孤独と餞別
蟻型の異形のモノ、空を飛ぶ異形のモノ。そして、まだ見ぬ未知の異形のモノ。
レイモンドはシュリアと別れた後に、大量の敵の中に突入していた。
まるで、異界。
一体この地域でなにがあったのか、南の道の近くよりも数が多く、そして種類も多い。
蟻型と空を飛ぶものが居るのは見える。しかし、他にも居る感じがする。
蜘蛛型ではなく、別のモノだ。
他にも道が出来たのだろうか。それとも、元々眠っていた異形のモノ達が地震で目覚めたか。
蟻型も、他の地域にいたモノと違い、毒を持つ。
普通の毒であれば、多少はなんとかなるだろう。しかし、特性は血液の凝固阻害。
血液を武器に変えていたレイモンドにとっては、一番厄介な相手かもしれない。
既に何度か噛まれ、全身血まみれだ。自分でえぐり毒を抜いても、きりがない。
自分で噛まれた傷をえぐる。もちろん激痛だ。しかし、それ以上に放って置けば失血死。
血で出来た刃で、毒を持つ蟻型の胴体を斬った時に迸った体液を浴びたが、それには毒性は無いようだ。だが、気持ちの良いものではない。
胴体を両断しても、頭部の部分はまだ動く。
頭部の部分に毒の牙を持つ蟻型は、倒しづらい。
また、他にも居た。
空にまばらに見える影は、蛾だ。
巨大な、異形の蛾。
おそらく蛾では有ると思うが、見ようとすると舞い散る鱗粉が目を刺激する。
直視できず、蟻型を倒すことに集中する。
そして、悪寒の正体は、まだ見えない。
どこかに居る。どこかに居る何か。
それが何かがわからず、レイモンドに焦りが生まれていた。
ここまで、蟻、蜘蛛、蛾。
全て巨大な虫だ。
子供の頃から山林などで遊んでいたレイモンドにとっては、小さい昆虫たちは見知ったもの。
だがしかし、これほど大きいと、人間にとってこれほどの脅威になるとは。
そして、小さな蟻は例え踏んでも死なない。強く踏みにじりでもしないかぎりは、潰れない。
その頑丈さが、このサイズになれば騎士の剣を弾き返す。
だから、異界の武器で戦った。しかし、それは既にシュリアに返した。
今は自分のこぶしと手刀、そして、血で出来た刃だけが頼りだ。
あの武器を自分が持っていれば、シュリアは恐らく自分と共に居ないといけないんだろう。
あれほどの武器ならば、村の宝であってもおかしくない。
近接用で誰も使えないという話だったが、シュリアの様な使い手が居れば十分だ。
それを自分に託したということは、自分は実験台か何かか。
別にそれでも良い。実験台でもなんでも、武器を使わせてもらった。
シュリアも自分を観察していたのかもしれない。武器の性能を含めて。
そして、しかし、自分に人間として接してくれた。
化け物になった自分に、人間として接してくれた。
だから、シュリアも守る。守るものが増えれば増える程、死ねないと思う。
戦いに身を投じさせない為には、武器は返すしか無かった。
だが、良い。それで良い。
化け物の相手は、化け物がすればいい。
俺は化け物なのだから、と。
決意はレイモンドの速度を上げ、そして、力を増させた。
手刀は蟻型の頭部を刺し貫き、その毒は手に出来た傷から染み入り、手に出来た甲殻を弱くする。
甲殻は固まりきれば毒に溶かされない。しかし、手の皮膚は常に動いている。それに対して硬化した甲殻とは常に粘性状態の血で張り付いていた。
それが剥がれる。
何十匹という蟻型を残骸に変えたレイモンドの手は、すでに刃は無く、傷だらけで血だらけ。骨が見えてる部分まで有る。手の痛み
みは、毒のせいか、それとも傷や肉をえぐられたためか。
既にこぶしを握り続けるのも苦痛。
