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継ぐ者  作者: 犬神弥太郎
20/48

別れの始まりと虚構

 異形のモノの蜘蛛型。


 建物がある場所ではなく、森での戦い。


 隠れる場所があまりにも多い。しかし、それはこちらも同じ。


 蜘蛛型がどのような知覚を持っているかによって、隠れられる場所が変わる。


 森の木々に張り巡らされた糸に触れれば、すぐに自由を奪われるだろう。


 どうやって戦うか。


 レイモンドには接近戦しかない。しかし、相手には毒液を吐くという遠距離攻撃がある。


 毒液にレイモンドは耐性を持った。しかし、レイモンド本人はそれを知らない。


 地面を溶かし、建物を溶かしたイメージ。


 噛まれた傷口から流れ込んだ毒と溶解液。それが焼けるような痛みとともに神経の感覚を奪い、レイモンドの意識を刈り取った記憶。


 正面からの戦いは避けたいが、あれだけの速度と感知能力を持っていれば背後に回りこむ事は難しい。


 シュリアは遠くから見るように指示した。


 弱点を見つけてくれ、と。


 心配そうに、最後まで一緒に戦うと言ったシュリアを説得するのは時間がかかった。


 リリもそうだったな、と想い出す。言い出したら聞かない妹だった。


 自らの両腕を斬り、出血させる。


 すぐに甲殻が生まれ、そして流れ出た血の一部が刃を伝う。


 伝う血は少なく、だから何度も斬る。


 傷口は何箇所も増え、そして、血は多く流れ、刃は長く、そして鋭くなる。


 いつもは刃先が肘に来るように持つ。しかし、今は片方だけ逆刃。


 普通の剣の様に持ち、少しでもリーチを稼ぐ。


 自分の甲殻で相手の牙を防げるのか、腕を防げるのか。だから片方は普通の形に持っている。


 距離はなかなか詰まらない。居るのは解る。しかし、見えない。 


 糸も、レイモンドには見えるようになっていた。


 いつの間にか、視認出来る。


 胃液をのみ、毒液を受けた事でレイモンドの体は蜘蛛に対する耐性を付けていた。


 そして、糸もまた、その耐性で視認出来るようになっている。だが、それはレイモンドの知るところではない。


 レイモンドの体にとっては勝利した相手、しかし、レイモンドの意識にとっては、まだ、未知の相手なのだ。


 僅かな位置の動きを察知し、お互い動き続ける。


 完全な静止は、相手に攻撃のチャンスを与えることになる。


 僅かに糸の揺れ。それに気づいたのはレイモンド。


 一気に間を詰め、刃を振るう。しかし、それは木の枝を切ったに過ぎなかった。


 蜘蛛自体は既に移動。


 レイモンドの着地点には、糸。


 まずいと思った。しかし、だが、レイモンドは糸の上に立っていた。


 立てる? なんでだ?


