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継ぐ者  作者: 犬神弥太郎
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先見

 ニアスと別れた後、しばらくは狩猟小屋の周りを確認していたレイモンドだったが、特に動きもないということで、別の場所の確認に移動した。

 

心配ではあるが、行き先も口外出来ないとなれば、レイモンドが居れば逆に行くに行けないかもしれない。しかし、無理やり出て行ってしまうかもしれない。


 一人になることで落ち着けるのならば、後で様子を見に行こうと決めて、レイモンドは村へ戻る。


 村は、やはり盛況だった。


 人通りが多いのはいいのだが、村の様相を呈していたのが、まるで町の様だ。


 村と町の違いは、領主や騎士が決めるだけ。


 人が多ければ町、少なければ村だ。


 町と呼ばれれば近隣の村からの中心となり、人の流れも増える。


 町には常時、市場などが多く、人で溢れている。


 そして村は、人が住んでいる場所。と言った感じだ。


 町にも人は住む。しかし、町に住む人々は、町で店を持ってる人が多い。


 町として領主に示された場所は、それだけで、その地域の中心となるのだ。


 それゆえ町は、一定の距離を離れないと、次の町はない。


 町と町の間にあるのは、村となる。


 そして今、この村は、町の様な賑わいを得ている。


 もしかしたら、町が壊滅してるのかもしれない。


 この村の名前はラースニア。領主ラースから名前を貰い、町はラース。


 そのラースが壊滅してるのであれば、人の居る村の方へと、人は流れる。


 村の繁栄は嬉しいが、一度ラースの様子を見に行く必要があるとレイモンドは感じた。


 北東にあるラースの方向から来る者もいるが、特に逃げてくるわけじゃない。


 しかし、もし壊滅しているのであれば、原因はなんだろうかと不安になる。


 壊滅ならば、余波は必ず来るはず。そして、壊滅した事と理由は伝わってくる。


 異形のモノが一度通って壊滅したのなら、その方向から人が来るはずもない。


 壊滅して、復興したとしても、何らかの理由で元通りになっていないとすれば。


 異形のモノが隠れているのであれば、それを倒す。


 野党等が陣取っているなら、それを正す。


 戦う必要がある場所なら、自分が行く。


 そんな考えを浮かべながら村へ戻ると、やはり入口近くに酒盛りをするガイン。


「よう、見回りご苦労さん」


 愛想笑いをしながら横を通りすぎようとしたら、首根っこを掴まれた。


「あの娘、ほんとに嫁さんだったんだなぁ?」


 妙に嬉しそうな顔。嫌な予感しかしない。


「お前がそこまでシスコンだとは思わなかったぞぉ」


 そこか、そうくるか。今更言われるとは。流石にレイモンドは苦笑しか出来ない。


 どう反論しても、シュリアがリリにそっくりなのは、言い逃れしようがない。


「どうやって、あの娘を口説いたんだ? ん? ん? おっさんにも教えてくれよ?」


 酒臭い顔を近づけられて、レイモンドは流石に困ってしまう。


 シュリアは上手に親に説明していたが、あまりに饒舌すぎて、内容を覚えきれていない。


「リリちゃんは確かに、村で一番可愛いからなぁ。そっくりな娘を見つけるのは大変だったろ?」

