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継ぐ者  作者: 犬神弥太郎
19/48

役割と道程


 レイモンドたちが辿り着いた村。


 異形のモノの気配の無い村は、久しぶりだった。


 シュリアによれは、もっと遠くに居る気がするらしい。


 いい加減、どうやって感知してるのか教えて欲しいと頼んだが、あっけなく断られる。


 理由も「あたしがいる役割、なくなっちゃうじゃないですかぁ」だそうだ。


 自分でも異形のモノを倒せるのに、役割もなにもと思う。


 確かに自分が役割を持ちたいと思う気持ちは解る。


 子供の頃でも、何かを任されると大人になった気分だった。


 自分に出来ることあって、それが自分の役目。そういう自負が自分の心を支える。


 自分の役目を全うすることで、自分自身を高める。


 シュリアが村で一人だったと話したことがある。それならば、レイモンドと共に居る時に自分が何かの役に立ち、そしてレイモンドの為になってると感じるならば,それも良いと思った。


 それにしても、この賑わい。


 異形のモノが察知しないわけはないだろうと思うが、しかし、平和だ。


「なあ……なんでここ、大丈夫なの?」


 レイモンドが周りを見て不思議そうに言う。


「さあ? なんででしょうねぇ……」


 シュリアもそんなふうに言うだけ。


 村の建物の外には店が並び、まるで市場だ。


 新鮮そうな果実や肉、他にもいろいろな物が売られている。


 異形のモノが襲ってくる前には、レイモンドの町でも、こういう催しは行われていた。


 懐かしい感じ。しかし、違和感。


 何故コレほどの賑わいを、異形のモノが見逃しているのか。


 異形のモノと戦えるのが自分だけじゃないと、シュリアと、シュリアの村の人を見て知った。


 自分は化け物だ。しかし、シュリアやシュリアの村の人達は、そうは見えなかった。


 人間の身で、異形のモノと戦える者たち。


 この村にも、そういう人たちがいるのだろうか。


 そういう人たちが村を守っているならば、この村の平和にも納得がいく。


 気が少し楽になる。


 自分が間に合わなくても、助かる人がいる。


 自分が手を差し伸べても間に合わない人たちを何人も見た。しかし、ここなら平和だ。


 そういう場所があるなら、誰か迷ってる人を見つけたら教えてあげられる。


 安全な場所があると。


 そうすることで、誰かを救える。


 そうすることで、また他の誰かを救いに行ける。


 良い場所だ。


 レイモンドの心に、久しぶりの安らぎが訪れていた。


 気が抜けたら、足からも力が抜けてしまったらしい。


 広場らしき場所のベンチに腰をかけて、空を仰ぎ見る。


 久しぶりに、のんびりと空を見る。


 ふと気づくとシュリアの顔が間近に迫っていた。


「なな、な、なにかな?」


 戦いに関して以外は普通の少年。


 女の子が顔を近づけてくれば、どぎまぎしてしまう。


「ねね、レイモンドさん、レイって呼んでいい?」


 懐かしさを感じながら、「ああ、いいよ」と答える。


 家族にはレイと呼ばれていた。


 戦って守った人たちにも、ほとんど名乗ってなど居ない。


 この近くで自分の名前を知っているのは、シュリアくらいのものだ。


「けど、いきなりなんで?」と聞くと「お嫁さんだから」と答えてきた。


「……まだ、そのネタ…ひっぱってるんですか……」


 シュリアはふくれっ面になりながら「本気ですよぉ」。


 苦笑するしか無い。


 多分、旅が終われば自分は何処かへ消えなくては行けない。


 こんな化け物が居れば、誰からも怖がられる。


 怪我をすれば甲殻が出来、騎士や兵士でも刃の立たない異形のモノを殺す化け物。


 そんな化け物と、一緒に居てくれるはずがない。


 そして、レイモンドは少し感づいていた。


 僅かな違和感でさえも、今のレイモンドは感じとれる。


 だから勘づける。


 知りたくもない事を、知ってしまう。


 だがそれも、知らないふりをすれば済むこと。


「まあ、お嫁さんは無いかな。シュリアは妹に似すぎてて、そんな風に見れないよ」


 レイモンドがシュリアに笑いかけて言う。


 優しく、そして、寂しそうに。


 更にふくれっ面になるシュリアの横で、レイモンドは目を閉じた。


 少しは休める。


 騒がしい雑踏の中で、人が行き交う中で、自分がまだ居ても良いと言われてる気がして。


 少しだけ、少しだけ、ほんの少しだけ、自分が人間で有りたいと思う。


 だが、それ以上に、守りたい。


 この平和を。


 この人達を。


 自分が出来るなら。


「そろそろ、行こうか」


「レイは休まなくて平気?」


 荷物を背負い「うん、平気」と言うとレイモンドは歩き出していた。


「あ、そうだ。じゃあ、お兄ちゃんって呼ぼう」


「……お願いだから、それはやめて」


 村を一通り見て回り、そして、焦燥。


 こんな事をしていていいのか。


 こんなところで立ち止まっていいのか。


 化け物が、人の暮らしに混じっていていいのか。


「どうかしました?」


 シュリアの言葉に瞬間的に愛想笑いをし、自分の立場を考える。


「行こうか」


 たびに必要なものはシュリアが買い揃えていたらしい。


「はい。えっと、やっぱり狩りに?」


 レイモンドにとっては戦いだが、シュリアから見ると狩りらしい。


「助けないとね」


 そう言いつつ、自分は何者かを、人の味方なのかを自問自答する。


 そして、人の心を持っているうちは、と自分の心を縛る。

 