一時的に手に布を巻いても、敵を貫く際に剥げ落ちる。僅かな気休めにもならない。
だが、その気迫は衰えない。
シュリアの面影とリリの面影が重なる。
守る。
その気迫が、気概が、異形のモノ達を圧している。
何度かにぎろうとするこぶし。しかし、既に小指近くの肉が削げ落ち、神経が切れたのか、小指が曲がらない。
左右のこぶしを合わせるかのように無理に曲げ、こぶしを作る。
まだ行ける。まだ戦える。
守るものがある限り、倒れない。
守るものがあり限り、負けられない。
勝てなくてもいい。負けなければ。
死ななければ、立てる。立てるならば、戦える。
レイモンドの一歩は遅い。しかし、その気迫が異形のモノ達を圧倒する。
空を飛ぶ蛾も襲っては来ない。
他の悪寒の正体も、姿を見せない。
まだ抑えられる。
視線は、正面と上空の敵を常に捉え続ける。
しかし、レイモンドは大量の敵を倒した事で、注意を怠っていた。
レイモンドが立つ場所は、既に地面ではなく、異形のモノの残骸の上。
異形のモノの残骸の中に、まだ生きてる上半身だけの蟻型。
既に倒したと思い込んでいたそれには、注意を怠った。
飛びかかってきたそれを間一髪で跳ね除けた瞬間、前にいた蟻型が何匹も飛びかかってきた。
殴り、貫き、蹴り、そして、殺す。
流石に隙が出来る度に襲い掛かってくる異形のモノの量に、自分の命の最後が見えかけている。
だが、負けない。
勝てなくても、絶対に負けない。
毒が体中にまわっているのか、動きが鈍い気がする。
負けたくない。絶対に、負けたくない。
地面に僅かな振動。
飛び退ると、そこから蟻型の頭。
また足を狙われた。
さすがに今、足を止められるとまずい。
レイモンドは、しかし、自分の動きが不思議だった。
なぜか、痛みが薄らいでいる。
耐性か? それとも痛覚までも麻痺したか?
自分が構える手をちらりと見る。
血は、凝固していない。まだ、凝固の妨害に耐性はできていない。
そもそも耐性が出来るのかも解らない。
自分がそこまで変異するならば、異形のモノと同列だろうか。
蟻型が何匹も周りを囲む。
レイモンドは自分の手首に、落ちてる残骸から尖そうな部分を掴み、刺した。
激痛。しかし、その手首に刺した敵の腕を握り、剣として使う。
こぶしは握っても緩む。しかし、こぶしを握ろうとする筋肉は動く。
その筋肉で無理やり固定し、僅かに動く指で固定し、敵を薙ぐ。
まだ指の動く左手で、敵の頭部から引きちぎった毒の牙を、相手に突き立てる。
まだ戦える。
だが、まだだ。まだ何か居る。
悪寒の正体が出てきて居ない。
出てきて、勝てるだろうか。いや、負けなければいい。
負けなければ、いつかは、勝てる。
生きている限り戦い、負けなければいい。
シュリアやシュリアの村の者達も、ここを訪れるかもしれない。
その時のために、少しでも数を減らす。
シュリア達が勝つために。
例え自分に殺意が向けられようが、どうでも良かった。
自分を人間扱いしてくれて、そして、自分が守りたいと思った相手。
その相手がそれを知らずとも、少しでも役に立てば良い。
レイモンドは笑っていた。
笑える状況だろう、これは。
ただの農夫の息子が、何だこの状況は。
村では小僧扱いされてた自分が、なんだこの戦いは。
化け物になることで、初めて勇者みたいに戦える。
化け物になることで、初めて誰かを守れる。
傑作だ。これが笑えない状況なはずはない。
レイモンドは自分の手に刺した敵の腕を振り回し、また、握った牙を突き立てては敵を倒していく。
武器ならいくらでもある。
そこら中に散らばっている。
それに「俺自信も武器だ。」と感じる。
息も絶え絶えだが、まだ行ける。