 粘性は消えていない。しかし、それをもってしてもレイモンドの動きを妨げることはない。


 ――行けるのか。


 糸の上をまるで蜘蛛の様に走り、感じる振動の先へ。


 まさか自分の糸の上を敵が来るとは思わない。蜘蛛は糸を伝って逃げる。


 糸は移動と、敵を捕まえるためのもの。しかし、今それを使って敵が来る。


 蜘蛛と蜘蛛が戦う時は、お互い正面衝突だ。


 相手に覆いかぶさるように腕をふるい、牙を立て合い、毒を使い、相手を糸で絡めとる。


 だが、レイモンドには通用しない。


 振るった腕は関節の方向で見切られ避けられる。牙は顎の角度で読まれ、糸は斬られる。


 レイモンドの血で出来た武器は、蜘蛛の足を斬り、そして頭を叩き割る。


「すっご……。うわぁ……」


 遠くから見てるシュリアさえも声をあげた。


 それほど、糸の束縛が無いと分かった後のレイモンドの猛攻は凄まじかった。


 そして、吐き出される溶解液は、刃に当たっても刃を溶かすこと無く振り払う。


 既にレイモンドの血は、溶解液に耐性を持っていた。


 だからか、腕が、牙がかすっても傷が増え甲殻が出来るだけでレイモンドの動きに遅滞は無い。


 人を超えた速度の生み出す刃の切れ味は、刃自体の切れ味を更に鋭くさせる。


 足を失い、後退る事も出来なくなった蜘蛛は、割られた頭でレイモンドにしぶとく噛み付こうとする。


 レイモンドに油断はなかった。


 開いた口の根本から後頭部に向かって一気に斬り裂く。


 蜘蛛の頭が上下に別れる。


 さしもの異形の蜘蛛も、完全に沈黙した。


 主人を失ったことで、周囲の糸もたるむ。


 軽く溜息をつく。


「すっごいですねぇ……新種、倒しちゃいましたねぇ」


 軽い足取りでシュリアが近くまでくると、蜘蛛をつつきだした。


「そいつ、溶かす毒を持ってるから気をつけて」


 シュリアが「ええええっ」と飛び退く。わざとらしさは無い。


「そんなのと、あんな戦い方してたんですかぁ……?」


 すでにレイモンドが喰われるところまで見てるはずのシュリアだが、感嘆した様に言う。


「見ていて、なにかわかったことはある?」


 シュリアは「んー……」となさ気だ。シュリアならば色々と気づく所も多いはずだがと思うが、気にしないことにした。


「毒や溶解液が怖いからね。蜘蛛型は俺が前衛するから、シュリアは避難してるか、後ろから攻撃して」


 相変わらずの「はーい」と返事。


 レイモンドは知覚していた。


 レイモンドが蜘蛛と戦ってる時、シュリアの近くに、シュリアの村の者が来ていた。


 何を話していたかはわからない。しかし、シュリアの雰囲気はだいぶ違った。


 今の雰囲気は妹のリリに近い。しかし、その時の雰囲気はまさに殺し屋だ。


 注視されただけで、レイモンドでさえも下手に隙を作れば死ぬと感じるだろう。


 それほどの雰囲気の違い。


 何かを運んで来てくれただけとか、そんなのとはまるで違う。


 シュリアは自分の近くで、何を企んでいるのか。


 まだ助けてくれるだけ、自分は利用価値があるんだろうと思う。なくなれば、捨てられるか殺される。


 武器もそうだろう。恐らくは自分に利用価値がなくなれば、武器も奪われるのだろう。


 だが、良い。


 誰かが一緒に居てくれる。それだけで、心が楽になる。


 自分も、簡単には死ねなくなってるんだろう。


 だから俺を殺すにしても、シュリアは全力で来るだろう。


 シュリアなら良い。異形のモノを全て倒し終わった後なら、頼んで殺してもらう事も考える。


 昔は憧れた勇者。


 しかし今は感じる。