 穏やかな村を出発し、街道を行く。


 シュリアの感知ではまだ、敵の様子はない。


 聞き耳をたててるようにも、どこかを見てるようでもないが、感知はしてるらしい。


 そして、平和な街道ならではの、チンピラの出没。


 5人組の男たちが急に現れ、金品を要求する。


 こんな情勢なのに、こんな連中がまだいるのかと呆れる。


「構ってる暇は無いんだがなぁ……」


「ですよねぇ……」


 意見は合ったので、お互いに顔を見合わせて頷く。


「ふざけんな、このガキどもが」


 チンピラが小刀を振り上げるより先に、レイモンドは間近まで接近していた。そして、軽く振ったこぶしが軽く顎を弾く。


 チンピラが脳震盪をおこして倒れるよりも先に、他の2人のチンピラがシュリアに蹴倒される。


「足癖悪いんだな……」


 小声で言ったつもりが、シュリアに睨まれた。


 レイモンドは耳もいいんだなと苦笑した。


「……な、なんだこいつら」


 怖気づくチンピラ。


「化け物がそこら中にいるんですよ。その中を2人旅してる様なのに突っかかるほうが悪いんです」


 シュリアが笑顔で言う。


 化け物という言葉が、少しレイモンドの心に刺さる。


 自分もそうだしな、と。


 シュリアに蹴倒され、頭を打ったのか気絶してる2人。


「さっさと連れて帰ってくださいね。襲われないうちに」


 チンピラはどこの世界でも一緒な捨て台詞。完全に定番化してる「覚えてろ」と言って逃げていった。森の中に。危険なはずの森の中へ。


「あっちに異形のモノは?」


「いませんよ。心配ですか?」


「まあね」


 そしてレイモンドは深くため息をつき「人間ともやりあうのかぁ……」と。


「まあ、人間相手なら楽勝でしょう」


 シュリアもまるで人外で有るようなセリフ。


 ははは、と力なく笑った。


「ところで、今の連中は感知出来なかったのかい?」


「居るのは知ってましたけど、まさか襲ってくるとは思いませんでしたねぇ」


「まあ、こんな状況だしね。全財産抱えて、安全なところに逃げようって人を狙うのもいるか」


「ああいう人も、守るんですか?」


 シュリアの質問に躊躇なく「うん」と答えるレイモンド。


「異形のモノの場所まで、後どのくらい?」とレイモンドが聞き、シュリアが答える。


 二人はまた進み始めた。







 王と側近は籠城していた。


 王都へと戻ろうとしていた時、王都陥落の報を受けたのだ。


 そして、反乱軍は王の首を狙っている。


 北の城には幾つもの隠し部屋があり、また、強固な監獄棟もある。


 王都の城が絢爛豪華を現したものならば、こちらは鉄壁を表している。


 だからこそ、異形のモノの襲来で王はここに居を構えた。


 異形のモノの襲来の際には、報告は雑であった。


 雑でも仕方がない。敗走者の伝聞でしかない報告だったのだ。


 あまりにも小さい人間の世界。そして、その中で争われる権力闘争。


 野心あるものには権力と領地を与え、力あるものには騎士としての地位を与えた。


 王は狭いといえど人間世界の王。


 それぞれの民に、適切な役割を与えたつもりだった。


 だが、王が他者に与えられない地位があった。


 それは、王自身の地位。


 反乱の首謀者は、国自体を欲し、そして、王の地位を欲したのだろう。


 既に王は王としての役割を果たせない。


 北の城に籠城し、反乱軍に囲まれている。


 すでに王たる地位は、反乱軍のリーダーに渡ったと言っても良い。


 だが、反乱軍のリーダーは、あくまでも反乱軍のリーダーだ。


 王の首を取り、国を取ったと宣言し、そして、王として叙任されなければならない。


 そのためには、今の王が邪魔なのだ。


「報告いたします。反乱軍の一部が撤退。しかし、反乱軍の数自体は、未だこの城の総員よりも多い模様」


 王は「そうか…」とだけ言うと、椅子に座ったままため息を付いた。


 暫く考えた後「地下を崩落させよ。全て壊せ」と命令を出した。


 聖鎧が封じられていた場所。


 それ以外にも、様々な物がある。


 聖鎧は研究の対象とされていた。目覚めさせてはいけない。しかし、解析は必要。


 一度は目覚め、破壊神ならぬ力を見せつけた聖鎧。


 その力を目覚めさせぬまま使うことが出来れば、それは安全な戦力。


 力を求めない者はいないだろう。


 力を得るために知恵を使う。


 王が管轄し、領主を定め、しかし、ほとんど領民は居らずに死の場所とされていた場所。


 そして、人の往来が無い、北の城という立地。


 秘密裏に事を進めるのに、これ以上の場所はない。


 聖鎧だけではない。


 漂流物として異界より来たものの、あの村のように秘匿されなかった異物は北の城に収められている。

 