まだ、倒せる。
レイモンドは退かず、進む。
異形のモノ達に恐怖をしらしめたのか、圧倒しながら。
そして、それを見る者はいた。
去ったはずのシュリア。そして側に控える男。
「いかがされますか?」
シュリアの側に居る男の発言だ。
気づかれないほど遠い場所から、レイモンドの戦いを見ている。
シュリアは黙ったまま。
もうどのくらいの時間が過ぎたのか、レイモンドの戦いを見続けている。
その手には、レイモンドから返された武器の入った袋。
男はしばらくして、再度「いかがされますか?」と繰り返した。
何度目の質問だろう。だが、何度聞いてもシュリアは無言のままだった。
いい加減苛立った男が、立ち上がろうとした時、シュリアはようやく口を開いた。
「何もしない」
シュリアの口調は冷徹だった。
やはりレイモンドと居る時と、違う。
厳しい眼差しが、レイモンドの戦いを観察する。
「一体、何を考えているの……」
それは、自分を追い返した事だろうか。
一人で、死地に向かったことだろうか。
「それにしても一人で武器も無しに攻めこむとは……」
男も遠目に見えるのか、呆れるように、馬鹿にした様に言う。
「浅はかというか、単純というか……」
言葉の最後には、必ず苦笑している。
「あれでは、生き残れませんな」
男の言葉が届いていないのか、シュリアはレイモンドを見続けている。
「今回は、武器も回収ですね。報告は如何なさいますか?」
シュリアは男を一瞥した後、わずかに斬りつけた。
「口数が多い」
男の頬に糸のような切り傷が付き、そこから血が流れる。
それ以降、男は沈黙した。
沈黙したまま、シュリアと共にレイモンドの戦いを見る。
死を賭した、まるで、シュリアに全てを見せているかのような戦い方。
シュリアに、だろうか。誰かに、かも知れない。
どんな異形のモノがいるのか、それを見せようとしている。
どんな戦い方が有効なのかを、それを見せようとしている。
自らの腕に敵の腕を刺し、それを武器に。
敵の毒は、その敵にも効くか試すかのように。
何もしないと言ったシュリアの手に、力が入る。
一緒に居る時ならば助けに入っただろう。だが、何もしない。
しかし、もし何かしようとしたとしても、何が出来るだろうか。
他のところに居るような蟻型と違い、毒を持つ蟻型。空を飛ぶ蛾型、そして、別の何か。
それら全てが、今レイモンドに敵意を向けて迫っている。
そして、レイモンドは全てを受け止め、戦っている。
気迫ではレイモンドが圧しているが、数では圧倒的に敵だ。
普通の人間が、この戦場で出来ることはあるだろうか。
例え相手を傷つけられる武器があろうと、未知の敵の中で何が出来るか。
レイモンドは、それをシュリアに見せようとしているのか。
まるで、敵の攻撃を敢えて受け、効果を見せているかのような。
しかし、反撃はしている。だが、それも限界を遥かに超えた領域。
シュリアの表情は硬い。
凝視するそれは、見届けようとする意志を感じる。しかし、同時に悔しさも。
命を掛けて、誰かに何かを伝える。
誰も見ていないかもしれない。けど、出来ることをする。
レイモンドが言いそうな事だ。
「帰るわ」
シュリアが、つぶやくように言った。
男が「はい」と返事した瞬間、男の首は宙を舞った。
シュリアの剣が、男の首を突然切り落としたのだ。
鮮血を吹きながら倒れる屍体。転がる頭部。
「あたしの夫を笑う者は許さない」
その台詞は、真か偽か。
男はその体は、武器を背負っていた。
背中にちょうど隠れるくらいの、そう、レイモンドが血を使って伸ばしていたくらいの剣。
