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花火

 目が覚めると、鳥が鳴いている。カーテンを開けると、太陽の日差しが差し込んでくる。外は晴れ渡っていて、太陽の光は白く眩しいくらいだ。冬はいつの間にか終わったらしい。

「玲奈。朝だよ」

 僕はベッドで眠る恋人の玲奈に声をかけた。玲奈はゆっくりと目を開ける。

「圭介君」

「おはよう。これからごはん作るから」

「もう少し寝ていたい」

「今日はピクニックに行くって、約束したじゃないか」

「そうだっけ?」

 玲奈はそう言って、また布団を頭からかぶった。僕がキッチンで朝食の準備をしていると、玲奈は起き上がった。

 いつも通りの光景だ。玲奈が記憶を失ったことを別にすれば。彼女はここ数日間の記憶しか持っていない。仕事も辞め、今は家で家事をしている。彼女が記憶を失ったのは僕のせいだ。僕は長い間、鬱病だった。それでもなんとか会社員をしていたのだが、玲奈はそんな僕を支えてくれていた。僕は辛いけれど、それなりに幸せを感じていた。

 去年の夏に、二人で花火を観ていた時だった。色とりどりの火花が空に散り、轟音が響いた。

「私、圭介君の心を治せるかもしれない」

「どういうこと?」

「その代わり、私は記憶を失う」

「なんの冗談だよ」

 僕は笑ったが、玲奈は真面目な表情だった。

「花火が終わったら、私を助けてほしいの」

 花火は終わり、玲奈は気を失って倒れた。僕は彼女のことを支えたが、その時、自分の心が温かくなり溶けていくような感覚がした。それはずいぶんと長い間続き、その間玲奈は意識を失っていた。

 玲奈は目が覚めると、「ここはどこ?」と言った。僕は彼女に状況を説明したが、彼女は何もわからないようだった。

 玲奈はベッドから起き上がり、顔を洗いに行った。僕はキッチンで目玉焼きを作っていた。僕は玲奈に何度も話をした。玲奈の過去は僕が玲奈から聞いたことだった。

 どうして彼女はあんな不思議なことができたのだろう。僕には理由はわからないし、今の玲奈はそのことを覚えていない。

 トースターで食パンを焼き、バターを塗った。フライパンでほうれん草とベーコンを炒めた。皿に盛り付けて、テーブルの上に置いた。

「食べよっか」

 テーブルの前に座る玲奈はそう言って、パンを食べている。

 僕はそんな玲奈を眺めていたのだが、まるで彼女が死んでしまったような気すらした。彼女は僕と過ごしてきた記憶どころか、生まれた時の家族の記憶すら持っていない。その間の玲奈は死んでしまったのだ。


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