 勇者ほどの力を持てば、それは、力で支配を可能とする者。


 すなわち、人間にとっての脅威。


 自分が普通の人間で、近くにこんな化け物がいれば、怯えて暮らすのだろう。


 守ってもらえると思うと同時に、襲われたらと思うと、居ても立ってもいられない。


 レイモンドは決めていた。


 全てが終わったら、終わらせてもらおう、と。


 シュリア達ならば、俺を殺せるだろう。と。


 そしてまた、殺されることができるうちに、異形のモノたちを殲滅しなければならないと心に決めていた。


 そうして旅を続けているうちに、だいぶ慣れた。


 シュリアにからかわれるのが、だ。


 事あるごとに、お兄ちゃんと言ってはレイと言い直し、また、妙にくっついてくる。


 色仕掛けとか、そういうのにしては、からかっている風にしか思えない。


 もしかしたら、常に気を張っているレイモンドを気遣ってくれているのかもしれない。


 そう考えると優しいとも思えるが、あの時感じた殺気。


 異形の蜘蛛ではなく、アレは自分を見てのものだろう。


 いつ、シュリアは自分に牙を剥くのか。


 出来れば、異形のモノ達を倒し終わってからにして欲しい。


「聞いてる? お兄ちゃん?」


 ちょっとほうけていたのだろう。


 間近にシュリアの顔があって驚いた。


「あ、いや。ごめん。考え事してた。……って、お兄ちゃんはやめて」


 笑い方もリリに似てるな。


 そんな思いが、この娘になら殺されるのも良いと、思わせてしまうんだろう。


「それで、なんだっけ」


 レイモンドが聞き直すと「この先に、大量の群れが居る」という話の続きだった。


 点在していた異形の蜘蛛は、2匹はレイモンドが、1匹はシュリアが倒した。


 3匹ともレイモンドが倒そうとしたが、1匹が居た場所は沼地。そこでレイモンドが足を滑らせたのだ。


 糸で巻かれ、レイモンドがもがいていた時にシュリアが蜘蛛の背後から攻撃した。


 舞うように攻撃するシュリアの動きに蜘蛛は翻弄され、また、速度についていけなかった。


 足を全て切断され、もがく蜘蛛にとどめを刺した後、シュリアがレイモンドを助けたのだ。


 糸も牙もレイモンドに向いていた。シュリアに取っては足を斬り、そして上からのとどめという楽な作業だっただろう。だが、終わった後に言った言葉は「気持ち悪い。水浴びしたい」だった。


 それで、さっきまでシュリアは水浴び。レイモンドは見張り。シュリアは水浴びついでに洗濯まではじめ、レイモンドも脱がされた。お互い全裸に近い状態。結構滑稽な状態だ。


 しつこいくらいに「覗いちゃだめですよー」を連呼したり、妙な悲鳴をあげて、レイモンドを覗かせようとしてるのがわかる。一応悲鳴があがると気なって仕方ないが、それでもシュリアなら大丈夫だろうとほっとくと怒り出す。「ほんとに危なかったらどうするんですかぁ」と。

その後「木の真似でもしてれば大丈夫だよ」と言ったら、殴られた。


 こんな軽口が叩けるのも、誰かといるからか。


 食料を確保し、食事。そして、先に大量の異形のモノが居るという会話だった。


 シュリアのいう大量は、本当に量が多い。


 眼と耳の良い少女が居た村の近くにも「ちょっと多め」の敵がいると言う程度だった。


 しかし今度は大量の、だ。


 気を引き締めないとなと思いながらも、なぜか、力が入らない。


 いつもなら、考え事をしていてもシュリアのいう言葉は耳に入り、そして理解できている。


 調子がおかしい。


 普通の人間なら風邪かな?と思うような症状だが、自分はまだ風邪にかかるんだろうか?