シュリアは屍体から武器を剥ぎ取ると、鞘に収まったままのそれを持って駈け出した。
駈け出した方向には、レイモンド。
帰るのでは無かったのか、シュリアの方向は敵と戦うレイモンドの方向。
シュリアの認識の範囲ではあるが、異形のモノとレイモンドには気付かれない距離。
そこからシュリアは武器を、投げた。
声を掛けもせず、合図も何もない。
ただ、レイモンドに向かって投げつけ、次の瞬間には踵を返していた。
既にレイモンドには、その剣を握る握力は無いだろう。
レイモンドが感じた後ろからなにか飛んで来るという感覚。
攻撃じゃない。そう感じた瞬間、毒牙を捨てて手が伸び、それを受け取った。
毒牙を持っていた左手。握力は少しは残っている。だが、剣を振るうほどは無い。
その左手で剣の鞘をとり、柄を噛んだ。
口で剣を抜き、そして、敵の横を通り過ぎるように斬る。
歯に、あごに、痛いまでの衝撃。しかし、敵は斬れた。
柄に結んであった紐に手首を通し、簡易な盾代わり。
右手には、敵の腕が刺さったままだが、まだ使える。
自らを武器と考えたレイモンドには、似合いの格好かも知れない。
まだ生きろってことかと、レイモンドは呆れた。
シュリアの気配は無い。
感覚を研ぎ澄ませても、いる気配は無い。
どこかで見ているか、それとも再び脱出に成功したか。
安全な場所に居てくれるなら良い。
見たことのない武器。だが、シュリアだろう。
片刃の剣。
柄を噛む力が、レイモンドの踏ん張りに加わり、気迫を更に増させた。
シュリアはここまで予想したか、レイモンドは異形のモノにとって今天敵となっていた。
化け物というよりも、誰かが見れば魔物というかもしれない。
それほど鬼気迫る気迫。
僅かだが傷がふさがりかけている。
耐性。
凝固阻害の毒に対する耐性。
そして、今までのレイモンドになかった、武器。
残骸の上を進むレイモンドは、まさに、異形のモノにとって天敵に見えていただろう。
誰かの剣になれるなら、誰かの盾になれるなら。それがレイモンドの考え。
レイモンドが戦う。
剣は異界の剣。その切れ味は蟻型を簡単に両断する。
そして毒は、剣を溶かす事はなかった。
少しずつ肉体を再生させつつ進むレイモンド。その圧倒的な姿は、異形のモノにとっても脅威。
いつしか、レイモンドの姿も、異形のモノの姿も、夜の闇にまぎれていた。
闇から漏れ出るのは、異形のモノの残骸。
レイモンドの姿は、そのまま闇の中へと進んでいく。
異形のモノ達が待ち構える、闇の中へと。
ヴィータスの支配は、地方の領主にまで配下においた。
通貨をかえたのだ。
今まで物々交換でやっていた村などはわかりづらいが、王都で王が制定していた通貨を廃止し、ヴィータス達反乱軍が新たに定めた通貨しか利用できなくした。
物々交換ではなく、通貨で流通していた物は滞る。
王都に出向き、旧通貨と新通貨を換金しなければ、一文無しも同じだ。
ヴィータスは、換金の際には領主自ら王都へ来るように伝えた。
もちろん、元の王に与するならば処刑だ。
王であった者に手枷足枷を付け、ノコギリで首をひかせる。
反乱軍に与すれば、領主の地位は剥奪されるが、それなりの地位は約束された。
民衆には既に説明があった。今までの領土を知るものを全て死なせれば、それは未開の土地になってしまうと。
詳しい者を、今まで統治してきたものから権力は奪い、しかし、知恵は出させる。
その為に「古き者」という名称が用意され、反乱軍に与した領主に与えられた。
だが、古き者は権力は失えど発言力は持つ。
それゆえ、それなりの地位と言えど、下級であった。