 異界など無い。


 そういう事にしなければならないという決まりでも有るように、漂流物は無かったことにされる。


 シュリアの居た村のように、漂流物を使ったり売ったり等は、いわゆる世界の裏側なのだ。


 その集積された場所を、王は崩落させよと命じた。


「反乱軍といえど、それほどの技術者が居るとは思えませんが…」


「あれらは、危険だ。反乱軍と言えど我が国の民。誤って触れれば事故になりかねん」


 そう言うと、再度崩落の指示を出す。


「事が終われば、王として王都に向かう。それが努めだからの」


 側近達は苦渋を噛みしめる様な顔。


「王はな、王として終わらねばならぬ。それが王なのだ」


 王はそう言うと、再び腰を下ろした。


「僭越ながら、我らも王の側近として、最後まで勤めを果たしたいと思います」


 王は「すまんな」とだけ。ただ、申し訳無さそうな顔をしていた。


 そして王は北の城から出た。


 地下は既に崩落させ、誰も立ち入る事はできないだろう。


 北の城自体が崩壊したのだ。


 囚われていた人々も開放され、そこに残っていた民衆も北の城を出ていた。


 北の城は、瓦礫の山の様になっている。


「反乱軍の長にお会いしたい。叶うかな?」


 王の言葉は、反乱軍の王の首を取ると息巻いていた者を圧倒した。


 王としての威厳が、まだそこにある。そして跪かせた。


「反乱軍の一員として、王の出頭に感謝致します。」


 息巻いていた者が跪き、そして、敵としての王に敬意を払う。


 与したとは思わず、他の者も納得した。


「いままでこの国を統治した王として、反乱軍のリーダー…いや、新たなる王に、王位を渡したい。すまないが、案内を頼む」


 王はそういうと、自ら手枷をはめる様に頼んだ。「捕まえねばならぬのだろう?」と。


 反乱軍の一人が「失礼します」と言いつつ、手枷をはめる。


 会ったことも無かった自国の王。


 自らの終わりを、しっかりと終わらせようとしている姿。


「民衆は、異形のモノから逃げ延びて北の城に来ただけだ。私に与しているわけではない。理解してほしい」


 反乱軍もその言葉には「理解しております」と答える。


 どちらも、お互いに敬意を払っている。


 足にも足かせがはめられ、そして、馬に乗せられる。


 王は、捕虜となり王都へと向かう。


 王都への帰還は、王にとって、死の旅であった。


 死する前に、今まで継いで来た異物達は埋めた。


 残っているのは、これから流れ着く異物と、聖鎧。


 聖鎧の危険性は、生き残った騎士が伝えるだろう。


 触れてはならない、人を喰らう、そして適合すれば心無くば人を殺す悪鬼となり、心があれども僅かな間しか正義を行えない異物。だが、その力は強大で破格。権力者であれば、その力を振りかざしたいと思うだろう聖鎧。


 夢見がちな者であれば、永遠に纏える者を探して、あまたの人を贄にするかもしれない。この国を救おうと、今回、王がしたかのように。