「見つけようとして見つけたんじゃないよ」


 言っても無駄だろうとレイモンドは諦めていた。


 もう苦笑まじりで答えるしか無い。


「食堂も、リリちゃんと、お前さんの嫁さんで大人気だぞ」


 からかいたくてしようがないという顔をしている。


「片方がお前さんの嫁って話をしたら、全員に睨まれるだろうなぁ? ん? ん?」

「頼むから勘弁してください」


 余りにひどい絡みにレイモンドは落胆して膝をついた。


 本当に、戦闘の時のほうが楽そうだ。


 絶対に食堂には行けないなと思いながら、なんとかガインを振り切る。


 さすがに戦う時の力や速度を出したらまずいので、そこそこに。


 家に着くと、母親だけが居た。


「ただいま。父さんは?」

「畑に行ってるよ」


 家に入って聞くと予想通りの答え。


 母親もいつもは作業場で留守だったはず、と思いながら自室に向かう。


「母さんねぇ、妙薬の影響が出ちゃって、やってたあの仕事出来なくなっちゃったよ」


 妙薬の影響。


 それは、人によって出たり出なかったりする症状だ。


 妙薬には傷の治りを早める効果がある一方で、強烈な匂いを放つ。


 その匂いに普通の人は耐性を持てるが、極稀に、匂いで気を失ってしまう人が出る。


 誰もが最初はきつい匂いとしか思わないが、数年と嗅いでいるうちに匂いに当てられる様になってしまう症状。


 村でも数人の女性がそうなり、その場合、作業場での作業はできなくなる。


 たいていの場合は、妙薬の原料を取りに行く仕事や、他の仕事を任される。


 洞窟に入ってしまえば大丈夫だが、そこまでに野生動物に出会う確率が上がる。集団で行くため危険性は少ないが、やはり年齢が高いほど危険性は増す。それゆえ、その後、妙薬の仕事を続けるかを問われるのだ。


「それでね。きっぱり辞めてきた」


 レイモンドの母は辞職する事を選んだらしい。


 母が自分にだけ言うはずもなく、父には相談済みだろうと解る。


「今までお疲れ様でした」


 レイモンドは父に教わったしっかりとした礼で、母に向かって労を讃えた。


「ありがとうね」


 母も満面の笑みで答える。


 だがしかし「孫の顔が早く見たいわぁ」の一言で、レイモンドが固まる。


 ここでも来るのか、と。


 これはニアスさんをしっかり送っていくしか無い、と心を決めた。


 単に、時間稼ぎである。


 同時刻に、シュリアが食堂で皿を割ってしまっていた事は、レイモンドに知る由もない。


 食堂で、手伝いというか働いているシュリアとリリ。


 たまたま買い物に行った母親が、通りすがった食堂の店主に頼まれたのだ。


 リリに店の手伝いをして欲しい、と。


 母親も自分の血を引くリリが、妙薬の影響が出るかもと心配し、話をしてみると答えていたらしい。


 そして、その手伝いをシュリアもやると言い出したのだ。


 村の外から来る客も、また、村人も食堂で食事をする。


 ラースニアの村も、やはり物々交換が主体だが貨幣でのやりとりもある。


 食堂は数少ない貨幣での支払いが出来る場所だ。


 村に店と呼べるものが少ない事もある。また、近場で狩りで獲れた動物や山菜なら良いが、遠方からの食材調達等で、貨幣でやり取りしないと行けない部分が多数あり、店となると貨幣でのやり取りが普通になる。