 咳は出ず、熱も無いと思う。しかし、視界がぼやけ、足元がおぼつかない。


 異形の蜘蛛の毒で、遅効性のものでもあったのだろうか。


 それか、シュリアのしわざか。


「大量だと、手分けしないと厳しいかな」


 シュリアの作った料理を、迷わず口に運ぶ。


 今殺されるのは少し無念だが、シュリアがそういう任務を受けてるなら仕方ない。


 シュリア達や、シュリアの村の人たちがいれば、人間が全て全滅することはないだろう。


 出来れば、自分で全ての異形のモノを倒して、守りたかったなと思う程度だ。


 シュリアも同じ料理を食べてはいるが、自分だけ解毒薬を飲んでおくなんてのは当たり前だろう。


 しかし、シュリアは少し難しい顔をしていた。


「レイ、ごめん」


 いきなり謝られて驚いた。


「大丈夫だと思って入れたキノコ、毒キノコっぽいかも。どーしよー……」


 レイモンドはさすがに「あはは……」と笑ってしまった。


「命にかかわるやつ? それとも痺れたり笑ったり?」


「たぶん、1,2日だるくなる程度」


 レイモンドは苦笑いしてしまった。もしかして自分の耐性を調べるためか? それとも単純に間違えただけか。


 シュリアは自分も食べている。


 自分に耐性があるか、それか、本当に間違えたのか。


 わからないが、レイモンドはそれ以上気にすることはなかった。


 殺しに来るなら、もっとあとだろう、と。


「じゃあ、その間休憩だね。大量の敵を相手にするんだ、しっかり休んでおこう」


 それだけいうと、だるさもあって横になった。


「怒らないの?」


 シュリアが聞くも「なんで?」とレイモンド。


「だって、毒キノコ……」


 シュリアがしゅんとしてるのを、頭を撫で、「シュリアは食べても大丈夫なのかい? なんだったら解毒の何かがわかるなら、とってくるよ。まだ体は動

くから」と言うと、泣きそうになっている。


「大丈夫。大丈夫だよ。…俺はもう化け物だから。それよりもシュリアが心配だ」


「レイは化け物なんかじゃないよ!人間だよ!」


 その言葉に、「ありがとう」と優しくシュリアの頭を撫でる。


 撫でられながら「うん、うん。大丈夫……」と。


「じゃあ、休もう。今までずっと戦い詰めだしね」


 また横になる。


 のんびりとした森の中。


 木漏れ日が心地よい森のなか。


「あたしもだるいから、横…良いかな…?」


 そう言うと、シュリアはレイモンドの横に寝転がる。


 リリも寂しがって、よくベッドに潜り込んできたなと思いだしていた。


 寝付くまで寝物語を話したり、なでてあげたり。


 手を握ってあげてるだけで、安心して眠ってくれた。


 さすがにシュリアの手を握ってあげるとかは出来ないが、横にいて安心してもらえるならと。


 しかし、だるいとは。解毒とか以前にほんとに入れ間違えたのかな、と。


 日中から寝転がるなんて久しぶりだ。


 いや、夜もまた闇夜に隠れて、敵を攻撃していた。


 いつも常に敵を探し、常に気を張っていた。


 こんな休まる時間が来るとは思わなかった。


 しかし、それでも神経は過敏。何かを探す。


 鳥が木の枝から飛び立つ音、羽ばたく音、そして、地面を動物が移動する音。


 全てがレイモンドの耳に入ってくる。


 だが、それは普通の音。


 神経は過敏ではあるが、危険ではない音。


 安心していい音だった。


 約一昼夜だろうか、毒キノコのだるさも抜けた。


 そのあと半日ほど経ってシュリアもキノコのだるさから抜け出していた。


 レイモンド達は出発の準備。


 この近辺には野党も居ないらしく、人の気配もない。


 ぼろきれになりかけている服を着直してる時、シュリアが「はい、これ」と渡してきた。


 新しい服だ。


 いつの間に作ったのか、そんな素振りも無かった。


「え? あ、ああ、ありがとう……」


 渡されて驚き、そして、呆然としてしまう。


 シュリアを疑いだしてからは戦友ではあるが、いつ命を奪われるかと思っていた。


 こんな服をプレゼントされるとは思っていなかった。


「今度は前よりも頑丈ですよ!…溶かされるとダメかもですけど」


 デザインも少し変えたらしく、気に入ったか聞いてくる。


「それじゃあ、溶かす液体飛んできたら、体で服をかばわないとな」