 もう無ければ、聖鎧が失われていれば良いのだがと思う。


 開いてはならない、パンドラの箱。


 あまたの命を食らうという悪夢。そして、適合者という希望。だが、僅かな間の希望。


 王は自ら開けたパンドラの箱を後悔していた。しかし、開けなければ、反乱軍さえも異形のモノの手にかかっていただろう。国盗りなぞどうでもいい。この世界の人間を少しでも助けられたのならば、と。


 王は、自らの過ちを悔やむと共に、満足もしていた。その2つの心が、王の威厳を保っている。


 馬に乗せられ連行される中でも、その威厳は消えることはない。


 そして、その連行される姿を、影に隠れ見ていたのはレヴィアスから報告を指示された兵。


 王を助けるには自分だけでは無理と解る。


 急いで南に戻り、王都を避け、そしてレヴィアスへの報告を行う事が最優先と判断した。

判断と行動は同時。


 反乱軍の誰もが気づく前に、兵は南へと戻るために走りだしていた。






 目の前に3匹の異形のモノ。


 レイモンドとシュリアにとっては、既にお手軽な敵に見えている。


 新しい能力でも持っていない限りは、瞬殺出来る様な数と相手。


 しかし、問題はレイモンド達と異形のモノの間にいる人達。


 倒れた馬車を壁にし、槍で突くことでなんとか異形のモノを押さえ込んでいる。


 異形のモノは人間を舐めきっているのか、それとも、何かを感じているのか。その人達を一気に襲おうとはしていない。


 レイモンド達は普通に立って見ている。


 異形のモノからもレイモンド達が見えるはずだ。


 恐らくは、目の前で応戦する人々も、レイモンド達も、餌として見えているのだろう。


 この場で一気に異形のモノを片付ける事は簡単だ。しかし、そうするとレイモンド達の力を人々に見せる事になる。


 人々は見たこと聞いたことを噂にする。


 勇者の伝説でも、化け物が化け物を倒したでも、話は広がるだろう。


 勇者の伝説ならば、死にゆく人にとっては、なぜ自分に救いが無いのかを呪う。


 化け物の話ならば、隣に居る人間でさえ、信用できなくなるだろう。


 ある意味、人に自分達の戦う様を見せることは、あまり好ましくない。


 倒せる人がいる。


 ソレは良い。しかし、騎士でさえ倒せない異形のモノを倒せるのは何者か。


 人の疑念は、恐怖と相まって、懐疑心をふくらませるものだ。


「どうすれば、あの人達が倒せた様にみせられるかな」


 小声で問うレイモンドに「やってみるね、お兄ちゃん」と答えるシュリア。


「お兄ちゃんはやめてって」


 レイモンドの言葉が終わる前に、シュリアは移動を始めた。


 レイモンドでさえ目で追うのが大変な速度。それで馬車の人たちと異形のモノに感づかれずに走り抜け、異形のモノの2匹の間でコマのように回る。回りながら通り過ぎ、そして、異形のモノの遥か背後に着地する。


