


 とりあえずと手に取るも、やはり少年らしく興味が湧いて中を見てしまう。


 八角形の金属の固まり。


 触ろうとした瞬間、なにか嫌な感じがした。


 そのまま触ると、ダメな気がする。


 歪んだ箱を好奇心を押し込め閉じて、袋にしまう。


 そのまま置いていってもいいが、誰かがこの嫌な感じの犠牲になると思うと、自分が管理しようと思った。


 また、持って帰ればシュリアが何かを知っているかもしれない。


 知っていれば、そのうえで、本来の持ち主のところに持っていけばいい。


 レイモンドは、それを聖鎧としらずにバックパックにいれ、ニアスの追跡から近隣の様子を見るという目標に切り替えてラースアムの村へと向かった。






 第三勢力は、ようやく産声を上げた。


 王都に比較的近い町に拠点を置いていたが、産声を上げた町はさらに遠い町だった。


 旗揚げした時、既に拠点の町には普通の住人はおらず、前線基地と化した。


 一歩下がった位置に王の座を置き、そこを本拠地として設定して王軍を置き、前線基地からの進軍を第三勢力が担う。


 王はまた後ろかと言われそうでもあるが、衰弱しきっている王を先頭にすることは出来ない。


 御旗として掲げられた王の旗。それを掲げるのはルナ達第三勢力。


 しかしそれは、第三勢力としての名前ではなく、”王軍”である。


 王軍の別働隊として名前を仕立て上げ、そして旗揚げしたのだ。


 すでに勝敗は決している。


 勝敗が決してるからこその、旗揚げだ。なぜか。それはもう反乱軍の殆どは瓦解し、軍としての体を保っていない。


 王都を取り返し、王政を復活させる。


 そして、王軍を立て直す。


 王軍の残党として各地に残っていたものも、旗揚げを聞けば参戦するかもしれない。いや、せざるを得ないだろう。


 そのためには、第三勢力が発起したのではなく、王軍が再び立ち上がったという形でなくてはならない。


 王のための、王政のための軍なのだ。


 一時的に第三勢力の騎士達が王政を担うが、しかし、上位の騎士や領主の生き残りは居る。


 反乱軍が征したと言っても、機をうかがい、身を潜めている者たちも居るはずだ。


 卑怯と呼ばれるかもしれない。しかし、それも策略としてとらえる。


 例え、王に疑念を抱いた者であっても。


 例え、領主に疑念を抱いた者であっても、だ。


 旗揚げの時を得て、第三勢力の先頭を進むルナは王都に向かって呼びかけていた。


「降伏せよ」


 反乱軍は、相手を降伏はさせずに王都に入った。


 無血開城と言っても、騎士も兵士も居ない状況だったからだ。


 民衆達を従え、あたかも戦に勝利したかの様にのさばっていた。


 そしていま、王軍は王都の正門前にあった。


 王都への行軍は長く、そして、勇ましかった。


 しかし、反乱軍と思しき者たちは、抵抗もせずに道を開ける。


 反乱軍は無血開城では有ったが、そこまでは屍を越える戦いであった。


 しかし、今の状況は違う。


 王都の正門まで、行軍を成して進んできただけ。


 反乱軍が抵抗を諦めるような大軍だ。


 反乱軍としていたものは王都で、町で酒を飲み、惰眠を貪り、享楽に興じていた。


 噂の鎮圧に回っていた者もいたが、処刑に恐れた民衆から金品を巻き上げる様な状態。


 金品を巻き上げるために、噂を流したとでっちあげるのだ。


 そういった者達が増えることで、王政に不満をもち反乱軍に意趣返しした者も、発起に参加した。


 反乱軍に密かに敵対心を持っていた者たちも、立ち上がる。


 恐怖を打ち払い、自分達の自由を勝ち取ろうと。


 王政に戻るだけの話なのに。


 昔に戻るだけなのに。


 みな、新しい国に夢を見、今までのことを忘れているかのよう。


 ただ”新しい”に夢を見ているだけのようだった。


 常に”今”が不満な者たちの力が集まり、王都はまた、無血開城された。


 また、昔通りの今を始めようとしてる。




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