 冗談で言ったら「服なんていくらでも作れるんです。体を大事にしてください!」と怒られた。


 思わず尻込みし「ああ、うん。気をつける」と言ってしまった。


 自分の命を狙っていると思ってる相手に、心配される意外性。


 ほんとに何を考えているんだろうか。


 心配されることが、妙に嬉しい。


「大事に、するよ」


 言い方がおかしかったのか、シュリアがきょとんとする。


「どうかした?」


 シュリアは「いえいえー」といつもの調子。


 前腕は傷だらけ。傷口は塞がる。傷は治る。だが、わずかに傷跡が残る。


 腕当てを付けてるとはいえ、戦う度に自分で傷つけて血を流す。


 それでだろうか、腕まくりし易いようにか、袖はすこし太めにしてくれている。


 何故か嬉しい。


 小さい気遣いだろうけども、自分を解ってくれている。


 異形の甲殻を身にまとい、そして、異形のモノと戦う自分。


 最初はすぐに怖がられ、嫌われ、村に帰ってしまうと思っていた。


 しかし、全て解った上でついてきたんだろう。


 どんな思惑があるか知らないし、知っても変わらない。


 今は、手伝ってくれている。異形のモノを倒す旅を。


 感謝している。口には出さないが。


 例え別れが、命のやり取りになったとしても。








 王都へ着いた王は、王座の間に通された。


 既にそこは王の場所ではなく、反乱軍のリーダーの場所。


 王が座るべき椅子に腰をかけているのは、反乱軍のリーダーだ。


「王のおでましか。自分はヴィータスと申します。反乱軍を組織しております。お見知り置きを」


 うむ、とだけ答え、王はそのまま佇んだ。


「王が私に御用とは。それとも生き延びるための時間稼ぎですかな?」


 ヴィータスの顔は卑劣な笑みで歪んでいる。


 この様な男に王座を譲るのかと、王は少し落胆した。


 ヴィータスの元で興される国は、長くは保たないだろうとも思う。


「王としては、次の王を叙任しなくてはな。それが例え、反乱であっても」


 高笑いしながらヴィータスは「これはご立派な事だ。さすが王。いうことが違う」と。


 王をバカにしているのはまるわかりだ。しかし、ヴィータスの周りの者達の表情は硬い。


 ヴィータスが暴君なのか、それとも、側近たちの気が小さいのか。


「それでは、鍵も頂けますかな?北の城の地下の鍵も」


 ヴィータスの狙いは異物なのか、北の城の鍵という言葉に王は「そんなものは無い」と答えた。


「既に北の城は崩落した。あそこの全ては崩れた瓦礫の下で永遠に眠るだろう」


 聞いたヴィータスは顔を紅潮させ「なんだとっ!?」と叫んだ。


 側近の一人が「崩落後、王みずからの出頭です。討伐に向かった者、皆が見ております」と伝えた。


「やってくれたな」


 王は「何のことかな」ととぼけ、そして、王冠をヴィータスに向けて渡そうとする。


「欲しいのはコレでは無かったのか?」


 ひったくるように奪うと「ああ、これだよ。全ての権限を行使出来るコレだよ」と言った。


 よくこんな調子で、反乱軍をまとめられるものだと呆れる。


 恐らくは外面は良いのだろう。しかし、王に対して、側近の前では本性がむき出しの様だ。


 次の王を見て安心しようかと思った。しかし、それは無念へと変わる。


 これが、次に世界を背負う者か、と。


「叙任式は行うのか?」


 王は、正式に次の王を決める儀式は必要かと聞いた。


 ヴィータスは「いらんよ、いらん。お前になんぞ認められたなんて恥になるだけだ」と無礼極まりない。


「ならば、これで用は済んだな。殺すが良い。」


 しかし、ヴィータスは「処刑はしない。殺しもしない。まだ領主達が残ってるからな。そいつらを皆殺しにしてからだ。お前は全ての処刑を『行う』んだよ」と。


 厭らしい笑いを浮かべながら、王を見るヴィータスには人の上に立つ者の品格は無い。しかし、全ての人から嫌われる才能だけはありそうだ。


「こいつを鎖で繋いで牢に入れておけ。今からこいつは処刑人だ」


 王は王位を剥奪され、処刑人とされた。


 手足を鎖で繋がれ、自決出来ないようにと口輪をされた。


 そして、地下牢へと連れて行かれる。


 その姿をみて、またヴィータスは高笑いしていた。


 そしてその後にヴィータスは舞台に出るようにテラスに出た。