 個人がやっているような小さい店では物々交換でも貨幣でも大丈夫だが、ラースニアの食堂は以前と比べて人の出入りが激しくなり、貨幣での支払いが主になっていた。


 他に貨幣を扱う、食べ物を扱う小さい出店もある。しかし、食堂の人気が高騰している。


 美人姉妹がウェイトレスをしている食堂。という状況もあるだろう。


 確かにシュリアの営業スマイルは一級品だ。そして、リリの笑顔は初々しい。


 客から見れば、相当に華やかだろう。


 場末ともいえる地方の食堂で、これほどの美人が揃ってるところは、そうそうない。


 リリに手伝いを頼みたいと言った店主もまた、美人だった。


 他にもウェイトレスは居る。リリやシュリア程ではないが美形である。


 店主は、とりあえずフロア係は顔で選ぶ、と豪語していた。


 母親の手伝い、という事で作業場に行っていたリリは、当時はまだ幼く、母親の手伝いというよりも、母親が一緒に居られるようにというガインの心遣いでも有った。


 母親に妙薬の影響が出始めてからはリリは家に残り、完全に影響が出ていると解ってからは、母親は管理職的な仕事をしていたために、リリは一人で家に居た。


 今でこそ、ウェイトレスの仕事をこなせているが、少し前までは家の外に出るにも母親のスカートの裾を掴んで、というくらいだったのだ。


 リリが何故働くという気になったかはレイモンドの知るところではないが、心配した親の気を汲んでシュリアも行くと言い出したのだろう、と思っていた。


 店ではリリが少しの失敗をしようにも、全てシュリアがフォローし、ほとんど失敗はない。


 普通に動いてる様に見えて、一番効率的に動く。


 移動にしろ何にしろ、身のこなしが違う。


 ともすれば、舞っているかの様に、しかし、大げさな動きは一つも無く、そして、簡潔。


 全体の状況把握も完璧で、全員の動きを先読みしてるんじゃないかと思えるくらいだった。


 リリが自信を無くさないようにとの配慮も欠かさず、教えるように働く。


 リリが「こういう所で働いた経験あるんですか?」と聞くと、普通に「うん、もっと忙しいところだったよ」と答える。しかし、実際は戦いで培った動きだ。


 確かにシュリアは暗殺の際に店員に化ける等もあった。しかし、あくまでも暗殺を行うまでの短時間だ。


 さすがに長時間、こういった仕事をしてたという経験はない。


 そして、店の中を全部把握してる上に、レイモンドの動きも探る。


 村の外に一人で見回りに行ったのは良いが、あのお人好し加減だ。誰かに騙されたりするかもしれない。


 騙されたり、攻撃されたりしても、ある程度はレイモンドの対処能力なら大丈夫だと知っている。だが、色仕掛けしてくるようなのが居て引っかかられたら困ると、昔なら思わない様な事を考えていた。