発言は参考にされど、意見は無視される程度の地位。だが、領主たちは、それでも生き残れるだけで満足する者も居る。
恥も外聞も捨て、古き者として生きる道を選んだ領主は少なくなかった。
そして、領主が王に与した領土に対しては、通貨の換金は行われない。
通貨を得ずに、物を王都や反乱軍に与した領土に売るしか、新しい通貨を得る方法はない。
例え新しい国に反抗を続けようと、取引がなければ周りの領土からも物が買えず、また、全ての物を買い叩かれれば、戦うための物資も残らない。
王都の職人たちにとっては、新しい通貨を作る作業という仕事が増え、活気を得る。
そして、人々は口々に叫ぶ「反乱軍、バンザイ!」と。
その様を見ろし、ヴィータスは笑っていた。
「見ろよ。まるで世界が自分達の物になったかのように喜んでいるぞぉ?」
オペラの舞台に立つかのように両手を広げ、「全て俺の物なのになぁ」と続けた。
側近たちは何も言わない。
下手な事を言えば、死ぬ。
「抵抗してる領土は、後いくつだ?」
側近が「あと七つです」と答えると「まだ、そんなにあるのか」とニヤニヤとと笑い出した。
「いい考えが浮かんだぞ。ギリギリに追い詰めてから換金を許してやれ。ただし、換金のレートは千倍だ」
ニヤニヤしながら「怒り狂って文句を言ってきたら、即殺せ。追い詰めても換金を頼んで来なければ、そのまま殺せ」と続ける。
民衆の前では、オペラの歌手のように淡麗に理想を謳いあげる、反乱の指導者の素顔。
「御意に」
側近が一人、伝達に向かう。
残された者達には、緊張が続く。
どんな極悪な指示を伝えさせられるのか。
全ては議会が決めたこととされる。
ヴィータスの意志なのに、議会の意志として。
とうの議員達は、惰眠を貪り、富裕の海を堪能しているだろう。
全てはヴィータスの、さじ加減次第だった。
「いい気分だなぁ。ええ? おい、解るか?」
側近に問うが、側近は答えに窮する。
解るとも言えず、解らないとも言えない。
「あぁ? 答えろよ?」
蹴飛ばされても、踏みつけられても、側近は言葉に出来なかった。
側近を踏みつけながら「お見事ですって言えば良いんだよ」と唾を吐きかける。
「お、お見事です。申し訳ありません。言葉が見つかりませんでした」
踏みつけた足を離し「つまらんやつだ」と、またテラスへ。
高みから見る、自分が支配する世界。
ヴィータスがテラスに出る度に、喝采があがる。
「反乱の同士よ。高みより申し訳ない。だが、皆に声を伝えるために、今ここに立たせていただく」
ヴィータスはまた民が望む理想を、自分の野望にすり替えながら謳いあげていった。
そうやってヴィータスが歓喜に酔いしれている頃、レヴィアスの行軍は、籠城するはめに陥っていた。
南の海の道を塞ぐように作られた塔。そして、それを支えるように作られた城塞。
簡易的な城塞だが、戦場での塹壕よりはマシだろう。
そこに、北から援軍ではなく、反乱軍が襲いかかった。
反乱軍は普通の騎士と兵士、そして、異界の武器を持つ騎士。
レヴィアスも普通の騎士や兵士相手ならば、圧倒的な強さを持つ。しかし、異界の武器の前には盾も剣も断たれ、退くしかなかった。
鍔迫り合いになるかと思われた剣と剣の打ち合い。しかし、異界の武器はレヴィアスの武器を難なく切り裂き、かぶっていた兜の一部まで持っていき、返す刀でレヴィアスの盾も馬の首と一緒に両断された。
盾を前に出すように構えてたのが幸いし、怪我はない。だが、対抗するにも武器がない。
石壁さえも軽々と斬り裂く異界の武器。しかし、それを持つものは少数らしい。全ての石壁を崩すつもりは無いらしく、城塞の入口に反乱軍は殺到していた。