 異形のモノ。


 蟻型の2匹は、それで意識を飛ばされたのかのように前のめりに倒れる。


 どうやったのか、レイモンドにも見えなかった。


 倒れかかる、だが、襲い掛かってくる様に見えた異形のモノに、槍が突き立てられる。


 槍は弾かれる事はなかった。


 シュリアの功績。コマのように回転した時に斬ったであろう場所が幾つもあり、そこに槍が刺さった。


 2匹が槍で貫かれ、しかし、貫通には至らない。


 内蔵には達した槍は、背中の甲殻で止まったのだろう。


 異形のモノは倒れきることはなく、槍で支えられるように力尽きる。


 既にシュリアが致命傷を与えていたのかもしれない。


 槍の一刺しだけで死ぬような異形のモノではないからだ。


 驚く人たちを尻目に、レイモンドが突進していた。


 最後の一匹を、思いっきり殴る。


 馬車の人たちは倒れてきた2匹に意識をもっていかれている。その隙を突いた。


 殴り飛ばされた蟻型は、しかし、地面に落ちる前に既にそこにいたシュリアに蹴り上げられる。


 殴ってたレイモンド本人が追いつき、そして、斬る。


 斬られた蟻型は道の端で痙攣し、死を迎えた。


 馬車の人たちは、いきなり倒れてきた蟻型が自ら槍に刺さり、そして、残りの1匹が何故か死んでいるという状況しかわからなかった。


「すごい技だね。よくあんな風に動けるな」


 すでに馬車の場所から遠くまで来て誰も見ていないことを確認し、レイモンドが口にした。


「お兄ちゃんも、慣れれば出来ますよぉ」


「だから、お兄ちゃんはやめてください……」


 シュリアは笑いながらじゃれついてくる。


 ほんとにリリを思い出してしまい、妹が側に居るような感覚におちいる。


 心が楽になる。


 同時に、心が軋む。


 だが、他の女性を妹扱いするのも失礼だよな、と自制する。


 それに……とレイモンドには思うところもある。


「レイで良いですから。その、お兄ちゃんは妹を思い出しちゃうんで……ごめん」


 寂しそうな笑顔のレイモンド。流石に申し訳なくなったのか「ごめんなさい」とシュリア。


「ほんとにそっくりだからね。懐かしいくて嬉しいんだけど、もう会えないから……」


 シュリアが「そうなんだ……」というと「死んではいないよ。けど、俺はもう帰れないから」と。


「絶対、帰れますよ。絶対。だってレイは強いんですからぁ」


 ははは、と苦笑する。


 強くても、生きていても、あの姿を見せて、怖がられて、帰れるわけがない。


 帰れば恐らくは歓迎されるだろう。けど、化け物の妹としてリリを苦しめるかもしれない。父と母を苦しめるかもしれない。守るためならば帰る。けど、居続ける事は無いだろう。それは、レイモンドの決意。


 居場所を失ってでも、忌み嫌われても、自分が守れる人たちは、この手で守る。


「強さ……か……」


 ポツリとつぶやき「え?」と聞くシュリアにごまかすように「次は近い?」と聞く。


 人としての強さは望んだ。しかし、人で無くなることは望んではいない。


「まだ暫く先ですね。けど、数がいます。あと……なんとなく違う異形のモノの感じがします」


 あの蜘蛛か。


 またあれと戦う。次は意識を奪われずに勝てるのか。


 生きて勝てるのか。


「違う異形のモノが、群れてるの?」


 レイモンドの問に「ううん」と答える。


「違うのは点在してる感じで、その向こうに群れてるのがいますね。群れてるのは今までのやつらですねぇ」


 やるしか無い。


 倒すしか無い。


 殺すしか無い。


 自分にできる限りの殺戮を。


 化け物である自分が出来る、化け物である異形のモノに対する攻撃を。


「点在してるやつは、シュリアは様子見で手を出さないで。危ないかもしれない」


 きょとんとするシュリア。


 死にかけたのを見た。それを見捨てた。けど、レイモンドはまた一人で戦おうとしている。


「私だって、なんか出来ますよぉ?」


 レイモンドは微笑んでいた。


「女の子を危ない目に合わせたら、父さんや母さんに叱られちゃうしね。妹にも嫌われちゃうよ」と言った。


 危ない敵は自分だけで何とかする。


 協力して倒せるなら、それもいいだろう。しかし、まだ敵の全てがわかってるわけじゃない。


 シュリアに協力を頼むなら、弱点や攻略方法が解ってからだ。


「行こうか」


 笑顔の中に決意があった。シュリアは「はーい」と付いて行く。


 レイモンドと並んで歩くシュリアは、まるで在りし日の兄妹であった。



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