 そんな中、ニアスに出会って助けてるのを感じたのだ。


 シュリア自信も、音でなのか、それとも何か違う能力なのかは、解っていない。


 ただ、昔からできる察知能力。


 それで休憩を貰って、食事と薬を届けた。戻りながら医者によったが、断られたので道具を借りた。


 素人に治療は無理と言われたが、傷口を消毒して縫う等と処置方法を言うと、妙に感心された。


 傷に対して痛いや動かない、また、なんとかしてくれという患者は多い。しかし、対処法を言う者は珍しい。知らなければ言えない事だ。


 そしてまた、食堂の様子を見てから狩猟小屋に行き、ニアスの治療をしたのだ。


 医者に寄り道具を返すと、使った後を確認されて感嘆された。


 しっかりと”証拠”を消して戻す癖で、道具が使いっぱなしじゃなくて消毒済み状態だったこと。


 医者も道具を貸して、これほど完璧な状態で元されたことなど無かったのだろう。


 それ故、戻された時に確認したのだ。


 助手になってくれとせがまれるも、遠慮したかの様に逃げ出し、食堂に戻った。


 そして、食堂で仕事を続けていたのだ。


 持ち前の能力を活かして仕事をこなしていくシュリアに、やはり注目は集まっていた。


 先輩たちのウェイトレスにも、リリに風当たりが強くならないようにと、しっかりと媚を売る。


 根回しや立ち回りの部分で、まったく隙はない。


 そして働きまくっても、戦闘よりも遥かに楽な仕事だった。


 しかし、レイモンドの様子はしっかりと察知し続けていた時に、母親のあの発言である。


 思わず顔を紅潮させてしまい、あわてて皿を落としてしまった。


 相手を籠絡させる。そういう仕事であっても暗殺対象。


 相手がその気になった時に殺す事はあっても、情事は未経験であった。


 そして、例え情事があったとしても、それは今までのシュリアだったら気にもしない事だっただろう。


 だが、母親の言葉を察知し、そして、自分が家に帰った後の事を想像したら固まってしまった。


 今までが完璧過ぎたのだろう。逆に、失敗で店のみんなが、シュリアに親近感を感じたようだった。


 シュリアは店で働く心地よさを感じてはいたが、帰った後どうしよう、と柄にも無く……いや、初めての本当の家族という関係に緊張していた。






 ヴィータスの謳は既にテラスから枯れ、反乱軍は暴徒となった。


 議会も集まらず、国政はほとんど放棄されている状態。


 自らが望んだこと以外の事を、する気が無かった者達だ。


 自分達が望み、求めた事が実現されれば、あとはどうでもいい。


 民衆のためと言いながら、自分達の事だけを推し進めた結果は、今の混乱だ。


 そして、自分達が望む以外の国政は、誰かに任せれば良いという者達。


 誰かに任せれば、誰かがやるだろう。そして、自分は自分が望む物を手に入れる。


 そういう風にして生きてきて、下級騎士の身分では手の届かない物を見た時に、反乱という甘い言葉に乗せられた者達。


 それが議会を構成している者たちだ。


 そして、ヴィータスの甘い言葉に乗せられ、軍を出し、王都を占領し、そして、地位を得るために議員となった。


 ヴィータスが考えたことを、伝えるだけの簡単な仕事だ。


 しかし、そのヴィータスが失踪した。


 つまり、逃げ出したのだ。


 理由は簡単だ。自分の謳を聞かない民衆に、愛想を尽かした。


 ただ、それだけの理由で、国を放棄する支配者。


 愚者の極みとも思えるが、それに乗せられ、国を揺るがした者達は困惑した。


 自分達の支配者が居なくなる。


 支配欲の有る者ならば、それならば自分がとしゃしゃり出て来るだろう。


 だが、そんな気概がある者は居ない。


 ヴィータスが責任を議会に押し付けようとしていたように、議員達もヴィータスに責任を求めていたのだ。


 ヴィータスは、ある意味、責任を果たしていた。


 謳いあげ、民衆を騙すことで、反乱軍の正義を信じさせていたのだ。


 最初は誰もが魅了されたヴィータスの謳には、次第にほころびが生じ、そして、破綻した。


 誰もが望む社会等、有りはしない。


 誰かが望む物を手に入れれば、誰かが失う。世界は、それの繰り返しだ。


 失うことで、新たな欲を覚え、そして、手に入れる。


 失うことは負ではなく、正でもない。ただの事実。


 だが、誰もが失うことを恐れる。


 失った後のことではなく、失う前でもなく、失うという事実を恐れる。


 そして、手に入れた物を抱え込む。


 失わないように、と。


 まるで失う事が悪いことの様に。


 終わりは、次の始まりを意味する。


 次の始まりは、終わりが来ることを意味する。


 常に繰り返すはずのそれを、人は恐れる。


 王政も終わり、そして、反乱軍は勝利を手にし、始まりを得た。


 いつかは終わる始まりを得て、そして、その終わりはヴィータスの失踪という形で始まった。


 底辺から瓦解し始めた反乱軍は、いま頂点も瓦解し始めている。


 第三勢力が待ち焦がれた、時期だ。


 準備さえ整っていれば、今がその時。


 王都に、王宮に入り込んでいた密偵達は、時期を感じ動き出していた。


 シュリアの居た村の者も、密偵の中にはいる。


 議員の中にも気概のあるものは居るには居る。そういった者は瓦解を止め、そして立てなおそうとする。それを暗殺して止める。


 誰にも見咎められること無く、そして、誰にも死んだと悟られぬように暗殺する。


 そう、ヴィータスもまた、暗殺されていた。


 すでに死体さえも無い。


 死んだことすら知られずに、消えていく。


 次は誰の順番かと、恐れる者も居ない。次はどうなるのかと、考える者も居ない。


 世界という重圧に怯えるだけの者が残り、支配者の資質がある者達だけが消えていく。


 グレッグ達シュリアの居た村の者は、反乱軍に追われた。しかし、これはその返礼ではない。


 第三勢力からの、依頼である。


 第三勢力が旗揚げし、王軍を推し進む際に、邪魔になる人間を消してくれ、と。


 ルナが依頼したわけではなく、それを依頼したのは計算高い後ろに居る者達。


 ルナを筆頭に正しく王政を取り戻すと考えている者たちとは、一線を画する者達


 成功のためには、なんでもする。


 そういった者達が依頼主。


 ルナ達を応援する裏で動く、どす黒い思惑。


 ルナ達はまだ知らない。ヴィータスが暗殺された事も、議員達が暗殺されることも。そして、ルナの身にもいずれ、刃が向くであろうことも。






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