 ヴィータスの演説は、まるでオペラだ。


 王に見せた様な卑しい言葉、表情、行動は何一つ無く、優雅で華麗。そして凛々しい。


 王宮のテラスからではなく、わざわざ中央広場で木箱に乗り、自分もみんなと同じ階級だとアピールするかのよう。そして、謳う様な演説。


 厳しい現実で民衆を少しだけ脅かし、そして、自分達の行動で現実を変えていけると夢を語る。


 組曲の様に語られるそれは、ステージの上で曲目としても成立するだろう。


 そして、民衆は憧れ、賛同する。


 壮大な夢を語るわけではなく、手に届く現実として民衆を魅せる。


 演説の時間さえも、民衆が飽きる前に終わらせる。


「お疲れ様でした」


 側近の一人の言葉に「状況は?」と答える。


 そのまま答えを聞かず、王宮へと歩いて行く。


 まるで王宮の中で聞くというかのように。


 側近は理解しているのだろう、王宮の、他の人の耳に入らないところまで口を開かない。


「例の村からの武器は調達済みです。南の王軍は異形のモノで壊滅は確実かと」


 ヴィータスは頷きながら「予定通りだな」と言うと「レヴィアスにだけは気をつけろ。あいつは気づくぞ」と。


 ヴィータスとレヴィアスの間には、何かがあるのだろう。


 側近は了承の意を示して、その場を離れる。


 まだ数人の側近がいる中、ヴィータスは笑いを抑えきれない。


「これで俺は英雄だ」


 ヴィータスが卑劣な笑みを浮かべる。


 民衆の前では絶対に見せない、卑劣な笑み。


「レヴィアスでもない、王でも無い、ましてや、その辺のバカどもでもない。俺が英雄なんだ」


 笑いを抑えながら、しかし、その言葉は悪意しか含んでいない。


 側近たちは、ヴィータスの本性を知っている。


 知っていてなお、ヴィータスの側に居る。


 悪辣非道であっても、自分達に利を与える存在だからだろうか。


 それとも、知ってしまったからヴィータスから離れる事が、死を意味するからだろうか。


 ヴィータスは裏切りを許さないだろう。


 裏切り、逃げれば、殺される。


 そういう男と知り、なおかつ、自らの利を選べば側近である理由はあるのだろう。


「そういえば、処刑人は仕事をしているか?」


 思い出したかの様に側近の一人に聞く。


 状況自体は知っている。しかし、側近の口から聞きたいのだろう。


「はい。王が出頭したことで、追随し王都に出頭した領主達の首を斬らせております」


 そうかそうかとニヤニヤと笑う。


「ちゃんとアレを使わせて処刑させてるか?」


 ヴィータスが指示したのは、断頭台でも首吊りでもない。ましてや、斧でもない。


 王にノコギリを引かせ、生きている領主達の首を落とさせているのだ。


 あえて目の荒いノコギリを使わせ、領主たちの悲鳴と怨嗟を聞かせながら殺させる。


「まだ、心を保っておりますが時間の問題かと」


 いいねいいねと言いながら王宮の奥へと向かうヴィータス。


「王宮内の誰かが見るような事が無いようにな。見たものが居れば殺せ」


 側近は「わかりました」とだけ答えた。


 人を殺す指示を受け、顔色一つ変えない。


 いや、王がノコギリを使って処刑している事実を話してる時から、顔色は変わっていない。


 この側近もまた、心は悪鬼なのだろうか。


 ヴィータスが正門から王宮の奥へと向かう。途中にある庭園や大広間。それらは王の権威を表していた。そして、ソレは今はヴィータスのもの。


 本来は反乱軍のものなのだろう。だが、ヴィータスは反乱軍をまとめ上げ、そして、自分の手足の様に使う。そして、それを反乱軍の人々に感じさせない。


 反乱軍に集う者達はみな、自分達が王の独裁から立ち上がるために、反旗を翻したのだと思っている。


 一人では何も出来ないと思い込んでいる民衆にとって、反乱軍という存在自体が希望。


 少しでも不満があれば、反旗を翻した反乱軍に集う。


 ヴィータスが謳う理想は誰もが平等で誰もが幸せな世界。努力さえすれば血縁の階級など無く、誰もが栄誉を得られる世界。それらに夢を重ねた者は多い。


 重ねられた夢の元が、例え、絵空事であったとしても。


 ただ、それがヴィータスの手のひらの上で踊らされる事であっても。



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