05 ヴェルクリ
そして迎えた記念式典当日。
リグラルト王国のヴェルクリの街の郊外に建てられた新施設にて、
開院記念式典が盛大に開催中なのです。
その施設なのですが、びっくりするくらいに大きくて立派な建物なのです。
元々はヴェルクリの街の孤児たちの保護施設として計画されていたそうなのですが、
孤児たちの学びや職業訓練の場にしたいな、から、
孤児以外の困ってる大人たちも手助けできればいいね、となり、
どうせなら街の人たちも利用できる施設にしてみんなで助け合おうぜ、となって、
学校や図書館や食堂や宿泊施設を兼ね備えた大型複合施設となった、のだそうです。
そういう風に善意の波がどんどん大きくなっていくのって、すごくカッコいいですよね。
計画の立ち上げと推進は、領主のバルモルトさん主導です。
バルモルトさんは、ニケルちゃんのお父さん。
と言いますか、ニケルちゃんと僕は婚約しているのですが……
えーと、その件は焦らず誠実に進めねば、なのです。
僕もハルシャちゃんのパパとして、バルモルトさんからのプレッシャーは痛いほど分かるのです。
ただ、バルモルトさんって、めっちゃ怖いんですよ。
なんと言いますか、大きな責任を全うしている男、って感じなんです。
それもそのはず、このヴェルクリの街のみならず、リグラルト王国というところは大変な歴史を辿ってきているのです。
リグラルト王国というのはかなり大きな国なのですが、元々はもっと強大な大国だったそうです。
ただ、王家の跡継ぎ関係の揉め事から国が分裂してしまい、大きな戦乱こそ起こらなかったのですが、争いごとが絶えなかったそうです。
大国時代にたくさんの諸外国と婚姻関係を結んだため、とにかく継承権関係の揉め事が多かったとか。
僕の尊敬する先輩冒険者ロイさんの奥さまリノアさんも、その継承権争いに巻き込まれたそうです。
このあいだ娘さんのアイネさんも狙われたそうで、まだまだ油断できない状況なのです。
そして、いろいろと混乱していたヴェルクリを今の安定した状態へと統治したのがバルモルトさん。
本当に凄い人なのです。
そういう混乱した歴史を辿ったからなのか、リグラルト王国は中央の王家に過度に権力を集中させずに、地方領主の自主性を尊重して個々の実権を強めているそうです。
各地方領主はそれぞれの治める地域をさらに繁栄させるため、武力以外のやり方で競い合っているのだとか。
武力では無く、経済で領地を安定させる。
バルモルトさんが領民想いの理由が分かりますね。
今回の大型施設も、その一環ということなのです。
そしてニケルちゃんと大の仲良しな僕たちも、もちろんみんながそれに協力しているのです。