城塞の壁の上から雨の様に振る矢は、反乱軍の死体から回収され、返し矢となって城塞の中へと撃ち込まれる。
お互いにボロボロになった矢を撃ちながら、しかし、反乱軍は少しずつ城塞へと迫っている。
レヴィアス達、王軍の持つ武器は全て人間の世界のもの。もちろん、弓も矢も。反乱軍の持つ普通の盾でも防げるそれは、盾を掲げるように防ぎ侵攻する反乱軍の勢いを、僅かに削ぐ程度。
相手の攻めに抵抗する手段がなく、レヴィアスは騎士の誇りと、兵士達の命を天秤にかける事になっていた。騎士としては誇りをもって命を賭して戦う。だが、有志も多い現状の兵たちに、それを強要出来るのかと。
壁の建設という王命によって来た者も多い。そして、相手からの宣言では王は失脚し、反乱軍が勝利したと言う。ならば、王命は既に無く、また、王命に従っただけの有志達の命を、軽んじるわけにはいかない。
籠城の期間はわずかであった。
レヴィアスは自らの命を差し出す代わりに、他の騎士、兵士の身の安全を求めた。
僅かな戦闘で開城された城塞。
しかし、そこに聖鎧は無い。
聖鎧は反乱軍が来ると解った時点で、レヴィアスが持ち出させていた。
敵が触れでもすれば、いや、味方が触れても危険な存在である聖鎧。
厳重な箱に封印され、レヴィアスの腹心の兵が持ちだし、秘匿していた。
重要な命令とともに託されたそれは、誰にも渡してはならない。
その重要な命令とは「王以外には決して渡してはならない」と言うもの。
レヴィアスは反乱軍が来るという情報で、王都が堕ちたと確信していたのだ。
騎士無き、兵無き状態の王都。陥落させるのは簡単だろう。
反乱軍という言葉で、すぐにそこまで考えを進ませ、聖鎧を持ち出させていた。
レヴィアスにとっての計算外は、反乱軍がもつ異界の武器。
これほど早く、戦局が決まるとは予想を超えていた。
城塞の外の戦闘では、異界の武器を振るう反乱軍の騎士達が猛威を振るった。
圧倒的な尖端を築いた陣形が王軍を押し込み、そして弓の撃ち合い。
騎士と騎士の普通の斬り合いであれば、これほど早くに陥落は無かっただろう。
籠城し、領主たちが増援をくれればと考えた瞬間もある。しかし、反乱軍が王都を制圧したのならば、それは無理な考えだ。
自らの命を差し出すことで、最小限の血で戦いを終わらせられるなら。
レヴィアスは自らの騎士道から逸れず、自らの責務を全うすることを選んだ。
全ての責任は、上位の騎士である自分にあり、部下たちは指示に従ったのみ。
全てを背負う責任がなければ、騎士など務まらない。
己を律し、自らの首を差し出すことで、その証とする。
反乱軍の騎士や兵士達は、その姿に感服した。
さすが、王の腹心であられたレヴィアス様。と。
だが、そのレヴィアスは、自らの道を歩みながらも、無残に斬られた。
ヴィータスに異界の武器を託された一人が、出頭するレヴィアスの前に立ちはだかり、いきなり斬った。
誰もが唖然とした。
甲冑からして下位の騎士であろう異界の武器を持った騎士が、上位の騎士が敵に敬意まで抱かせる様な時に斬りつけたのだ。
レヴィアスは縦に斬られ、そして、縦に割られた首が、左右に離れ切る前に横薙ぎに斬られる。
どんな恨みがあるのかと思うような、そんな処刑。
「レヴィアスは、どんなことがあろうと、例え反乱軍が国を司ろうと、前王に忠誠を示すだろう。これは見せしめである。前王に与するものは全て処刑する」
高らかに宣言しているが、狂気にしか思えない。
反乱軍にさえも、動揺が広がっている。
怖気づき、こっそりと隊を抜け出ていく者さえも居た。
誰もが感じたかもしれない。人間世界の秩序の終わりの鐘を。




